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アンチとは、逆襲のヒーローだ  作者: 死馬奇大造
〜ヴィランにも、なった〜
14/23

Record.11『血肉電化』

 研究所であれやこれややっていたら、いつの間にか日が暮れ始めていた。そんなに長居したつもりは無かったんだけど、どうやら瞑想で180分という時を費やしていたらしい。

 やっぱり意識はあっても、実際には寝ていたのかもしれない。とにかく不思議な感覚だった。第六感……まだ確実じゃないけど、今は一旦それだと思っておこう。

 第六感を経験した後、肉体の中に電気が流れていて、全身が透けて発光して見えた。あの状態が多分、会長の言っていた『殺戮のメサイア』の片鱗で、やっぱり第六感が鍵になっているんだ。

 でも僕は、そう呼ぶ気はない。体験したからこそ分かる、相応しい呼び名は──『血肉電化(モード・デンカ)』だ。完全ではないものの、電気と一体化する感覚を得ていた。


 モード・デンカは、瞑想によって発動したけど、それを戦闘時に使えるかが問題だ。相手は、あの横島。瞑想する余裕など与えて貰えない。だから、本番前にそこそこのやつで試してみたい。

 ちょうど暮れてきたし、あそこへ行くか。無名ヴィランがうじゃうじゃいる『リカーの酒亭』に。前いった時は、オメガも一緒だったから、喧嘩売られるような事はなかったけど。一人だと、たくさん絡まれると思う。

 それに、オメガの事もやっぱり気になるし。裏切られてない可能性がある以上、僕はオメガとイブの居場所を知りたい。リカーの酒亭に行けば、知ってるやつ、1人や2人いるだろう。



 賑わう都市から少し離れていくと、人の数が一気に減る路地がある。だけど進むにつれて、どんどん柄の悪い人が増えていき、酒の匂いが漂いはじめる。

『リカーの酒亭』へ向かうための通りだ。

 この辺は、スラム街となっていて、居所を失ったヴィランたちのねぐら。無法地帯に一際目立って聳え立つ、3階建てのリカーの酒亭を中心に、半径1キロ以内はヴィランがうじゃうじゃいるんだ。

 黒の狐面を被り、ヴィランとしてやってきた僕は、スラム街の一角でヴィランの現実を目にする。

 骨が見えるくらいやつれてる……まるでミイラだ。

 いつ死んでもおかしくないほど、衰弱している人間って、こんなにも惨いんだ。なんでヴィランになったんだろう、この人たち。こんな末路じゃ、報われないよな。

 何をしてきた人かなんて知らないけど、ヒーローは彼らに救いの手を差し伸べない。当然の報い、なんだよな?


「あの……ドクターオメガってどこにいるか、分かる?」

「は? 誰だよてめぇ、雑魚が口聞くなや!」

 なんで僕より、こいつの方が強い前提なんだよ。

 僕は、リカーの酒亭の1階にて、オメガの居場所を聞いて回っていた。けど思った以上に収穫はない。情報が出回ってないみたいだ。

「てかてめぇさっきっからよぉ! ウロチョロ……ウロチョロ……死ぬほど目障りなんだわッ!!」

 感情的になって殴りかかってきた、凶悪レベルすら付けられていない無名のヴィラン。ちょうど『モード・デンカ』について、色々と試したかったから助かる。


 まず、簡単に無名ヴィランのパンチを避けて、次に『モード・デンカ』の感覚を思い出して殴ってみた。

 だけど電気は発されずに、ただ普通に殴っただけだった。やっぱり瞑想しない事には、あの状態になれないのか?

