49話 伝えられしもの 8/16
儀式は続く。
死神が現れたからと言って、日食が停止できない以上、途中で終わらせることなどできないのだ。
そして死神も、すぐに何かをしてくる様子ではなかった。
なぜなら、食既……完全に太陽を月が隠してしまう瞬間を待っているからだ。
完全に太陽が姿を消す皆既継続時間は約7分ほどある。
その時間があれば、太陽の力を失ったに近い神殺しなど、造作もないという事なのだろう。
当然、ピラミッドの下は騒然としていた。
人々の阿鼻叫喚を聞きつけ、アレハンドラが祭場へと上がってきた。
「アレハンドラさま!」
「わかっておる!結界を張るぞ!位置につけ!」
「はい!」
アレハンドラの声で、巫女とアレハンドラ自身が祭壇の四隅に着いた。
ウッジはそんな技を身に付けているはずもい。
時間が足りない付け焼刃の状態で、緊急時の説明などもされていない。
ただただ、オロオロとするばかり。
アレハンドラは、三人が陣形になったのを確認すると呪文を唱え始めた。
「オーイ エピリトゥース……セラル オリヒナァール オリヒナァル エレ ノンボレ デ ラ エネルヒア ソラァ……デフィンディアル セニョール ポル ミン インスプルピキオール!」
すると、みるみる祭壇が薄いオレンジ色のエネルギーの幕で覆われた。
それをポカンと口を開けてウッジが見ている。何もできないので見ていることしかできないのは仕方がない事なのだが。
そんなウッジにアレハンドラが声をかける。
「ウッジさん!」
「は、はいっ!」
「ご存じのとおり、わたくしどもの力の源は太陽なのです。このまま、太陽がお隠れになってしまえば、この結界も死神にとっては紙を破るが如くです。」
「……そんなぁ、」
「今こそ、グリフォンの力が必要なのです。メリーさんを呼んできてもらえないでしょうか、」
そんな事を言っても、どこに行けばいるのかさえ知らない。ウッジは青ざめた。
しかし、今はがむしゃらにでも、出来ることをするしかない。
このままだと、チャルカの命が危ないのだから……
禁止されていたことも忘れて、太陽を見た。
刻々と太陽の輪郭の中に月の影が収まろうとしている。
その時だった。
東の空から、すごいスピードで飛んでくる影が見えた。
点のような影が見えたと認識してから、それがメリーであると理解できる大きさになるまで、ほとんど一秒もかからないくらいの猛スピードで迫ってくる。
ウッジの心に喜びと希望が差し込んだ……のだが、あのスピードでここで止まれるのだろうかという、ちょっとした不安が生まれる。
同時に死神もメリーに気が付き、左腕を挙げた。
すると、左手にどこからともなく大鎌が出現した。
メリーはそれを気にする様子もなく、猛スピードで突進してくる。
ウッジが目を凝らした。
メリーは体当たりをしようしているのだろうか?
しかし、そのスピードで体当たりをしたら、大きな打撃を食らわせる事が出来るだろうが、メリー自身も無事では済まないかもしれない。
もしかしたら聖獣であるメリーは案外頑丈なのかもしれないけれど、メリーの背中に見えるストローとメイシアと……誰だろう?金髪の女の子が乗っている。
彼女たちは体当たりしたらば、無事では済まないのは必至。
「ソーラさま!」
アレハンドラが、メリーの方を見て驚きの声を上げた。
「え!あの女の子が、ソーラさま?」
「はい。杖を取り返せたのですね。覚醒していらっしゃる!」
ウッジは「覚醒?」と思ったものの、そんなことを聞けそうな状況出来ないので黙っている。
死神も体当たり覚悟と予測しているのだろう。大鎌を構え、返り討ちにするべくメリーの方向へ軽く馬を走らせた。
メリーの背中では、ストローが身振り手振りで、こっちに何かを伝えようとしているのが見てた。
大きく腕を動かして、四角い形を作っている……がウッジには何か全く分からない。
「ストロー、わかんないって……、」
焦るなと言う方がムリな話なのだが、焦りと状況把握が絡みあって何も思いつかない。
「なるほど!分かりました!」
同じように目を細めて見ていたアレハンドラが声を上げた。
「え、わかったんですか?」
「えぇ、たぶん。皆さん、陣形を解いて一列に並んでください。ウッジさんもです。急いで!」
アレハンドラの指示で結界を解き、巫女が祭壇の後ろに一列に並んだ。
今回はウッジも、言われるがままその列に加わった。




