10.5 言っても池辻くん怒らない?
「えーと。今の話は置いといて。さて、困ったことになったね」
小月さんが話を替える。
「池辻くん、どうやって帰ろうか」
「小月さん、その服は買う?」
「欲しい。パパにねだってみる。でも今この服を買う持ち合わせはないー」
普段きもいとかくさいとか言われて疎まれているであろうにこんなときだけ登場させられるパパさん。小月さんはパパさんにそんなこと言わないと思うけどな。あくまで一般的な話。
……小月家の経済状況は分からないけど、普段からこの調子でいろいろねだられているのだろうか。
体操着で寝ろ、はわりと切実な提案だったのかもしれない。パパさんのためにも小月さんには是非提案に乗っていただきたい。断じて俺の私欲ではない。ほんとほんと。
なんで体育って中学から男女別でやるんだろうな。特に水泳。え、男女一緒? そういう中学もあるの? 高校だけど一緒? なんだそりゃ、ずるいぞ。
小月さんに値段と手持ちを確認するが、確かに無理そうだ。高校生2人が普段持ち歩くお金を足しただけでは明らかに足りない。
「俺が一回家に戻ってお金持ってこようか」
「私も一緒に行くことになっちゃうでしょ。ここに誰もいなくなっちゃう」
「小月さんに自分で戻ってもらうのは」
「無理」
「ちゃんと目も閉じるし耳もふさぐよ」
「お外ではとにかくむりなの! 間違って声とか出ちゃったら私死ぬから」
「じゃあ、おさまるまで待とうか」
「でも2、30分かかるでしょ? 試着室にそんなたてこもってたら、ほら、なんかそれこそ誤解されそう」
「誤解?」
「だから。ここでなにかしてたんじゃないかって」
「なにを」
「……池辻くん嫌い」
「俺は小月さん好き」
「そいつはどうも。あとほら。今着てる服、元に戻ったからって返していいのかよく分からない」
「元の大きさに戻るんじゃないの?」
「大きさは問題ないと思う」
「どこか汚れた?」
「大丈夫だよ。気をつけてるし」
「一度小さくして戻したのが気になる?」
「まあそういう気分的なものと言えなくもない」
「小月さんの歯切れが悪い」
「うーん。言っても池辻くん怒らない?」
「内容による」
「じゃあ言わない」
「言わないとおしおき」
「またそれ。じゃあ言うよ」
「どうぞ」
「……臭いんじゃないかなって」
「……え?」
「服に臭いついちゃってないかな。私はほら、しょっちゅう池辻くんとこ来てるからさ。平気なんだけど。でも慣れちゃってるだけな気もするし、自分の鼻に自信がないんだよね。けど、こんな所にずっといたらそこそこ臭うんじゃないかって気がするんだ」
「俺、臭い?」
「うん? 私は平気だよ。でも普通の人が嗅いだら臭いかもしれないでしょ」
「そ、そっか」
「だからお店の服を試着したまま長くここにいるのはだめかなぁ」
くさかったのはパパさんじゃなくて俺だったか。いや、小月さんは臭いのかもって言ってるだけだからまだ諦めるのは早い。
違うか。気を遣ってくれているだけか。




