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第二十六話㋜㋓ 長剣と指輪

 エカルラトゥの体が、目を覚まし周囲をみながら悪態をつく。

 

「あの馬鹿、スタールビー使うなんて度がすぎるわよ」


「あれっ、スカーレット様……寝た時に入れ替わるんじゃないんですか?」


 傍にいたアリアが直ぐに、エカルラトゥとスカーレットの精神が入れ替わっている事に気づき、スカーレットの名を呼ぶ。


「ああ、気を失ったから入れ替わったみたいね。最初に一度だけ日中に入れ替わった事あるわよ」 


「そんな事もあるんですね……」


 アリアがスカーレットを見ながら呟く。


「どれくらい気絶したの?」


「一~二分くらいです。スカーレット様……の体も落下してきましたが、ナタリーさんが行かれました」


「そう……」


「スカーレット、体は大丈夫か?」

 

 ジェレミーが、何とも言えない顔でスカーレットに尋ねる。


「……なんともないけど、なんで?」


「いや……」


「私が風魔法を当てて、落下スピードを削いだのですけど、重すぎてジェレミー様では抱えられなくて……そのまま地面にぶつかりました……」


 ジェレミーが明後日の方向をみながら頭を掻く。

 スカーレットはエカルラトゥの体を見ながら言う。


「仕方が無いと思うわ。こんなに筋肉ついてるわけだし……これは受け止められないわ」


「そう言ってくれると気持ちが楽になる」


 ジェレミーがほっとしながら、そんな事を言う。

 スカーレットは地面に突き刺さっている長剣を取ろうと近づくと、アリアが呼び止める。


「スカーレット様、その剣を取ろうとすると金色の炎に包まれるので持つのをやめました。気を付けてください」


「あ~、そういう事か……」


 納得しながら長剣を取るが、何も起きない。

 それを見ていたアリアが、不満顔で呟く。


「え~、何にも起きませんね……」


「どういう事なんだ?」


 ジェレミーも疑問が浮かんだのかスカーレットに聞く。

 

「これが【ほうおう】の加護を受けたって事よ」


 スカーレットは長剣に魔力を流し込み、仄かに金色に輝く長剣を二人に見せる。

 だが二人は意味が分からない、と首を傾げる。

 スカーレットは手のひらを見ながら、頬を紅潮させて二人に言う。


「それよりも、やり残したことがあるから先に行くわね」


 そう二人に言い放ち、合同会館の門へと文字通り飛ぶように向かっていく。





 合同会館の門にスカーレットとエカルラトゥが同時に到着する。


 両軍の一部の兵達が、この戦場から逃げようとしているのを、抑えようと必死になっているせいなのか、陣形は既に意味が無くなっている。

 二つの軍は、混乱した状態で戦い所では無いようだ。


 そんな二つの軍とは対照的に平和な合同会館前では、ヘクターとカーマインが話し合っている。


「二人の戦いのお陰で、戦いに怖気着いた兵や領主が逃げようとしてぐちゃぐちゃだ。どう責任を取る!」


「そう言われましても、あの二人が勝手にしたことであって……」


「お前なら止められただろ!」


「あれを見てそう言えるヘクター殿は、少し私を過大評価しすぎですよ」


「だがお前の弟子だろ!」


「弟子だった、が正しいですよ。攻撃魔法に関しては数段劣っていますから、止める事などとてもとても……」

 

 ニヤニヤしながらカーマインが普段通りに言うが、その態度に苛つくヘクターが顔を真っ赤にしながらカーマインを睨んでいる。


「ちっ! 二人が戻ってきたようだな、おい! 二人とも、こっちに来い!」


 ヘクターが、スカーレットとエカルラトゥに気付き、二人を呼ぶ。

 

「まだやる事があるから後にして欲しいのだけど」


 野太い声で、スカーレットっぽい喋り方をするエカルラトゥに面食らい、言葉が出ないのか、ヘクターが口をぱくぱくさせている。

 

