第六話 観光案内(通りすがりの仮面小学生)
お待たせしました第六話。観光案内編の始めは駄菓子屋とんがりゃあ~。椎音の安否はいかに…
「俺は男だー!」
「!?」
轟く嬌声。飛び起きる漫画家。頭に鳴り響いた甲高い声に、椎音の怒りの沸点は優に超えた。
時を遡ること、三十分前。人気漫画家阿喜多椎音は飛び出してきた番犬に激突し、アスファルトの上に昏倒した。素人アシスタント、ジョーノ・チッカーツヤは、倒れた椎音を手早く観光目的に訪れた駄菓子屋の中に運び入れると、丁度風が通る縁側で休ませることにした。
それからジョーノは椎音を仰向けに寝かせて、椎音の頭の方から休むことなく団扇を仰き続けた。因みに団扇は受付台の上に置かれた誰かのものである。
町一番の猛暑日の昼。いつ起きるかもわからない椎音の顔を眺めながら、椎音の上から垂れ下がる翠玉色の己の髪を何度か払いのける。だが、鼻や顎から流れ落ちる自分の汗までは止めることが出来なかった。ジョーノの汗水は避ける間もなく、椎音の額に、頬にポタリと落ちる。だが椎音は小さく唸るだけで、意識は未だ夢の中。初めての観光案内を楽しみにしていたジョーノにとって、これほどつまらないことはなかった。
「ぷっ…面白い寝顔ですね…」
…はずだったのだが、ジョーノは椎音の霰もない呆けた口、前歯の中心部が欠けたせいでなんともカッコ悪い人気漫画家の寝顔を眺めながら、退屈タイムを意外と満喫していた。いたずら気分で頬を指でちょんちょんと突いては、意外と柔らかい椎音の頬を両手で抓りながら嫉妬して…中々椎音という男に楽しさを見出し始めていた。
だが、やはり猛暑日ということもあってか、カラカラになった喉に、発汗しすぎたせいで脱水症状にも似た脱力感がジョーノの体を蝕み始める。飲み物、飲み物…とジョーノは心の中で訴えながら周りを見渡すが、置いてあるのはカラフルなお菓子の王国で、飲み物らしきものは見当たらない(因みにジョーノは駄菓子を始めて目にする)。
――その時、
「俺は男だー!」
「!?」
駄菓子屋の入口から聴こえた子供の声。声はまだ幼いカナリア声がジョーノの耳を劈いた。それだけではない。ジョーノの隣で昏倒していたはずの椎音までもが、目をぱちくりさせて驚いていた。
だがしかし、椎音は無理やり脳を起こしたことで、未だに全身に意識が回っておらず、体全体は未だ重石となって動かせない。とりあえず目だけで現状を捉えようとすると…丁度真上に綺麗な翠玉色の髪をたなびかせる眼鏡の美女と目が合った。前髪部分だけが黒色なのが謎であるが…よく思い出せない。
「…誰だ?」
「ジョーノです!」
椎音は最初に映ったジョーノの顔を見て眉を顰めるが、ジョーノは素早く少し怒り気味に答えた。多分椎音は犬とぶつかった衝撃だけでなく、暑さで体が疲弊しきっていたことも重なっていたのではないだろうか…というのがジョーノの推測であったが、まあ椎音が起きてよかったと胸を撫で下ろすジョーノであった。
問題は終わらない。
「あ…知らない奴発見!」
「話を誤魔化すな! 俺は今も昔も男なんだ!」
と、駄菓子屋の入口でジョーノを指さす少年とカメムシらしきヒーローの仮面を被った少年の二人が現れた。背丈的に小学四年生くらいだろう。まだ外に出たばかりだろうか、まだ汗はそこまで出ていない。ジョーノを指さす少年は更に叫ぶ。
「お前はミドリムシ怪人だな!」
「え! ミドリムシ? …って微生物の名前デスネ」
ジョーノは忘れた頃に片言で返すが、少年はのしのしと蟹股歩きでジョーノの前まで近づく、じーっとジョーノの顔を睨みつけた。ジョーノも負けじと少年の顔をじっと見つめ返してみる。
五秒後、少年は顔を真っ赤に沸騰させたかと思えば、すぐさまジョーノから顔を逸らしてもう一人の少年の元へ戻っていった。椎音は何が何やらと言った様子で、ため息を零して、ジョーノを睨んだ少年に向かってこう言った。
「またお前らか…煩い二人組。お前もちょっかい出すな」
「誰か煩いだ! こいつと一緒にするな!」
「お前じゃありません!」
「…ジョーノだったな」
「はい」
と、笑顔で納得するジョーノに、仮面を被った少年が不意に仮面を取って怒った顔を見せてくる。可愛らしい男の子の顔立ちだ。ジョーノは今しがた起き上がった椎音を横目に、少年二人組にこう尋ねた。
