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アンチとは、逆襲のヒーローだ  作者: 死馬奇大造
〜ヴィランにも、なった〜
12/23

Record.09『ボイスレコーダー』

 懐かしい景色だ、久しぶりに見た。東京義会にいた頃は、よく気晴らしに、この屋上へやって来ていた。

 このまま時が過ぎ去れば、僕はヒーローを辞めさせられるし、オメガに捨てられたからヴィランを続ける意味もない。

 今後は、どうしたらいいんだろう。ヒーローとヴィランの狭間に居て、どっちつかずの正義を謳い続けるのか。

 以前の僕なら、ここから飛び降りて自殺をしていた。

 けど今は帯電し、強くなれる兆しが見えてきたから、簡単に死ぬのも勿体なく感じる。かといって、強くなった先に何を望むのかは、ハッキリしていない。それに、一口に強さと言っても、心や体、頭脳や立場など、色々とあるわけで──僕は、何者に成ろうとしてるのか。

 ヒーローとヴィランの狭間にいる、その事実が僕を、曖昧な存在にしてしまっているんだ。


「父と何を話した? 酒呑童子の息子」

 景色を眺めていた僕の背後で、恐らく僕に話しかけているであろう、何者かの声が聞こえてきた。

「ん? あんたは、たしか」

「ヒーロー名、朱雪(しゅせつ)。本名、東風(こち)冬仁(ふゆひと)だ。分かるか?」

「分かるよ。会長の息子だろ」

 そう。こいつは、朱雪。会長の息子だ。純白に朱色が混じったツンツン髪で、耳飾りを付けてる。同期で、僕が東京義会所属になった頃、よく顔を合わせていたヒーローだ。

 でも、今さら話し合う事なんて、特に無いはずだけど。

「会長とは別に、トラ・ゴーアのことで話したり、一方的に謝罪を受けていただけだけど……それが、どうかしたか?」

「父は、酒呑童子の息子を利用して、何かを企んでいる。受けた謝罪というやつも、すべて虚言だぞ」

 あと、こいつはずっと僕のことを、酒呑童子の息子と呼んでくる。昔は嫌だったけど、今は別に気にしていない。

「虚言? 利用? あの会長がか? なんで僕を?」

「酒呑童子の息子が、酒呑童子の息子だからだ」

 分かりにくい。けど意味は、そのまんまか。結局、あの会長も僕の血筋に、執着している可能性があると。

「またそれか。でも、利用って?」

「ここでは話せない。だから、これを渡しておく。父の独り言を盗聴した、ボイスレコーダーだ。帰ったら聞いてみるといいぞ」

 僕は、ボイスレコーダーを受け取った。

「盗聴って……あんた、父親に恨みでもあるのか? 仮に悪事があったとしても、それを僕に伝える義理はないだろ?」

「納得いかない事は、正したいのだ」


 朱雪は昔から、誰にも負けない正義感の持ち主で、真っ直ぐすぎて扱いにくいと感じる事も、少なくはなかった。実力でいえば、トラ・ゴーアよりも多少劣るくらいで、僕なんかとは比べようがないくらい優秀なやつ。だから疑問に思うんだ。なんで、僕なんかを気にかける?

 というか、最近は何故だが、僕に構おうとする人達が増えてきている。ヒーローを初めて5年間、過去に1度も経験してこなかった事が、現在に集中しているような、そんな感覚。

 僕を中心に、色んな人が動いているんじゃないか? 

 何も知らない僕だから、疑り深くなって、こうやって自意識過剰にだってなる。


「このボイスレコーダーを聞くまでは、会長もあんたも信じない。けどもし、あんたの言う事が真実だったら、僕は何をすればいいんだ? あんたは、貴重な証拠品を僕に預けたわけで、その見返りを求めないと逆に怪しくなる」

「見返り? 見返り、は……俺の家族を、助けて欲しい。理由は、のちに分かるはずだ。とにかく酒呑童子の息子にしか、出来ないことがある」

 朱雪の、家族……僕にしか、出来ないこと?

「その為には先ず、ヒーローを何としても続けてくれ。今、窮地に立たされているのだろ? 無理難題の任務をふっかけられて。俺も父の企みを完全に把握しているわけではないが、ヒーローを辞めてしまえば思う壷になることは確かだ」

「んん……けど、簡単に分かった、とは言えないくらいには、本当に厳しい仕事を与えられているんだ」

 その内容は、横島の捕獲。現段階では、かなり難しい。

「承知している。仮に与えられたのが俺だったって、成功できるとは中々言いづらい案件だ。しかし希望はある。そのボイスレコーダー、中には言質でありながら、ヒントとも成りうるものがあるはずだぞ」

 ヒントって、なんのヒントだ? 

