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第二十五話㋜㋓ スカーレット対エカルラトゥ

ここからは、両方読む必要はありません。

二人が別れている部分だけ違いがありますが、ほんの少しだけですので片方だけでも良いかと思います。

読みにくいかもしれませんが、シナリオだけ読み取って楽しんでもらえれば幸いです。

 朝早くの合同会館にて、エカルラトゥとスカーレットが動きやすい服装で話し合う。

 傍にはナタリーとアリアが二人を微笑ましい目で見守っている。 

 

「もう知ってると思うけど、これをあげるわ」


 スカーレットがエカルラトゥに長剣を投げつけ、何事も無いように受け取り、長剣を見ながらエカルラトゥが尋ねる。


「なんでこんなものを作ったんだ?」


「作ったらどうなるのか、という疑問が浮かんだらやってみるしかないでしょ?」


「……それは、ニクス教旧教典の事を考えると、って事だよな」


「そうよ、本当は貴方にも付き合ってほしかったのだけどね」


 エカルラトゥが少しだけ沈黙し、やがて剣を鞘から引き抜き剣に魔力を流し込む。

 すると剣が淡い金色い光に包まれる。

 それを目を真ん丸にして見つめるスカーレットが驚きの声をあげる。


「なにそれ!?」


「昨晩、ナタリーにこの剣を見せて貰ってな、試しに持ってみると光り出した。レイピアも光ってたぞ」


 スカーレットも自分用に持っているレイピアを引き抜き、魔力を流し込むと、剣が銀色の光に包まれる。


「なるほど……白い光じゃなくて銀色の光が正解なのね」


「そうみたいだな……で、今日は何処と戦うんだ?」


 スカーレットがレイピアを鞘に納めながら簡単に言う。


「貴方よ」


「はぇ?」


 エカルラトゥは何を言っているのか分からないのか、素っ頓狂な声がでる。


「あ、な、た、と戦うのよ、初めて精神が入れ替わった時から、どちらが強いのかって疑問に思ってたのよね」


「……確かに俺も思ったけど……」


「それに、魔法特化と剣特化が戦うなんて、モデスティア王国とアロガンシア王国が戦うのと同義でしょ?」


「そうかもしれないが……」


「まあ、私達の戦いを見て、私達に喧嘩を売ってくるとは思ってないけどね。だからこそ本気でやりなさい」


「……俺はスカーレットに怪我なんて……」


「私に勝てると思っているの?」


 スカーレットがおもむろにレイピアを抜き、軽く振ると近くにあるテーブルが、小さな炎の竜巻で包まれ、燃え尽きていく。

 