「お二人のお名前を教えてくれますカ?」
輝く笑顔で見つめてきた眼鏡美女に少年は、ボッと顔を再び真っ赤に熟れた果物のようにさせながら、隣にいた少年に向いて答えた。
「お…俺か? 俺は大気!」
「何で俺に言うんだよ…カメムシライダーの俺は、水気だ!」
水気はやれやれといった風にジョーノに向き直ると、堂々と言ってのけた。ジョーノも綺麗なお辞儀をしながら答えた。
「ジョーノと言います。…かめむしらいだあ…ですカ?」
ジョーノが首を傾げていると、水気は満面の笑みで続けた。
「今大人気の仮面をつけて戦う戦士だぞ! 男なら絶対見ろ!」
「(私は女ですけど…)でも、見てみましょう。阿喜多先生も一緒に」
「はあ!?」
突如振られた三人の会話に度肝を抜かれる椎音だったが、ジョーノには考えがあった。
(もっと先生の秘密の顔を見ないと…。オットンさんが夢中になった理由を知るために――)
『カメムシライダー』とは今年の三月に始まった特撮ヒーロー番組で、カメムシが謎の実験により、ヒーローの力を有した人間となって悪と戦う話だが、椎音は全く観たことがない。これから見るつもりも絶対にないので、首をブンブンっと勢いよく振って答えた。
「見ない」
「見るんですね。やった!」
「お前の耳どうなってんだ!」
反論空しく、何故か決まってしまった椎音とジョーノのヒーロー視聴会に、大気と水気がニコニコ顔で近づいてきた。
「俺達もまた見たい!」
「だな! …確かここら辺に…」
水気は受付台の向こう側に仕切られていた障子を徐に開け放つと、障子の先からそれは大きな紅葉型の白髪のおばあちゃんが現れたのであった。そのおばあちゃんは眉を逆八の字に変え、怒りの眼で四人を見渡して、こう叫んだ。
「あんたたち…人んちで何やっとろんじゃあ!」
「「ぎゃああ!」」
おばあちゃんのお叱りに少年二人は互いに抱き合い共鳴を上げ、ジョーノは吃驚しながらもおばあちゃんの髪型に興味津々。一方椎音は無表情で手を上げて「こんにちは~」と力なき挨拶を交わした。おばあちゃんはそんな椎音に対し、少しだけ眉を優しい八の字に戻した。
「おう。こんにちは。あんたは挨拶してくれるから感謝してるよ。一応ね」
「一応かい」
「先生…知り合い何ですか?」
「ああ。よく立ち寄ってる店のばあさんだ」
少年たちと言い、おばあちゃんと言い、椎音と交流する人は意外と交友年齢の幅が広いのだと感心するジョーノであった。するとおばあちゃんはふと周りをきょろきょろ見渡し始めた。
「あれ? ブルブルは?」
「あ、そういえば…」
とジョーノとおばあちゃんは周りを見回したが、ブルブルは五人が見えない距離で駄菓子屋のすぐ真ん前にある看板の後ろに隠れていた。
「あんにゃろ~。一体あの美人の何なんだクソ男は!」
ブルドッグ特有の顔のしわしわを更に濃くしながら、椎音を鬼の形相で睨みつける。だが今出てきたらあのババアの餌食にされるので、ババアがいなくなった隙を狙うしかない。
ギシギシと歯ぎしりしながら、隠れ続けるブルブルの弱点は、おばあちゃんだ。おばあちゃんに抱き締めらえたが最後、納豆の腐った加齢臭で気絶していまい、倒れたブルブルを更におばあちゃん特有の納豆ボディーソープで体を洗われてしまう。二重の意味で何度納豆漬けになっただろうか…。もう納豆の臭いをちょっとでも察知しただけで卒倒しそうになる。
納豆の嫌な思い出を思い出しながら、ブルブルはおばあちゃんがいなくなるのを今か今かと待ち構えるのであった。
――観光案内時間、残り二十七分。
新キャラは出来るだけ早く出したい作者です。早めに出しとけば出すタイミングを計る面倒くさがりな作者にとって、どれだけ楽でしょう。…計算するの本当に苦手です。後早くPS4を買ってモンハンをやりたいです。…後もうすぐ遊戯王の新パックもあります。人生の楽しみはまだまだこれから!
梅雨は今のうちに降っておかないと、猛暑の時期の水不足が…。だからこそ梅雨を耐えましょう。大雨対策や洪水対策、後保険とかも考えなければ…では次回。また新キャラが…? 出るとは言っていない。