「エカルラトゥ? ……いや、ス、スカーレットなのか? いや、誰が誰とかどうでも良い、この責任をどうとるのだ!?」


「知らないわよ。もうモデスティア王国とかアロガンシア王国とかどうでもいいわ。ヴァーミリオン家全員を引き渡すって約束したんでしょ? 何を今更私に命令してくるのか、こっちが困惑するわよ」


「ぐっ! 聞こえていたのか……」


 ヘクターが眉間に皺をよせながら言い淀む。


「だから私の行動に口を挟まないでくれる?」


「……」


 顔を真っ赤にしながら、無言でスカーレットを睨むが、スカーレットは気にせずエカルラトゥに近づき話しかける。

 

「どこまで行けるか気になるんでしょ?」


「ああ、精神が入れ替わっている時にこそ、俺達は最高のパフォーマンスを発揮出来るのではないか、という疑問が浮かんでいる」


「じゃあ試してみたいわよね?」


「いいのか?」


「貴方も聞いてたでしょ、オリバーがヴァーミリオン家を捨てた事を……」


「ああ……」


「それに、ザインなら確実に受け入れてくれるから、何も問題はないわ」


「それは絶対だろうな……」


 二人が喋りながら、両軍の中央へと再度向かう。

 前回とは違い、焼け野原になった、かつて平原だった場所に二人が再度対峙する。


 大騒ぎしていた両軍が、戦場のど真ん中に再び二人が現れた事に驚いたのか、静かになる。


 そんな中、再び剣を抜き、前回とは違ってお互いが剣技のみで戦いだす。

 エカルラトゥはスカーレットの体で、レイピアを使い、襲い来る剛剣を綺麗に受け流し、スカーレットの隙を付きながら最小限の突きを放ち反撃する。

 スカーレットはエカルラトゥの体で長剣を使い、剛剣をエカルラトゥに向けて、一刀一刀力を込めながら振り抜き、エカルラトゥの突きを最小限の動きで避けながら攻撃する。


 お互いがどこに攻撃が来るのかが分かるかのように、拮抗した状況はどちらにも傾かずに、何も変わらない。

 剣の舞かと見紛うかのような剣舞に、見ている者達は圧倒される。


 やがて二人の確認が終わったのか、二人が同時に後ろに下がり魔法での攻撃に移行する。

 ほぼ同時に同じような魔法攻撃をするので、二人の真ん中では爆発が連鎖的に発生する。

 炎の竜巻や緋色の雷が周囲に発生し、いたるところで爆発音が鳴り響く、それはまるで地獄絵図でも見ているかのようだ。


 やがて魔法での応酬をやめたのか静かになっていく。

 二人が剣を構え、またもや剣と剣で語り合う。

 そのさなかにエカルラトゥが声をかける。


「終わったらザインに行く気なのか?」


「その予定だけど……」


「じゃあ、その予定を変えないか」


「どう変えるの? アロガンシアを潰して、モデスティアに許してもらう? それともその逆?」


「いや、ここに丁度良い建物があるだろ? だからここに二人で国を作らないか?」


「……本気? まさか貴方がそんな事を言うなんて……でも悪くは無いわね」


「そもそもスカーレットは公爵で、俺も王家の血筋だ公爵の条件は整っている。ならば大公を名乗ってもいいんじゃないか?」


「じゃあ、どこぞの国に捨てられたヴァーミリオン家の名を付けてくれるなら、その考えに賛同するわ」


 剣と剣を交えながら、のんきに会話をする。