「はえ~小さな火炎旋風……」


 アリアが感心しながら呟く。


「いっとくけど、簡単にこの屋敷を包み込めるレベルの火炎旋風作れるからね。たとえ炎に強いといっても空気まで無くなれば死ぬわよ」


「……わかった」


 エカルラトゥが溜息を吐きながら答える。

 すると、合同会館にジェレミーが入ってくる。


「アロガンシア王国軍がこちらに向かって進軍してきている。どうする?」


「いきなり突撃はしてこないでしょうから、もう放置で良いわよ」


「了解」


 ジェレミーがスカーレットに軽快に答える。

 それを呆れながら見つめるエカルラトゥに、ジェレミーが話しかける。


「何か言いたいことがあるのか?」


「そもそもなんでこっち側にいるんだよ……」


「そりゃスカーレットに突撃しろって命令されたら、こっちにくるしかないだろ」


 ジェレミーがエカルラトゥに近づき、小声で言う。


「……それもそうか、でもゴットバルト家の跡継ぎだったのに良かったのか?」


「いや、降格処分の件で、親も弟に継がせようと考えているみたいでな、家なんてどうでもいいさ」  


 吹っ切れたような笑顔で言う。

 エカルラトゥは何も言わずに苦笑いをするだけだった。




 合同会館から外に出る。

 三つの屋敷は一つの壁で囲まれている。

 そしてそれぞれ対応した門が設置されている。

 モデスティア王国の国境会館は当然モデスティア側に門があり、アロガンシア王国の国境会館にはアロガンシア側に門がある。

 真ん中にある合同会館は、その真ん中に外に出入りする為の門がさらに作られている。


 合同会館の門に近い場所に、モデスティア王国軍が駐留するようにスカーレットはキースに指示していた。

 門を出ると、カーマインと魔法士団の数人が待っていた。


「スカーレット、話し合いは終わったのかい?」


「終わったわ」


 ぶっきらぼうに答えるが、カーマインはニコニコと笑顔のままだ。


「それで私達は、どう動いた方が得策なのかな?」


「焼け落ちるのは勿体ないから、国境会館や合同会館が燃えない様に守って貰えると助かるわ」


「本気で戦うつもりなのかい?」


「そうよ、何か文句あるの?」


 そう言われたカーマインが難しい顔をしながら言う。


「……守りきれないかもしれないよ?」


「こっちには来ない様に気を付けるから、後はエカルラトゥ次第ね」


 二人がエカルラトゥを見つめる。

 見つめられたエカルラトゥは慌てながら答える。


「いやいや、俺は壊さないし、壊すような魔法は使えない」


「貴方が屋敷を盾にするかもしれないでしょ」


「そんな事するわけないだろ!」


 まるで屋敷が壊れたら、エカルラトゥのせいだと言わんばかりの言動に、若干憤慨しながらエカルラトゥが叫ぶ。

 

「そういう事らしいから、大丈夫じゃない?」


「ふぅ……屋敷よりそこにいる人を優先するからね」


「もちろんよ」


 笑顔で答えるスカーレットを、不満な顔をしながらエカルラトゥが見つめていた。

 やがてモデスティア王国軍が先に到着する。

 前線に布陣させられているエルドレッドが、スカーレットに気付き馬を駆り、一人で近づいてくる。


「スカーレット、無事だったか?」


「無事も何も、私は何もしてないわよ」


「そうだったね……で、エカルラトゥ君?」


 エルドレッドは笑顔でエカルラトゥの名を言葉にするが、目の奥は笑っていない。

 

「もうしわけございません……」


「父さま、どうせヴァロアが何かしらやろうと画策していたことは確かです。エカルラトゥを攻めるのは少し違うと思います」


「むむむ……お前にそう言われると何も言えないじゃないか……」


「そうですわよ、あなた」


 いつの間にか、スカーレットの母親のセリーナが馬にまたがり、エルドレッドの横にいた。

 

「母さまも来ていたのですね」


「そうよ、ヴァロアが関係していると言うのなら、私も関係あるかもしれないもの」


「フェリクスとヴァロアの精神が入れ替わっている話を知っているのですか?」


「主要な人物にしか報告はされていないがね」


 スカーレットの疑問にエルドレッドが答える。


「それで何故、ヴァロアと母さまが関係しているのですか?」


「私の生まれたスチュアート家がニクス教なのは知っているでしょう?」


「はい、でも私や妹弟には勧めていないのは何故なのかな~とは思っていましたけど……」


 セリーナがにっこりと笑いながら言う。


「それはね、私が成人した時に、ザインに滞在していると、しつこく求婚してくる御仁がいてね」


「まさかそれが……」


「ヴァロアだったのよ。既に一人娶っていたはずなんだけど、しつこくてね。燃やしたりして追い払ったりしてたのだけど、怖いほどしつこくて……ザインは色々な国の方と出会う、いい場所なのだけど、女性だと色恋沙汰に発展する事が多くてね。だからスカーレットにはニクス教から遠ざけていたのよ」