「正直、俺には理解し兼ねるが、酒呑童子の息子なら分かるんじゃないか? あとは、聞いてみてからの、お楽しみだろう」

「わ、分かった。やるだけやってみるよ」

「よし。ちなみに、酒呑童子の息子ばっかりじゃないぞ。俺もその間、やることやる。サプライズを、待っとけ」

 僕はどうやら、横島を倒す運命なのかもしれない。やつを倒さなければ、先へは進めない。ゲームで言う、ステージクリアを目前にして立ちはだかる、ボス的な存在か。



 ──そろそろか?……もう十分、追い込んだ。今なら……いや、もう少し様子を。徹底的に……徹底的にッ!! 地球を救う『殺戮の救世主(メサイア)』、その鍵は……"第六感"。酒呑童子……分かってくれ。君がくれた子は、本当に……あの子は、私が捨ててしまった希望を、叶える事ができる唯一の……ッ!? 誰だ! 誰かそこにいるのか!! 出てこい!! 出てくるのだッ!!


 ボイスレコーダーは、ここで途切れていた。最後に物音をたてて、見つかりそうになってるのが、盗聴している朱雪ってわけか。けど、今日の様子からすると、多分見つかってはいないんだろう。

 自宅のマンションに帰宅した僕は、朱雪から渡されたボイスレコーダーを聞いていた。

 この声は間違いなく会長だ。でも、冷静なイメージのある会長が、こんなに焦った様子をしているのは、何故なんだろう。そもそも、何に対して焦っているんだ?

 喋っている内容は、恐らく僕についての事だろう。追い込んだ、だの、徹底的に、だの。これらの言葉が全部、僕に対してのものなら、朱雪の言っていた事は理解できる。

 今日、会長から受けていた謝罪は、全くの嘘だというわけだ。僕を、トラ・ゴーアの管理下に入れ、才能を潰してしまった、償いきれないことをした、なんて言ってたけど。ボイスレコーダーの通りなら、それは故意でやった事になる。

 するともしかして、トラ・ゴーアは、会長の命令によって僕を潰そうとしていたのか? 横島を捕まえろという無理難題の任務も、事務所を介してトラ・ゴーアが与えてきた仕事だったと思うし。何より、僕がヒーローになった当初から、トラ・ゴーアは僕を追い込んできた。その影には、会長がいたのか? 信じられない。


 さらに、会長が僕に執着する理由も、ボイスレコーダーから何となく読み取れた。恐らくキーワードは、『殺戮のメサイア』だろう。

 会長は裏で、僕のことを、そう呼んでいるっぽい。意味は分からないけど、会長には叶えたい希望があって、僕はそれを可能とする唯一の人間。加えて、『殺戮のメサイア』の鍵となるものは、"第六感"。

 つまり言い換えると、僕が"第六感"を覚醒させれば、『殺戮のメサイア』と呼ばれる存在になるのかもしれない。

 朱雪は、ボイスレコーダーの中に、ヒーローを続けるための、いや、横島を倒すための、ヒントがあると言っていた。多分だけど、これがヒントなんだ。

 確かに、朱雪にとっては第六感など、理解し兼ねる話だろう。いや、僕にとっても勿論そうだけど、既に帯電という普通とは逸脱した力があるから、別に驚きはしない。

 むしろ、帯電こそが第六感への糸口なんじゃないか? 今は視覚や触覚など、五感と呼ばれるもので電気を感じ取っているけど、それらを超越した感覚で電気を扱えれば、もう強いとかのレベルではなくなる。横島だって、倒せるだろう。


 けど、となると会長は、僕も知らない僕の秘密を知っていることになる。だって、僕が帯電したのはつい最近のことで。もし仮に、このボイスレコーダーが帯電して以降のことを記録していたとしても、僕から会長に帯電してる事を伝えた覚えはない。なのに会長は、自身の希望を叶えられるのは、僕しかいないと言ってるんだ。

 それに、ボイスレコーダーでは、"酒呑童子のくれた子"、とも漏らしているわけで、会長と酒呑童子には、僕が関係した個人間のやり取りがあるはず。

 だから、僕のことを僕以上に知っていても、おかしくはない。でも、昔から大して強くなかった僕に、隠された何かがあったとしても、今頃になってなんでだよ、とは思う。


 ボイスレコーダーから得れる情報は、これくらいか。朱雪を信じるには、十分過ぎた。結構、言っていた通りだったよ。

 こうなったら、大人しく横島を倒すよう務めるか。

 ただまず、第六感を覚醒させないといけないんだけど、方法が分からない。んー……とりあえず、今日はもう夜だし、明日になったら、あそこに行ってみるか。

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