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アンチとは、逆襲のヒーローだ  作者: 死馬奇大造
〜ヴィランにも、なった〜
16/23

Record.13『最強になりたい』

 東京都内、渋谷の交差点のど真ん中に、勢いよく降り立ったヴィラン、横島。車に轢かれそうになると、飛び蹴りをしてフロントを破壊。

 血塗れの運転手は車から降り、すぐさま逃げるが対向車に轢かれて即死。交差点は、横島が現れたのを皮切りに、連続して事故が起こっていった。


 昼間とは思えないほど、暗闇に包まれる豪雨の中。雨に打たれながら、空を駆けている僕は、ヒーローのビリーという。

 街がやたらと騒がしいが、その理由を僕は、知っている。さっき家にいたら、朱雪から連絡があったんだ。

 どうやら渋谷の交差点で、横島がひたすらに暴れてるらしい。街を守るために戦ってるヒーローと、更には下克上を果たそうとする無名ヴィランが混ざり、交差点はカオスな戦場と化してるっぽい。


 ちょうど僕も、そろそろ横島とやり合いたいと思っていたから、急いで現場に向かっている。

 ヒーローとしてスーツを着用し、空から。

 今日は、1週間以内に終わらせろと言われた仕事の、最終日だ。内容は、横島を捕まえろ。1週間で無理だったら、その時点でヒーローはクビになってしまう。

 だから僕は、横島と戦わないといけないんだ。


 ──渋谷の交差点。横島は、なんの目的があるのか、無闇に力を振り撒いている。迫り来るヒーローとヴィランを、あしらい圧倒していた。そこへ空から、黒色に身を包んだヒーローがやってきた。

「ビリー、ここに参上っと……仕事を果たしに来た。結局は、義務感に駆られた現代人の末路、だったか」


 ようやく目的地についた。横島の他には、大したヒーローもヴィランもいない。連絡をくれた朱雪は、来れないと言っていた。というか、義会全体で今、別件に追われているらしい。

 でも、横島を止めれるヒーローなんて、ここらじゃ義会メンバーと──僕くらいしかいない。

 だから、仕事がどうこう関係なしに、ここで横島を倒せなかったら、ヒーロー失格ってわけだ。


 1週間前のこと、遥か昔に感じる。横島と、最初に戦った時は、手柄を勝ち取りたい、そう思っていた。

 手柄を立てなければ、弱者である僕は、上へと成り上がれなかったから。でも、それは馬鹿だった。

 手柄とかじゃなく、強くなきゃいけなかったんだ。

 この前、ひとり世狩とリカーの酒亭でたまたま出会って、相談に乗ってもらって、ハッとさせられた。あれは、オメガの居場所を知らないか訊くついでに、零した悩みだった。



 ──オメガの居場所は、知らないというひとり世狩。僕は、この人と生涯、2度目の杯を交わしていた。

 しかし、ひとり世狩すら、オメガの居場所を知らないとなると、もう本当に見つけようがない。

 というか、これだけヴィランに聞き回っても、情報がないってことは、多分どこかに隠れてるんだ。でも、なんで?


「ぜぇ……オメガが、逃げたんなら……やはりあやつ、トラ・ゴーアは、かなり力をつけたんじゃな」

 僕は、オメガがいなくなった経緯を、ひとり世狩に話していた。研究所に、トラ・ゴーアが攻め入ってきたことを。

「前に、戦ったことでもあるの? トラ・ゴーアと」

「ああ……あるぜぇ。あやつが若造の頃じゃ。ミジンコ以下だったなん、ありゃ……わしに何かしらの恨みがあるようじゃったが、わしは少しも覚えておらんかったぜぇ」


 トラ・ゴーアが、ミジンコ以下……? 昔の話とはいえ、幾らなんでも余裕すぎるだろ。

 最近のトラ・ゴーアなんて、飛ぶ鳥を落とす勢いだし……まあ、チガネオンを飲んでるから、卑怯なんだけど。

「ひとり世狩って、たぶん強いよね? 戦ってるとこ見たことないけど、凶悪レベルめっちゃ高いし。それって、理由があるのか? なんの為に強くなったとか、そういう」

 僕は不意に問いかけた。気になったんだ、強者にとって、強さとは何なのか。少し学びたいと思って。

 最近の悩みだから。


「自由のためなん。なんにも縛られたくない……気儘に生きるんが好きなんぜぇ。ゆえに、力が絶対じゃったん」

 どこかで、似たようなことを……なんだったっけ? 誰かも言ってた、気がするんだけど────僕か?!

 死んだ両親から与えられた、拭えない"孤独"から逃れるために、ずっと力を必要としていた……そうか、忘れてた。


 力が欲しくてヒーローを目指してたくせに、ヒーローになってからは、トラ・ゴーア共に叩き潰されて、ずっと弱い自分がどうしたら見返せるのか考えていた。

 でも、そうじゃなかった。やるべきことは。

 オメガが、言っていた。強いとか弱いとか、環境次第だって。恵まれていなかった、とは言わないけど。あんまり良くない環境にいて、自分を弱いと思い込んでいた。

 強くなろうとしなきゃいけなかったのに。

 その時点でもう、昔の僕は消えていたんだ。



 ──そう、ひとり世狩の言葉は、昔の僕を思い出させてくれた。力……それは、"僕を守るため"に必要なものだった。ひとり世狩が、自由を得るために必要としていたのと同じで。

 でも、昔に持っていた強くなる理由は、過去に置き去りにしたまま、掘り起こさなくていい。


 そして丸くなった僕は、過去を踏まえて新たに、こう謳う──"最強になりたい"。最強になれば、自分を守れて、他人も守れて、自由になれる。最強になって、選ぶんだ、己の生き方を。

 選ぶために、最強にならないといけないんだ。

 新たな、強くなる理由を持った。


 雨に濡れた髪を払い、僕は横島と対峙する。まるで横島は、僕を待っていたかのような反応だ。

「まさか、この騒ぎ……僕を、吊り出すためにわざわざ起こした、なんて言わないよな?」

 見た感じ、被害がすごい。僕が関わっているとは、とても思いたくない。ただの、自意識過剰でありたいよ。

「前に聞いたやつ、そろそろだろう? 1週間の限りで、俺を討つだとか。運動不足解消を兼ねて、俺の本気を引き出せるほどの力を得たのか、確かめてやろうと思った次第。しかし探すのも面倒だった」

「だから、こうやって大暴れしたと」

「無粋だったか?」

 うん、自意識過剰じゃなかった。今まで、横島は結構まともなヴィランかと思ってたけど、違ったらしい。

 というか、まともなヴィランって矛盾してるか。


「あんたは、派手なことを好まないと思ってた」

「ふむ……派手なことをせずに、大成することは出来ない。貴様も分かっているだろ?」

 体内の電気が、火花放電をあげている──怒りだ。

「痛いほど分かるよ、そんなの……あんたと最初に戦ったときなんて、まさに派手なことをして成功を収めようとしていた。でも、あんただから言えたことだろ? 弱者がいくら派手なことをしたって、惨めなだけなんだよ。だから僕は、最強になりたい……横島、決着をつけよう。3度目の正直だ」


 ──遂に始まる。想いを乗せた、運命の闘いが。

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