12.9 ファーストキスで歯が当たるとかよくあるらしいし
「池辻くん、本当にいいの?」
なんかぐいぐい来る日向さん。
「なにが」
「君には千穂のにおいを理解するためのサンプルが足りていないんだよ?」
「日向さんどうしたの。ゲームに負けそうで頭おかしくなったの」
「いい? 昨日池辻くんが嗅いだ匂い。それは女の子なら誰でもするにおいなの? それとも千穂だけが醸すにおいなの? 本当に理解できているの?」
「それは……確かに」
「今私のにおいを嗅げば、千穂との共通部分が判別できるよ。そうしたら、昨日池辻くんが嗅いだ匂いの中から、純粋に千穂だけが出すにおいが割り出せるんだよ」
「!?」
日向さんが天才すぎる。
俺は何も分かっちゃいなかった。
(……ねえ、それにさ。本当は嗅いでみたいんでしょ? もうこんな機会ないかもよ? 堂々と他の女の子のにおいが嗅げるの)
耳元でささやかれてしまうと、もう白旗を揚げざるをえなくなってしまう。
大丈夫、少しだけ。えーとほら、データ取るだけだから。
妙に部屋が静かになったことに小月さんが気付く。
「あれ、二人ともいまなにやってるの?」
返事はない。
不安になった小月さんがゴーグルを外す。しまった、ばれた。
「池辻くん! 奈美ちゃんのベッドに顔うずめてなにしてるの!」
「ゲーム真剣にやったら疲れてさ。つい眠くなっちゃって」
「ついじゃないでしょ!」
「……純粋な小月さんのにおいを知るにはこれしかないんだ」
「なんであっさり奈美ちゃんに騙されてるの……。人のこと言えないけどさ。そんなの分かるわけないでしょ」
「分かるかもしれない」
「奈美ちゃんのにおい嗅ぎたいだけでしょ!」
だって本人が嗅いでいいって言ってくれたんだし。しょうがないじゃん。いつまでも嗅いでいるのもアレなので一応くるっと仰向けになってみる。うん、これも柔らかく日向さんのにおいに包まれるかんじで悪くない。
「じゃあほら大盤振る舞い。千穂も嗅いでいいよ」
言うなり日向さんが小月さんをベッドに押し倒す。
俺にぶつかって慌てて体を起こすが、膝と手をついた姿勢で俺にまたがった状態。
「ほら、遠慮せずにどうぞどうぞ」
そこから小月さんの背中をぐいぐい押す日向さん。必死に耐える小月さん。
「やめてってば奈美ちゃん。池辻くんもそこどいて」
「いまちょっと動けない。ほんとほんと」
自分で言っといてなんだけど動けないってなんだろう。我ながら意味わからない。
「あ」
耐えきれなくなって小月さんが態勢を崩す。俺の顔面に小月さんの顔が一気に近づく。
ごちん。
盛大に歯があたった。
「あれ、これで昨日勃ったって聞いたんだけど。池辻くん、勃たない?」
「痛いよ、日向さん。もう少しゆっくり押して」
「奈美ちゃんひどい! いったーい」
「まあまあ。ファーストキスで歯が当たるとかよくあるらしいし」
「全然違うでしょ!」
よつんばいで手をぷるぷるさせながら怒る小月さん可愛い。




