第12話 ツインテールにも色々ある
タイトルが変わりました。これからもコロコロ変わるかもしれません。
でも中身は大して変わりません。
なのでどうぞよろしくお願いいたしますわ!(突然の関西弁)
電車で1時間、最寄り駅から10分、それが近栄高校への道のりだ。我が家から駅まで大体10分くらいというのを考えると電車が来るのを待つ時間も考慮して大体1時間半くらいの通学時間になる。
通勤ラッシュなんていうが、当然通学者にとってもぎゅうぎゅう詰めの電車に乗せられるのは苦痛で、早く時間が過ぎろと念じることくらいしか許されない、そんな1時間耐久を終える頃にはまだ買ったばかりのブレザーも少しシワシワになっていた。
という前提を経て、
「おはよっ、青海。なにアンタ、朝からしけたツラしてるわねぇ……」
などと、ラッシュ帯の電車の苦しみも知らない徒歩通学のゆとり野郎に言われればムッとしてしまうのも仕方が無いよな?
「おはよう、夕霧。本当に来たのか」
「うんざりそうに言わない。ぼっちのあんたに一人での登校は酷でしょ? わざわざ遠回りしてきてあげてる友人に感謝しなさいっ」
「ぼっちは一人に慣れてるんだけどな……まぁ、あんがと」
今朝、昨日メール交換したばかりの夕霧から連絡があり、駅まで来るから学校まで一緒に行こうと言われていた。冗談だと思いつつ、予想到着時間を伝えておいたのだけど、本当に来るとは。
「でも実は夕霧が友達できて嬉しかったんじゃないの~?」
「ばっかじゃないの。そんなわけないでしょ」
どっちとも取れない反応。照れ隠しなのか、本気で馬鹿だと思ってるのか……いや、前者だと思っておこう。その方が俺の精神衛生上良い。
「あんた、メガネやめたの?」
「おう。伊達メガネってバレたし、ファッションでメガネかけてるって思われるの、なんか恥ずかしいじゃん?」
「変な自尊心……分からなくもないけど。でもさ、あんたメガネ無いだけでも随分変わるわね」
「そうか? 前髪は鬱陶しいし、むしろメガネにガードされてない分目に掛かってうざったいし。まあブラインドはできてると思ってるんだけど」
「うざったるい前髪と黒縁ダサメガネが互いに互いの気持ち悪さを高め合ってたってことね」
わぁ、毒舌。つまり夕霧も根暗メガネ以上に酷い悪口を頭の中に連想してたってこった。やんなっちゃうなもう。
「でも今は前髪のスキマからたまにキラッキラした目が覗いて見えて……うん、普通に美少女。大人しいちょっと不思議な感じの美少女」
「てめぇこのクソチビ」
「あんですって!?」
通学路のさなか、睨み合う俺と夕霧。たった一日、出会ってから丸一日も経っていない俺達だが、似た外見に関する悩みを抱えるもの同士、もしも相手のコンプレックスを刺激したら刺激し返すといった暗黙の了解が成立していた。今回は向こうからつついてきたので俺もはっきり打ち返してやったまでのことだ。
「お前と一緒に歩いてると妹を送り迎えしてやってるお兄ちゃん、みたいな目を向けられそうでむず痒いぜ」
「お兄ちゃん~? どの顔して言ってんのよ」
俯瞰してみたら多分険悪なんだろうけど、意外とやりとりは心地がいい。互いに冗談だと分かっているからだろう、夕霧の顔にも笑顔が浮かんでいた。
軽口を叩き合える関係……これが友達かぁ。随分と懐かしい感覚だぜ。
「でもあんたはいいわよね。いざとなったらお面でも被ってくればいいんだし」
「それはそれで目立つし、別の変な噂が立てられそうだ」
「あたしは身長なんてどうしようもないもん」
夕霧がデカい溜息を吐く。確かに身長は上乗せしようがない。厚底靴を履いたところで誤魔化せるのは数センチ程度。あまり不自然に靴底を厚くしても不自然さが増すだけだ。
「こういうことを言うと、怒るかもしれないけどさ」
「言ってみなさいよ。怒るかもしれないけど」
「そのツインテールが余計にガキっぽいんじゃない? いや、俺が思ってるわけじゃなくて世間一般的に」
嘘、思ってます。けれど、途中から猛獣の如く八重歯を光らせ睨んできた夕霧に口先だけでも否定せずにはいられなかった。身の危険を回避したいという当然の判断である。
「これはいいのよ」
「なにかこだわりが?」
「うん。まぁ色々あるの、あたしにも」
そりゃあ色々あるだろう。出会ってほんの僅かしかなく、俺も彼女を表面上でしか知らない。色々あると言われてしまえばそれまでだ。
「そっか」
というわけでこの話もここまでだ。うねうねと跳ねるツインテールは気になるものの、俺の中で触れてはいけないラインの内側にしまわれることとなった。