第二話 緊迫必死!
漫画家阿喜多椎音VS編集担当コウヘイとアシスタントジョーノの戦いが今始まる…!
現在正午過ぎ。数十台のパソコンを並べた縦長の机七列で、数人の編集人間がぐっすりと爆睡していた。ここは週刊少年ダンプの編集室にして、大人気漫画家を発掘せんと躍起になる大人たちの戦場であった。床に所々に舞い散る紙には多くの漫画家の魂が込められている。ダンプ編集部隊はその一枚一枚を血走った目で凝視しながら、深夜まで編集作業に没頭するのだ。そしてその戦場で気力体力を失ったものは…
――すぴー
ある者は作業途中でぶっ倒れ、机に頭を強打しながら深い眠りに就き、ある者はそのまま椅子ごと倒れて床で爆睡、またある者は広く空いてある床の隅っこで薄布団を敷いて熟睡するのだった。今現在無事に朝を、昼を迎えられた戦士は…人気漫画家の編集【コウヘイ】と途中参加の美人眼鏡翠玉・前黒髪・瞳左マゼンタ右シアンウーマン【ジョーノ・チッカーツヤ】二人だけであった。
――気づけば五分も睨み合っていた…
怒りと怨念振りまくその眼で編集担当を睨みつける漫画家【阿喜多椎音】。その眼光に負けじと睨み返す担当編集コウヘイに、ジョーノも負けじと睨み返す。額に汗をにじませながら、突然やってきた椎音に驚きながらも、コウヘイはジョーノを雇ってからこの光景を予想していた。だがジョーノの才能を開花させることに没頭したせいで、予想の範疇にいながら何も対策を考えていなかった。いざ本番となると、コウヘイの額からたらりと冷えた汗が流れるのを感じながら、一体どうしたもんかと考え倦ねることしかできなかった。
(くっ! どうする? こいつは今まで担当してきたどの漫画家よりも偏屈&(アンド)捻じ曲がり野郎。…とは言っても、そもそも漫画家の意向を無視する俺に突撃する阿喜多先生は至極正しい。明らかに俺に非がある中、説得できる余地があるのか? …くっ――いい案がさっぱり…! いや、まだ…)
コウヘイの目に光が宿ったかと思えば、睨むのを止め至極冷静に椎音に訊ねた。
「どうしたんですか? 阿喜多先生…」
「どうしたもこうしたもない。前に言ったよな。主人公を殺してもいいって…」
「そっ、そんな話しましたっけ…?」
――…もう一度言ってくれ…
――ああ、主人公を殺してもいい。もちろん替わりの主人公をヒロインにしても構わない
「!」
コウヘイは目を疑った。椎音は右ポケットから取り出したボイスレコーダーを起動させていたのだ。…つまりこの音声は…
「一昨日話した…」
「ああ。言い逃れできないだろう?」
「ぐっ…」
椎音の目は本気だった。この場所に突撃するまでにどれほどコウヘイとの勝負の準備をしたのだろうか。しかもボイスレコーダーを常備するほどに…そしてそれ以外にもしっかりと準備しているであろう。椎音の服装は大きな黒いコートでしかもポケットが十個ある。つまり凡そ十個のポケットから証拠品を提示することができるのだ。…いや、このコートは新作が発売されたばかりで、ポケットの数凡そ三十個。背中や内ポケット、袖や裾の至る箇所にポケットが存在するはず。つまり最高三十個の証拠品を提示できることになる。
…何の準備もしていないコウヘイに勝てる余地は…万に一つもない。コウヘイの思考はそこで途切れた。このままでは次号で椎音の出すはずだったあの回を出さなくてはいけない。そして漫画家の意向を無視したコウヘイの首が飛ぶことはもちろん…せっかく出逢えた美女とお別れに…
対抗策なき今、コウヘイはただ憮然と椎音を見つめながら諦めかけた…その時。
「ん…むにゃあ~…あに?」
「「!?」」
奥の空いている床で爆睡していた痩せ型編集戦士【捕女】の寝ぼけた声がジョーノとコウヘイの耳に入ってきた。ジョーノは即座に思考を張り巡らせた。もしここで捕女が起きれば、先ほど言った捕女の姉設定が嘘であると、椎音にバレてしまう。そして未だ部外者であるジョーノはそのまま警察に捕まってしまう。
それは駄目だ。今やっと夫の愛する漫画家阿喜多椎音に逢えたのに…夫が特に愛してやまなかった主人公を殺そうとしているこの一大事に…私が何もできないなんて…そんなこと…
「出来る筈…ないじゃないですか。阿喜多先生」
「! (ちょっと? ジョーノさん!?)」
「何だ牛蒡女。文句あるならわかりやすくちゃんと言え」
言葉が自然に声となって出てしまった。ジョーノの言葉に驚き後ろを向くコウヘイに、毅然な双を崩すことなくジョーノを睨みつける椎音。思わず走った口を手で抑えたが、もう取り返すことはできない。…そしてこの燃え上がる感情を抑えることなど…出来る筈がない。ジョーノの目は燃え上がった太陽の如く再び椎音を睨みつけると、途端にその場から姿を消した。
「! どこに…!」
「ここです」
「!」
そして瞬時に椎音の背後に移動し、椎音の気絶ポイントを即座に見抜くと、股間部に向かってそのまま片足を地面から蹴り上げた。椎音の両足の間を通って、ジョーノの左脛は見事椎音の金的にヒットした。――ゴフンッという鈍い音と共に椎音の意識は途切れ、ガクリと手足と首は糸を失った人形のように崩れ落ちる。寸前、ジョーノはすかさず椎音をお姫様抱っこさせた。そして声を出した。
「阿喜多先生の住所は?」
「お!」
一連の行為を茫然と見ていたコウヘイは、驚き椅子から飛び上がった。だが数秒後、ジョーノの意図を察して、すぐさま既に書かれていたメモ帳をジョーノに投げた。
「お願いします。重ね重ねすみません!」
コウヘイはこんな状況に至った自分の不甲斐なさを呪った。ちゃんと対策を練っていればならなかったかもしれない窮地。その状況を一変させたジョーノに感謝するように、深く頭を下げた。ジョーノはコウヘイの勇姿を見送りたい気持ちを押さえつつも、コウヘイに渡されたメモ帳と椎音を順繰りに眺めながら、編集室を後にした。
「…何だったの…今――」
そんな目まぐるしい一連の光景を見ていた捕女は、懐に持っていた眼鏡を掛けながら何度も入り口のドアを見つめていたのだった…
一時間弱で書いたので色々誤字脱字があると思いますが、この作品はこれくらいの勢いでいいのかとうかを確かめるために、投稿したいと思います。…というか、早いとこ落ち着ける場面まで行きたいのでもうしばらくこのスピーディードタバタコメディーをお楽しみください。
というわけで次回もまだまだスピーディーな速さで書きたいですが…まあその時になったら考えます。最近暑くなってきて、私の体もそれに合わせるようにくしゃみや鼻水が止まりません。誰か助けてください。