8.5 言ったら寝ていいよ
まさか髪をお団子にするのが高校デビューなのか。
確かに手の込んだ形だと思うけど放課後まで形保ててたことはなかったはずだ。
小月さんが可愛すぎる。なんだこれ、こういうアピールをすると俺が死ぬ、とかいうマニュアルでもあるのか。いや、ないな。素だ。
「他は?」
「え、他? ほかって言われても……あれ、だめだった?」
「ほら、化粧とか」
「……ママにやってもらったことならある」
ママって。
「髪染めたりとか」
「え、なに、池辻くんそういうのがいいの?」
「いや全く。地の色がいい。やめてほしい。ただほら、高校デビューって言うとそういうイメージない?」
「……中学のときは髪おろしてたんだよ。私背が低いから、それだとちょっとこどもっぽかったかなって」
「うーん」
今でも学校帰る頃にはそうなってるよ。
「後ろおしゃれにまとめて、うなじとか見えてちょっと大人っぽいかなって」
「そっかー」
むしろ小月さん比で言うとおろしていたほうが大人っぽい。
「……馬鹿にしてる?」
「してない。可愛すぎて身もだえしてる」
「可愛いじゃなくて。ほら、大人っぽいかな?」
「可愛い」
「そうじゃなくて。セクシー、みたいな?」
「可愛い」
「……池辻くん嫌い」
「俺は小月さん好き」
「なんでそう。いいよもう、じゃあ私も好き」
「よかった。小月さん、もう一回言って」
「録音するの?」
「違うよ。いま小月さんが俺のこと嫌いって言ったから。その分一回多く言わないと」
「なにそれ。うーん。じゃあ池辻くんが私のこと嫌いって言えばいいよ」
「言って欲しい?」
「やだけど。しょうがない」
「じゃあ。小月さん、好き」
「……逆でしょ」
「うん。だから小月さんは2回好きって言って」
「……寝ようか」
「言ったら寝ていいよ」
「好き好き。はい、これでいいでしょ」
「心がこもってないからもう1回。じゃなかった、2回」
「も、もうおしまいなの! 寝るよ。おやすみ!」
「おやすみー」
通話を切るともう2時だった。
明日寝坊しないようにしなきゃな、と思ったけどもじもじしてなかなか寝付けなかった。俺みたいな男がこんなだとさすがに気持ち悪いな。分かるんだけど。でも小月さん可愛かったからしょうがない。
そういえば俺は高校に入るにあたって何をした、ってわけでもないな。
もちろん気持ち的には新しかったはずだけど、具体的に何をしたかと言われると困る。
髪……はまだ切るほど伸びてない。いや、そういうことじゃない。
少しは小月さん見習わないとな。




