第28話 お風呂回の裏側は結構ヒマ
大晦日!
年内最後の更新です!
2人一緒に入る浴槽は少し狭いけれど、ぎゅっと膝を抱え込んで凪子ちゃんと向き合えば十分ではあった。
凪子ちゃん、本当に青海君と似ている。そっくりとは言わないし、町で片方と会えばどっちかとは区別がつくだろう。でも、兄妹であるということは疑うまでもない。
私達は、共に長さは違えどお湯についてしまう長さの髪を青海君のお母さまが持ってきてくださったタオルで括っている。髪の長さというのも、青海君と凪子ちゃんの違いの一つだ。
「凪子ちゃんは青海君、お兄さんのことが好き、なのよね?」
「愚問ですね。ああ、勘違いしないでください。ライクじゃないです、ラブです」
「そ、そう」
なんの臆面もなくそう言えてしまう凪子ちゃんはかなり大物なのではないだろうか。
「でも、お兄さんとは目鼻立ちはそっくりだけど、他は……なんて言えばいいのかしら。似せようとはしていないのね」
「それもまた愚問です。例えば、敬虔な仏教徒が普段仏像の着ているようなファッションや髪型をしているでしょうか。それと同じです。にーちゃんは私にとって神のような存在なのです」
「か、神!?」
「は、少し大袈裟かもですが」
そう軽く訂正をする凪子ちゃんだが、正直どこまで本気かは分からない。口調は一定だから。
「それに、凪子はにーちゃんにはなれません。私は女でおっぱいもそれなりですが、美人指数ではにーちゃんの方が高いですし」
凪子ちゃんの言葉に内心で頷く。
そうなのだ。彼女には直接言えないが、顔を見比べてどちらが美人かと比べたら青海君の方が美人に見える。凪子ちゃんは普通に美少女なのだけれど、青海君が異常な美少女なのだ。
それこそ私もミスコンで敗北するほどだし。
「さらに素晴らしいことに、にーちゃんの素敵なところは外見だけでは無いのですよ」
「どういうこと?」
「にーちゃんはあの外見にそぐわず男らしいのです。イケメンなのです。もう凪子はメロメロなのです」
凪子ちゃんは少し興奮したみたいに早口になり、声にも抑揚をつけていた。どうにも青海君の話となると省エネではいられないらしい。
それが面白く、そして青海君の話に私自身興味があって、彼女を乗せるように続きを促した。
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「北条さんと凪子、盛り上がってるわねぇ」
「意外。仲良くなったんだな」
「ふふ、そうね」
母さんの言葉を、俺はソファーに寝っ転がり、スマホを弄りながら聞いていた。ついでに浴室から漏れてくる2人のキャッキャッした声も。当然内容までは分からないが、楽しそうなのは分かる。
鉄面皮の北条があんな女子っぽい声を出しているのは聞いたことがないし、凪子も家族の前以外では省エネモードになるのに声からするとそんな気配はない。
「ところで正悟」
「ん、何、母さん?」
「北条さんって、何か訳ありなの?」
「……多分」
詳しい事情まではっきり聞いている訳ではないが、帰れない理由はあるだろう。母さんには知ってる範囲の家族トラブルっぽいとだけ伝える。
「もしかしたら今日も泊まってくかも」
「別にいいけど、どこに寝かせるつもり?」
「ん? ……ん?」
「やっぱり考えてなかったのね……」
母さんが呆れるように深々と溜め息を吐いた。が、確かに由々しき事態だ。うちは四人家族、父が不在なので一カ所余るが、父の寝床は母と同じダブルベッドである。友達の母と添い寝なんて彼女も嫌だろう。
「布団余ってないっけ」
「冬用はクリーニング中」
「ですよね……」
残されたのはソファーくらいか……いや。
「寝袋あるじゃん。俺の」
「え、あんた自分の臭いのこびりついた寝袋にあの美少女を寝かせるつもり? セクハラにならない?」
「ね、寝袋には俺が寝るからっ! そうしたらベッドが余るだろ!」
とはいえ自分のベッドに北条を寝かすのもセクハラちっくなので、俺のベッドには凪子を寝かし、北条には凪子のベッドで寝てもらうという算段……完璧ではないだろうか。
「問題しかないわね」
が、母からは一蹴された。
「正悟、まずあんたは危機感が無さすぎ」
「危機感?」
「あの凪子をあんたのベッドなんかで寝かせたら大惨事になるわよ。色々な意味で」
「あ……」
「それと友達を凪子の部屋には入れない方がいいと思うな。同級生にお兄ちゃんとは呼ばれたくないでしょう?」
「いやなに怖い。どんなパワースポットと化してるのあの部屋」
凪子の部屋には俺も暫く、年単位で入っていない。用事もないし、母からは父含め絶対に入らないようにと口酸っぱく言われているからだ。
凪子も思春期の女の子だし、入ろうとは思わないのだけれど、こう強く言われると逆に……うん、入りたいとは思わないな。怖いもん。逆でもなんでもなかったわ。
「お母さんの提案はこうです」
「さすが母さん、ちゃんとアイデアを……!」
「北条さんには正悟のベッドで寝てもらう。正悟は寝袋で一緒の部屋で寝る。以上!」
「いや、何の解決にもなってねぇよ」
「大丈夫大丈夫。正悟は半分くらい女の子みたいなもんだし」
「母親が言っていいことじゃない!」
「北条さんもそう思ってるんじゃないのってこと。それに友達同士なんだからやましいことなんてないでしょう?」
楽しげにそう言う母親。心なしかこの状況を楽しんでいらっしゃるように見受けられる。
それと、北条がそう思ってるなんてこと考えるまでも無い。あいつにとって俺は自分と同じヒロイン枠だ。男として見られていないなんてことは一考する価値も無いことだ。
「まぁ本人に聞いてみなさいよ。お客さんが一番いいと思う形でもてなすのが日本人の美徳でしょ?」
「へーへー。その代わり母さんと一緒にダブルベッドで一晩明かすってのも選択肢にいれさせてもらうから」
「まぁ。そうなったら正悟の生まれた時から今までの恥ずかし話を思う存分披露できるわねっ」
「ごめんなさい。嘘です。冗談です」
この屋根の下には敵が多すぎる。結局俺の部屋で寝かせるというのが俺にとっても一番いいのではないだろうか。
「ああ、それと、家には一報させなさいね。心配しているかもしれないし、捜索願とか出されたら面倒でしょう?」
「あー……まぁ、そうだな」
それを北条に伝えるのは中々に面倒そうだが、それを母さんや凪子に押し付けるのは他力本願すぎるか。
というわけで俺はソファーに寝っ転がったまま、彼女達が風呂から上がるまでうんうん唸ることとなるのだった。
今年もありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします!