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タイミング良く精神が入れ替わる私~公爵令嬢スカーレット編~  作者: 氷見
第二章 紅蓮の魔女は木魔法が使いたい
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第八話㋜ めんどくさい子アリア

 朝起きると、寝袋に入っていた、部屋の中を見回すが、部屋でなく天幕だった。

 まさか……と思い腕を見ると、久しぶりにみるエカルラトゥの筋肉質な腕が見える。

 マジで? と思いながらエカルラトゥの記憶を探る。


 どうやらアロガンシア王国ナミュール領のようだ。

 面白い事に、私がいたのはモデスティア王国キャンベル領で、国境を挟んで隣接している。

 お互いにいる場所の距離は前回よりはるかに近い。


 どうやら国境周辺の賊狩りなんてことをしているようだ。

 エカルラトゥって近衛騎士だったよね? とか疑問を思い描くと理由が頭に浮かぶ。


 第二王子ギデオン、エカルラトゥの記憶を見る限りじゃこいつも碌な奴じゃないな。

 学院卒業後にお見合いしたパーシヴァルに似ている。

 パーシヴァルはお見合い時にいらつきすぎてフルボッコした貴族だ。

 まあ、あんな奴どうでもいい、いまとなっては社交界には出てこないし私の周りにはもういない。


 そのギデオンがまた無茶を言っている。

 アロガンシア王国の王子は碌な奴いないな、と思うがモデスティア王国も似たような者だ。

 甘い教育の弊害じゃないかな? なんて思いながら外へと出る。


 どうするかな~と思いながら体をほぐしていると、この状況を普通に受け入れている自分に気が付きげんなりする。

 地面に蹲って人生について考えていると、人が近づいてくる。

 アリアちゃんのようだ。


「エカルラトゥ様、おはようございます、お早いですね」


 アリアは満面の笑みで挨拶をしてくる。

 アリアの記憶を頭に浮かべる。ジェレミーが言い寄っているが逆に距離を取られているようだ。

 それに反してエカルラトゥとは仲良くなっているが、ジェレミーとの仲がこじれそうで怖い。

 そもそもこんな早くにエカルラトゥの所に来るとか……嫌でも身構えてしまう。

 この子も結構めんどうな子だよね、と思いながら挨拶をする。


「おはよう」


 挨拶を返すと、アリアがもじもじしだす。

 怖い事を言わないでよ、と心の中で祈っていた。


「あ、あの、わた、私と模擬戦して鍛えてもらえませんか!」


 なんとか言い切ったアリアが、ハアハアと息を荒げながらこちらを見つめる。

 まあそれくらいなら……と答える。


「今から?」


「はい!」


「わかった」


 天幕に戻り木剣を持ってくると、すでに準備万端なアリアが外で待っていた。

 

「じゃあやりますか」


 そう言って構えた瞬間に、アリアが予想をはるかに超えた速度で近づいてくる。なぜか私が作った魔法を使っている。

 ふぇ? と思ったがエカルラトゥの体なら、なんでもやれる。


 同じようにこちらも一瞬でアリアの後ろに移動して剣を振る。

 アリアが避けられないと判断したのか、剣で受け止めると、そのまま鍔迫り合いに移行する。


 間合いを詰め寄られた瞬間、こちらの剣の軌道外にアリアが体を寄せると剣から手を離しこちらに触ろうと手が伸びてくる。

 もしかして、と思いその手を避けながら後ろに下がる。


 その後流れる様に剣を持っていないアリアに剣を振り下ろすと、剣の腹を掌底で叩いてくる。

 普通なら接触は出来るだろうが、軌道を反らすだけの動きは出来ないのだろうが……。

 掌底が剣の腹に接触した瞬間に指向性の爆発が起こり剣の軌道が大きくずれて、空を斬る。


 何この子、めちゃくちゃ強いんだけどおかしくない?