 スカーレットがエカルラトゥの提案に賛同した瞬間、お互いの剣が音を立てて空中に跳ねる。


 二振りの剣がお互いの上空に静止すると、銀色の剣が段々と緋色に変わっていく。

 剣が緋色に染まりきると同時に、細剣と長剣が空中でぶつかり合う。

 眩い光が周囲に放たれ、光が収まると、そこには緋色の鳥が現れ、でかい声で鳴く。


「キュゥゥ~」


 緋色の鳥が二人の周囲を飛び回り、やがてエカルラトゥの体であるスカーレットの肩に留まる。


「これが【鳳凰】なのかな……まさか私が作った剣がこんな事になるなんて……」


「でも【鳳凰】は鳳が雄で、凰が雌じゃないのか?」


 エカルラトゥの言葉が分かったのか、【鳳凰】が一鳴きする。


「キュー」


 緋色の鳥が、少し小さな金色と銀色の鳥に別れ、お互いの肩に留まる。

 銀色はスカーレットの体へ、金色はエカルラトゥの体にいる。


「そういう事か……」


 エカルラトゥがそう言いながら、銀色の鳥を撫でている。

 スカーレットは肩にいる金色の鳥を捕まえ、いろんな角度から見ている。


「キュ、キュ~」


 金色の鳥がちょっと辛いのか、悲しそうに鳴くが、スカーレットは気にせず金色の鳥の羽を伸ばしたりしている。

 弄りまわしていると、金色の鳥が元の長剣に戻る。


「戻る事も出来るのね……ごめんね、もう触らないから」


 そう長剣に呼びかけると、金色の鳥に戻りスカーレットの肩に留まる。

 

「スカーレット様……それが【ほうおう】なのですか」


 スカーレットがその声の主に気付き、超速の速さで顔を向けると、馬に乗り微妙な所を守っている白い鎧を着たフレイヤとフローラがいた。


「何故こんな場所に二人がいるの?」


「私達もそう思うのですが、フィー様から啓示がありまして……この日この時間この場所に指輪を持って来るように、と……」


「良く聖遺物を持ち出せたわね」


「元老院の一部が、私達に下された啓示を信じずに、批判したのですが、白い光に包まれまして……」


「それってもしかして……」


 フレイヤの言葉で何か思いついたのか、エカルラトゥの方を見ながら考え込む。

 やがて思いついたのかエカルラトゥを呼ぶ。


「ちょっと闘気の炎だしてみなさい」


「分かった」


 そう言いながらエカルラトゥが闘気の炎を出すと白い炎がエカルラトゥの体を包む。


「ああ、まさにこれですね……ではエカルラトゥ様にこれを」


 フレイヤが聖女フィーの指輪をエカルラトゥに渡す。


「なぜこれを俺に?」


「そう言うお告げなのです、何故と聞かれても逆に私が聞きたいです」


 フレイヤがむくれながらエカルラトゥに言う。

 まあいいかという顔で、指輪を受け取り何も気にせず指輪をはめる。

 その行動に驚いたフレイヤとフローラが声を上げる。


「きゃー、なんで普通に指輪をはめるんですか! それ、聖女しかはめられなくて、指輪をはめる事が出来たら聖女認定されるんですよ!」


 二人の護衛役のニクス教徒が、指輪をはめたスカーレットの体のエカルラトゥに向けて膝を地に付け、祈りを捧げだす。

 指輪をはめたエカルラトゥの体に纏っていた白い炎が銀色の炎に変わり、肩に乗っていた銀色の鳥が鳴くと、アロガンシア王国軍へと凄い速さで飛んでいく。

 

