第1章疑惑と緊張
20世紀後半よりその2国は、中間線にある資源地帯を挟みにらみ合ってきた。貧乏ながら人的資源に恵まれ、西側からの軍事支援を受ける大陸のアドルリア共和国。王政を敷きつつも、資源に恵まれ、その潤沢な資金力により東側からの軍事支援を受ける島国キタラ皇国。そしてエーゲル海という2国の間の広大な海の真ん中に浮かぶ資源の宝庫トレヴェス諸島。両国が所有権を主張するこの無人の島々は、双方のパトロールのにらみ合いを延々と続けてきた。対立をしながらも、それまで両国はごく普通に国交を結んでいた。
しかし……
プロローグより14年後……
西暦2010年6月キタラ皇国はアドルリア共和国より突然、国交の断絶を通告された。キタラ皇国国務省はすぐさま抗議をしたが、あっという間にアドルリア側の大使館員が引き上げ、反対にキタラ側の大使館員が強制送還され4ヶ月が過ぎた。
その頃になってキタラ皇国統合参謀本部は、アドルリア共和国が新たに大量の兵器を購入している、との情報を得た。この情報を受けて統合参謀本部はアドルリア共和国への偵察を計画したが、大陸には前線が停滞しているため、衛星による偵察は不可能と判断し、航空機及び潜水艦による強行偵察作戦を立案した。
11月7日キタラ皇国ルイジェンスク空軍基地
基地は厳戒態勢にあった。基地の至る所で防弾チョッキにAK74を持った海兵隊員の姿が見られた。しかし、ブリーフィングルームはそんな雰囲気とは対照的に静かな熱気に包まれていた。
「諸君らは、これよりアドルリア共和国への強行偵察任務を行ってもらう。目標は、共和国最大の軍港オイゲン、及びミルシーク空軍基地である。本作戦は極秘であるため諸君の飛行服からは階級章、部隊章、国籍マークは外しておいた。機体の方も同様だ、しかしながら、僅かでも生存率を上げるため、電子兵装を強化し、ステルス塗料を塗っておいた。また航続距離を伸ばすため爆弾倉を燃料タンクに変更した。重ねて言うが、諸君らの任務は偵察である、交戦ではない。防空識別圏の内側に戦闘機を待機させておく、無事な帰還を祈る!!解散!」
夜の静けさをジェットエンジンの甲高い音が切り裂く。黒く塗装されたツポレフTu−16PPMバジャーMが右、それから左とオリジナルより推力、燃費が向上した品川重工SHI・BJF−3ターボファンエンジンを点火する。
「こちらアーリーバード1、ルイジェンスク管制、離陸許可を求む。」
「ルイジェンスク管制よりアーリーバード1離陸にはA滑走路を使用せよ。」
「了解。」
鈍重な機体が誘導路からゆったりと滑走路に入る。
「こちらアーリーバード1、ルイジェンスク管制へ、A滑走路に到着、待機中。」
「ルイジェンスク管制よりアーリーバード1離陸を許可する。幸運を!」
「アーリーバード1了解。」
轟音と共に偵察機が加速していく、時速が200マイルに達したところでゆっくりと夕闇が迫る空へと上っていった。
同8日アーリーバード1
3回にわたる空中給油の末、アーリーバード1はアドルリア共和国の防空識別圏に入ろうとしていた。既にキタラとアドルリアの中間線を越えた時点から、エンジンは全開になっていた。
「間も無くアドルリアの防空識別圏に入る。3,2,1、今!!」
「よし!総員警戒を怠るなよ!電子士官!発見されたら速やかに報告せよ!」
「いつ発見されてもおかしくないですよ機長!さっきから地上基地と水上艦のレーダーがこの空域を舐めまわしてますから。」
「敵機は確認したか?」
「ええ、とっくに見つけてます。1番近いのは、南に15kmのところにいるF−4Eファントム2の4機編隊です。」
「ん、引き続き警戒を続けてくれ。」
「間も無く海岸線、偵察目標まで10km!!」
「現在高度エンジェル10!」
「カメラチェック!スタンバイ!」
「問題なし!」
「機長!!発見されました!」
報告と同時に遠距離で撮影された画像、それまで得た電子情報が、暗号化された圧縮衛星通信で参謀本部へと送られた。機長は偵察機を反転させながら怒鳴った。
「敵!報告!!」
「敵機はレーダー反射波及びトランスポンダーからF−104Gスターファイターと思われます。機数は2機。5時方向より高速接近中。敵速1250マイル!」
