第21話 日本語は難しい
「友達……? 誰と、誰が……?」
北条のその何の含みも無さそうな純粋な疑問符に俺は深く傷つけられた。
世に言う、「友達だと思ってたの俺だけ……?」現象である。術者(友達宣言した方)は死ぬ。
「うわぁ……容赦ないわね……」
さしもの夕霧も引いていた。共にぼっちである俺達、痛みを覚える時はいつも同じ……。だが、そんな俺たちの反応を北条は困惑したように見ていた。
「あの、二人とも? 本当に分からないのよ」
「夕霧さん……自分、涙いいすか?」
「許可するわ」
「ちょ、青海君!?」
長テーブルに突っ伏した俺を北条が心配するように声を掛けてくる。奇しくも先ほどとは真逆の構図となった。
「探さないでくれ……」
「もう見つけてるわよ」
「見つけんなっ! この人でなし!」
「えぇ……」
珍しく引き気味の北条。こうして自爆してようやく一矢報いていると思うとなんだかやるせない。
「夕霧さん、彼はどうしたの?」
「若気の至りってやつでしょ」
「夕霧ぃ……俺たちは友達だよね……?」
「はいはい、友達よ。よしよし」
ガサツな口ぶりながら慰めるように頭を撫でてくる夕霧。これがバブみってやつか……言い得て妙だが悪い気はしない。
「北条さん、この馬鹿はあんたとこいつが友達だって言いたかったのよ」
「ちょ、夕霧さんっ!?」
夕霧はこうして俺が撃沈したきっかけをあっさりと掘り返した。デリカシーなくガサツなところもママっぽくならなくていいのに!
「何よ、本当のことでしょうが」
「そうだけどさぁ……もっと気を使えよ……」
「ええと、私と青海君が友達……?」
「なんだよ……そう思っちゃ悪いかよぉ! だってさ、毎日一緒に昼飯食ってんだぜ? それ以外もよく話すしさぁ……友達だと思っても仕方ないじゃねぇか!」
もうやけくそだ。やけくそ逆ギレ太郎だ。
しかし、俺なんかの怒りではまったく痛くも痒くも無いのか北条は興味深げに俺の頭をその細い指先でつついてきた。
「友達……」
「つつくなっ!」
なぜか頭の中に鼻水を垂らしたガキンチョが木の棒でうんこをつついている絵が浮かんだ。
だが、鼻水を垂らしたガキが美少女にクラスチェンジしていると思うと、それに合わせてうんこがクラスチェンジした姿が俺のような勘違いクソぼっちであるというのも必然なのかもしれない。北条から見たら俺なんてうんこみたいなものなのだ……。
「ああ、ごめんなさい。初めてだったから……その、友達なんて」
「え、北条さん友達いないの?」
「ええ。まぁ、そう呼べるような同年代はいなかったわね」
「……取り巻きがいたろ」
「取り巻きは取り巻きよ。うんちの周りにたかるハエみたいなものね」
「もっといい言い方しなさいよ、乙女でしょうが」
夕霧は呆れたように言うが、俺はちょっとだけ親近感を覚えた。俺は鼻たれ小僧につつかれるうんこ、北条はハエにたかられるうんこ。共にうんこだ。うんこ仲間だ。……いや、あいつはうんちと言ったな。じゃあ別物か……?
「なぁ、夕霧」
「あによ」
「うんことうんちは同じものなのか?」
「知らないわよっ! 乙女に何聞いてんのっ! クソはクソ!」
なるほど、分からん。日本語は難しいな。でも俺は夕霧が一番言葉遣いが汚いと感じた。言ったら噛みつかれそうだから言わないけれど。
「青海君」
「……っ!?」
北条は俺の顔を両手で挟み込むと、じっと顔を覗き込んできた。やけに真剣な顔で。
「青海君、青海君と私は友達なの?」
「い……俺は、そう思ってるよ。第一友達でもなけりゃ、それこそ毎日昼飯食うなんて成立しないだろ」
昼飯ってそれしかないのかよと自分でも思う。だが、事実であるのも確かだ。大事な大事なランチタイム、ただの他人と過ごしたいなんて思わない。少なくとも俺は。
「……いいわね、悪くない。青海君なら……」
「はい?」
「友達というのがどういうものか、正直分からないのだけれど、でも青海君ならなんだか悪い気はしないわ」
「……なんか随分上からだな」
「ふふっ、それは失礼」
北条は楽しそうに笑いながら、ようやく俺の顔を離す。
いつもクールでカッコよく笑う彼女だが、今回ばかりは無邪気で隙のある笑顔を浮かべていた。実に、嬉しそうに。
とりあえず、「友達だと思ってたの俺だけ……?」現象は回避された。寸での回避、紙一重だが……ふふふ、紙一重と表現すると達人っぽいな。
いや、よくよく考えてもみろ。入学して3週間程度、この短期間で友達2人だぞ。俺はもう友達作りの達人みたいなもんだ。
「ドヤ顔うざい」
そんな俺が不服だったのか、友達1号であるチビッ子からはまたもやスネを蹴られた。
今日はイブなので短編を上げました(本作関係無し)
お暇なときにぜひどうぞ。
クリスマスイブの夜にサンタの恰好をした美少女が壁をぶち破って襲来した話
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