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アンチとは、逆襲のヒーローだ  作者: 死馬奇大造
〜ヴィランにも、なった〜
20/23

Record.17『漂泊の果て/血肉光化』

 体内に溢れかえる電気を上手く抑えて、一気に放出しないように圧力を加える。半端ではない量のエネルギーに、体が破裂しそうだ。

 痛々しく折れ曲がった右腕を、臆する事なく全力で振るってきた横島。対して僕は、避けずに手のひらで受け止め、ほんの少しだけ電気を放ってみた。

 すると横島は、反発したかの如く僕から離れていった。

 その姿は刹那で、気づけば向かいの建物に激突してた。

 横島のパンチを、あんな簡単に止められただけでも驚きなのに、10パーセントにも満たないエネルギーで、あっさりと弾き飛ばしちゃうなんて。

 電気に圧力を加えた事に比例して、エネルギーの密度も上がったんだ。量は少しでも、威力はその何倍にもなってる。


 ──ッ?!! 僕は、背後から後頭部を蹴られて、地面に転がった。横島がいつの間にか、回り込んでいたらしい。

 やっぱり、こいつの気配は読めない。

 いくら『血肉電化(モード・デンカ)』が無敵とはいえ、油断してると普通に攻撃くらうな。気をつけよ。

 ただ、大して痛手ではない。モード・デンカは、圧倒的な攻撃力も然ることながら、頑丈にもなるようだ。


 横島が、死に物狂いでこっちに走ってくる。完全にトドメを刺す気だ……よし、返り討ちにしてやる。

 ん? なんか、苦しい。急に倦怠感が……もしかして、モード・デンカ……身を削るのか? 発動してまだ10分も経ってないのに、体力の半分を消費してる気がする。このままじゃ……身が持たない。

 時間は限られてる……一刻も早く、勝負を決めよう。


 向かってくる横島に狙いを定め、僕は手のひらを突き出し、30パーセントくらいのエネルギーの電気を放つよう意識した。そう、電気の遠隔操作を試みたんだ。

 結果、命中せず、横島の左肩をかすった。エネルギーは大きければ大きいほど、制御するのが難しくて。遠隔操作になると余計に、照準が定まらない。

 とはいえ、少しでも掠ったら、威力は絶大で……横島は、あっという間に横方向に吹っ飛ばされていった。

 その光景を、目の前で見ていた僕は……というか、それを起こした張本人だからこそ、己の持つ力の強大さに、震えが止まらない。確実に人間を終えてる。


「──お嬢様ッ!!!」

 ん? 横島の飛んでった方向に、誰かいる? 恐怖の感情を放つ、2人の人間の気配を読み取った。

 横島が、激突しそうになっているようだ。

 あんな巨体が、あの速度でぶつかってきたら……普通の人なら即死。仮に生き永らえても、辛いだろう。時速約200キロの車が突っ込んでくるようなもんだ。

 どうしよう。助けたいとは思うけど、流石に間に合う気がしない……いや、策は……ある。けど、一か八かだ。


 今この交差点には、僕から流れ出ている微弱な電気が巡り巡っていて。僕はあらゆる物や人の、位置や距離を立体的に捉えることが出来ている。

 この状態では、横島と2人の人間の狭間を狙って、一瞬で電気を送ることを可能とする。狭間に電気を流せば、横島の飛んで行く先を阻めるだろう。

 但しさっきもそうだったけど、電気を遠隔操作するのは難しい。下手したら2人の人間に当たるかもしれない。

 だから電気を送るのはリスクが高すぎる。

 けど、もし僕自身を電気とするなら──捉えている空間の好きな位置に、僕の肉体ごと、電気の速度で移動させることが出来るかもしれない。

 もはや、非現実的な考えだけど……ワンチャンある。よし、やってみよう。あの位置へ意識を送るイメージで。



 ──お? な、なんか空間が歪み……時が止まって見える。なんだこれ……まるで気体になったかのように体が軽くて、星が煌めく宇宙にやってきたのかと錯覚するほど、周囲は火花を散らして光る、電気で充ちていた。