「我々はなんとしても帰らねばならん!後部銃座!敵機が見えたら命令を待たずに撃て!」
「了解!!」
すぐさま23mm連装機関砲が射撃を開始した。不意をつかれたF−104に機関砲が命中する。
「命中!」
僚機がやられたF―104が20mmバルカン砲を撃ってくる。弾丸が右翼に当たり、4分の1程が吹き飛ぶ。その時、唐突に月光が海面を映し出した。
「機長!!」
「こいつは……!?」
次の瞬間左翼付け根のエンジンに1発のAIM−9Bサイドワインダーが命中した。止めを刺されたバジャーMが錐揉みをしながら夜明け前の海へと落下していった。
11月12日アドルリア共和国大統領府
「大統領閣下、不明機に関する報告書が国防省より届いています。」
「噂では、国籍マークも部隊章も無かったとか……。」
「その通りですが……」
補佐官が報告書を差し出す。パラパラとそれに目を通すと、大統領はため息をついた。
70歳を過ぎて白髪の頭を振りながら報告書を執務机の上に放り投げる。
「やはりキタラ皇国か……。」
大統領の独り言のようなつぶやきに居合わせた閣僚が口々に意見を言い始めた。
「東から飛来したことからかんがえても、ほぼ間違いありません、そこで即急に報復攻撃の準備を……」
「いきなりか!それは不味いのではないかね?」
「しかし、かの国とは最早国交を断絶しておる!何の問題も無い!」
「あの件もある、遅かれ早かれこうなる。」
「うむ……、しかし無視するわけにはいかんかね?そうでなくてもわが国は現在問題が山積みだ。」
「しかし、挑発されて反応しないようでは余計怪しまれます。」
「だが、正規の部隊はほとんど出払っておるのだぞ?」
「……海軍には練習艦隊があります。空母も所属しておりますので、小規模ながら機動部隊として運用できます。」
「バカな、ヒヨっ子と2線級の機体でなにが出来る!」
「予備兵力1つで国の面子が保て、秘密を隠すことが出来るのです!安いものではありませんか!?」
「……分かった。その様に手配したまえ。」
「閣下!?」
「しかし、負けた場合は我が国は関与していないと主張したまえ。」
「国籍マークを消すのには、時間がかかりますが?」
「反乱軍ということにすればよかろう。」
「…了解しました。」
11月13日アドルリア共和国ペルヨーク海軍航空基地
ライザ・ブリュンヒルデ少尉は新しい自分の機体を誇らしげに眺めた。機体自体は古いがなにせ彼女が始めて貰った自分専用の機体であり、実戦機であったからだ。
肩より長い金髪を風になびかせながら、同世代の女子よりは大きい胸の銀色に輝くウィングマークのバッジを片手で弄りながら、機体の周囲を歩き回っている。
19歳で練習艦隊航空隊をもうすぐ卒業というのは決して早いほうではないのだが、
彼女は自分の腕に自信を持っていた。
年配の整備員が、機体上部に増設されたチャフ・フレア射出口をチェックしていた。
「じゃっちゃん!この機体AIM−120AMRAMとか載せらんないの?」
「そんな新しいミサイルは載せられん!そんな事も分からんのかヒヨっ子め!!」
ライザは作業テーブルからマニュアルを取るとコクピットに潜り込んだ。
「レーダー誘導ミサイルが使えないんじゃ空中戦なんて出来ないじゃない!それに私はもう戦闘機パイロットなんですからね!?ヒヨっ子なんて呼ばないでよ!」
「機関砲とサイドワインダーで敵を撃ち落せん奴はヒヨっ子じゃ!まだお前さん練習艦隊の所属なんじゃぞ?」
「残念でしたー、私はもうウィングマークもらってるんですよ〜だ。それと、あんな当たらないミサイルはミサイルって呼ばないわ!ロケットよ!ロケット!!」
「ほ〜、それじゃご先祖様は一体どうやって敵をブチ落としたんじゃろうな?」
「うっ……。」
「無駄口叩く暇があるなら、さっさと敵の1機や2機ブチ落としてこい!まったく……」(最近の若いモンは脳みそは発達せんわりに、体はしっかり成長しておる……)
「なんか思った!?」
「いんや〜?」
「ったく助兵衛ジジイなんだから!」
その時バツンと音を立てて基地のスピーカーの電源が入った。
「連絡!連絡!総員その場で傾注せよ!!練習艦隊所属の各航空隊は本日1800時までに空母バミューダ及びカリブに着艦せよ!繰り返す……」
