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キャバ嬢を横恋慕します【指令編】

時間は午後22時、場所は新宿歌舞伎町の繁華街の中心。多種多様な人種、年齢問わず、大勢の人間の希望と欲望が交わる街。毎日の鬱憤を晴らすべく酒に溺れる者、ギャンブルにのめり込む者、ひと時の快楽を求める者。表の顔だけではわからない多くの思念が俺には色(存在)として見えてしまう。


ふと右前方にいた30代前半だろうか男が目に入った。目指すところがあるのだろう。足早に人込みを避け歩いていく。口をグッと引き締め目がいきり立っているが、頬がやや赤らんでいる。


男は俺が向かっている方向と一致していた為、俺は男の後を追う形となった。1分程進んだ後、目的の場所に着いたのだろう。男は正面のビルに入っていた。そのビルはキャバクラ、スナック、バーなど繁華街では定番の店舗の看板が並んでいた。


俺は心の中でそっとため息をつきつつ、自分の目的地へ向かっていく。今日の任務は非常に難解な内容だ。俺は財布の中を覗き見る。所有している金額など当然わかっているのだが、これだけの軍資金(経費)で今回の任務を成功させるには何といっても量より質が重要だ。


前回の潜入とは違って客として入るのは始めてだった。客で入るということは当たり前だが金銭が発生する。すぐに目的地に着く。しかし繁華街の夜は長い。まだ焦る時間ではない。


俺は数時間前に受けた指令の時のことを思い出していた。

-数時間前-

新宿のある高層ビル42階の一室。今オフィス内にいる従業員は俺を含めて4人。空席が目立つ静まり返ったオフィスでパソコンの前でボーっとしていた俺の耳元で艶やかな大人の女が囁く。


君出(きみいで)君。次の目標が決まった。早速今夜から行ってもらえるか?」


『ぶわぁぁぁ!な、な、な、なんですか急に!』


その声の主は上司の三枝一里(さえぐさ いちり)。年齢27歳、身長168cm、3サイズは俺の検眼では87・56・85の容姿端麗の美女。世に蹴られたいと思う男がいても不思議ではないサドスティックな色香を振りまくお姉さまである。超絶美女故に超イケメンの俺でも敵わぬ数少ない存在だ。


「何を驚いている。先ほど君を呼んだのだが返事がないからわざわざ来てやったのだぞ」


一里は腰を手にため息をつきつつ一冊のファイルを俺に手渡してきた。ファイルを受け取りさっと内容のチェックに入る。


(なになに、今回のターゲットはキャバクラってまたキャバ嬢か。まあ仕方ない、キャバクラは色恋沙汰の温床だからな~。え~と場所は、舞伎町ね。)


ざっと読んだ限りいつも通りの任務のようだ。これで何回目だろうキャバクラの任務はもう慣れっこだ。ただキャバクラに関してはターゲットのキャバ嬢攻略よりも男性スタッフの質次第なところが大きい。所謂黒服スタッフのことだ。


経営層はどんな人物であっても殆ど接点が無いため仕事に支障をきたすことはない。但し黒服は別だ。俺が新入りの黒服である為、先輩黒服の目を盗みながらの仕事になる。仕事熱心なタイプ、アニキタイプは仕事さえしっかりやっていれば情報も取れるし何より行動が読みやすいのでターゲットに近づき攻略する計画が練りやすい。


問題なのは単刀直入に言うと頭空っぽの軽い奴等だ。こいつらは本当に面倒な存在で黒服のおおよそ6割(俺感覚)がこのタイプだ。奴等は厳罰とされているキャバ嬢と付き合うことを目標としている。俺は人に、


“おい!人の話を聞いているか?”と言うことは極稀にあるが、こ奴等はそれを頻繁に言われている側に違いない。


などど今までの任務のことを思い出しながら指令書の3ページ目に書かれている内容を見た瞬間に時が止まった。


『じ、事前任務経費30万、任務達成期日は2か月以内!?』


俺はファイル内のその文章に目をぶつける勢いで顔を近づけ一里を問い詰めた。


『三枝さん、これってどういうことですか!?ま、まさかですよ。今回は潜入ではなく、ら、来店しろってことではないでしょうね?』


血相を変えた俺を一里は一瞥し嬉しそうに上口を釣り上げ、その艶やかな紅い唇に細い人差し指を添えて答えた。


「あなたなら楽勝よね?」


そう言って縊れた細い腰を俺の腰骨辺りにそっと当て、わざとらしくほんの少し首に吐息がかかるように近づいて離れた。


(ふぇ~ええ匂いやぁ~ふにゅあ~)


「それじゃ必要な物は全てその経費内で納めることになってるからお店に行く服とか準備が必要ならすぐ購入してらっしゃいね。持ってる服でも良いけどあんまりみすぼらしい恰好で行ったらダメよ」


「あ、それから今回のターゲットはかなり可愛いらしいわよ。良かったわね~♪」


『そ、そうですか、が、頑張ります…。』

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