第十三話 レッツ! ファッションショー!
漫画家・椎音の提案で服屋に赴く三人であった。その道中…
(俺がただこうして覇ナ婆の服を汚したことに焦って、似たような服を買うことで誤魔化そうなんて情けないことをするわけ――――ブルッ!)
一瞬、覇ナの鬼の形相を思い出してゾクリと身震いした。漫画家・阿喜多椎音は、非常に焦っていた。自分が住む家の管理人である覇ナがアシスタントにあげたエメラルドドレス。…を汚した真犯人である椎音は今、ドレスを着た超ド素人アシスタント、ジョーノ・チッカーツヤと共に椎音行きつけの服屋に向かっていた。何故か偶然待ち合わせしていた子供二人も(ジョーノの誘いで)ついていきたのだが…。
而して四人の椎音一行は服屋を目指して、地下深くの長い梯子を下りる途中であった。
「いや、地下に服屋ってなんだよ」
子供が一人、自らが女であると漸く知った十六夜水気の冷静なツッコミが、椎音に刺さった。梯子の順番は下から椎音、ジョーノ、水気、大気。闇深い四角形の深淵を進みながら、椎音は淡々と答えた。
「真実だ。俺が行きつけにするにはぴったりの服屋『児島生島の十十島』の店主は俺の同級生。そしてその店はここ以外にも入り口が何箇所か在って、この町ではここのみだ。後金持ちの常連客もいるから、侮る勿れ」
「よく噛まずに言えるなあ…」と、水気の親友・大気の呟きをよそに、ジョーノは何度も椎音に忠告し続けた。
「絶対上は見ないで下さいね! 私が先に降りた方がよかったんですけど、真っ暗な先頭が怖いのでしかたなく!」
「ああー解った解った。いいから黙ってくれぇ…え――――、いや、大丈夫だ」
「ちょっと!? 今見ましたか!? 見ましたか???」
「いや………………………………見てない(パンツも緑か…ふん)」
「今…何を想像しましたか?」
椎音の意味深い言葉の途切れに、ジョーノは素早く足を上手い事曲げることでスカートのガードを厚くした。その後、片足を梯子から外すと一瞬のうちに椎音の頭に数発の踵落としをかましたのであった。「ぎゃん!」と悲痛な叫びを上げるが、一度見えてしまえばもう遅い。椎音は店に着くまでの間、終始無言を貫き続けたのだった。まるで何かを考えるかのように…。ジョーノは後で椎音に追及を試みようと決めたことは言うまでもない。
梯子をどれだけ降りただろうか。手と足がビリビリと痺れるくらい疲れた始めた頃、四人は何時間ぶりの床に降り立ったのであった。だが降り立った場所は未だ狭い暗闇であり、ジョーノは暗闇を怖がるように椎音袖にしがみついた。
「歩きづらい…」
「だってぇ…」
もはやジョーノは先ほどのパンツの件を問う気力もない。椎根は震えながら自分の袖を掴んで離さないジョーノに苛立ちながらも、初めて見るジョーノの怖がり顔に少しだけ見惚れた。だが、すぐに頭を振るや、足早に服屋を目指すことにした。小学生組はジョーノと変わってワクワクソワソワしながら椎音の後ろをついてくる。
そして少し歩いた先で、ついに――
「ここが児島生島の十十島。なんでもござれの服専門店だ」
と、椎音はまるで自分のように腕組をしながら言い放った。椎音の目の前に広がる風景は、まさに地下空間とは思えないほどのだだっ広さである。何十平方メートルあるのだろうか…そこかしこにハンガーにかけられた何千着の服が鉄棒で立てかけられている。鉄棒は店の半周ほどの長さで迷路のように囲っている。まるで迷宮の森のよう。――だが、椎音の自信たっぷりの声は空しく無視されることになる。
「あの~」
「何だ?」
「天井…もう少し高くできませんか? とても窮屈でまともに立てません」
ジョーノの身長は優に二メートルを超える。椎音や子供たちにとっては余裕なのだが、ジョーノにとっては謂わば小人の世界に入った巨人であり、現在進行形で腰と膝を曲げ天井に手を付けなければ、まともに立つこともできないのだ。
「ガリバーか…」
「あ、それ知ってる。ちっちゃい時に読んでもらったやつだ」