「いよいよ空母に配属だわ!ワクワクしちゃう……」
「フン!そんな事いっとるのも今のうちじゃて……。」
「うっさいわね!」
11月17日アドルリア・キタラ中間線上(トレヴェス諸島南側)
海上を三隻のV字隊形をとって航行している艦隊がいた。キタラ皇国海軍第1機動艦隊第1分遣艦隊である。アドルリア共和国へ向かった偵察機が消息を絶ったすぐ後から、キタラ皇国はトレヴェス諸島を挟んで北と南にそれぞれ1個機動艦隊を派遣していた。先行偵察任務を命じられた第1分遣艦隊は、本隊の約20Km先を先行していた。クレスタ3級ミサイル巡洋艦を旗艦とし、タランタル3級コルベット2隻を引き連れた小艦隊は、中間線を丁度西進をやめ、北進を開始したところだった。1番始めに異常を探知したのはやはり1番マストが高いクレスタ3級であった。
「アドリア海軍と思われる部隊を探知!!敵艦隊8隻、大型艦2、小型艦6!レーダー反射波より艦種、等級を割り出し中!」
「敵艦隊方位9時方向!速力25ノット!距離25万m!」
「本隊に応援要請!電文“我アドルリア、ノ艦隊接近ヲ感知セリ!”だ!」
「全艦第1種戦闘配備!」
「対艦、対空戦闘準備!機関出力最大戦速へ!」
「攻撃レーダー探知!ロックオンされました!ミサイル警報!」
「向こうはやる気だぞ!ECM起動、チャフランチャースタンバイ!」
「第1機動艦隊旗艦、葛城より入電!“交戦ヲ許可スル。本隊到着マデ善戦セヨ”であります。」
「よーし!全兵装のセーフティーを解除せよ。」
「敵ミサイル接近、ハープーンです。方位9時方向、距離20万5000、弾数6!」
「チャフランチャー発射と同時に回頭!距離?」
「後15万。」
「左舷チャフランチャー8連射、同時に取り舵90。コルベットには本艦の陰に隠れろと言え!」
左舷のチャフランチャーから連続して8発のチャフが打ち出され、金属の雲を形成した。
「あと10万。」
「迎撃始め!」
「対空ミサイル撃ち方、始め!」
前部、後部甲板に装備された自国製8連装ランチャーに納められたロシア製SA−N−12グリズリイ中距離レーダー誘導対空ミサイルが前後からそれぞれ2発づつ、計4発が放たれた。
レーダー上で、対艦ミサイルと迎撃ミサイルが急速に接近する。
「3発撃墜!残り3発、距離5万!」
「次、主砲ターレット旋回、目標に指向!」
前部、後部甲板にそれぞれ1基づつ装備された、フランス、クルーゾ・ロワール製100ミリ55口径水冷単装コンパクト砲が迎撃の第二段階に入る。
「距離1万7000、射程に入りました。」
「迎撃始め!」
「アイサー、撃ち方始め!」
最大射程から前後の砲が交互に射撃を行う。1.5秒に1発の速さで砲弾が発射され、重量13.5キロの砲弾が近接信管によって対艦ミサイルの直前に破片を撒き散らす。
「更に2発撃墜、敵対艦ミサイル残数1発です。」
「近接防御起動、後がないぞ!」
「CIWS、迎撃始め!」
ハードキルの最後の要、SA−N−11グリスンが迎撃を始める。装備された4発の短距離迎撃ミサイルが発射され、最後の1発のハープーンが撃墜される。
そしてその時には第1分遣艦隊は反撃の準備を終えていた。
「敵艦隊の解析完了。改ミッドウェー級空母2、改ギアリング級4隻、O・H・ペリー級2隻。」
「コルベットと共同でミサイルを発射する、データリンクにて目標を割り振れ!」
諸元入力が完了した直後、1隻の巡洋艦と2隻のコルベットは、計16発のSS−N−22サンバーン超音速対艦ミサイルをアドルリア艦隊へと放った。
アドルリア共和国海軍練習艦隊
ライザ・ブリュンヒルデは誘導員の指示に従って愛機であるチャンス・ヴォートF―8Eクルセイダーをカタパルトへ移動させた。デッキクルーがフロントタイヤにカタパルトを接続し、準備完了と手信号を送ってきた。機体の右側を見ると連絡員が黒板を掲げて敵情報を伝えてきた。
『敵艦隊、巡洋艦1、コルベット2』
その情報を見てライザは落胆した。
「敵機はいないんだ……。」
その時ブツンと音をたてて無線が入った。
「攻撃隊、発艦いそげ!!」
