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第5話 美少女は勿体ぶる

 30席ある内の1席。少なくとも最初に引いた俺だけはその確率の中で正当に戦っていた。最後の北条なんてのは残り物だ。選ぶ権利などなく、決められた席に移動しなければならない。そういう意味じゃ不公平かもしれない。


 そんな公平性を加味してか、先生の指示で自分の番号は誰にも言わず、全員がクジを引き終わってから黒板に書かれた数字の席へ移動するという流れになっているが、つまるところ男女ともに一番注目している北条が引かないことには、仮に交換を許可されていたとしても動きようが無かっただろう。


「よし、それじゃあ移動開始しろ」


 そんなこんなで、妙な緊張感に教室が包まれる中、北条がくじを引いたのを見届け、先生が合図を出した。

 一斉に北条を見る生徒達。だが、北条は窓際最後列というポジションから動くこと無く、じっと窓の外を眺めていた。


「水希? 移動しないのか?」

「必要がないから……それと、ええと……名前、なんだったかしら」

「國村清人! なんだったら先生に聞かれてからも名乗ったから! あー、水希ぃ、やっぱ冗談上手いなーっ」

「……盛り上がっているところ悪いけれど、友達でもないのに気安く名前を呼ばないでくれないかしら。変な誤解を受けたくないの」

「え……あ、はい……北条、さん」


 怖……。あまりに冷たく拒絶され、國村くんは半ば呆然としながら席を立った。おそらく“北条=美人だけど怖い人”という印象が染みついただろう。強くなれ、國村くん。

 そんな國村くんが弱々しく移動を始めると、他の生徒も釣られたように動き出す。当然俺も……なのだが。


 北条は移動の必要が無いと言った。それが真実ならあいつの席はあの窓際最後列のままだ。そして、俺の引いた29という数字。縦の列ごとに1から5番が割り振られ、そしてその縦列が全部で6つ……その29番となると。


「ここ、だよな」


 北条の前の席。自然と視線が集まる気がした。そこには依然として北条とお近づきになりたい男子からの視線もあったが、少し同情じみたものも混ざっていた。それほどまでに先ほどの國村くんの捌きは印象的だったのかもしれない。


「奇遇ね、青海君」

「ひえっ!?」


 そんなどちらにしろ猛獣の檻に投げ込まれた構図になる小動物・俺に対し、空間の支配者・北条は淡々と、だが先の國村くんに対する話し方に比べると随分気安い声をかけてきた。

 おそらくクラスの誰の印象にも残っていなかったであろう、俺の名を呼んで。


「よ、よろしく、北条さん」

「よそよそしいわね。呼び捨てでいいのに。望むなら名前呼びも検討可よ?」


 よそよそしいもなにもこれが適切な距離感の筈。浴びせられている嫉妬が強まり、同情が興味に変わったのを感じる。


「多分同じ中学出身は貴方だけよね?」

「そ、そう……ですかね……? でも、中学でもそんなに仲良くなかったような……?」

「あら冷たい。でも周りは殆ど中学来の友達と親しくしているでしょう? 私もそれなりに孤独みたいなものを感じてはいたのよ。だから貴方が同じクラスでほっとしたわ。今までが仲良くなくてもこれから仲良くすればいいじゃない」


 なんで? なんでこんなに喋るの? なんでこんなにグイグイ来るの!?

 こんなクラス全員の視線が集まるタイミングで。先生も興味深げに会話を聞いて話進めてくれないし!


「そ、そうだな、うん……これからよろしく……」

「そういえば、青海君」


 話を終わらせようと締めの言葉を発したはずなのに次の話題に発展した!?


「青海君は私の挨拶聞いてたわよね?」

「挨拶……あ、ああ、勿論。いやぁ、立派だったよなぁ。うん、あんな大勢の前で堂々と」

「学年代表のじゃないわよ。あんなのネットで検索して出てきたものをそのまま読み上げただけだもの」

「聞きたくなかった事実……」


 確かにネットで転がってそうなありきたりの内容だと思ったけど。


「そんな私の記憶にも残っていないような些事、どうでもいいわ。そうじゃなくて、先ほどの自己紹介よ」


 記憶に残らないような些事……というと、覚えられてなかった國村くんの自己紹介がなおさら可哀想に思えてくる。北条のことだ、先ほど飛び降りろ的なことを言ったのももう忘れてそうだし。

 なんてことを思いつつ、俺の頭にははっきり北条の自己紹介が浮かんでいた。


「まぁ、うん、勿論覚えてるよ。そのラブコメがどう、とか?」

「そう。ラブコメ。私ずっと夢だったのよ」


 北条が魅力的に微笑む。万人を虜にする魔法のような笑みだが、何故か俺は少し背筋が凍る思いだった。何故かは分からない。


「その詳細は後で話すとして……ねぇ、青海君? 是非、貴方に手伝って貰いたいのよ。ラブコメのような学園生活を送るために」

「それって、どういう……」


 混乱してきた。ラブコメの手伝い? 俺に?

 意味が分からず困惑しつつ、北条の次の言葉を待っていると、彼女は、


「ああ、すみません。どうやら話を止めてしまっていたようですね」


 そう、先生に席替え後の段取りに進むよう話を切り替えた。


「ん、ああ……いや、今日のところは後簡単な注意事項くらいで解散だから……」


 先生も予想だにしていなかった話の切り替えにクラス中が北条と俺への興味を持ったまま話だけがまた進行し始めた。

 だが、当然張本人である俺だってついて行けていない超展開を前に、注意事項などという些事が殆ど聞こえてこなかったのは仕方の無いことだった。

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