「俺も俺もー」
椎音の呟きに、大気と水気が便乗する。『ガリバー旅行記』とは、船医ガリバーが様々な島に訪れる物語である。その中で椎音たちが心に残っている話は、ガリバーはとある島に訪れるが、その島は小人が住む島であり、ガリバーを見た小人たちは驚き、ガリバーを大勢の小人とたちが縄で縛ろうとする…という話である。ジョーノはまさにガリバーそのものである。が、ジョーノはガリバーを知らないようで首を傾げている。
するとその時――
「なんだ椎音じゃん」
椎音から見て前方の服の行列から、何かが暖簾のように数枚の服を捲り上げた。現れたのは、従業員用の黒エプロンを着た店員。名前カードを見ると、「十十島莉緒」と書いてあった。右側の髪が金髪で、左側の髪は褐色のハリネズミヘアーで、目は吊り目で、頬に塗られたはなまる印は、いかに店員がおかしな性格かを物語っていた。椎音とその店員は顔を見合わせるや否や、さっそく真正面に並び立つと…
「よ、十十島」
「よ、阿喜多」
にこやかに呼び合った。そして右手のひらをあげると、そのままポンっと頭の上に置いて、そのまま髪をくしゃくしゃと掻きまわした。これがこの二人の挨拶なのだろう。お互いの髪はいい感じにぐしゃぐしゃになった頃合いで、またも二人はにこりと笑いあう。ジョーノは六メートルほどの高さのあるところに移動すると、「う~んっ!」と窮屈からの脱出した喜びで思い切り背伸びをした。
「ごめんねえ…ここ私が見様見真似で掘って作っててさ――ここらへんくらいしか丁度いい高さなくて…」
「いえいえ私の方こそ突然押しかけて…って――――あなたが? ここを? おひとりで…?」
「「まじかよ…おばさん」」
「お姉さんね! まだ!」
「こいつ馬鹿力と馬鹿体力だけはあってな」
「だれがバカだ誰が! まあ私を含めて五人くらいでね」
ボンっ。と見事椎音の頭に拳骨を食らわした莉緒は、コホンと頬を赤らめながら自慢げに語り始めた。
「学生時代のころは円盤投げ選手でさ…大学までめちゃんこ頑張ったんだけど…優勝したのを皮切りにやりたいことなくなっちゃって…。そんで椎音に「何かある?」って言ったら「服でも売れば?」って――。丁度その頃私も服に興味を持ち始めてさ…そんでいろいろあって作ったのがここなの」
「いろいろって…」
ジョーノはまずその「いろいろ」が気になったのだが、莉緒はふんっと鼻を鳴らして胸を張った。莉緒は自分の店を見られること自体が、自分の夢を体現しているといってもいいらしく、自分の服を着てくれるよりもよほど大切であった。
ふと椎音は莉緒の目を見ると、莉緒は椎音の目を見ただけで快く頷いた。
「任せなさい。今回のお客はあなたたちね!」
莉緒はジョーノから水気、大気の順で指をびしっと差した。莉緒はいつもお客が来るとこうして指をさす癖があるのだ。椎音は「ああ、存分に遊んでくれ。あ。ジョーノは緑の軽い感じのドレスで頼む」とだけ言った後、近くのパイプ椅子に座って寛ぎ始めたのだった。
「「「……え?」」」
すでに準備万端の莉緒を前に、ジョーノたち三名、特に大気は何故自分が選ばれたのかと、怪訝な顔で莉緒を見つめるのであった。
新キャラ十十島莉緒。十十の本当の漢字は『?』です。このサイトでは投稿できないそうで、残念です。彼女は学生時代ずっと円盤投げを極め続けていた。理由は次回解るやも…次回はファッションショー回です。っといっても私の語彙力だけで伝わらないと思うので、もしかしたら絵を描くかも…この物語の絵はそれが初めてですかね…。
私事ですが、遊戯王のシャドールデッキはできたのですが、デッキ枚数に悩んでおります。現在50枚。シャドールカード以外で必須のカードがどうしてもいるのですが…頑張って回していくしかありませんね。シャドールは融合デッキ、融合カードをいち早く手札にそろえることが大切です。新たに登場した新規カードたちと現カードたちで力を合わせて、エクストラモンスターをメタっていきましょう!