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第2話 最初のクラス分けで高校生活の8割は決まる

 入学式というのはいつでもどこでも大した違いはないものだ。

 大したドラマもなく特徴もない。感想も全国共通で、校長の話が長いとか、尻が痛いとか、そんなありきたりな模範解答が用意されているくらいだ。

 

 名前を聞いたことはないが有名そうな雰囲気のある、出資者だか後援会だかのおじさんによるお祝いの挨拶、イケメン生徒会長からのお祝いの言葉。“校長 挨拶 長い”のトレンドを嫌ってかコンパクトに収められたら校長からの祝辞など、一言入学おめでとうでいいよねで片付けられる言葉が並ぶ。

 中々仰々しく堅苦しい会だ。隣の夕霧さんはおねむの時間なのか大きく欠伸なんて……痛っ!?

 足踏んできたぞコイツ!?


「眠気覚ましよ」


 テメェ人の足踏んで眠気が冷めるもんかよと文句を言おうとして……やめた。

 夕霧さんの目はまるで俺が脳内で彼女を子供扱いしたことに気が付いているぞと言わんばかりにぎらついている。なんという危機察知能力……獣かよ。

 ただおかげさまで俺にもじわじわと這い上がってきていた睡魔は撃退された。もしや夕霧さんはそれを察して眠気覚ましに足を踏んづけたのか? だとしたらもっと優しくしてくれれば手放しに感謝したのに。

 

『新入生挨拶』


 空気が僅かに変わる。ある意味俺たち新入生にとっては一番興味のあるプログラムだからだろう。

 新入生挨拶は代表生徒1人、受験で一番点数のよかった生徒が選ばれるらしい。ここに来ている在校生達にとってシンボルとなる存在だ。興味が無いわけもない。


『新入生代表、北条水希ほくじょうみずき

「はい」


 最前列に座っていた生徒が立ち上がった。

 一歩足を踏み出す度に生き物のようにしなやかにたなびく艶やかな黒髪、制服の上からでも分かるメリハリのある体付き。何よりその所作一つ一つからも溢れ出る気品……おそらくこの体育館に集まった殆どの人間が彼女に見蕩れているに違いない。

 そして壇上に立ち、正面、こちら側を向いたときには、その所作や、後ろ姿を裏切らない、いや期待以上の美貌に個々の溜め息がどよめきとなって体育館内を支配した。


「あれが……1位……」


 隣の夕霧さんが、小さく呻くように呟く。

 そして俺は、


「北条……水希……?」


 予想だにもしていなかったその存在にただただ動揺を隠せず固まっていた。



ーークラスは別みたいね。それじゃ。


 入学式が終わり、掲示板に貼り出されたクラス分けから別クラスと分かると、あっさり夕霧さんは去って行った。すっごいドライ。このまま卒業まで一度も会話することが無くても不思議じゃないくらいドライだ。

 これは次会ったとき、久しぶりと言っていいのか、それとも初めましてから始めるべきなのか悩むやつだ。

 久しぶりと馴れ馴れしく声を掛けたら最悪「えっ、誰? キモっ、変態!」と言われる可能性もなきにしもあらずだからな……。そうなったら立ち直れない。やめる、学校やめる。


 そんな悲痛なネガティブ未来予想図を頭のキャンパスに描きつつ、俺の宛がわれた1年A組の教室へと辿り着いた。

 1クラス30人。二人組を作っても、三人組を作っても余りが出ない、俺のようなぼっちに優しい構造だ。

 いや、組を作らす時点でぼっちには優しくないな。余ることに変わりはないのだから。


 …………お、おやぁ? 随分教室内が騒がしいな。入学式直後だというのに……はっ!?

 こ、これは、もしかして……超ビッグ友達グループにぶち当たったかぁ!?


 説明しようっ!

 超ビッグ友達グループとは、オナチュウオナチュウという鳴き声を出す、高校生に上がったくせにいつまでも過去の栄光に縋り付いている回顧厨の集まりである……と、ネットで見た。

 彼らがクラスを占拠することで、クラスは超ビッグ友達グループと超ビッグ友達グループではないやつの2つに分割される。

 もしも超ビッグ友達グループに途中からでも入ろうものなら、オナチュウの超ビッグ友達グループ創設メンバーより強制的に下にされてしまうという悲惨なことになってしまうだろう。

 かといって超ビッグ友達グループに入らんものなら、超ビッグ友達グループから陰キャのレッテルを貼られ、○○実行委員的な面倒な役割を押し付けられたりパシりにされたりと、下手をすれば薔薇色の高校生活が一瞬で灰と化すなんてことになりかねない。


 当然ぼっちの俺に超ビッグ友達グループ創設メンバーとなりえる要素は存在しない。となると超ビッグ友達グループ創設メンバーに媚を売る後追いメンバーとなるか、超ビッグ友達グループに入らず陰キャと見下され続けるかの2択だ。正直そのどちらもデメリットがデカすぎて転校した方が早いんじゃないかと思えてくる。


 こっそり教室を覗き込むとやはり窓際後方の席から扇状に人が集まっている。黒板には席は自由ということが書かれていて、学校側からも超ビッグ友達グループを推奨するような意思が感じられた。陰キャは死すべしですか、そうですか。


 仕方なく、俺はまだ空いている廊下側前方……というか最前列に座った。できるだけ超ビッグ友達グループから距離を置きたいというささやかな抵抗である。


「おっ、赤池、同じクラスだったな!」

「中学からずっとだよな、芦川。いい加減腐れ縁から解放されたいぜー」


 ささやかな抵抗がささやか過ぎてあっという間に飲み込まれそう。エスオーエス!

 俺の真後ろ、そして斜め後ろに座った赤池アンド芦川の陽キャ感溢れる会話に俺は早速策の失敗を感じていた。


 つーか、なに教室で初めて同じクラスって知りましたーみたいな会話してんだよコイツら。クラス表に名前書いてあったろうが。

 赤池と芦川なら両方“あ”から始まってんだからきっと名前も並んでただろ。腐れ縁どころか腐った仲なんじゃねぇのぉ!?


 ……なんて、何の罪も無い赤池アンド芦川に頭の中で怒鳴ったところで何にもならない。惨めなだけだ。

 そうだ、いっその事話しかけてしまえばいい。ネタは……そうだ、青海! 俺の名字の青海だ。コンビの一人赤池は色アンド水に関係ある漢字と、同じ名字の構成をしている。最初の挨拶は……そうだな、『へぇ、アンタ赤池ってんだ。おいら青海。海と池ったら海の方がデカいし、水タイプは炎タイプに効果抜群だからおいらの方が偉いね。ま、よろしくしてやってもいいよ』みたいな……って、なんで喧嘩売ってんだよ。舐められたくないという欲深な潜在意識がここに来て表面に浮かんできたのだれうか。


 ぐぐぐ……話しかけろ、なんでもいい。恥ずかしいのは最初だけ……行くぞ、行くぞ、行けよ早く、もたもたすんなって、馬鹿。ビビってどうする、ビビって……。


「うーっす。新入生共揃ってっかぁ? とりあえず席つけー」


 結局俺は担任らしき男が入ってくるまで何の行動も起こせなかった。

 さらば薔薇色。こんにちは灰色……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 笑える作品。 あと超ビッグ友達グループがゲシュタルト崩壊起こしてきた。
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