71話 OZ 6/12
公園までは、これまた遠い。登り坂をひたすら丘の頂上まで歩く。
黄色いレンガの道を辿って登っていけばよいので、町の中も迷うことはない。
「それにしても登り坂が続くよね……もし、メリーに乗ることができたならきっと、一跳びなんだけどな、」
メイシアが丘の上を見ながら弱音を吐いた。
「そうだね……でも、メリーの存在は秘密だから、」
分かっていても「だったらいいな」を考えてしまうのだ。
「そういえば、あのアレハンドラさんにもらった聖書……?何て言ったっけ。あれを使ったらいいんじゃない?」
「……トーラかぁ。なんか出てくるのかな?でもオラ、あれの使い方なんて知らないんだよねぇ、」
「え、そうなの?」
「……残念ながら、」
「でも一度使えたんだし、どうにかなるんじゃない?あの時、呪文みたいなのをつぶやいていたけど……覚えてない?」
「覚えてないし、トーラは家に置いてきた。」
「……じゃ、ダメだね、」
「……うん。」
もくもくと坂道を登りながらメイシアは考えていた。
確かにメイシアも、ストローがソーラの力で治療され眠っている間、あの本を見せてもらっていたが、中は普通の何の変哲もない聖書だった。
しかし、あそこから弓矢が出てきたことは紛れもない事実。
あの時、ストローが何か呪文を言ってから聖書を開くと弓矢が出てきた。
ソーラは奇跡を信じないと奇跡は起こらないって言っていたが、あの奇跡を目の当たりにして、信じないわけがない。
なのに、あれから聖書を何度開いても何も起こらなかった。
「メイシア、そろそろ畑だよ。ゲオルクに見つからないようにしないと。」
「それなんだけど、紅花さんに言っていた時も思ったんだけど、別に公園に行くことを秘密にしなくても大丈夫なんじゃない?」
「……うーん。昨日、ソニアさんが最後に注意事項を言ったでしょ。覚えてる?」
昨日の鍵を渡してもらった時の事を思いだす。
「その時に"まず一つ目"って言ったんだよ。」
「そうだっけ。……それは覚えてないけど、注意は海に潜らないようにって言っていたよね?」
「そう。でも最初に一つ目って言ったのに、二つ目は言わなかった。」
「……そうだったっけ?……言われてみれば、そうかも……?」
「それであの時、なんか紅花もゲオルクも、様子がおかしくなかった?」
「うーん……、」
メイシアは記憶を手繰って思い出してみる。そういえばその後、紅花と目があって私にも何か言いたげ顔をしていたような……
「深読みしすぎかもしれないけど、オラたちが公園に注目しないようにしているように感じて。」
「そうかなぁ?でもあの公園、何にもなかったよ。普通の公園だったし。」
「……普通じゃないよ、あんな完璧な公園。」
完璧な公園?
「メイシア!隠れて!」
今歩いている道をもう少しまっすぐに行くと、昨日通った紅花たちの農具小屋がある。
農具小屋が見える位置までやって来たのだが、ストローがいち早く、ゲオルクらしい人影が動くのを察知した。
ストローがメイシアの肩を押して道の端に寄り、姿勢を低くさせた。
そのまま、ゲオルクの様子をうかがう。
すぐにその瞬間はやって来た。
ゲオルクは小屋で作業をするのか、小屋の中に姿を消した瞬間、二人は目で合図をして草陰から飛び出し走り出した。
心臓が暴れて飛び出てきそうだった。
何とか次のS字カーブを曲がれたので、ゲオルクが上の畑に移動してこなければ、見つかることはなさそうな状況に落ち着いた。
二人は、そのまま息を整えながら丘を登り、なんとか丘の上頂上まで登り切った。
頂上だと思われる場所に到着し、二人は辺りを見回す。
しかしどこを探しても、昨日の見たようなバラが咲き乱れているような素晴らしい景色が見当たらない。
ただただ丘があり、唯一あるのは簡素なウテナだけだった。
ウテナに登ると突き出た地形の助けもあって、白い町と海が一望できた。
見晴らしだけは抜群で、海側が一望できるのは当たり前だが、公園があったはずの丘の上も見渡すことができる。
なので昨日見たような美しい公園が、もしあるのなら、見落とすはずもない。
なのに、どこを見渡しても昨日の見たようなバラの公園も噴水も見当たらないのだ。
島の反対側も森と崖があるだけで、何もなさそうだと判断し、二人は仕方なく丘を降りることにした。
丘の上にさえ登れば、何か分かるかもしれないと思っていた期待を裏切られ、海からここまで登ってきた疲労がどっとのしかかってくる。
さすがの徒労感で注意力が散漫だったのだろうか。
農具小屋の辺りまで降りて来ていたことに気が付かずに、ゲオルクの気配に気が付いた時には、もう遅かった。
ジグザグに折りたたまった道と道の間には木が植わっているが、まばらで咄嗟に身を隠すほどの葉っぱは茂っていない場所だったのが敗因だった。
行きはゲオルクが農具小屋に入ってくれたので、運よく突破することができたが、そうでもしない限り、ゲオルクに見つからずにこの道を通るのは、土台無理な話なのだ。
「おい、何をしている。」
あっけなく見つかってしまって、ゲオルクが声をかけてきた。
仕方なくゲオルクが仁王立ちしている農具小屋まで、自首する罪人の気持ちで歩いて行く。
「こんなところまで何の用だ?仕事は明日からだと言ってあっただろう。」
ゲオルクは農具小屋の扉を開け、中にコンテナを仕舞う作業をしていた。
作業中の背中に言い訳をする。
「……畑ってどんな感じなのかなぁと思って、」
とんでも無く説得力のない言い訳だということは分かっている。
二人は小さくなったまま、作業を続けるゲオルクの次の言葉を待った。
数秒後、ゲオルクの手が止まって、こちらを見た。
「……。」
紅花といるときの笑顔は無く、もともと少し強面なので笑顔が消えると圧を感じる。
「……えーっと、ゲオルク、オラの顔に何かついて、」
「!」
その時、素早くゲオルクが二人の背後に回り、小さな声で「小屋に入れ」と言った。
「え?」
「ちょっと、どうしたんですか!」
ゲオルクに押し込まれる形で二人は小屋の中に入った。
「声を出すな……。しばらく、そこで隠れていろ。」
そういうとゲオルクは、一人外に出て扉を閉めた。




