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第19話 田中太郎の学園生活は薔薇色に満ちている

 俺の名前は田中太郎たなかたろう! どこにでもいる普通の高校生だ!

 親の仕事の都合で近栄高校に編入してきた俺。でも中々クラスに馴染めない……そんな悩みを抱いていたある日、副担任の和泉いずみ先生から声を掛けられた……!


「田中君、学校はどう? 楽しい?」

「和泉先生、俺、中々友達ができなくて……」

「そうなのね……。そういえば田中君、どの部にも入ってなかったよね?」

「はい。あっ、近栄って部活動必須でしたっけ!?」

「ええ。でもそれなら丁度良かった」

「丁度いい?」

「付いてきて。紹介したい部活があるのっ」


 和泉先生はそう優しく微笑むと俺の手を引いて歩き出す。まだ若く美人な和泉先生に手を握られ、ドキッとしてしまう俺。

 そんな俺を先生は部室棟の最上階、その隅にある部屋の前に連れてきた。


「先生、ここは……?」

「努力部」

「え?」

「ちょっと個性的な女の子達が集まる変な部なんだけど……ふふっ、きっと楽しいと思うわ」

「は、はぁ……」


 イマイチ要領の掴めない俺に、先生はふんわりと微笑むとその努力部のドアを開けた。そして、そこには……。


「あら、和泉先生? そっちの男子は?」


 少し強気そうな、ツインテールの小さな女の子が真っ先に口を開く。ティーンモデルのようなあどけない美少女だ。


「彼は田中君。編入生よ、知ってるでしょう?」

「ああ、聞いたかも。へぇ、あんたが編入生なんだ。なんだか冴えない顔してるわねっ」

「ええと……」

「あたしは夕霧彩乃。彩乃でいいわ、太郎」

「彩乃……え、なんで俺の名前を?」

「は、はぁ!? べつに知ってて変なことないでしょ!? 聞いたかもって言ったじゃない! 別にあんたのこと、遠目で見て気になってたとかじゃないんだからね! 勘違いしないでよ、馬鹿ぁ!」

「あ、う、うん」


 なんだか怒りっぽい子なんだろうか。でもそれも子どもっぽくて可愛い……なんて、初対面で何を考えてるんだ、俺は!?


「へぇ、君が太郎君か」

「っ!?」


 次に声をかけられた方を見て、僕は思わず言葉を失った。

 和泉先生も、彩乃も凄い美人だ。けれど、この子は……なにか違う! なにか危険など魅力を放っている!