 僕は思わず、「綺麗だ」と声を漏らし、理解が追いつかないまま、宙に浮いて停止する横島の前にやってきた。

 ん? よく見ると、ちょっとずつ……動いてないか? とてもゆっくり……横島が、進んでる気がする。


 も、もしかして僕……本当に、電気に?! 周りが遅くなったんじゃなくて、僕が……電気の速さで動いているのか? 電気は、だいたい光の速さと同じ……つまり光速の存在──なら僕は今、『血肉光化(モード・コウカ)』だな。


 モード・デンカは、完全ではない電気との一体化で。モード・コウカは、完全なる電気との一体化か。そして、これらを発動するトリガーが『第三の目(サード・アイ)』というわけだ。

 今後の戦闘に、生かしていこう。


 ちなみにモード・コウカは、限られた空間内で、移動手段としてのみ使える力っぽくて。物や人には接触できないみたいだ。だからさっさとモード・デンカに戻って、横島をぶっ倒そう。体力も……限界に近い。急ごう。

 ──僕は、コウカ状態からデンカ状態に意識を戻した。



「お嬢様!!!──危ない!!!」

 護衛の方が傘を捨て、私を庇ってくれてる。

 横島と互角に渡り合う、あのヒーローの姿を一目見ようと、現場に近づいていた私の元に……横島が飛んできた。

 わ、わたし……もしかして、死ん────


 ッ!?──う、嘘……いつから、ここに?

 突如として姿を現した光り輝く存在。この人は先程まで、遠くの方で横島と戦闘を行っていたはずの、例のヒーローなのよ。だから、ありえないの……私の目の前に存在しているという、この事実が。

 その彼と、私は今、目が合った。



 ──あの女、どこかで見た気が……2人の人間は、女と男のようだ。こんなとこまで、何しに来たんだか。

 どうでもいいけど……横島、空へとカッ飛べっ!!

 僕は2人の人間の前に立ち、勢いよく向かってくる横島を、下から突き上げるように蹴り飛ばした。

 激しく宙を舞う横島。すぐさまヒーロースーツで空を飛び追う僕は、横島のいる高さよりも、もっと高くまで上昇した。雨雲を、すぐそこに感じる。


 仰向けで落下していく横島を下に確認すると、僕は右手の拳を大きく振り上げ、その天辺に100パーセントの電力(エネルギー)を集中させる。

 皮膚が剥がれ、血で滲んでいく右腕──

 突き上げた拳は、あっという間に途轍もない量のエネルギーで満ちた。凄まじい火花放電を上げている。

 世界すら終わらせてしまいそうな、この破壊兵器と化した右手の拳で、僕は横島の顔面を思いっきり殴った。


(──俺は無力……1人では何も変えられやしない。だからずっと、探していた……貴様のような、ヒーローを)


 豪雨に見舞われた真っ暗な東京を、雷が落ちた時のように、一筋の光が照らした。

 静まり返っていた渋谷の交差点に、隕石のごとく落ちてきた横島──加えて、途轍もないエネルギーの電撃が降り注ぎ、雨水を伝って感電した車が、次々と爆発していった。


 やばい……さっきの2人の人間、爆発に巻き込まれてないか?! 流石に、やりすぎちゃったかも。

 僕は体内に溢れかえっていた電気を全て放ち、モード・デンカが尽きて普通の状態に戻っていた。さらに僕の放ったエネルギーが雲をも吹っ飛ばし、交差点の部分だけ雨が降っていなかった。


 交差点に降りた僕は、横島を発見する。気を失っていて、まだ死んでいない。いくらなんでも頑丈すぎだろ……あれを食らって、やっと気絶なんて。でも僕の仕事は横島の捕獲だ。死んでなくて良かったよ。

 続けて、さっきの2人の安否を確認したい。けど、なかなか姿が見つからない。まさか……あまりの電気の強さに、体ごと消滅したんじゃ……冷や汗をかく僕。

 そこへ────


「まさか、やり遂げてしまうとは。やはり君の血筋……その才能には恐怖を覚える。先程の力には、驚かされましたわ。けどまあ、下手したら大阪義会長を殺してたわけで──褒められる結果ではない」

