表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチとは、逆襲のヒーローだ  作者: 死馬奇大造
〜ヴィランにも、なった〜
6/23

Record.03『闇が、世界の扉をこじ開けた』

「ごめんなさい、本当に」

 僕は、体に刻まれたナイフの切り傷を、ドクターオメガの妹から謝罪を受けながら、治療してもらっていた。

 というのも、ドクターオメガから攻撃を受けた僕は、ちゃんと経緯を説明した末、誤解があったことを理解して貰えた。

「でも、認めてないから。私、ヒーローが嫌いなの」

 許されたわけでは、なかったようだ。

「なんで嫌いなんだ? ヒーローのこと」

「だってあいつらは、お兄ちゃんを助けようとしないじゃない。ヴィランだって、同じ人なのに。誰かが困ってて、手を差し伸べるのがヒーローだとしたら、あいつらはヒーローなんかじゃない。ただの正義の押しつけだよ」


 罪を犯した者は罰する。それが今の正義。例え、過程がどうであろうとも、原因がなんであろうとも、罪を犯した者には、正義に敵対する"悪"というレッテルを貼られる。

 常識なんだ、でも──

「そうだ。僕も同じように思う。本当のヒーローは、正義とか悪とか、考えていない。ただただ、困っている人を助けようとするんだ。不可能を可能とする唯一無二の、僕にとっても理想のヒーローだ」

「じゃあ、なってよ。そのヒーローに、あなたが」

「気が向いたら」


 ちゃんと会話が通じる人間でよかった。そう、しみじみ思っていたところで、ドクターオメガがやってきた。

「お二人とも。とりあえず、メシ食わねぇか?」

 研究室から、リビングに移動した僕は、机に並べられた朝食を見て、思わず感嘆した。あの人体を解体してそうなドクターオメガが、料理上手なんて。いや、むしろ器用という点においては、理にかなっているのかもしれない。


 どうやらドクターオメガの帰りが遅かったのは、妹に料理を作るために、食材を買ってきていたようだ。

 しかし毎日これを続けているのだとしたら、ドクターオメガは妹の思いの、意外と良い奴なのかもしれない。

 3人で同じ食卓を囲んで、黙々と食べていた。さっきちょっと、誤解もあって軽く揉めてしまったから、気まずい雰囲気が漂っていたけど。ご飯を食べると和むもんだ。


「アンチ、改めて紹介するな。こいつは、"叢雲(むらくも)いぶき"、俺の妹だ。そしてイブ、こいつは新人ヴィランのアンチだ」

 叢雲いぶき。灰色っぽい茶髪の、高校生くらいの女。妹なら、オメガの苗字も叢雲ってことか。

「いぶき。アンチだ、よろしく」

「よろしくね。けど、私のことは、イブって呼んで。あと、アンチって呼びずらいから、アンでもいい?」

「あ、ああ。分かった。別にいいけど」

「それいいな! 俺もこれからは、アンって呼ぶわ」


「てか、アン。そういえば、おめぇさん何でここにいんだ? ヒーロー事務所に行ったんじゃねぇのか?」

 あ、完全に忘れていた。僕はオメガに、横島を1週間以内に捕まえないと、ヒーローを解雇されるという事を、伝えた。

「おいおい、それってもはや」

「クビ確定じゃない! 横島なんて、トップヒーローでも勝てないのに、アンなんかが勝てるわけない。無理難題よ。やっぱりヒーロー、最低の集まりね。本当に酷いわ」

 庇われてるようで、さりげなく貶されている?

「だな。けどよ、アンが絶対に勝てないなんてことはねぇし、ヒーローを辞めてもらっちゃ困る。だから、とにかく挑戦は辞めないこと。あとは……運でどうにか」


 みんなの言い方から感じ取れるのは、僕が弱いというより、横島が強すぎるという絶望感。あの時の僕も、同じだった。だけど、どうしてだろう。あまり負ける気がしない。

 絶望の淵に落ちた僕は、もうこれ以上落ちないし、なにより急に目覚めた謎の力が、僕にそう思わせるんだ。

「オメガ、僕。なんか電流が見えるんだよね」

「電流? どんなやつだ?」

「さっきイブと揉めてた時、急に見え始めて。イブの行動が、電流の通りに動いたんだ。まるで思考や感情、殺気とかが分かるように、僕には見えていた」

「なによ、それ。気持ち悪い」

 確かに気持ち悪い。僕も気持ち悪いくらい、イブの動きが丸わかりだった。でも、今は見えない。

「あれ、お兄ちゃん? どうしたの? おーい」

 どうしたのか。オメガの動きが止まっていた。


(──驚いたな。どうやら、俺がこいつから感じ取っていた闇は、ほんの一部でしかなかったようだ。本来の力を取り戻したら、3倍5倍にも膨れ上がると思っていたそれが、実際のところ、何十倍とかの話だったみてぇだ)


「ちょっと! お兄ちゃん!」

「ん、あ、すまねぇ。アン、その感覚を覚えろ。おめぇさんは、脳内ハッキングマシンを体験したり、電気体質の俺と同じ空間にいたことで、体内に電気が蓄積し、帯電している状態にある」

 やっぱり電気が関係していたのか。

「なるほど。え、帯電してると、相手の感情が見えるようになるの? 普通そんなこと、あるわけないよね?」

「そうだな。特殊と言われるほど、電気をバチバチに感じる俺ですら、なったことがない。けど、おめぇさんにはひとつだけ、他を寄せつけねぇもんがある。それは、闇だ」

 闇、つまり暗い感情ということか。


「感情とはそもそも、電気信号。だから、おめぇさんの計り知れねぇ闇も、全て電気ってわけだ。要するにアンが、イブの感情を電流として見ることが出来たのは、その闇という莫大なエネルギーが無理やり、その世界の扉をこじ開けたから。もう普通じゃねぇんだ、おめぇさんは」

 普通とは違う──

 その言葉がより一層、僕の感情を掻き立てる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