「チッ……俺は酔ってるからよぉ、てめぇが殴れたのは、まぐれだわ! もう容赦はしねぇ、後悔させてやらぁ!!」

 意気込んで、懲りずに何度も殴りかかってきた無名ヴィラン。でも僕は、一度も喰らわずに試行錯誤を繰り返す。


 そして、ある事に気づいた。僕は今日、相手の行動が手に取るように分かる。いつもの、電流は見えていない。

 前まで、あえて痛みを感じて、相手の思考を電流として捉えていた。だから攻撃を読み取ることも出来ていたけど、今日は何もせずとも読み取れる。

 もしかして横島のやっていた、"体で捉える"がこれか? 体で捉えるってのは、五感のひとつの触覚を使って、相手の行動を読み取るもの。聞いた限りだと、今のがそれだと思う。

 だとしたら恐らく第六感を経験したことで、僕は無理やり"体で捉える"を身に付けてしまったんだ。

 裏ルートを使って過程をすっ飛ばし、クリアしてなかったはずのクエストでさえ、全てクリア済みにしたというわけだ。

 千里の道も一歩から──たった今、僕以外に向けられた言葉になった。不平等、極まりないよ。


 ん? 戦闘に夢中になっていて気づかなかったけど、いつの間にか僕と無名ヴィランを中心に、ギャラリーができてる。

 騒ぎを起こすつもりは無かったんだけど……あまり目立つと、ヒーローとしての存在を勘づかれるかもだし。

 そろそろ終わりにするべきか。

「図に乗りやがってゃ!……てめぇごとき、酒飲んでなかったら一捻りなんだよ!! くそ雑魚がぁ!!」

「口の減らない酔っ払いが。もう終わりだよ」

 すぐに僕は、拳一発で無名ヴィランを眠らせた。ちょうどいい練習相手で、色々と助かったよ。

 酒と金をぶちまけて盛り上がるギャラリーに、呆然とするしかない僕。勝手に酒の肴にしないで欲しい。けどちょっとだけ、楽しかったかもしれない。強烈な酒気のせいで、少し酔ったか?

 ここに来ると毎回、いい気分になれる。


 あ、でも。結局、オメガの居場所は分からなかった。2階3階でも聞いて回りたいけど、上に行けば行くほど有名なヴィランがいるし、そもそもビップ待遇を受けないと入れて貰えなかった気がする。

 前にオメガと来た時は、3階に案内されていた。つまり最高クラスのビップ待遇を受けていたんだ。もちろん僕ではなくオメガが。だから、もう諦めるしかない。

 これ以上、ここにいるわけにもいかないし。下手打って仮面の下でも見られたら、顔を記憶されるかも。そうなったら、今後のヒーロー人生に不安が残る。


 あれ、そういえば……トラ・ゴーアって、僕がオメガと一緒にいるところを見ていたはず……会長に告げ口とかしてないのか? 昨日の会長の様子だと、バレてはなかったっぽいけど。

 てか本当に、よくよく考えたらまずくないか? トラ・ゴーアに、秘密を握られたんだ。こっちもトラ・ゴーアの、チガネオンの依存者だっていう秘密を手にしたけど……奴からしたら、だからなんだって感じだと思うし。


「一般客は、道を開けろください。これより特別待遇のお得意様を、ご案内いたしますゆえ」

 入口の方から女性定員の声が聞こえてくると、あれだけ騒がしかった店内が一気に静まり返った。

 でも僕は、考えることに集中していて背後に近づく、その存在に気づかなかった。

 肩をトントンと叩かれる。その瞬間に、周りのヴィランが僕を気遣わしげな表情で見ていて、状況をなんとなく把握した。現在、危険な状況っぽい。肩を叩いたやつは、只者じゃないんだろう。

 だから僕は、覚悟を持ってゆっくりと振り返った。

「……久しいなん。いつかの新人よぉ」

「え、ん? あ……あれ?」

 とても猫背で、前方に垂れた頭部。

 めちゃくちゃ大物だけど、前に酒を交わしていたからか、謎に親近感があってどう反応すればいいのか分からなかった。この人は、『凶悪レベル4.4』のヴィラン、ひとり世狩だ。

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