第18話 最初の活動
「改めて、ようこそ努力部へ。これからよろしくね」
「おう。まあ、ほどほどにな」
「右に同じく」
そんなこんなで北条が作る努力部とやらに参加することになった俺達は早速今後どうしていくかを話し合うことにしたのだが。
「それで、具体的には何をしていくんだ?」
「いい質問ね、青海君」
待ってましたと言わんばかりの北条。ふわっとした内容の部活だがしっかりとそこら辺の準備には抜かりはないようだ。
「どうしましょう」
「……ん?」
「困ったわね。正直何も浮かんでいないわ」
「何も無いの!? さっきのドヤ顔はなんだよ!」
「仕方ないでしょう。まだ入学して2日、青海君と夕霧さんというSランク美少女を手中に収めるという偉業を成し遂げただけでも十分すぎる努力の成果だと思わない?」
「俺は美少女じゃねぇ!」
「右に同じく」
「いや夕霧は美少女だろ」
「!?」
などとくだらない話をするが、部活動を立ち上げて何の活動もしないというのは、中々に問題な気がする。それこそ部の活動成果を求められても何も出せないし、何もしないというのが活動のスタンダードになると、もう何もできないよねって気分になってくる。サボり癖というやつだ。
しかし、努力部の活動内容なんて広すぎて逆に浮かんでこない。とりあえず毎朝のランニングとか? いや、それも俺は毎日やってることだし、今更努力として換算しがたいものがある……となると、部が一丸となって努力する、みたいなことは意外と難しいのでは?
努力部で決まっていることは入部条件くらいか。しかしそれも北条が認める主人公またはヒロインというふわっとした基準で……ん?
「北条、一つ疑問なんだけど」
「なにかしら」
「こういうさ、ラブコメっぽい独特の部活動って、主人公とヒロインが一緒に立ち上げるもんじゃないか? 勝手にヒロインサイドだけで地盤を固めていいもんなのかよ」
「いい質問ね」
「……本当に答えを用意しているんだろうな」
「勿論」
コホンと咳払いを挟み、北条はホワイトボードに書いた入部条件を消す。
「まず青海君が言った創部のパターンね。これは実質、一緒に部を立ち上げたヒロインが勝つと決まっているのよ」
「勝つって?」
「妊娠するということよ」
「そこは結婚するでいいだろ! なんで先に先に行こうとすんだよ!?」
この場にお子様がいるということを忘れるなよ、まったく……と思ってたら太股を夕霧に抓られた。前回に引き続き、いい加減心を読むのはやめてほしい。
「あながち妊娠というのも突然じゃないのよ。主人公とヒロインが一緒に部を立ち上げる……それって部が2人の子どもみたいなものじゃない?」
「確かに芸術家が作品を自分の子どもと表現するみたいなのはよく聞くわね……」
「二人で作った部を、様々なキャラクター、ドラマを交え大きくしていく……それってもう子育てよね。後からどんなにヒロインが現れても子どもの友達みたいなものでしょ? それこそ部の母にあたるヒロインを選ばなければ『奇をてらった』と言われてしまうみたいに」
「なるほど。最初にフォーカスするヒロインを設けるとハーレムはハーレムのようでハーレムでなくなるってわけだな」
「イグザグトリィ。正解よ」
ハーレムハーレムと連呼していると頭がおかしくなりそうだが、中々勉強になる。ただこの勉強が活かされる場面はきっと永遠に来ない。
「質問」
「はい、夕霧さん」
「だったら部活動をするのは変じゃない? ラブコメとやらに不利に働いているとしか思えないわ」
夕霧の質問の意図としては北条のラブコメ思想と努力部を切り離し、努力部の入部条件であるヒロインというのを有耶無耶にしようということだろう。したたかだ。したたかな幼女だ。
「それは違うわ。多彩なヒロインを一か所に集めるには何かしら共通点が必要よ。それがこの努力部になるの」
「近栄っていう広い範囲からさらに小さい部活に纏めるってこと?」
「ええ。それに美少女も厳選できる。主人公の周りに微妙な女の子がいたら萎えるでしょう?」
「なるほど。ふるいにも掛けられるメリットがあるのね……」
夕霧のやつ、俺が思ってた意図なんて持っていなかったみたいだ。全然粘らずあっさりと納得して頷いている。反応からして本当にただ疑問に思っただけみたいだぞ。所詮幼女は幼女か。
「でも、既に出来上がっているコミュニティに入ることは中々難しいと思うけど。その主人公とやらが普通の男子みたいな下心なく努力部に入ろうとするものかしら」
「ふふ。それに関しては既に想定ストーリーを練ってあるわ」
想定ストーリー? 首を傾げる俺と夕霧に、北条は得意気に語り出した。
北条水希プロデュース、努力部を中心に巻き起こる一大ラブコメの世界を……!