表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチとは、逆襲のヒーローだ  作者: 死馬奇大造
〜ヴィランにも、なった〜
13/23

Record.10『メッセージ』

 とても静かで、物寂しい雰囲気……もしかしたら、オメガとイブが戻っているかもしれないと、少し期待して来たけど、もぬけの殻だった。

 リビングは派手に壊れていて、屋根もぶち抜かれている。一昨日の件で半壊状態になったまま、変わりはないようだ。

 ここは、研究所またの名をドクターオメガの自宅。正確には、"元"といった方がいいのかもしれない。

 一昨日、トラ・ゴーアがここに攻め入ってきて、ドクターオメガとイブはどこかへ逃げてしまった。この研究所ごと、僕を捨て去ってだ。いや、捨てるも何も、知り合い程度でしかなかったわけだから、別にいいんだけど。2人が今、どこにいるのかは分からない。てか、知る必要もないんだ。


 ──僕が何故、再びここへやって来たのかというと。オメガが、電気信号についての資料を、たくさん揃えていたんだ。

 資料の中で、"第六感"について書かれているものがあるんじゃないかと思って。

 だから僕は、静かな研究室の中で、ひとり黙々と資料を読み漁っていた。出来るだけ分からない事でも、理解しようと努力したけど、難しいものばかりで頭がパンクしそう。

 そんな時。僕は、お目当ての資料を発見した。


 ──瞑想によって開花する、第六感

 両足で立ったまま全身の力を抜き、背筋を伸ばして呼吸を意識する。そして眠るように目を瞑ることで、見えなかったものが見えたり、感じれなかったものを感じ取れるようになる。それが、第六感。

 らしいけど正直、本当に効果があるのかは、微妙なところ。僕は瞑想とか、そういうのを信じていない。

 というか、一か八かで来たけど、本当に第六感についての資料があるなんて。信じてないとはいえ、せっかく見つけたんだし、やるだけやってみよう。


「ふぅ……よし、脱力して……気の流れを、感じてみよう」

 瞑想のために、眠るように目を瞑った。

 呼吸を意識していると、徐々に気が遠くなってきた。悪い方ではなく良い方だ。気持ちがいい。睡眠に落ちる直前くらいの感覚で、立っていることすら忘れそう。

 瞑想なんて初めてだけど、こんなにフワフワするものなのか。なんか、目を瞑っているはずなのに、外の様子が分かるような気がしてきた……まるで、夢を見ている?


 ──そこに、知らない誰かが立っている。肩まである髪は、赤っぽい茶色をしていて、少し物憂げな表情の女。何かを訴えるように、瞬きもせず僕を見つめ続ける。

 本当に、誰なんだろう? 今後の人生で出会う人か。はたまた、既に出会っている人か。

 その女の人は、優しく片手で僕の目を覆った。視界を遮るように、手のひらを添えてきたんだ。でも少しすると、僕の顔からは手を離し、そのまま手を振ってきた。

 彼女は最後まで悲しそうで……何かを、伝えようとしていた。だけど、僕には分からなかった。


 んっ!?──瞑想から覚めると、僕は異常に心拍数が上がっていた。身体が熱い。まるで、激しい運動をした直後のようだ。

「な、なんだよこれ!? どうなってる……」

 さらに僕は、ある変化に気づいた。自分の手を見ると、中に電気が流れていて、透けて発光している。いや、手だけじゃない。全身がだ。これは一体、どういう……?

 なんか、どんどん力が漲ってくる……今にも破裂しそうなくらい、体内にエネルギーが生まれているんだ。もしかして……この状態なら。

 僕は、そのエネルギーを外に放つように意識して、軽く空中をパンチをしてみた。すると、拳から火花放電が激しく散り、次の瞬間には爆発していた。


 研究室はおろか、壁を貫通して他の部屋までも損壊し、爆風が吹き荒れて僕は、研究室の壁に打ち付けられた。

 痛みに耐えながら膝をつき、もう一度手を見てみると普通に戻っていた。多分、体内に溢れ返っていた電気エネルギーが、外に開放されたんだ。

 やっぱり、あの感覚なら出力できるっぽい。たださっきのは、コントロール出来ずに、力が暴発していた。そこが、改善点か。

 え、でもまさか、本当に瞑想で? 思い返してみると、あれは意識がはっきりしている夢……いや、間違いなく現実だった。記憶は今も鮮明に残ってる。ただ、感覚的には眠っているようで。

 まるで、現実と夢の世界が重なっていたところ。別の次元とでも言うべきか? これが、第六感なんだとしたら、理屈はよく分からないけど、凄いことを経験した。


 爆風に乗って紙切れが飛んできた。なんとなしに僕は拾い、書かれている文字を読んだ──え?

 紙には、「アン、よめ」とある。

 これって、もしかして……僕宛てに書き残された紙の、切れ端かなんかじゃないか? 僕をアンと呼ぶのは、オメガとイブだけ。

 なら一昨日、オメガとイブは逃げる前に、何か書き残していたのかもしれない。


 そう思った僕は、瓦礫の中から切れ端になる前の、紙本体を探しはじめた。けど、一向に見つからない。

 あの爆発の後だし、もう跡形もなく散り散りになってるのか? 2人は一体、僕になんと書き残していたんだろう……気になって仕方がない。

 まさか僕は、トラ・ゴーアの言葉に踊らされていたのか……あいつが、ドクターオメガは僕を利用して逃げたとか、同情するとか言ってきたから。てっきり、本当にそうだと思っていた。

 けど、この紙切れがあるってことは、間違いなくオメガとイブは、僕に何かを伝えようとしていた。その内容次第では、裏切ってなどいなかった。気づけなかった、僕のせいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