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第9話

 会社のドアから廊下へ出る。すぐにでもいろいろ聞きたい。でもここの廊下はやたらと声が響くので人に聞かれたくない話はできない。なので一階まで降りてビル玄関外のちょっとしたスペースへ。ここなら会話を聞かれる心配はない。


「なんでここがわかったんですか。あとをつけたんですか。それに名前。俺の名前教えてないですよね。なんで会社の受付で俺を指名できたんですか」


 「立て板に水」ってこのことか、って自分で驚くくらいに息急いきせき切って言葉があふれ出た。でも黒い瞳はピクリとも動かない。


「落ち着いて。その質問には一度で答えられるわ。これよ」


 その女性ひとは片手をポケットに差し入れると、一枚の紙を取り出して俺に渡した。


「これは……、俺の名刺」

「そうよ。一枚失敬(しっけい)していたから返すわね。だまって勝手にったことについては謝罪するわ」


 間違いなく俺の名刺だ。表も裏も確認したがおかしなとこない。もちろん渡してなんかない。

 名刺はいつも、10枚を札入れに入れてある。営業職じゃないのでそれだけあれば切らすことはまずない。札入れをスーツの内ポケットから取り出す。恐る恐る中の名刺を数える。7、8、9……。一枚足りない。


 いつだ、いつられた。この女性ひとの手が俺に触れた時かあったか? ええっとあれだ、最後に別れる時だ。この女性ひとが俺を方向転換させた時だ。俺の脇を持ってくるっと回した。その時以外は触れてないはず。つまりあの一瞬で内ポケットから札入れを抜き取り、名刺を一枚()って札入れを再び内ポケットに戻したっていうのか。だったとしたらすごすぎる。凄腕すごうですぎる。この女性ひとが探偵でよかった。もしスリだったら絶対に気づけない。


「他には何もっていないから安心して」


 その声も半分うわの空で聞いてた。「他には何もってない」と言われて「はいそうですか」なんて言えるか。おいそれと信用なんてできるか。


 念のため、全部のポケットを当たってみる。といっても札入れ以外はハンカチぐらいしか入ってなかったし、もちろんられてなかった。

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