 金色の鳥も後に続き、アロガンシア王国軍が阿鼻叫喚に包まれる。

 金色の光と、銀色の光がフェリクスの体であるヴァロアに纏わりついているのが遠くから見える。


「あれって何をしているのかな?」


「きっと指輪の片割れを二羽が取りに行ったんでしょ……多分」


 スカーレットとエカルラトゥがのんきに会話していると、合同会館前に居た人達が集まってくる。

 アリアがものすごいスピードでスカーレットの体に突撃して抱き着き、いの一番に聞く。


「スカーレット様、あの金色と銀色の鳥は何なんですか?」


「あれね、私が作った二振りの剣よ。何故ああなったかは神のみぞ知るって感じ」


「はえ~あれ剣だったんですか」


「それはどういうことだね。もしかしてあれが旧教典に書かれていた【鳳凰】かね!?」


 アリアよりカーマインの方が食いつきがいいのか、凄い形相でスカーレットに聞く。


「そうみたい、一羽にもなるみたいよ」


 そうスカーレットが言うと、アロガンシア軍の頭上を飛んでいた金色と銀色の光が重なり緋色の鳥に変わる。

 アロガンシア軍はさらに叫び声があがる。


「本当みたいだね……あれが【鳳凰】か……一柱をこの目で見られるとは……では七柱が存在する可能性は限りなく有るわけか……」


 カーマインがぶつぶつと自分の中で考え込んでいるのか、思考して帰ってこない。


「カーマイン様の言う通り、ニクス教が昔に崇めていた一柱がここに顕現したわけですね……」


 聖女の二人の護衛役がの一人が呟く。

 護衛役はフードで顔を隠していたが、その中にシェリルとリウトガルドもいるようだ。

 それに気が付いたスカーレットとエカルラトゥが互いを見つめあいながら笑う。


 やがてヴァロアから指輪を奪ってきたのか、緋色の鳥がスカーレットの肩に留まる。

 その嘴には指輪を咥えていた。


「少しだけ違うわね……欠損しているみたい」


 そう言いながらスカーレットが指輪をはめると、金色の光が指輪を包み、欠損部分が修復されていく。

 

