幼馴染との音ゲーはミスばかり
幼馴染のゲームシリーズ3作目です。ページ上部から、シリーズ一覧に移動できます。是非1作目から続いて読んで頂ければ嬉しいです。
「好きな曲をオリジナル譜面で出来る音楽ゲームがあってさ」
最近付き合う事になった幼馴染は、何か企みがある時に、私にゲームをやらせようとしてくる。
その音楽ゲームは、スマホを横向きにした状態で、上から降ってくる棒状のバーを、音楽のリズムに合わせて、画面の下にある五か所のライン上でタップするというもの。
「よし。じゃあさ、そっち右半分担当ね。俺、左半分やるから」
「え、あ、二人でやんの?」
今度も回りくどいやり口か? と考えている隙に、幼馴染はスマホを片手に、私のすぐ隣に躊躇なく座る。いつになく強引な、力のある男性の気配に、私の疑念に浮ついた心も少し、嬉しさに着地する。
そんな心を余所に、幼馴染が青いブルートゥースイヤホンの片方を私に差し出す。
カナル型のイヤホンを左耳に差し込むのは、今の心持ちもあって、なんだか少し緊張する。
意を決して差し込んだ、イヤホンの向こうから
『~♪ チュッチュルチュ~ チュッチュチュチュ~♪』
という歌が聞こえる。知らない曲だけど……
ふーん……チューしたいのかコイツ。
先程までの浮つきが一気に霧散して、ジト目で幼馴染を見るが、平然とゲームの設定を弄ってる。ははーん、私が気づかないとでも思ってるのか。残念ながら、今回もアンタの企み通りにはならないわよ。
「この曲さあ、歌詞が良いんだよね」
「ふーん。ま、歌聴いててミスらない様にね」
と、警戒色の強い憎まれ口を叩いた所で、曲が流れ始めた。
『~♪ チュッチュルチュ~ チュッチュチュチュ~♪』
ゲームが始まると、幼馴染の企ての裏をかくどころではなかった。
スマホ一つに、人間は二人。幼馴染がスマホを支え、それぞれ片方の手でタップ。小学生の頃ならまだしも、身体が大きくなった今では、異様に距離が近い。
小さな画面を見る為には、幼馴染にもたれかかる程に近づかないとならない。なんか肩の辺りとか、ちゃんと男性してるじゃない。
タップする五か所の右半分といっても、真ん中は誰がタップするか決めてなかった。私が押したり幼馴染が押したり、そしてたまに被って、指と指が重なったりする。思わず出そうになる声を抑える方に必死だ。
もうなにこれ。音楽聞くどころじゃあない。音ゲーの共同プレイって、こんなに恋愛ゲーム要素あるの? スマホのタップは失敗ばかりだけど、私の心臓は高速コンボを継続している。
左隣の幼馴染を見ると、平然とスマホをタップしている。そういえば、幼馴染はゲームの事になると、周りが見えない程、夢中になるんだった。
なんだよ、少しは照れろ。心揺さぶられてるのは私だけか。ねえ、ゲームじゃなくて私を見て。
いつもは情けない顔をしている幼馴染が、キッと鋭い目をして画面に夢中でいるのを、ほうっと見つめてから、コイツの裏をかくべく、その引き締まった頬に、私からキスをした。
◇
「うわああー! ちょっと?! まってまって?!」
「えー、なによ」
「えっと……ん? 『俺の好きな曲で音ゲーやってくれ』って話じゃなかったでしたっけ?」
「だ、だから、やってるじゃないのよ」
僕は好きな曲をオリジナル譜面で出来るという音楽ゲームを、幼馴染とプレイしていた……ハズだ。
「右半分担当で、任せてたよね?!」
「いいじゃない、あれでも精一杯なんだから」
「真ん中、途中からタップしなくなったし」
「アンタ上手いんだから、アンタがやればいいんじゃないの」
「右担当、途中から全部ミスだったけど?」
「うるさいわねえー、音ゲー苦手なのよ」
「そ、それで、さっきのは、え? 曲ちゃんと聴いてた?」
「あー、それねえ……」
深く溜息付いた後、幼馴染の吊り目が、僕を強く見る。
「音ゲー使って、今度はチューしたいとか。毎回、回りくどいのよ。私みたいに、ちゃんと行動で示したらどうなの」
「ええ……」
思わず頭を抱えてしまう。でも、これは僕のせいだから、勇気を振り絞らなければならない。
「い、いや、この曲のタイトル【君とデート】なんだ。曲の最後にも、タイトル通りの歌詞があって……それを聴いたら、デート出来るかなあって……」
幼馴染の顔は、ボン! と音がする様にあっという間に真っ赤になったと思ったら、後ろを向いて屈んでしまった。
僕らの関係も、音ゲーも、ミスばかりで練習が必要の様だった。