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第1話 根暗メガネ

男の娘と呼ばれる美少女顔にコンプレックスのある少年を主人公としたラブコメ(の予定)な作品です。

コメディ多めの甘さ控えめです。

どうぞよろしくお願いします!

 桜が舞い散る遊歩道。春らしいうららかな陽気。

 世界中が今日という日をお祝いしてくれてるのではないかと思えるほど清々しい朝だ。


 今日から俺は高校生になる。

 小学校から中学校に進学した時にも思ったけれど、新しい学校に通うというのは少し自分が生まれ変わったような高揚感がある。

 中学だとついこの間まで最上級生だったのに、今日から高校では最弱の最下級生に逆戻り……と思いつつ実は前に進んでいる。まるでRPGのジョブチェンジしてレベル1になったみたいな感じだ。

 ただ俺に関しては最上級生の恩恵なんてもんは大して受けてはこなかったのだからデメリットは薄い。それが嬉しいことなのか悲しいことなのか俺にはわからない……わからないことにしている。


「おはよーっ! あ、制服似合ってる!」


 背後から聞こえた女子の声と駆けるような足音に一瞬肩を震わせた……が、声の主は俺の所に来る僅か手前で止まった。振り返らずとも俺でない友人と合流したのだとわかった。なんとかギリギリ。

 危ない危ない。思わず振り返って、『え、あんたに声掛けてないんだけど……キモっ』というゲリラ豪雨的無差別攻撃に引っかかるところだった。


 会話の感じから同じ新入生っぽい。もしかしたら在校生は既に学校に集まっていて、今高校に向かっているのは皆新入生だったりするのだろうか。それにしてはみんな、誰かと楽しげに話しているように思えるけど……。


 俺の中学から、これから俺が通うこととなる近栄きんえい高等学校へ進学した生徒は殆どいないと聞く。少なくとも俺が知る限りでは地元から少しばかり距離のあるこの高校に進学しようと目論む生徒も俺だけだったようだ。

 近栄高校は部活動と進学、両面に力を入れた高校で、文武両道ではなく文武偏道、それぞれの得意を極めるという校風だ。入学には何かしら秀でたものが必要ということもあり、難易度の高い学力受験と部活動や専門技術を測る実技推薦の二つの入学方法が用意されている。俺は前者、受験組というやつだ。

 そういう意味でも所謂普通の公立中学だった我が母校から通えるような生徒はそう出てこないだろう。

 友達がいるのも学習塾の友達とか、それこそお受験して私立中学で一緒だったとかそういうのだろう。

 この段階から友達はいなくて当たり前……あたりま……随分友達連れ多いな……。


 そんなこんなで俺は、肩身の狭いぼっちな通学路を歩み、当然のようにぼっちなまま入学式が行われる体育館へ行き、ぼっちに相応しい隅っこにぽつんと座った。

 どうやら先に挙げたエリート同士の繋がりが入学前から形成されていたらしく、わきゃわきゃと楽しげな会話が耳に入ってくる。うう……すさまじい孤独感。今までの交友関係をリセットして新たな生活を1からスタートしようて心に決めたはずなのにこれじゃあスタートダッシュには期待できない。


「ねぇ」


 近くで女の子の声がした。話し声とは違う、やけに耳に届く声……っと、危ない危ない。またもや引っかかるところだったぜ。学べよ青海正悟おうみしょうご。この学校でいきなり俺に声を掛けてくる女子なんていない。


「ねえってば。無視しないでよっ」

「……え、もしかして俺?」


 肩を叩かれ漸く俺に話しかけていたのだと気付く。実はまだ半信半疑なのだけど、それは矮小なるぼっち故ご容赦頂きたい。


 そんな俺は声の主を見て一瞬固まった。

 少女だ、いや小女だ。幼女というほど幼くはないけれど、高校の制服を纏っているにしては驚くべきミニチュア感だ。小学校高学年がこれくらいだろうか?

 少し明るい髪をツインテールっぽく結んだミニチュアガールは、幼さを感じさせる可愛らしい顔立ちとは少しミスマッチな鋭い目つきで、八重歯を光らせながら俺の隣の席を指差した。


「隣、空いてる?」

「え、ああ。どうぞ」


 彼女が入れるように一旦立って道を譲る。そんな俺に彼女は驚いたように目を丸くしつつ、いそいそと隣の席に腰を降ろした。


「あんた、いい奴ね」

「そんないい奴なんて言われることあった?」

「だって……」


 ちらり、と彼女が鬱陶しそうに後方へ視線を飛ばす。そこにはこれも友達同士っぽい男子二人組が座っていて、


「なぁ、あの子可愛くね?」

「どれどれ? うわっ、ちっさ! お前ロリコンかよ!」

「ちげーよ! 顔もすげぇ可愛かったんだって。あー、俺、ロリコンに目覚めそう」


 そんな下世話な会話を交わしていた。


 人は誰かと一緒にいて、かつ周りが見えていないと声がデカくなるものだ。まさかあの二人もその小さい美少女に会話を聞かれているとは思っていないだろう。思っていたら余計たちが悪い。