「もう何でもありね……」


 呆れながら指輪を見つめていると、修復が完了したのか金色の光が無くなる。

 しばらく指輪を見つめていたスカーレットが、何かを納得したのか頷く。


「どうやら指輪を他人にはめてあげると、その人と精神が入れ替わるみたい」


 その言葉にエカルラトゥが何かに気付き、声を漏らす。


「ヴァロアがスカーレットの指に、その指輪を自らの手ではめようとしてた時に、俺がヴァロアを攻撃したんだ」


「結局ヴァロアがやろうとした事を、タイミング良くエカルラトゥが阻止したから、こんな状況になったって訳ね。じゃあ結果論だけどエカルラトゥに非は全くないわね」


 スカーレットの言葉を聞いたエカルラトゥが、少しだけ笑い、覚悟したような顔で口を開く。


「……じゃあ俺はアロガンシアに宣言しに行く」


「じゃあ私はモデスティアに宣言するわね、でもお互い体を元にもどしましょうか。その方が他の人達も分かりやすいでしょ」


「でもどうすれば入れ替わる? また気絶すればいけるのか?」


「馬鹿ね、指輪をお互いにはめればいいのよ」


 指輪を指から抜き、お互いに歩み寄り指輪を交換して、お互いの指に指輪をはめようとすると、ナタリーが言う。


「まるで結婚式みたいですね」


「私も思いました」


「そうですね……見ているとドキドキしますね」


「はい……新郎新婦が、指輪を交換する時みたいです。勿論その後は……」


 アリアがナタリーの言葉を肯定し、追撃するようにフレイヤが恥ずかしそうに言い、さらにフローラが顔を真っ赤にしながら言う。

 しどろもどろになりながらスカーレットが口を開く。


「まあ……一概に間違ってはいない……と言えなくもない……」


「うん……そうだ、国の名前はヴァーミリオン公国で良いよな?」


「ちょ! なんであんたはそんなに冷静なの?」


「色々あったが、落ち着く所に落ち着いたと思っているが……」


 エカルラトゥの言葉に、その場にいる全員が驚愕して動きが止まる。

 女性達が集まり、相談した後にアリアが聞き返してくる。


「ヴァーミリオン公国って何ですか?」


 その他の女性達は、何も言わずに固唾をのんで待っている。

 どうやらアリアを代表にして質疑応答をするみたいだ。


「私が、というかヴァーミリオン家がモデスティア王国に捨てられたから、じゃあ私達で国を作ろうってエカルラトゥが……」


 もじもじしながら、頬を赤くしてスカーレットが言うが、姿はエカルラトゥなので、それが気持ち悪かったのかジェレミーが若干引いている。

 女性達はそんな事を気にせずに、二人の話を聞いている。


「血筋的には問題ないだろ? それにスカーレットは民には愛されている。開拓や開墾、治水までやっていたんだ。ついてくる民は絶対にいる、と俺は思っている」


 アリアが女性達の所に戻り話し合いが始まる。ジェレミーが少しだけ近づき、会話の内容を聞いている。

 やがて意見がまとまったのか、再びアリアが尋ねてくる。


「どこに国を興すのですか?」


「ここだな、おあつらえ向きに屋敷も建っているし、ここは国境のど真ん中で、両国とも欲しくて牽制しあっていた場所だ。そんな地域なら貰ってもいいだろ」


「でも、両国が許さないんじゃ……」


「だから今から、奪い取る宣言をしにいくのよ」


 そう言いながら、スカーレットとエカルラトゥが指輪をお互いにはめあう。

 すると光に包まれ、しばらくすると光が収まっていく。


「あ~、入れ替わったみたいね」


 スカーレットが発声練習をした後に、自分の体と指輪を見て頷く。

 エカルラトゥも腕を回したりして、体をほぐし、自分の体なのを実感している。


「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」


「俺も行ってくる」


 そう二人が言いながら、スカーレットはモデスティア軍へ向かい、エカルラトゥはアロガンシア軍へと向かう。

 いつの間にか別れた金色の鳥と銀色の鳥がそれぞれの肩に留まったまま向かって行く。






 モデスティア軍へと近づいたスカーレットは、オリバーやヘクターが集まっている場所へと近づく。


「止まれ! それ以上近づくな!」


 ヘクターがスカーレットを止める。

 そばにいるオリバーが若干震えている、そばには手枷をした二人がいる。

 エルドレッドとセリーナが捕縛されているのをスカーレットが見つけてしまう。


「父さまと母さまを放してもらいましょうか、嫌というなら力ずくでやりますが」


「そんな事がまかり通るか!」


 ヘクターが叫ぶと共に、銀色の鳥が鳴く。


「キュー」


 それと同時に銀色の炎がスカーレットを中心に広がり、兵達の足元に銀色の炎が一人も逃さずに広がっていく。

 エルドレッドとセリーナだけが銀色の炎に包まれ手枷が壊れる。

 二人は熱がらずに、不思議な光景に目を奪われている。


「何故手枷が壊れる! これは特注だぞ!」


 ヘクター達が動揺しながら、二人を再度捕まえろと指示するが、騎士達は銀色の炎が熱いのか二人に触れない。

 銀色の炎を熱がる騎士達を見て、ヘクターが自ら捕まえようとして手を伸ばすが、銀色の炎に包まれた二人を熱くて触れない。


「なんなんだこの銀色の炎は!」


「それは私への……私達に悪意ある者【だけ】を焼く炎です」


 一部を強調しながら言う。

 その間にスカーレットは両親に近づく。


「父さま、母さま、こんな状況になり、申し訳ございません」


 スカーレットの謝罪を止め、エルドレッドが言う。


「いや、いいんだ。ここで捕縛されても、腰抜けしかいないのだ、どうせ日和ると思っていたが、お前が助けてくれるならそれもいいな。アールとシーラは既にキース達が保護に向かったから、一族総出で逃げるのもやぶさかではないよ」


 セリーナも同意見なのか、スカーレットを見て微笑む。


「では、私達が作るヴァーミリオン公国に移り住みましょう」


 二人が、スカーレットの言葉に少しだけ驚く。


「まさか、ここに作る気なのか?」


「はい、アロガンシアにはエカルラトゥが啖呵を切りに行っています」


「結局こうなるのか……悪い青年では無いが……こう何とも言えない気分になるな」


「あなた、いい加減子離れしてくださいな」


 スカーレットと二人が和やかに話している間に、外野が少し煩かったが、敵意を持った瞬間に銀色の炎に焼かれるので、既に周りは死んではいないが、死屍累々だ。

 

「そういう事なので、オリバー殿下、ここにヴァーミリオン公国を興すから、ヴァーミリオン領は上げる代わりに、幾らか土地を貰うわね。あとこっちに来る気がある民もね……もし文句があるなら、私達とニクス教を敵に回す覚悟をする事ね」


