第4話
慌てたのはこっちだ。慌てる必要は全然ないはずなのになぜだか慌てた。多分見てはいけないものを見てしまったような気がしたんだと思う。頭の中でピンボールの球が数個、猛烈なスピードであちこち弾けまくった。身体中の筋肉が硬直して動きがカクカクになった。返答が予想外だったのはこっちも同じ。混乱してうまく答えられない。
「す、すいません。『望みは何』って聞かれても、俺、望みがあるなんてひとことも言ってないんですが」
フォローを入れる。あくまで丁寧に。気を悪くされないように。
どうやらその努力は無駄じゃなかったみたいだ。
「そうね。謝罪するわ。私の悪い癖なの。人の願いを叶える仕事をしていると、時々見えちゃうの」
「『見える』って、何がですか」
「その人の『想い』が、よ」
えっ、何? 「想いが見える」? もしかして人の心が読める超能力者? いやまさか霊が観える霊能力者? ますますわけがわからない。
「びっくりさせちゃったみたいね。謝罪するわ。お詫びにあなたの願いをひとつだけ叶えてあげる。もちろんタダで……、と言いたいところだけれどそれは私のポリシーに反するから、特別に、格安で」
「ポリシーってなんですか」
「『仕事はタダでは受けない』ってことよ」
「仕事なんですか、これ」
「そうよ。依頼人の願いを叶えることが私の仕事」
「でも俺、依頼してませんが」
「さっき言ったでしょう。見えちゃったのよ。あなたの心の声が。助けを求めてた。だから私、受けることにしたの」
たしかに俺はあの時助けを求めてたといえる。あの担当者に会いたくないと。でも超能力者か魔法使いでもない限り心が読めるなんてあるわけない。オカルトの類いはあんまり好きじゃないけど霊能力者も入れておこう。多分「嫌だ嫌だ」という思いが顔に出てたんだろう。きっとそうだ。そうに違いない。だったらこれから気をつけよう。「嫌だ」という思いが顔に出たままあの担当野郎に会ったら、それこそ何言われるかわかったもんじゃない。そういう意味ではラッキーだったな、事前に気づけて。
ラッキーついでにひとつ聞いておこう。
「あのう、ひとついいですか」
「何?」
「失礼ですが、そのお仕事って、具体的には」
「探偵よ」
あっさり教えてくれてなんか拍子抜け。