「それで私を入信させなかったのですね」


「そのヴァロアが、スカーレットを狙っていると聞けば、親としては許せません。それに……エカルラトゥ君、貴方の母親は赤い髪で赤い瞳なのでしょう?」


 何とも言えない顔をしながら、エカルラトゥが答える。


「はい……失礼ながらセリーナ様に少し似ております……」


 エカルラトゥの言葉を聞いたセリーナが怒りの形相で呟く。


「あの男は、あの頃から何も変わっていないようですわね……」


「それで俺の母の事を代替品と言ってたわけか……」


 エカルラトゥがヴァロアの言葉の意味が分かったのか、怒りに燃えている。


「ちょっと! もう少し抑えなさい!」


 スカーレットがエカルラトゥを平手打ちして、漏れ出た闘気の炎を止める。


「すまん……」


「周りの事くらい考えなさい」


 エカルラトゥが落ち込んでいるのを余所に、ヴァーミリオン家の会話は続く。


「それで、この後どうするんだい? もしあれだったら私が王国に反旗を翻すのもやぶさかではないが……」


「私とエカルラトゥが戦います」


「……何故!?」


 エルドレッドが驚愕の顔をしながら聞き返す。


「もともとどちらが強いのか興味があったのです。こんな機会はなかなかありませんし……それに父さまが私の事を抑止力と言ったのですよ?」


「ぐぅ……」


 エルドレッドが苦虫を嚙み潰したような顔で言い淀んでいると、オリバー王子とヘクター団長が馬で近づいてくる。


「おはよう諸君、色々と親子で話し合っているようだが、芳しくないようだね」


「……オリバー殿下、わざわざお越しいただきありがとうございます」


 スカーレットがそう言うが、オリバーはスカーレットの行動にびくびくしているのがわかる。


「前線に、立つ用意は、できているみたいだね……」


 オリバーがスカーレットの恰好を見ながら言うが、少し緊張しているのか言葉が途切れ途切れになる。


「はい、オリバー殿下の【命令】通りに、いの一番に戦って見せますわ」


 スカーレットは、【命令】という部分を強調しながら言う。

 それが怖かったのかオリバーが若干震える。

 ヘクターがエルドレッドを見ながら言う。


「では、戦闘が始まる場合、そのままヴァーミリオン家が前線にて指揮をして欲しい」


 エルドレッドは恭しく会釈をしながら答える。


「その役目、謹んでお受けしましょう」


 




 そうこうしている間に、アロガンシア王国軍が進軍してくるのが見える。

 進軍しにくそうな地形になっているが、アロガンシアの魔法使いが整地しながら歩を進めている。


 やがて進軍をやめ、フェリクスの体をしたヴァロアと、トリスタンが馬に騎乗した状態で近づいてくる。

 護衛数人と旗を掲げた兵が、中間あたりで止まりこちらを見ている。


 それを見たオリバーとヘクターが、同じ人数でヴァロアの所へと向かう。

 今回の騒ぎの原因である、エカルラトゥとスカーレットも同じ場所へと近づく。


「スカーレットとエカルラトゥはそれ以上近づくな!」


 トリスタンは、二人が近づくの牽制する。

 スカーレットは不満顔をしながら歩みをとめるが、エカルラトゥはヴァロアを睨みながら近づこうとする。

 

「ちょっ! いい加減冷静になりなさい」


「あいつだけは許せないんだ」


「でも、あの体はフェリクスの体よ?」


「……」


 エカルラトゥが歩みを止めたのを確認してから、ヴァロアが口を開く。

 会話は届かないような距離に、スカーレットとエカルラトゥが立っている。


「こちらは攻撃された側だ。要求を言う権利があると思うが……どうかね?」


「そうですね……親善交流時に色々あった件と相殺という事でどうでしょう?」


「それで相殺するのは、あの二人の関係を考えると無理だろう? それに親善交流はお互い様だと思うが……」


 ヴァロアとトリスタンが、少し遠くにいるスカーレットとエカルラトゥを見つめる。

 訳も分からずに二人に見つめられたスカーレットが怒っているのか、ヴァロアを睨みつけている。


「……では貴方の要求は何なのですか?」


「ヴァーミリオン家の者をすべて引き渡してもらおうか」


「それは一体どういう意味で……」


 オリバーが困惑しながら聞き返す。

 要求する内容を知らなかったのか、トリスタンもヴァロアを見つめながら困惑している。


「先ほど言った通り、ヴァーミリオン家の者を全員アロガンシア王国に引き渡してもらえば、軍を引く事を約束しよう」


「それだけで良いのだろうか?」


「ああ……」


 しばらくオリバーが内容を吟味しているのか、考え込む。

 やがて結論が出たのか、ヴァロアに答える。


「その程度で戦が回避できるのなら、準備が整い次第、彼らを引き渡そう」


 オリバーの言葉にヴァロアがにやりと笑う。

 話し合いが終わったのか、お互いが軍が留まっている場所へと戻る。


 オリバーとヴァロアが離れていくが、スカーレットとエカルラトゥは、そのまま平原の真ん中で話し合っている。






 オリバーとヘクターは、領主達が固まっている場所へと向かう。

 そこにはエルドレッドや、キャンベル家領主、ダドリー家領主、スチュアート家領主などの、今回兵を引き連れてきた領主達が集まっていた。

 オリバーがその輪に加わると、この状況がどう動くのかが気になる領主がオリバーに尋ねる。


「殿下、アロガンシア王国の要求は何だったのですか?」


「ヴァーミリオン家を全員引き渡せと言ってきた」


「何故そんな事を要求してきたのだ……」

 

 他の領主も、要求内容に困惑しているのか呟いている。


「理由はわからないけど、ヴァーミリオン家のみで解決するのであれば、御の字じゃないかな。それに原因はヴァーミリオン家にあるわけだしね」


「……」


 考え込んでいるのか、エルドレッドはオリバーの言葉に何も言わずに目を瞑り佇んでいる。

 それをほくそ笑んでいる領主がオリバーに尋ねる。


「ではヴァーミリオン領は、王領に組み込むのですか?」


「……結果的にそうなるかな」


「だからと言って、宰相を引き渡すのは賛成しかねますな」


 キャンベル家領主がオリバーの答えを否定する。


「しかし、宰相であるヴァーミリオン家はたびたび問題を起こしているではありませんか」


 他の領主が声をあげ、賛同している者が一緒に声をあげる。


「だが……それでもヴァーミリオン家は色々と国の役に立つ事をやっているではないか」


 ダドリー家領主がキャンベル家に追従する。


「貴方はスカーレットに息子を燃やされた過去が御有りなのに庇うとは……」


「あれは息子に非があると理解している!」


 ダドリー家領主が、眉をしかめながら叫ぶ。

 なんとか落ち着かせようと、オリバーが皆を諫めるように声を張り上げる。

 

