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第3話 自己紹介なんてみんなあまり聞いていない

「1年生の諸君、改めて入学おめでとう。俺はこの1年A組の担任になった二階堂誠二にかいどうせいじだ……あーっと、なんだっけ……」


 二階堂先生は教壇に立ち、途中までは調子よく自己紹介をしていたのだが、突然言葉を濁すとポケットから何かプリントのようなものを取り出した。


「ああ、これだこれ……ええと、我が近栄高校は文武偏道をモットーとした学校だ。ちなみにこの武は部活動全般を示す。運動部しかり、文化部しかり、その実力と実績を認められた生徒、そして文……通常の高校よりも高めに設定したレベルの入試試験を突破してきた勉学に優れた生徒、それらが集まっている。君たちも刺激の多い学校生活が送れるだろう」


 ハキハキといいことを言ってる風の先生だが、プリントを読み上げているだけだ。きっと新入生への挨拶テンプレみたいなものが記してあるのだろう。


「えー、例年は文と武、それぞれの入学理由に合わせてクラスを分けていました。しかし、それによって必要以上にクラス間の対抗意識が高まってしまうといった弊害もありました。そのため、今年から入学理由を問わずクラスを編成しているという背景があります。生徒の皆さんには是非とも多くの友人を作り、交流を深め、より自分の世界を豊かに広げていただければと思います」


 ほらーっ! とうとう自分の言葉じゃなくて、書いてある文そのまま読み始めちゃってるじゃん!


「私たち担任を始め、教師一同、皆さんの成長をサポートさせていただきます。学業、学生生活、そのほかなんでも、悩み事があれば気軽に相談してください。私のことは……あ? マルマル……? ……と呼んで、親しみを持っていただければと思います」


 マルマルってなんだよ。多分そこ、自分のあだ名入れる箇所だろ。悩んだあげくそのまま呼んでんじゃないよ。


「それではこれから一年、よろしくお願いします。ここでお辞儀っと……よし」


 何も“よし”じゃない。


「そんなわけで、早速だが自己紹介でもしてもらうか。じゃあお前から順番に」


 本当にいきなりだが、のんびりもしていられない。指さされたのは廊下側最前列、つまり俺だったからだ。

 いっ、と言葉にならない悲鳴が漏れ出る。


「取りあえず立って。そうだな、名前、出身中学、入学理由……を聞くと面倒そうだから、趣味とか。そんなんでいっか」


 随分気の抜けた、やる気のない先生だが、変に熱いよりはマシか……なんて、スカした分析をしている場合じゃないっ!

 俺は立ち上がり、クラス内を軽く見る。とはいえ、生徒一人一人の顔をじっくり眺める余裕なんてなく、取りあえず視界に収める程度のチキンハートはご容赦頂こう……。


「ええと、青海正悟です。矢板第三中学出身で、趣味は読書とか、ですかね。これからよろしくお願いします」


 俺はそう、取りあえずの挨拶だけをして頭を軽く下げた。ちなみに趣味の読書の大半は、一般高校生男児支持率ナンバーワンである漫画である(俺調べ、サンプル数=1)。でも若者の活字離れがどうと騒がれている昨今、あながち間違いでもないだろう。


 しかしなんだこの冷め切った空気は。俺に対する反応はぼそぼそと何かを囁き合う声を除けばほぼ無音だった。なぜ教師には挨拶の定型文があって生徒には無いのか……次どうすればいいの? もう座っていいの?


 なんか暗そう。読書って絶対漫画だろ。華奢なやつ。運動神経わるそー。男なのに声高いな……エトセトラエトセトラ。生徒の呟きはこの静かな空間ではよく耳に入ってきた。その多くが俺を値踏みし下に見るようなしょっぱい評価である。ああ、終わった。

 がっくりと項垂れてしまう前に自ら席に座る。すぐに他の生徒の興味は俺から次の赤池くんに移った。有り難くもあり、残酷でもある。


「あぁ、なんか足りないと思ったらアレだな。拍手。次からでいいから、みんな挨拶の後は拍手しよう。それじゃあ、続いてどうぞ」


 次から……つまり俺を飛ばして赤池くんから。俺はもはや拍手さえして貰えない。

 教師ぐるみでイジメに来てんのかなと思う方が納得がいく最悪のスタートダッシュだった。いや、被害妄想とは分かってるけども!!

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