ライザはキャノピー越しに発艦準備良し、と手信号を送った。自機の背後でブラスト板が立ち上がったのを確認し、アフターバーナーへ点火した。その直後ズシンという鈍い音と衝撃を伴って凄まじいGがライザをシートへ押し付けた。機体が艦を離れるのと同時にギアを上げ、上昇に移った。
キタラ皇国海軍第1機動艦隊
「分遣艦隊が敵艦隊の攻撃を受け、交戦に入りました。」
第1機動艦隊旗艦ソヴィエツキー・ソユーズ級攻撃型空母「葛城」のCICに静かに報告が響いた。
「どうも最近きな臭いと思ったが、本当に戦争を仕掛けてくるとは……。」
「どうされます?」
「どうするも、こうするもなかろう、奴らは明確な侵攻意図を持って進撃しておる、迎撃するしかなかろう。むざむざ敵に皇国の土を踏ませてやるほどやさしくはないぞ?」
「了解しました。」
「艦隊全艦に告ぐ、総員第1級戦闘配備!侵攻するアドルリア艦隊を迎撃する!」
前衛にソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦、カーラ級ミサイル巡洋艦、中核にキーロフ級ミサイル巡洋艦とソヴィエツキー・ソユーズ級攻撃空母、護衛艦にカシン級ミサイル駆逐艦を含む艦隊がすぐさま30ノットで全艦が西進を開始した。さらに分遣隊の緊急電を受信した攻撃型原子力潜水艦が集結しつつあった。
キタラ皇国クラスノグラード空軍基地
「敵機動部隊が我が領海を侵攻中!現在第1機動艦隊が迎撃中!」
敵艦隊来襲の知らせが届いた時、戸田純一大尉は部下の八木少尉と供に臨時哨戒飛行任務に出る前の飛行前チェックを格納庫で行っているところであった。
短く刈り込まれた黒髪とキタラ空軍最年少の18歳の大尉は鋭い視線を基地スピーカーに向けた。
小さい身長と相まって初対面の人間は、その階級を疑問視するが、彼を知る人間は「小さな狂犬」と彼を呼ぶ。
「大尉!装備に対艦ミサイルを追加しては……?」
「海戦が行われてる場所までどれくらいあると思ってるんだ?通常装備でかまわん。」
「は!」
「出るぞ!」
コックピットに上がると、整備員の手を借りてハーネスを取り付けた。キャノピーを閉めロックすると、エンジン始動の手信号を整備員へ送った。
「APUスタンバイ、主電源ON、右エンジン始動。」
点火スイッチを押し込み、愛機スホーイSu−35スーパーフランカーの右エンジンを起動した。轟音と供にサチリュン・リュールカSL−35Fエンジンが目を覚ました。続いて、右エンジンの推力を利用して、左エンジンも点火する。ブレーキをリリースし、スロットル40%で格納庫を出、誘導路に入ると、後方から八木少尉のスホーイSu−30フランカーがついて来ているのがバックミラーに写った。
「クリムゾンエッジリーダーよりクラスノグラード管制、1番誘導路を移動中。誘導を求む。」
「こちらクラスノグラード管制、クリムゾンエッジリーダー。A滑走路を使用し離陸せよ。」
「了解。」
A滑走路に到達すると、戸田は滑走路の左側に寄って機体を停止させた。右後方に八木少尉が機体を停止させた。
「クリムゾンエッジ滑走路到着、離陸許可求む。」
「了解、クリムゾンエッジ離陸を許可する。幸運を。」
戸田は手信号で八木機に合図する。同時にブレーキをかけたまま2機のスホーイはアフターバーナーに点火した。機首が沈み込み、ニーリングの体勢へ。戸田が右手を振り下ろすと、2機のスホーイは弾丸のように滑走路を走り空へと舞い上がっていった。
海上境界線・アドルリア共和国練習機動艦隊
キタラ海軍の分遣隊が放った16発のSS−N−22サンバーン超音速対艦ミサイルのうち、アドルリア艦隊に迎撃出来たものは僅か4発にすぎなかった。12発のうち8発はそれぞれ改ミッドウェー級空母バミューダ及びカリブに殺到。大破に追い込んでいた。残りの4発はそれぞれ1発づつ護衛艦に命中し轟沈させていた。分遣隊の攻撃が終わった時生き残っていたのは、改ギアリング級1隻、O・H・ペリー級1隻それに3個攻撃飛行中隊と4個戦闘機中隊だった。しかし、さらなる厄災が彼らに襲い掛かろうとしていた。
アドルリア共和国海軍練習飛行隊・第1戦闘機中隊
眼下の自分たちが今まで乗っていた艦隊が、いとも簡単に撃破されるのを見てライザはショックを受けていた。しかし、と、彼女は思った。
(私たちはまだ生きている!)