「皆さん取りあえず落ち着いて欲しい。まずはエルドレッド殿がどうするか伺ってから決めましょう」


 話し合いをしている間に、ずっと目を瞑っていたエルドレッドに皆の目が集まる。


「全ては娘の為に……」


 エルドレッドが口を開くと共に、騒ぎ声が響く。

 何事かと、その場にいる者がアロガンシア軍のいる方を見ると、スカーレットとエカルラトゥが対峙しているのが見え、スカーレットの上には馬鹿でかい火球が存在している。


「何事か!?」


 オリバーが叫ぶと、二人の動向を伺っていた騎士が説明する。


「さきほど、スカーレット嬢とアロガンシアの騎士が対峙しあい、スカーレット嬢が火球を作り始めました!」









 両軍のど真ん中で、戦う準備をしたスカーレットとエカルラトゥは、声がぎりぎり届く場所まで離れ対峙する。

 二人の腰には、スカーレットが作ったレイピアと長剣を携えている。

 やがてスカーレットが火の球を、自分の頭の上に手を掲げて作り出す。


「開始はこの火球を投げてから開始ね」


「なんでそんな事を開始の合図にしたんだ?」


「アリアに、私なりのファイヤーボールを見せるって約束したからね」


「……それがファイヤーボールと言い張るには、ちょっとでかすぎないか?」


「だとしてもよ、では行くわ、ね!」


 スカーレットがでかい火の球をエカルラトゥに投射する。

 それと同時にエカルラトゥが長剣を抜き、おもむろに剣を振り抜くと、水の刃が火の球を切り裂く。

 火の球は半分になり、地面へと着弾すると周囲が火の海に包まれる。


 スカーレットもレイピアを抜き、エカルラトゥに向けて軽く振り回すと、風の刃がエカルラトゥを襲う。

 丁寧にその風の刃をエカルラトゥが剣を振り、相殺しながらスカーレットに少しずつ近づいていく。


 突きなどを織り込みながら風の刃を放つが、何事も無いかの様にエカルラトゥが処理しながら詰め寄る。

 すると地面が光りエカルラトゥが空にはじけ飛ぶ。

 

「地雷魔法よ、地面が火の海だから見えなかったようね」


 スカーレットが笑いながら、空に浮かんだエカルラトゥに竜巻をお見舞いする。

 地面の火が起点となり、自然に火炎の竜巻が発生し、エカルラトゥを包み込み、さらに上空へと巻き上げられる。


 エカルラトゥが火の竜巻に巻き上げられながら、剣をふりまわすと綺麗に竜巻が真っ二つになる。

 そのまま落下すると同時に、スカーレットに一気に飛び込む。

 地雷魔法を踏むが、そんな物は全く気にせずに、爆発する前に突き進む。


 エカルラトゥは長剣を本気であろう速度で、スカーレットに向けて振り降ろすが、剣が爆発によって弾け飛ぶ。

 幾度もいろんな角度で攻撃するが、スカーレットに当たる前に剣が爆発によって弾き飛ばされ、逆にレイピアで攻撃されている。

 

 エカルラトゥの剣を、スカーレットが魔法の爆発によって弾くが、少しずつ爆発する場所がスカーレットに近づいていく。

 それが嫌だったのか、指向性の爆発をエカルラトゥに向けて放ち、エカルラトゥが後方に吹き飛ばされる。

 が、即座に体勢を整え、突っ込んでいく。

 

 同じように指向性の爆発で何度も吹き飛ばすが、そんな事はお構いなしに、何度も何度もしつこく突っ込んでいく。


「ちょっと、いい加減離れなさいよ!」


 吹き飛ばす距離が段々と減り、スカーレットが追い詰められているのかエカルラトゥにむけて叫ぶ。

 だがエカルラトゥは返事をせずに、距離を縮める事を止めない。


 エカルラトゥを弾き飛ばした直後に、おもむろにスカーレットが地面に手を付けると、周囲に爆発音が響き、炎と衝撃が広範囲に広がる。

 粉塵が舞い、しばらく視界が妨げられる。


 見えるようになると、スカーレットの周囲の地面が抉れていた。

 周囲にある草は全て燃え、木には火が付き燃えている。


 屋敷はカーマイン達が守っていたのか何事も無い。

 モデスティア軍とアロガンシア軍に軽い被害があったのか、陣形そのままに維持したまま、後退していく。


 エカルラトゥは何処へいったのだろうと、スカーレットがキョロキョロと周囲をみていると、緋色の雷が落ちてくる。

 

