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キャバ嬢を横恋慕します【初入店編】

-現在時間22時23分-


『可愛いってことはそれだけ敵も多いってことだよなぁ…』


俺は意を決しターゲットのいる店舗に入っていった。


「いらっしゃいませ。お客様は1名様でしょうか?」


店のドア開け、数歩進んだところで黒服の一人が俺に気付き声を掛けてくる。


『は、はい、一人です。』


正直俺は緊張していた。実は1人で客としてキャバクラに来たことは初めてだったからだ。学生時代、悪友達と数人で酔った勢いで何度か入ったきりで社会人になってからは潜入以外では初めてだった。


「お客様、当店は初めてでしょうか?」


黒服が指名の有無を尋ねてくる。


『あ、はい。初めてです。』


どうしても緊張で第一声がキョドってしまう。我ながら情けない。


「畏まりました。それではお席の方へご案内致します」


黒服はそう言って俺を奥にある二人席へ誘導しハンドタオルを手渡す。俺は誘導された席に座りタオルを受け取り、さりげなく周りを確認する。


「お飲み物はどういたしましょうか?」


『ハウスボトルってありますか?できればウイスキーで』


「畏まりました。ではハウスボトル、ウイスキーでご準備致します。キャストの方はすぐに参りますので少々お待ちください」


黒服は片膝をつきながら丁寧にそう案内し奥へ去っていった。


(さてターゲットはどこにいるかな?今日は出勤なのは店のホームページで確認済みだ)


手渡されたハンドタオルで手を拭きながら店内を自然を装いさっと確認する。客は俺を含めて7人、女性キャスト8人、黒服スタッフ3名、待機席に数名といったところか。


店舗は所謂中箱というサイズだ。終電の無くなる1時間後にはもっと混みだしていくだろう。それまでにある程度の成果を出さなくてはならない。俺の案内された席は店内の丁度奥の真ん中にある為、左奥が確認し辛い点を除けば幸い観察はし易い位置にあった。一見したところターゲットであろう波長は見つからなかった。


(ん?まだ待機席にいるのだろうか?あそこはここからでは見えないな)


「どうもはじめまして~、お邪魔させて貰います~ハルカって言います~よろしくお願いします~」


『あ、どうもこちらこそ~どぞどぞ、よろしくです~』


席に着いてから数十秒といったところか、最初の女性キャストが早々に席に付いてきた。


『うわ、早いね~。まだお酒来てないのに』


「あはは、そうですね~まだお店空いてて私も今日お兄さんが初めてなんですよ~」


『俺が初めて~なんて何かエッチな感じだね』


「いやだ~なに言ってんですかぁ~きゃはは」


よくある何気ない会話で場を繋いでいく。とにかく今回の一番の問題は金だ。金に全く余裕がない。指令書には事前経費と書いてあったが事後経費が下りるという保証はない。そしてここは諭吉が空気の様に消えていく奈落の井戸のような場所だ。絶対に経費以内で任務を達成しなければならない!


「…さん、お兄さん、聞いてます?」


しまった、ターゲットがまだ確認できていない所為か焦りが先走っているようだ。ここは冷静に対処しなければならない。


『ごめんごめん、ちょっと仕事のことで気になること思い出しちゃって頭が勝手に商談モードになっちゃってた』


「え~なにそれ?商談モードとかカッコいい!」


『いやいやそんなんじゃないよ、それより何だっけ?』


「あ、そうそう、お兄さん、お名前は?お名前教えて」


『ああ、名前ね、僕はキミイズです。キミの君に出るって書いてキミイズ。珍しい名前でしょ』


「ほんとそうだね!、因みに下のお名前は?」


『ああ、徹夜だよ。字はなんと読んで如く夜に寝ない徹夜のテツヤ』


来た。毎度のだ。そこそこ感の良い子なら気付くはず。この子はどうだろ?


「おもしろーい、そうなんだ、じゃあ徹夜さんって呼ばせてもらいますね~」


『ああ、どぞどぞ』

(ふん、まあこの子はそんなとこだろう。俺にあの定番のセリフを言わせないとは…)


「というか徹夜さん、めっちゃイケメンですよね!カッコいいってよく言われないですか?」


『あ~偶にね、でも俺って別に普通じゃない?一応身だしなみは奇麗にしているつもりだけど』


「全然普通じゃないですよ~。オシャレだし凄く素敵です~」


俺的にはありふれた会話をしつつ、俺は精神の波長を慎重に伸ばしていく。

(控所はあの奥か?)


っとその時、一人の新客が入ってきた。一人での来店のようだが店内に入ってきた途端に店の中を見回している。誰かを探しているようだ。そして男はホッとした顔をして黒服に案内された席に腰を下ろした。男の席の位置は丁度俺の正面になった。席が近いため男の声がハッキリと聞こえた。


「カオリちゃんを、カオリちゃんをお願いします。早くね!」


畏まりましたと伝え黒服が去っていく。男は今か今かと首を後ろに捻じり、奥にあるのだろう控所を凝視している。


(なるほど、他の席に付いてるかどうか気になっていたってことか。)


そうこうしている内に、カオリらしき人物が男の席にやってきた。


「お待たせ~。コウノさん今日も来てくれたのね!ありがとう~♪」


男のテンションが一気に跳ね上がる。急に目の前のテーブルがガヤ付き始め他テーブルの空気が一瞬困惑の色に染まった。しかしこのような場では差ほど珍しい物でもなく、直ぐに各々の世界に戻っていった。俺一人を除いて。


(この娘がターゲットの精霊か…。)


確かに可愛い、ってか超可愛い!清純系という言葉だけでは収まらない聖女のオーラが彼女の周りを包んでいた。これは見た目だけでも十分インパクトがある。それに精霊が付いては恋愛に飢えてるおじさん達はあっと言う間に落ちてしまうだろう。

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