 しかも私がエカルラトゥの体に居た時に作った魔法どっちも使えるってどういうことなの。


 しょうがないと思い、自分の脚に揺らめく炎が少しだけ纏わりつくと、先ほどとは比べられない速度域に入る。

 そもそもこのエカルラトゥの体の為に作った瞬間ブースト、何故か命名されている、は闘気の炎に乗せる用に構築したものだ。

 何かが弾ける音がすると共に、私はアリアの死角に動き剣先をアリアの首筋に当てる。


 二人とも一瞬止まると直ぐに後ろに下がる。

 アリアは木剣を拾うと、深い深呼吸をする。


「本気の本気でも全然届きませんね……」


 アリアが項垂れなてそんな事を呟くが、もう充分強くないかと思う。

 鍛錬していて良かった、きっと昔のままなら負けてた気がする、まあ闘気の炎をガチでつかえば勝てるだろうけどそれはね、と隠れながら息を吐く。

 なにやら先の模擬戦で気づいたのか、目をキラキラさせて私に聞いてくる。


「しかし、流れる様な魔力制御……そんなにエカルラトゥ様は魔力操作がおとくいでしたか?」


 む、そこを言われるとやばいな、動きなどはエカルラトゥなのだろうが、魔力操作は私であるスカーレットだ。

 想像以上に魔法に精通しているアリアは、要注意人物として私の心に刻まれた。

 どうしたものかと思っていると、微妙な距離の木に隠れ、涙を流しながらこちらを伺うジェレミーを見つける。


「ジェレミーどうした?」


 そう声に出すと、アリアがびくんとしてジェレミーの方を見る。

 すこしだけ気まずそうにジェレミーが近づいてくる。


「よ、よお、模擬戦か?」


「ああ、アリアとな……」


「では、私は失礼します」


 そう言うとアリアは頭を下げ、逃げる様に去っていく。

 そんなアリアを見送りながら、泣くジェレミー。

 なんか百年の恋でも冷めてしまいそうな絵だな、いや恋してるわけじゃないけど。

 せっかく良い男なのに勿体ないなと、深く溜息を吐いているとジェレミーがつかみかかってくる。


「なんでアリアちゃんと朝練なんてして……」


 ジェレミーに両肩を掴まれ、がくがくと揺さぶられる。

 私はゆっくりとジェレミーの腹に拳を添えると、ジェレミーが呆けた顔でこちらを見る。

 パンッという音と共にジェレミーが後ろに吹き飛ぶ。


「ぐっは……なんでそれを使えんの?」 


「わたしはスカーレットよ」


 ジェレミーはこちらを見ながら口を半開きにして数分呆けていた。

 私は良く待ったと思う、どうでも良い男だったら、即近づいてびんたするか、近づくのが嫌なら燃やす。


「ほんとに?」


「ああ」


 ジェレミーは起き上がりこちらに近づいて、舐める様に見てくる。


「ほんとうにあの紅蓮の魔女なのか?」


「それやめてくれない? 恥ずかしいから」


「ああ、そういや俺らの国だけで呼んでる二つ名だったな」


「そうよ、というかそんな感じのって恥ずかしくないの?」


「いやべつに……とりあえず女言葉はやめようぜ……鳥肌たっちまうわ」


 ジェレミーは両腕で自分を抱えながら、ぶるっと震える。

 まあ、エカルラトゥとの入れ替わりは、最後らへんは一人だったから私は慣れちゃったのかもしれない。


「わかった」


「正直、エカルラトゥから聞いた時は半信半疑だったんだが……まあ今もだが」


 その時の映像が頭に浮かぶ。


「そうみたいだね」


「ああ、記憶を見れたんだったな」


「意識しないと無理だけどね」


「じゃあこれはどうだ?」


 ジェレミーが近づいてきて、ゆっくりとこちらの肩に手を触れようとする。

 まさかジェレミーも、と思い今回は違う対処をする。


 パンッ、と音を立てるが私は微動しない、ジェレミーの触れた手が弾ける。


「え? なんで?」


「接触部分にジェレミーより大きな爆発で返した、ゆっくりじゃないとできないけどね」


 ジェレミーは吹き飛ばされた手を見ながら言う。


「さすがだわ、間違いなくスカーレットなんだな疑う余地なんて一切ないわ、それにしてもこの魔法凄いな、宮廷魔術士達も驚いてたぜ、あ、すまんが上に報告しちまった、作ったのはスカーレットって事になったままだが」


 ジェレミーがべた褒めしてくる、そうよね奇襲にも使えるし色々悪戯にも使えるのよね。

 と、ちょっと嬉しくなる。


「はぁ、それはまあいいわ、隣国の戦力増強しちゃったのは仕方がないけど、良く私の名前でだしたね」


「いやさ、エカルラトゥが何も気にせずにそう言っちゃったんだよね、あいつ脳みそ筋肉だから」


「なら仕方が無いね……そもそもこの魔法の概要を書いた簡易本は、燃やしておこうと思ってたんだけど、徹夜で作って忘れてた。しかも作った後に外壁使って出来るかどうか試しまくったから、さらに疲れて燃やす前に寝ちゃってた、完全に自己責任だわ」


 そう言いながらちょっとだけ罪悪感が沸き上がる。あの時は暇だったし仕方が無かったと自分に言い聞かせる。


「ん? 今聞き捨てならない事を言ったな……もしかして外壁が薄くしたのスカーレットがやったんじゃないだろうな?」


 ジェレミーがこちらを睨みながら聞いてくる。

 トラビスの事を言っているのだろうが、何故睨むのだろうかと疑問に思いながら答える。


「そうだけど、なにかあったの?」


「ああ、なぜ壁が薄くなったのかを調べる為に、施工業者から設計、以前軟禁された貴族などの聴取を近衛騎士が担当したんだ。いっとくが一か月以上かかったんだぞ、あの事件調べるのに」


 ジェレミーがジト目で見てくる。


「ま、まあそりゃ大変だったね……」


 まさかあんなことになるなんて、あの時は思わなかったもんね。不可抗力だ。


「そりゃおかげで戦争の話は消えたけどさ……まあなんだ……ふぅ……俺は感謝している」


 ジェレミーは頭を掻き言いよどみながら感謝の言葉を言う。

 ぶっちゃけ私は敵国だった女なわけだ、そんな奴に感謝ってやっぱ良い奴だなって思う。


「私も戦争が起きなくて良かったわ、心おきなく魔法開発できるし」


「スカーレットらしいな、移り替わっても魔法開発するくらいだもんな」


 ジェレミーが笑いながら言う。


「しかしなんでまた移り替わってんだ?」


「私が聞きたい事だわ」


 両手を広げながら答える。


「そうだよな……なにも起きなきゃいいけど」


「それこそ神のみぞ知る、ね、まあ今日一日はエカルラトゥとして動くから」


「まあなんだ、今日は頼むわ」


 ジェレミーとこんな感じで喋るのも悪くないなと思っていると、遠くから視線を感じる。

 見るとアリアがこちらを伺っているのが見える、なにやら頬が赤くなってるし目線が熱っぽい気がする。

 何も起きないで欲しいな、と思いながら天幕に戻る。

タイミング良く精神が入れ替わる私~公爵令嬢スカーレット編~


第八話㋜ めんどくさい子アリア 終了です

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