「ちょっ!」


 唐突な魔法攻撃に対処できずに、雷の直撃を食らったのか、スカーレットが片膝を付きながら声を上げる。

 

「まさか上空?」


 と言いながら、空を見上げると、小さくエカルラトゥが見える。

 さきほどの爆発で、空に飛ばされたのか、飛んだのか分からないが、エカルラトゥは上空にいるようだ。

 

 緋色の雷がスカーレットを何度も襲うが、レイピアで迎撃している。

 どうやら魔力の流れで、雷が落ちるタイミングがわかるようだ。


 いまだに落下してこないエカルラトゥにイライラしたのか、スカーレットが巨大な竜巻を起こし、自身を上空に巻き上げらせる。

 竜巻の風に巻かれながら、空へと放り投げられたスカーレットの目には、エカルラトゥが浮かんでいるのが見える。


「なんで浮いてんのよ! 詐欺でしょそれ!」


「何故浮けるか分からないが、浮けるのなら、それを利用するしかないだろ?」


 エカルラトゥの持つ長剣が金色に輝いている。

 それを見たスカーレットが同じようにレイピアに魔力を込め銀色に輝き始めると、スカーレットの体が先ほどまで落下していたのが急に止まる。


「これが【ほうおう】の化身の力なのかな……」


「そういうことかもしれないな」

 

「じゃあ思う存分に出来る訳ね」


 スカーレットが口元に笑みを浮かべながら言う言葉に、口元をひくひくさせながらエカルラトゥが言う。


「もういいんじゃないか? 十分俺達の力は見せつけただろ?」


「あとちょっとだけ付き合って、何か見えそうだし」


「それは俺も感じるが……はぁ……付き合うしかないか」


 スカーレットが火の竜巻を周囲に作り始める。

 それを止めようと、エカルラトゥが突っ込んでくる。

 が、爆発で止められる。

 先ほどと同じように、エカルラトゥが距離を縮めようと突っ込むのを、スカーレットが爆発で押し戻す。

 だが、今回は全方位から攻められるので、スカーレットが後手後手になり追い詰められていく。


「火が効かないってだけで、私とは相性が悪すぎる!」


 エカルラトゥに押し込められながら叫ぶ。


「火に特化しすぎなんだよ」


 スカーレットに何度も詰め寄りながら答える。

 その答えにむかついたのか、スカーレットが更に叫ぶ。


「じゃあ風!」


 周りにある小さな竜巻が集まり巨大な竜巻ができ、その竜巻が火に包まれ、巨大な火炎旋風が上空に出来上がる。

 その中央にいたスカーレットとエカルラトゥは火炎旋風に包まれる。

 当然地上にも火炎旋風が伸びていき、被害が発生しているのか、阿鼻叫喚の声が二人に聞こえる。


「やりすぎだぞ!」


 と、スカーレットに向けて放つ声は、豪風の音で全然伝わらない。

 火炎旋風はどんどんでかくなり、竜巻の中心は空気が無くなっていく。


 竜巻は揺れ動き、エカルラトゥを吹き飛ばそうと、風が巻いている部分にさらされる。

 これはまずいと判断したエカルラトゥが、懐にしまっていた、スタールビーを竜巻の中心に投げ込む。


 すると信じられないほどの爆発音と衝撃と共に火炎旋風が吹き飛ぶ。




 その様子を見ていたナタリーが叫ぶ。


「二人が落ちてきます! 私はお嬢様を受け止めますので、ジェレミー様はエカルラトゥ様を!」


 そう言い放つと、スカーレットが落ちてくる場所へと物凄い速さで走っていく。

 残されたジェレミーが、一瞬呆けた顔をするが、ナタリーの行動に重大さを感じ、空を見上げながらエカルラトゥが落ちてくる場所へと向かう。

 アリアはジェレミーの後をついて行く。

 


 ナタリーが、全力で飛び上がり、落下のタイミングでスカーレットを抱きかかえ落下の衝撃を緩和させながら地上に降り立つ。

 怪我はしていないが、爆発の衝撃で意識を失っている。


 空から遅れて落ちてきたレイピアが、近くの地面に突き刺さる。


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