7.2 ドールハウスだよー
さて、無事登校して日中をやりすごし、学校が終わる。
すごいだろ? この時間までスムーズに過ごせたんだ。
もちろん小月さんとくっつきすぎないように注意はしてたけど、今日の『千穂ちゃん』はお行儀がいい。
今日お邪魔する日向さんの家は学校からすぐそばで、小月さんは何度か遊びに行っている。俺も知ってる。
いや、別にストーカーとかじゃないって。小月さんが普段と違う方向に帰ってた時に聞いたんだよ。あとでここか、ってちょっと確認しただけだ。
その話を小月さんとしてた時は、「奈美ちゃんの弟が可愛くてー」みたいな話になって泣きそうだったんだ。日向さんレベルの美人の弟となると相当な美形だろう。小月さん取られる。俺じゃとても太刀打ちできない、ってさ。
でも小学4年生って聞いて安心したんだ。それだったら大丈夫だ。……大丈夫だよな?
放課後すぐに小月さんと一緒に行くつもりだったが、少し担任の手伝いをさせられてしまった。
小月さんは先に着いているはずだ。
俺も日向さんの家へ向かう。
日向さんの家は3階建ての綺麗な一軒家だ。道路側の窓がはめ殺しになっている。しゃきっとした外観でかっこいい。大判のタイルを敷いた駐車場の奥の玄関へ。
ちょっと緊張しながらインターホンを押すと、すぐに日向さんが出てくれた。
「おじゃまします」
「どうぞ!」
出迎えてくれた日向さんと一緒に階段を上って3階の日向さんの部屋へ。
「こっちだよー」
言われるままに入ると、小月さんの元気な声が聞こえる。
「池辻くんきた! みて! これみて!」
日向さんの部屋はじょしー、ってかんじでなんか入るのが申し訳ない可愛らしい部屋だ。勝手にモダンなイメージを持っていたけど、全然違った。
ベッドのフレームとか椅子の背もたれとかにいちいちもこもこしたカバーがくっついている。壁に針金の格子を可愛くしたみたいなのが張り付いていて、写真やらアクセサリーみたいなのがちょこちょこ吊り下げられている。
でも、一番気になるのは小月さんが左手をぐーにして右手をぶんぶん振って指す先にあるミニチュアの家々。
「なんだこれ、すごいな。家具付きだ」
「ドールハウスだよー」
ちょっと恥ずかしそうに日向さんが答えてくれる。
ミニチュアの家。字面はメルヘンな響きだが、意外に大きくて存在感たっぷり。色使いがわりとリアルで、可愛いというよりなんか渋い。壁とか微妙に古びたニュアンスが表現されているのがすごい。
「これ全部奈美ちゃんが作ったんだって! はじめて見せてもらったけどすごいねー」
うそん。
これを? 家具も?
「下手くそなんだけどねー。頑張ってみてはいるのだよ」
「すげー……全部? 家具とかこのケーキとか何でできてんの?」
「その家具はMDFでケーキは樹脂粘土。本とか動画とか見て真似してるだけなんだけどね」
「いやいや。すごいよ日向さん!」
照れ隠しなのか、日向さんが嬉しそうに胸を張る。
小月さんは夢中で眺めていて、最初に挨拶したっきりこっち見てくれない。
おーい、君の彼氏きてるよ。ちょっとぐらい構って。




