10.6 店員さん美人さんだったね?
「ち、違うからね? 私は気にしたことないから。あくまで他の人が臭いと思うかも知れないってだけだよ」
小月さんが改めてフォローしてくれるが、ネガティブになった俺の脳内では「私は耐えられるけど普通に臭い」に変換されてしまう。
「……洗って返さないとね」
むしろ俺が買い取るべきだな。
「だいじょうぶだって! ほら、すぐ戻ればあんまり臭くないよ!」
小月さんのフォローも大概ざるだった。
俺は少し精神的に弱ってしまっていたのかもしれない。
「とりあえず換気しよう。池辻くんあけてー」
普段なら拒否するであろう小月さんの言葉に素直に従ってしまう。
「いいよ」
頭の中が「臭い」でいっぱいだったんだ。とにかく小月さんの周りの空気を入れ換えたい。拒否るどころか小月さんに親指を立ててナイスアイディア、とか言いそうな勢い。
試着室の中、ブース前の椅子に腰掛けなおして、ズボンのチャックをおろしてトランクスのボタンをあける。日向さんが作ってくれたカップを外して、小月さんを確認。
やはり中は暑かったのか、出てきた小月さんが気持ちよさそうに伸びをする。
「はー。新鮮な空気!」
「ほんとごめん、臭くて」
「違うって! ただ外の空気だー、ってだけ! それ以上でもそれ以下でもないよ」
「ほどよい臭さなんだ」
「なんでそう。めんどくさいな今日の池辻くん。大丈夫だって。少なくとも私は臭い感じたことないから」
「小月さんが気にならないならいいや。臭くても」
「だから臭くないって」
「ところで小月さん」
「なに」
「その服やっぱり似合ってる」
「ほんと? へへ。ありがと。こういう服屋さんちょっと怖かったんだけど来てみるもんだね」
「慣れてるからよく来てるのかと思った」
「慣れてないよ。めっちゃアウェーだよ。ところで池辻くん」
「なに?」
「店員さん美人さんだったね?」
「そうだね」
「見とれてたよね?」
「そうだっけ」
「……やっぱりああいう人が好き? 奈美ちゃんとか、美人さんなかんじ」
「俺、小月さんが好きなんだけど」
「ありがと。でもさ、ほら視線がね」
「ん?」
「さっきの店員さんとか奈美ちゃん見るときの池辻くんって、相手の全体見てるかんじじゃない?」
「普通そうじゃないの」
中心は目だろうけどさ。特にどこを見るって話じゃない気がする。
「私のときはさ、その、ちょっと言いにくいんだけど」
「なに」
「言った方がいい?」
「もちろん」
「言わなかったら?」
「おしおき」
「……どこに?」
いや、どこにってなんだ。ついちらっと小月さんの胸を見てしまう。
「ほら! それ」
「それってなに」
「私の胸、よく見てるよね?」




