54話 伝えられしもの 13/16
ストローが太陽を見上げた。
もうすぐだった。もうすぐ皆既継続時間を抜ける。もうすぐ生光を迎える。
「メイシア、今だ!死神は大鎌を持っていない!馬を狙って弓を放って!」
メイシアは狙いを定め、力いっぱい弓を引いた。
これを外したら最後だ。
また大鎌にやられてしまう。
周りの音が聞こえなくなるほど、精神を研ぎ澄ます。
旅人の足元はいつも一緒だ。
いつだって踏み外せば谷底。
だからと言って旅を終わらせることは出来ない。
なぜなら、旅人には行かなければならない場所があるから。
会わなければいけない人がいるから。
成し遂げないければいけない願いがあるから。
「金色の夜明けに生まれし鍵の番人の名において制裁はくだされん!」
メイシアが弓を放った。
弓は鋭く風を切り、一直線に空間を駆け抜ける。
そして馬ではなく甲冑を破り、死神の左胸に刺さった。
その瞬間、太陽がダイヤモンドリングに輝いた。
新しい本当の意味での夜明けがやって来たのだ。
祭壇の上ではサンとソーラが杖を一番高い位置まで掲げ、逆のVの字になっていた。
その太陽の象徴たる飾りの部分に、太陽の光が集まる。
月の影から刻一刻と生まれてくる新たな太陽の光によって、輝きがみるみる増し、杖の飾りに反射した光が東の砦一帯に煌々と降り注いだ。
民衆はそれを、夢のような面持で見上げ、希望をそこに見出した。
歓声が巻き起こり、心からの信仰と思慕、感動。
至上の幸福が東の砦一帯を包んだ。
それを見た死神は突き刺さった矢を砂埃でも払うがごとく、いとも簡単に抜き払うと、空中で馬をジャンプさせ霧のように消えていった。
あまりにあっけない幕引きだった。
太陽との契約を無事に済ませることのできたサンとソーラは、死神から逃げずにピラミッドの下で自分たちを信じ、見守ってくれていた民衆に手を上げて感謝の気持ちを伝えた。
ストローがホッとしたのか、地べたに座り込んだ。
「メイシア、よくやったね。」
「緊張したよぉ……。あれ?弓がない。どこ行った?今持っていたよね?」
「その辺に、あるでしょ……。イタっ!」
四つん這いになってメイシアの後ろを確認しようとしたストローが、左腕を抱えた。
「大丈夫?って、腕どうしたの?!……折れてるじゃない!いつから?」
「んー…あの時かな、参道でソーラをかばった時……?」
「え!そんなに前から?」
「夢中で、気が付かなかったけど……、これ、折れているよね?」
苦痛に歪む顔を無理やり笑顔にした。
「もー、無理しないで!……やだよぉぉぉ!心配だよぉぉぉおおお!ストローのばぁかぁぁぁあああ!」
戦いの緊張が溶けて気が緩んだのか、メイシアが急に泣き出してしまった。
「ちょっと、メイシア……心配だよって、もう心配事は去って行ったんだけど……。ちょっと、泣かないでよ、」
今まで見たことのないメイシアの堂々たる泣きっぷりに、ストローがオロオロする。
「メイシア、泣かないでーーーー。よしよし。」
メイシアの泣き声を聞きつけたチャルカが、メイシアの頭を撫でた。
チャルカを見て、ストローがもう一つ問題が同時進行していたんだと思い出してハッとする。
「チャルカは大丈夫だった?ソーラは?」
ストローの横にウッジが腰を下ろした。
「大丈夫。何とか、日食が終わるまでに交代出来た。契約はソーラが結んだよ。」
「そっか……そっか!……はぁ。よかった、、」
そういうとストローも緊張の糸が切れたのか腕の痛みが回ったのか、よれよれと転がり気を失ってしまった。
「ストロー!大丈夫?!」
それを見たメイシアがより一層「死んじゃ、やだーー!」と号泣した。