「何故、ニクス教が関係あるのだ……」


 話している間に一度燃えたのか、立ち上がったヘクターが、声を震わせながら聞いてくる。

 オリバーは震えながら、護衛の影に隠れている。


「この指輪は、ニクス教の聖遺物よ。はめられるものは聖女認定。あとこの鳥だけど、【鳳凰】って言って、昔に崇められていた一柱よ」


「キュー!」


 銀色の鳥がスカーレットの紹介に合わせて鳴く。

 言っている事がわかるニクス教徒が、スカーレットに祈りを捧げだす。


「こんな鳥が神のわけ……ぎゃー!」


 ヘクターが言い終わる前に足元でくすぶっていた銀色の炎が、ヘクターを包み込み焼かれる。


「言っておくけど、今の私じゃないからね」


 倒れたヘクターをスカーレットが吟味して、納得したのかヘクターから離れる。


「焼く、といっても体を焼くんじゃなくて、精神を焼いているみたい。体に火傷は無いから、そうとしか考えられないわね」


「それはそれで怖い炎だな……」


「そうね……」


 親子でそんな事を話していると、オリバーが逃げようと動くのをスカーレットが止める。


「ちょっと待ちなさい。貴方には軍を撤退させる義務があるでしょ。早々に撤退の指示を出しなさい」


「アロガンシア軍もいるし……君もいるじゃないか!」


 狼狽えながら答える。

 がスカーレットはそんな事気にせず、アロガンシア軍の方に指を指す。


「アロガンシア軍は撤退するわよ。見て見なさい」


 遠くで金色の炎に包まれているアロガンシア軍が見える。

 こちらと同じような事が起きているのは一目瞭然だ。


「それに、ここでの戦闘は私達が許さない。だから帰りなさい。のちのち王都に行くからその時にゆっくりと話し合いましょう。あとは……父さま!」


「分かっている、私達の領の兵をヴァーミリオン領に戻せばいいのだろう? あとは移住する者を募って土地を陛下に返すまでか」


「それまでにここを開拓しておくわ。いそがしくなるわね【おう】ちゃん」


「キュ~」


 名前が気に入ったのか嬉しそうに鳴く。


「その名前で決まりなの?」


「【ほう】と【おう】だから、この子は【おう】ちゃん」


「え~と、神なんでしょう? ちゃんはどうかと思うのだけど……」


「【おう】様……、【おう】ちゃん」


「……、キュ~」


「ちゃん付けの時に鳴くから、【おう】ちゃんで良いみたい」

 

「まあ【おう】ちゃんがそれで良いなら……」


 エルドレッドはヴァーミリオン家の兵を纏めて撤退を始めたが、その他の領主やオリバーがこちらの見つめながら止まっている。

 そんな中、銀色の鳥の名前の話をしていたスカーレットが、動かない人達に声をかける。


「ほらほら、いい加減撤退しないと、【おう】ちゃんが怒るわよ」


 手を叩きながら、撤退を促すと、足元に燻っている銀色の炎の火力が増し、膝くらいまで立ち昇ってくる。


「言っとくけど、私が火力を上げたわけじゃないからね。【おう】ちゃんが変な気は起すな、って言ってるのよ」


 倒れていたヘクターが起き上がり、オリバーに何かを言うと、不満な顔をしながら撤退の指示をしだす。

 その行動をスカーレットと【おう】が頷きながら見つめる。


「じゃあ母さま、合同会館で休みましょうか、今日は色々あって疲れましたし」


「そうね、アロガンシア様式のお風呂にも興味あるから、一緒に入りましょうか」


 そんな会話をしながら、二人と一柱は合同会館に集まる人達の所へと向かう。

 二人を恨めしそうに見ている者達の中に、変な気を起こした者は自動的に燃やされたのか、各所で熱がる叫び声が響く中、何事も無いかの様に母子が歩き去っていく。

次が最終話になります、投稿は明日の予定です。

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