 トラ・ゴーアだ……義会メンバーを引き連れて、既に事終えた交差点に、ゾロゾロとやって来ていた。

 それぞれ、救助やら何やら、色々とやってる。

「今頃来たんだ……別にいいけど。てか、大阪義会長を殺してたかもって、なに? どういうこと?」

「あの! あなたの名前は、なんと言うのですか?」

 何かを言いかけたトラ・ゴーアを押し退けて、僕の元へと向かって走ってきた、この女は、さっきの……よかった、生きてたんだ。


「ぼ、僕? ビリーだけど……」

「ビリーさん! はじめまして。先程は助けて頂き、有難うございました。私は、最上(もかみ)金雫那(こじな)と申します。今後とも、よろしくお願いします!」

 トラ・ゴーアが鼻で笑って、どこかへ去っていった。

 最上金雫那……変なやつだな。今後ともって、今回限りの関係でしかなくないか? たまたま助けただけなんだし。

 いわゆる探偵のような服や帽子をしてて、金色の長い髪と空みたいな目の色。やっぱり、前にどこかで見たことある気がするけど、気のせいか?

「よ、よろしく。最上か……ん? 名前もどこかで……あ、確か大阪義会の会長も同じだったか」

「あ、それ私です! ヒーロー第二本部の、会長を務めております」


 あ?! そ、そうだ……こいつ、今年から大阪義会の会長になったっていう……若すぎだろとか思ってたんだよ。

 トラ・ゴーアが言ってたのは、そういう事だったのか……それは確かに、危なかった。この人を殺してたら、横島を倒したことなんて無意味になってた。

「あ、なるほど……す、すみません。もしかしたら怪我を……いや、もっと酷い事をしてしまうところでした」

「いえ、謝らないでください! 元はと言えば、私が不用意に近づいたせいなので……」


 ──突然、鳴り響いた3発の銃声。音の方へ顔を向けるとトラ・ゴーアが、横島の頭に銃口を突きつけてた。

 さっき横島を確認した時は、気を失って倒れていた。そして銃声は、既に3発鳴ったあと。これらの事から思うに、横島は今、トラ・ゴーアによって射殺された。


 周囲のヒーローは、みんな唖然としている。それもそうだ……何殺してんだよ。ありえないだろ。

 僕はつい衝動的に、トラ・ゴーアへと突っかかった。

「おい捕獲じゃなかったのかよ!……何殺してんだ」

「トラ・ゴーアさん?! あ、あなた……自身がやった事をしっかり、理解していますか?」

 大阪義会長も、僕と同じように怒りを顕にしてる。

「彼から情報を聞き出せば、多くのヴィランを芋ずる式で見つけ出せたかも知れません。あの、チャッカマンだって……そのチャンスを、あなたは──」


 黙れと言わんばかりに、手のひらを突き出すトラ・ゴーアは、呆れた様子でこう言い返してきた。

「横島を捕獲?……こんなの、すぐ死刑でしたわ。それを多少早く、この場で行っただけ。むしろ拘置所に送り届けたりして時間をかけた結果、"逃げられました"などという事態になっていたら笑いもんですわ。凶悪レベルの付いたヴィランに猶予を与えるほど僕は、優しくない」

 交差点に浸る雨水に、横島の血が滲んでいく……。

 あれ──僕、なんで横島に敵意を向けてたんだ? オメガの実験のため?……朱雪に言われたから?……僕はヒーローを続けようとしたけど、何もかも僕の意思で決めたんじゃない。結局、都合よく流されていただけだ──

 最強に、ならないと……生き方を選ばないと!!



「今先の猛然たる稲光が、もう十分であると示した……ここまで衝撃が伝わる程なのだ。『殺戮のメサイア』と呼べる存在は、近いだろう──」

 東京義会の最上階にて、独り言を呟く東風成銀翔。

「しかしまさか、本当に横島を敗るとは……正直、想定していなかった。これは計画を変更すべきか? もはや、ヴィランをやらせる意味はない」

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