 何故か男物の制服を着こなした彼女は揶揄うように俺を覗き込んで綺麗なウインクをした。


「ボクはショウだよ。よろしく」

「ショウ……よろしく」

「ふふっ、照れちゃって可愛いなぁ」

「か、可愛い!?」

「顔、赤いよ」


 つんっと指で俺の鼻を突いてくるショウ。その一挙手一投足が様になりすぎていて余計顔が熱くなる。


「でも彩乃が興味を持つ理由が分かったかも。彩乃、最近はずっとキミの話ばかりするからね」

「ちょっ、ショウ!?」

「アハハ、いいじゃない。本当のことなんだから」


 顔を真っ赤にする彩乃を見てショウが楽しげに笑う。そんな2人を見つめていると、ショウが視線に気が付いて、こちらを見てきた。


「どうしたの、太郎?」

「あ、いや……な、なんでショウは男子の制服を着ているのかなって」

「ふふ、知りたい?」

「そ、そりゃあ……」

「太郎のエッチ」

「っ!?」


 耳元で囁かれたその甘く誘うような音色に、クラッとよろけてしまう。そんな俺を見てショウはやっぱりどこか嗜虐的で艶めかしい視線を……。


「ショウ、あまり揶揄わないの」

「水希、ごめんごめん」


 別の子に叱られ、ショウはその雰囲気を消し去ると一歩引いていく。代わりに出てきたのはショウを叱った少女で……彼女もまた目の覚めるような美少女だった。


「ショウがごめんなさい。この子、可愛いものに目がないの。私は北条水希。この努力部の部長を務めているわ」

「部長さん、ですか」

「敬語はいらないわよ。私も貴方と同じ学年だから。水希でいいわ、太郎君」

「水、希……なんか、大人びてて同い年には思えないな」

「そう? よく言われるけど……仲良くなった人からは甘えん坊、なんて揶揄われるのよ?」

「えっ……」

「なんてね」


 ペロッと舌を出して可愛らしく笑う水希。クールな見た目だが茶目っ気もあるみたいだ。


「太郎君、ようこそ努力部へ。私達は貴方を歓迎するわ」

「まっ、まあ、よろしくしてやらないこともないわっ」

「ふふっ、楽しくなりそうだね」


 三者三様の美少女達。

 才色兼備、完全無欠のクールな優等生だけど少しドジでお茶目な北条水希。

 小さくて可愛らしい、でも少し強気で照れ屋な夕霧彩乃。

 どこか人間離れした美しさを放つミステリアスな美少女、ショウ。


 俺はこの日彼女達に出会い、そして今まで思いもしなかったドタバタとした日々を送ることになった。


 不思議な香りの漂うこの部室を舞台に、個性豊かな彼女たちと織り成す、甘く、少し苦いラブコメディ……ここに開幕。



「「………………」」


 なんだこれ。

 きっと隣で口をあんぐり開けて固まる夕霧も同じことを考えているだろう。

 次から次へと投下される特大の燃料に脳内のツッコミ工場はオーバーヒートを起こし、あちこちが火を噴き爆発を起こしている……そんなイメージが浮かぶ。


「……順番にツッコんだ方がいいのか?」

「やめておきましょう……思い返してもしんどいだけよ……」

「そうだな、同姓同名の他人と思った方が精神衛生上良さそうだ」


 俺の場合ショウとかいう謎の人物に変異させられていたけれど。悟を忘れないであげてください。


「どうだったかしら。中々自信があるのだけど」

「お前は俺達の反応から察せないの?」


 何か期待するように眼を光らせる北条に、俺はうんざりとした気分で返す。当然、いい感情を抱こう筈もない。


「正直、キツい」

「頭おかしいと思った」


 夕霧容赦ないな。ただ俺も同意だ。


「ふむ。まぁ天才は常に孤独。安易に共感されないだけでも良かったとしましょう」

「良かねぇよ。何一つ良かねぇよ」

「とりあえず青海君。一人称をボクにするところから始めてみましょうか。しもべと書く僕じゃないわよ、カタカナで書くボクよ」

「細かなニュアンス以前に俺は俺だから!」


 僕だろうがボクだろうが、そんな弱々しい口調使えるか。見た目の分、中身は男らしくなければただ舐められ、馬鹿にされるだけだと俺は身をもって知っている。


「ケチ」

「お前がワガママなんだよ」

「でもこれで理解して貰えたでしょう? 私の筋書き通りなら、主人公が入部した時点ではまだ決着はついていないわ。メインヒロインのいない、無限の可能性に満ちた未来が広がっているのよ!」

「……うん、そうだな。理解できたよ」

「あたしも」


 俺達は声高らかに胸を張る北条に力無く同意した。正直今の妄想垂れ流しで本旨が理解できたかと言えばノーだ。むしろマイナス、後退した感さえある。

 しかし、ここで否定をすれば昔ながらのRPGの如くまた一から同じことを説明されるような気がした。

 野生の勘というやつか。都会暮らしの俺達に野生なんてものは備わっちゃいないかもしれないが、夕霧も同じ反応を示したと思えば全くの気のせいではないのだろう。


 まぁ、おまけとして北条って意外と親しみやすいというか、馬鹿というか、頭おかしいというか……段々親しみやすさからは離れている気がするが、そういう感じのことを思ったりした。


 そんなわけで主人公不在のまま努力部は始動した。まだ部として何に努力するかも決まっていないが、ゆくゆくはここも俺の学園生活にとってそこそこにはウエイトを占めることとなってくるのだろう。

 とりあえず、田中太郎という転校生が来たら警戒することとしよう。

この回がやりたかっただけ

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― 新着の感想 ―
[一言] 草。 別人だ。
[一言] 次回あたりで、田中太郎が教育実習生として赴任してくるんですよね?
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