キャバ嬢を横恋慕します【場内指名編】
『それじゃまたねハルカちゃん』
「はーい、徹夜さんもまた来てね~♪」
ハルカとの社交辞令の挨拶を済ませ、俺は早速任務実行(場内指名)に移る。突然場内指名を入れるには目の前の席だったので可愛かったからという自然な理由があり全く問題なし。更にカオリに魅了された男の目の前で任務(会話)を行うのはなかなか愉快痛快ではないかと悪魔側の俺がニヤリとしている。
『すみません、ちょっと』
近くにいた黒服に声を掛ける。近くに駆け付けた黒服に小声でカオリを場内指名したい旨を伝える。黒服は一瞬ギョっとした顔をしたがすぐに冷静に“畏まりました、少しお時間を頂きますが後に参ります”と答え一旦奥へ戻って見せた。その後何事も無かったかのように正面の席で談笑しているカオリの傍に付き、耳元で指名があったことを知らせる。コウノは黒服が近づいた瞬間、口元は笑っていたが目は獣のような赤色に染まっていた。
俺は爆笑するのを堪えるのに必死だった。まさか目の前の席の奴に指名されるとは思ってもいないだろう。俺はそんなことを考えながらカオリが席に付くのを待った。
繋ぎの娘を1名挟み待つこと約15分、遂にカオリが俺の席へやってきた。俺はコウノの憎しみの視線を浴びつつ気付かない振りをする。
「はじめまして~カオリです。え~私お兄さんに付いたことありましたっけ?」
コウノは聞き耳を立てているようだ。カオリの“はじめまして~”に反応してわかりやすくバンと足を鳴らした。
『どうもはじめまして、いえいえないですよ~』
「え~、じゃなんでいきなり場内いれてくれたんですか?ビックリしちゃって~」
『そりゃそうだよね。カオリちゃん前の席にいたよね。だから話す声がよく聞こえててね、声が凄く好みだってんでつい場内指名しちゃったんだ。これでよく声が聞こえるしね』
我ながらなんて歯の浮くセリフなんだろうか。感情が籠っているようでいないような微妙なトーンで指名をした理由を答えた。この場合は本気なのかどうかわからない感じが良い。
「え~そんなことで指名されたの初めて~うれしーありがとう」
カオリは満面の笑みを浮かべて俺の手を取ってきた。その瞬間、微小だが確実に俺の精神を侵食しようとする感覚があった。
(なるほど、接触による浸食だからあれほど熱心なフォロワーを作ることが可能なのか)
その後は何気ない会話を続け、約20分程経ったところで黒服が時間終了の声を掛けてきた。俺はそれをチェックをお願いし今回は店を出ることにした。
『じゃあまたねカオリちゃん。またカオリちゃんに会いに来るよ』
「今日はありがと~、待ってますね~」
カオリに出入口まで連れられ挨拶を済ませ、初入店を終えた。
『今日のところは顔合わせってところか…』