「どこ行ってもこんなのばっか。こっちだってなりたくてチビな訳じゃないっつーの」

「苦労してるんだな」

「そりゃそうよ。同級生からロリ扱いされるなんてただの屈辱よ? さっきだってあんたに前だけ開けられて『小さいんだから通れるだろ』みたいな態度とられると思ってたし……!」


 それは若干被害妄想が入っている気もしなくない。そんな隣人はイライラとしたオーラを放ちながら胸ポケットから単語カードを取り出した。


「え、勉強?」

「当然。イライラしたときは暗記が一番。集中できるもの」

「それ集中って言えるのか?」

「うっさいわねー」


 とうとう俺にも火の粉が飛んできた。俺はスンマセンと小さく謝り、前を向く。またぼっちに退化してしまった。


「ねぇ」

「…………」

「ねぇってば!」

「え、俺?」

「その反応流行ってんの? あんた以外いないでしょ」

 うるさいと言われたから黙っていたのに、まさか彼女の方からお声が掛かるなど思うわけもない。

「あんた、名前は?」

「名前?」

「名前は名前よ。ずっとあんたとか、脳内で根暗メガネって呼ぶのも悪いじゃない」

「おい脳内の呼び方は胸にしまっとけよ。傷付くから」


 なーんて、彼女の小さな胸じゃしまう場所もないかー! だははのはー。


「今あたしの胸じゃしまえないとか考えてた?」

「まさか」


 後ろめたい発想は胸の内にしまっておく。これがお手本だぞ。


 だがしかし彼女の言い分は正しく、確かに俺は根暗メガネなんてあだ名が似合う見た目をしてる。

 伸びた前髪が黒縁デカメガネにかかって鬱陶しい……が、こうする理由があるのだ。ある意味根暗メガネと思われる方がマシと思える隠したい事情が。

 その事情を思うと、チビロリ扱いされる彼女の心情にも結構共感できる。だからこそ、当然のように行った行動が“いい人”と評価を受ける要因になったのだろう。ふふふ、紳士だ。ジェントルボーイだ。


「確かにそうだな。俺もお前のこと小さき隣人と脳内ナレーションするのはしんどかったんだ」

「あたしゃクモ男か。つーかそんな風に思ってたのね、やっぱり」


 ごつ、と脇腹を拳で突かれる。しまった、油断から胸にしまっていた思いが溢れ出してしまったたようだ。しまったしまった。

 だが、身体は子ども、頭脳は更年期かと思っていた彼女に意外と本気で怒っている様子はない。もちろん、加減を間違えたら容赦なく噛みつかれるだろうけど。


「あたし、夕霧彩乃ゆうぎりあやの

「夕霧さん、よろしく。俺は青海正悟だ」

「青海ね、よろしくするかは分かんないけど」


 呼び捨てアンド辛辣ぅ。ちょっとは気を許してくれてんのかなと思った途端これだ。人間関係は難しい。


「青海は友達いないの?」


 グサッ! いきなり俺の心に100のダメージッ!


「……もう少しオブラートに包めない?」

「オブラートに包んだところでいないものはいないでしょ?」

「そ、うですけど……」


 追い打ち性能高いなコイツ!

 そうです、ぼっちですぅ! と心の中だけで叫ぶ俺。

 明らかぼっち少数派のこの体育館内で叫んでしまえば即トイレ行き(便所飯的な意味で)なので自重する。まだクラス分けも発表されていない内から結論をつける必要なんてないのだ。


「大丈夫、あたしも友達いないから」

「何が大丈夫なのか分からないし、ぼっちは何人集まってもぼっちだから」

「哲学ね」

「哲学というよりは……アレだよ」

「なによ」

「アレはアレだろ」

「なんも浮かんでないんじゃない」


 意外と軽やかな会話を交わす俺と夕霧さん。扱いはぞんざいだけど、それはそれで俺には新鮮で悪くなかったりする。


「にしても、入学式から勉強って真面目だなぁ。俺なんて入学できた時点で満足しちゃってるっていうか」

「私、特待生なのよ。成績で学費を免除してもらってる。だから万が一にも落とすわけにはいかないの」

「特待生……って凄いな」

「凄くもないわよ。学年の成績5%以内に入ればいいんだから」

「さらっと言うけどさぁ……」


 それが大変なのはきっと彼女自身も理解しているのだろう。隙あれば勉強するという姿勢はその表れだ。


「悪い、本当に邪魔したな」

「ううん。青海みたいなやつがいるって分かっただけであたしには十分だから」


 可愛いことをおっしゃる。

 そんな会話から程なくして入学式が始まる旨のアナウンスが流れる。

 ぼっちにしては中々上々なスタートではないだろうか。上げることもなく落とされた俺であったが夕霧さんとの会話のおかげで、やはりこの高校を選んだのは間違いではなかったとしみじみ思うのであった。

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