12.7 生き残りの狐
よく知らないゲームとはいえ、日向さんの立ち回りはすさまじかった。
スタート地点の兎からはじまり、道中次々に現れる難敵をいなして最短ルートらしき道を効率よくつっきる。
本来分担して道をクリアしていくものだろうが、俺は全く役に立たない。
それでも日向さんとしては十分ありがたいらしい。
「池辻くんめっちゃ助かる。なによりPCとスマホ2台操作しなくてすむのがほんと楽!」
にししょうしまりすだんと対戦するためにわざわざ一人で2プレイヤー分操作していたのか。この難易度のゲームでそんなことしていたら、そりゃ小学生相手でも勝てないと思う。
画面の隅にMAPと対戦相手の位置が表示されているが、現在トップ。
「順調だね」
「このへんは抑えておいて2、3位ぐらいにつけときたいんだけどね。池辻くんと一緒だし先行逃げ切りでいくよ」
ここで画面の枠が黄色く明滅してアラートが鳴る。
「くるよ、池辻くん」
「なにが?」
「途中で拾ったアイテムで上位の邪魔ができるんだよ。今の黄色がそのアラート」
黄色の明滅がおさまるやいなや、前方に炎の壁が立ち上がる。急角度で進行方向を変え、壁に沿って走る日向さんとどうにかついていく俺。
さらに熊が前方に登場。ばかでかい。家より大きい。
「さすがにやるわね。先頭はこれがあるから辛いんだ」
「逃げ場ないね」
「大丈夫。池辻くんははぐれずについてきて。余計なことしちゃだめだよ」
熊に向かってつきすすむ日向さん。
思った以上に遠くにいた。
つまり家より大きい、とかいうレベルじゃないばかでかさ。
妨害が追加されたのか、後ろから大量の狐と狸がわらわらとやてくる。かなり離れているが、猛然と追ってくる。
ひめっちの救出に向かうには炎の壁を迂回しなければならない。前方には巨大熊、後方には狐と狸の大群。
日向さんは迷うことなく熊へ突進。もうすぐまだ熊の手が届こうか、というところで急停止し、振り返る。
随分はなれていたはずの狐と狸は目前に近づいていた。
「池辻くんふせて!」
あわててはいつくばった俺の真上を日向さんの放った銃弾が飛んでいく。鮮やかに砕け散る狸たち。
ふと画面から目をはなし、PCに向かっている現実の日向さんの様子を見てみる。日向さんは指先だけを高速で動かし、生きた魚の目でモニターに集中していた。
いや、確かに客観的に描写するなら死んだ魚の目、なんだけどさ。
とにかく綺麗なんだよ。
俺がゲームに熱中してる時の顔とかだったらまさに死んだ魚の目なんだけどな。目標に向かってストイックに突き進む。そんな目だ。元々めっちゃ美人なので時間が止まったような冷たい美しさがあるだ。
……やってることは小学生相手にゲームしてるだけなんだけど。大人げなく。
小月さんは特にやることがないわりには一生懸命口をぱくぱくしていた。多分じーっとしていて、という指示を忠実に実行しつつゲーム画面を見て興奮しているんだろう。可愛い。ぽかっと開いた口にこっそり指入れたくなる。いや、なるだろ? ならない?
「OK。池辻くん、行くよ!」
狐と狸の群れを片付けた日向さんが声をかける。
「行くって?」
「熊の攻撃を避けて、そのまま股下を突っ切るよ」
「わかった」
分かってないけど。そもそも熊の攻撃は避けられるんだろうか。
さらに股下をくぐる? 空間は確かにある。でも熊は当然動いてるので、両足の動きを予測してクリアしなければいけない。これ、ぶつからずに通れるものなのかな。
超巨大な大縄飛びを二人で飛ぶかんじだろうか。触れたら即アウト。
さあ覚悟を決めよう、というところで一旦後ろを確認して、見つけてしまった。
日向さんが一掃したはずの狐と狸の群れ。その生き残りの狐が一体残ってしまっていた。いかにもやばそうな、目立つ赤い色の狐が、日向さんの背後から近づいてくる。




