表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチとは、逆襲のヒーローだ  作者: 死馬奇大造
〜在り方と、生き方を〜
21/23

Record.18『その名を宣する時』

 なんとかヒーローを継続することが出来た。ワイズ班長の、いや、トラ・ゴーアの命令通りに、仕事を熟すことが出来たからだ。内容は、『凶悪レベル3.8』のヴィラン──"横島"を1週間以内に捕獲しろというもので、僕はやつを捕獲寸前の、気絶状態にまで至らせた。任務完了、そう思っていた矢先、横島がトラ・ゴーアによって殺されてしまった。横島は、僕のせいで命を失ったんだ。

 僕、ヒーロー"ビリー"は、己の存在に納得がいっていない。これまで歩んできた軌跡は、外から押された方向に進んでいただけ。自分で築き上げたものじゃないんだよ、今の形は──だからもっと力をつけて、失うものも得るものも、僕の手で選べるようにしたい。不可能を可能とする唯一無二の、最強のヒーローへ──



「昨日はご苦労だったねぇ、ヒーロービリーよ。十指のひとりとされる、あの横島をよくぞ成敗してくれた」

 満足そうに口髭を撫でている。

 この人は"マジカル毘沙"。僕が所属する東京ヒーロー事務所の所長であり、名の知れたヒーローだ。

「お陰様で、うちの事務所の評価も上がった。褒美をあげよう。なにか、欲しいものはあるカネカネ?」

 事務所じゃなくて、僕個人の評価を上げて欲しいけどな。昨日の現場にやってきたワイズ班なんて、邪魔になっただけだし……けど褒美か、せっかくだし頼んでみよう。


「なら、普通に昇進させて欲しいです。もっといえば、ワイズ班ではいたくありません。これ以上は、ほんとに」

 僕はこの要望を、事ある毎に言ってきたが、過去1度も足りとも、許しを得たことは無い。

 ワイズ班で僕が、不遇の扱いを受けていると知っていながら、見て見ぬふりをしてきたんだ。いや、見て見ぬふりというか、許容していたのかもしれない。


「よかろう。君の要求を呑むとしようカネ。丁度、いい話があるのだ。私はこれから各班長を連れて、東京義会へと出発する。そこへ、君も参列するといい」

「え、あの……義会へ行くことで、僕の望みが叶うということですか? それは、どういった用件の出向きで?」

 所長は、詳しくは行ってから、としか言わなくなった。



 ──ではこれより、緊急会議を始めたいと思います。

 ここは東京義会の会議室。劇場のような広々とした空間で、正面には巨大モニターがある。

 正面からみて左側の座席には、僕を含む東京ヒーロー事務所のヒーローたちが着席していて、反対側には東京義会のヒーローたちも同じく席に座っていた。

 トラ・ゴーアや朱雪の姿が見える。

 更にもっと奥の席には、警察や政府の人間もいたりして、正面には東京義会・大阪義会の会長に加え、会議内容を記録していくのであろう役員達が並んでいた。

 こんな大人数かつ大物を集めて、はじめる緊急会議って一体どんな内容なんだ? この会議と、僕が所長にお願いしたことは、どのようにして繋がってくる?


 大阪義会の会長、最上金雫那が口を開いた──

「皆さん既知しているかとは思いますが、10月31日……ハロウィンですね。東京都『リカーの酒亭』において、『凶悪レベル4.1』のヴィラン、"チャッカマン"が現れると予想されます。その根拠となるデータは、こちらです」

 ん? 会議が始まって数分、早くも僕は、話に追いつけていない。チャッカマンって、誰だ?

 正面の巨大モニターに映し出された、紙1枚の画像。

「この紙は、チャッカマンの拠点と思わしき住居を襲撃した際に、発見した物です。記されている内容から、この家がチャッカマンの拠点であったと、決定付けました」

 ハロウィンの21時に、チャッカマンを待つ、か……面会を要求する人物って、誰なんだろう?

 てか、罠の可能性もあるよな……実は相手なんていなくて、チャッカマンってやつが自作自演してヒーローを嵌めようとしてるとかも、有り得るんじゃ?


「しかし肝心のチャッカマンは家におらず、もしかすると既に東京にいるのでは、と懸念していた矢先……東京都内でチャッカマンらしき人物が目撃されました」

 東京にいるんだ。チャッカマン……『凶悪レベル4.1』なら、僕でも知ってそうだけど。どんな奴だ?

「つい先日、チャッカマンは大阪から東京への移動を、タクシーの無賃乗車で行ったそうです。路上で気絶させられていたタクシー運転手さんが、証言していました。この……悍ましい顔を、目撃したと」


 巨大モニターに今度は、チャッカマンというヴィランの顔面と思わしき写真が映った。なんか……人間の顔じゃないというか、ハロウィンの仮装みたいだ。

 ──口元が裂けていて、ギザギザの歯が剥き出し状態。頭の上で結んでる橙色の髪が火の玉みたいで、顔半分に火傷跡があり右目に黒眼帯を付けてる。

 有名なヴィランっぽいから見れば分かるかと思ったけど……全く知らない人だった。こんな強烈な顔、1度見ていたら忘れない。


 会議は、チャッカマンのこれまで起こしてきた事件や、チャッカマン本人についての説明がされた後で、東京義会の会長、東風成銀翔に進行役が変わり、ようやく本題へ入った。

「今回は、チャッカマンなるヴィランの捕獲を念頭に置き、長年図っていた『リカーの酒亭消滅計画』も、同時に行おうと考えています」

 満を持して、遂にリカーの酒亭を潰すつもりなのか……あの酒場、けっこう居心地よかったから残念だ。

「その第一歩として、先ずは『リカーの酒亭』の内部構造を把握するため、東京ヒーロー事務所のヒーローをひとり、潜入捜査に向かわせます」

 東の会長はそう言うと、東京ヒーロー事務所の所長である"マジカル毘沙"に、何かを話すよう促した。


「東風さんからは、優秀でかつ存在感のないヒーローをひとり、抜擢してくれと頼まれましてねぇ。非常に悩みましたが、私は彼に決めました──」

 リカーの酒亭に潜入捜査するヒーローか……誰なんだろう? と思っていた時、マジカル毘沙の口から"ビリー"という名前が上がった。まさかの、僕のようだ。

 恐らくマジカル毘沙は例の褒美のつもりで、この役目を与えてくれたんだろうけど……正直ただ面倒ごとを押し付けられたようにしか思えない。でも、まいっか。

 この場にいる人大半が、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。ビリーというヒーローに、聞き覚えがないんだろう。だからこれを機に、覚えてもらおうか。

 最強となる、ヒーローの名を──



 東の会長が、僕を、潜入捜査するヒーローに認めた。少しして緊急会議は幕を下ろし、僕だけ別室へと呼ばれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