他の者も衝撃を受けたようだが、編隊長である教官に励まされ、せめて一矢報いようと敵本隊の方向思しき方へと機首を向けた。その時攻撃隊の編隊全機にロックオン警報が鳴り響いた。
キタラ皇国海軍戦闘機隊CFS11・ブルーランス隊
その飛行隊は第1機動艦隊の2隻のソビエツキー・ソユーズ級攻撃空母のうち1隻から発進したものだった。スホーイSu−33シー・フランカー12機1個中隊で構成された戦闘機隊は今まさに敵に向け牙をむこうとしていた。
「全機データリンクを確立、ターゲットをロックオン。」
編隊長であるリディル・マクファーソン大尉が命令を下した。キタラ軍は世界史において敗北した国家からの移民を多く受け入れており、女性兵士の動員率が高かった。
彼女の母はロシア人で父はドイツ人だった。
オリジナルのそれよりアップデートされたシー・フランカーは今回迎撃任務用にR−27ERアラモC長距離空対空ミサイルを各4発づつ装備していた。
「全機射撃開始、フォックス1」
全12機のシーフランカーから放たれた48発の空対空ミサイルが牙をむいてライザ達の編隊へと襲いかかった。
アドルリア共和国海軍練習飛行隊・第1戦闘機中隊
「えっ!?」
レーダーロックオンの警報がけたたましく鳴り、突然の出来事にパニックに陥っていたライザは僚機であり親友のチャン・リンファ少尉の声で現実に引き戻された。
「ライザ!ライザ!エンジンを全開にして回避を!」
左手がスロットルを押し出してアフターバーナーに点火する。浮き足立ってバラバラになった編隊の中を横切るように急降下をかけた。そのとき、ミサイルが命中した機体が爆発し始めた、チャフをばら撒き、さらに加速をしようと機首を下げようとしたとき後方から爆発と衝撃を感じた。バックミラーには火達磨になったクルセイダーが写っていた。
「リンファ?」
呼びかけに応える声は無かった。
キタラ皇国ブルーランス隊
「失中4か…そこそこだな…」
リディルは機体を降下させながら、スロットルを押し込んだ。
「全機、敵を逃がすな自由戦闘を許可する。集合は追って指示する。散開!」
F−8クルセイダー・ライザ機
チャンス・ヴォートF−8Eは機動性に優れた機体である。スマートな機体に高出力のエンジンを1基搭載し、その優れた機動性と4門の20ミリ機関砲から『最後のガンファイター』と呼ばれるほどである。が、それは同世代機を相手にした場合の話である。青い影とすれ違ったライザはもう真後ろに敵機がいることに気がつき驚愕した。
「くっ…」
必死になって操縦かんを動かし、フットペダルを蹴って回避を試みるが、青い洋上迷彩が施されたシー・フランカーは平然とついてくる。と、次の瞬間機体の速度がガクンと落ち警告音が鳴り始めた。
「な…何?」
エンジン関係の警告灯がほとんど真っ赤になっていることにライザはその時初めて気がついた。
ブルーランス隊・ブルーランス1
目の前で敵機のエンジンから黒煙が上がるのを見て、リディルは何が起こったのかをすぐ理解した。敵パイロットがアフターバーナーの吹かしすぎで、エンジンが破壊されたのだ。
「新米か……」
機関砲の軸線をずらすと、操縦かんのトリガーを引き絞った。
F−8クルセイダー・ライザ機
被弾の衝撃を感じた瞬間、機体の後部が爆発した。機体の前部がジョイントから外れて機体後部の爆発によって吹き飛ばされた。
「くっ……」
射出ハンドルを引こうとしていたライザは、爆発のGによって気を失った。
一方的な戦いとなったこの「第1次エーゲル海海戦」は別名「練習艦隊事件」と呼ばれる。宣戦布告無しに行われたこの戦闘は後の戦争に大きな影響を与えることになるのは、まだ、誰も知らない。
残念なことに、ギリシャ数字が使えませんでした(泣)
なので、ちょっと変に見えるかもしれません。