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タイミング良く精神が入れ替わる私~公爵令嬢スカーレット編~  作者: 氷見
第三章 親善交流ですれ違いの入れ替わり
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第十八話㋜ 三人寄れば文殊の知恵(六日目前編)

 フローラに起こして貰うはずだったが、起きてみると目の前にいるのはフレイヤだった。

 何故わかるのか、それは服の色の違いだ、フレイヤは白でフローラは白地に淡い青いラインが必ず入っている。

 当然のことながら、体はエカルラトゥだ。


「ゆだんしたわ……この状況で入れ替わるなんてね」


「そうですか? 良いタイミングだったのでは?」


 そう言われるとエカルラトゥなら、知っている場所を探索するのだから楽だろうし、見つけられる可能性も高い。


「……アロガンシアの王城を探索したかったのよ」


「……それはもっと平和な時にお願いします」


 王城を隠れながら歩き回るのは、平和な時じゃ出来ないと思うけど仕方がない、人の命がかかっているかもしれないし。


「それでどこまで話は進んでいたの?」


「はい、もしかしたらと言っていましたが、城の四隅にある奥二つの塔があやしいと話し合っていた時に、エカルラトゥ様が急に倒られました」


「そう……」


 もしかしたら私が寝てたから、半強制的に入れ替わったのかもしれない。

 エカルラトゥの頭で思い浮かべると、塔の情報が引き出される、確かに当たりっぽい。

 なんだろう、この誰かにいいように操られてる感。

 

「取りあえずはエカルラトゥに任せるしかないわ」


「そうですね……」


 もうこの話は私の手から離れてしまった。

 参加したくても、アロガンシアに行けないから、どうしようもない。


「こっちは何もないのね……あっちに比べて平和すぎない?」


「……もしかしたら何か画策しているかもしれませんが、何か思い当たる事はありませんか?」


 そう言われても思いつかない、そういえば竜種の劇毒をアロガンシア王国は持っていた。

 あの時はかなり強い毒だと認識していたが、調べ直すと毒というより呪いに近い物だった。

 普通に飲めば強い毒性で即死するが、かなり薄めて飲めば即死はしないが、毒により体がだんだんと動かなくなっていくらしい。

 一度でも飲んでしまえば、解毒しない限りその効能は維持される、傍から見れば不治の病に見えるわけだ。

 解毒薬は作れるの良くかわからない、そもそも現物を持っている人が少ない。まあ解毒魔法はあるんだけどね。

 それに毒なんて使っても、あまり意味は無いと思う。貴族を殺しても跡継ぎがいるし……混乱させた所で意味はあるのだろうか。


「この件をモデスティア王家に話をするのはどうなの?」


「そうしたい気持ちもあるのですが、両国の関係も悪くなり、さらに父もどうなるか……」


「結局、貴方達に隙があったのが原因ね。せめてリウトガルド団長をザインに迎えて置けば良かったんじゃない?」


「知られているとは思っていなかったのです。それに父は私達が産まれている事も知らないはずでした……」


「甘く考えすぎてたわね」


「その通りです……」


 フレイヤが俯き、体を震わせている。きっとこの親善交流で父と母に会おうと思っていたのかもしれない。

 だが二人はまだ十代半ばの子供だ、自分の両親に興味を持つのは自然の事に思える。ザインの元老院も情にほだされてこの件を了承した可能性は高い。

 ならばフレイヤ達は自己責任で動いているのかもしれない。聖女はあくまでも神輿みたいなものだし。


「それでシェリル先生には護衛がついてるの?」


「……いえ、私の母である情報も機密扱いでしたし、なにかあればニクス教徒の方が知らせてくれるとは思いますが……」


「それ、終わってから知らされるだけじゃない?」


「そうかもしれませんが、モデスティア王国側が何かしてくる事は無いのでは? 」


「確かにモデスティアは動かないでしょうけど、アロガンシアの間者は動くんじゃない?」


「ああ!」


 フレイヤが立ち上がり、声を上げる。

 まさかその可能性を考えてなかったんじゃ……。


「どうしましょう、エカルラトゥ様!」


「私、スカーレットなんだけどね……モデスティア王国側に、シェリル先生が母親ですって言えばいいんじゃない? きっと守ってくれると思うけど」


「それでは……母に迷惑が……でも……」


「知らせた場合きっと学長の仕事は出来ないでしょうね。命狙われるかもしれないし」


 親善交流が終われば命を狙われる可能性は減るだろうけど、国が許さない気がする。


「……」


 フレイヤが声を殺して涙を流す。

 まだ少女なのだ、痛みの生じる選択肢を選ぶことができないのかもしれない。

 溜息を吐きながら提案する。


「ニクス教の旧教典を私に見せてくれるなら、助けてあげようか?」


「え?」


 困惑した顔で私を見つめる。その顔は涙に濡れていた。


「どうなの?」


「……わかりました。よろしくお願いします」


 涙を拭いながら頭を下げてくる。


「じゃあ、シェリル先生の所に今から行ってみましょうか」


「……え?」


「会いたいでしょ? それに夜中に訪ねるのはいつもの事だったし、エカルラトゥの記憶を見る限りじゃ、屋敷も変わってないみたいだから」


「会いたいですけど……それでは問題解決しないのでは?」


「え~と……行けばわかるわよ」


 フレイヤを連れて部屋を出る。既に夜中の二時くらいだ廊下には誰もいない。

 馬車の用意はもちろん無い、徒歩で行くことになるが魔法学院はそこまで城から離れていない、走ればそんなに時間はかからないはずだ。


「ごめんね、女性同士だからいいよね」


「きゃっ!」


 相手の了承を待たずに、フレイヤをお姫様抱っこするとすぐさま走り出す。

 正門などは閉まっているだろうが、全てを無視し、塀を乗り越え、王城から抜け出す。

 きっと魔法士団は気づいているだろうが、それは後だ。


 やはりエカルラトゥの体だと無茶が出来る。

 女性を抱きかかえても、ものともしない筋肉とバランス感覚。

 それに加えて身体能力を、これでもかというくらい魔法と闘気で強化している。めちゃくちゃ早く走れる。

 頑張れば王都ホビアルも一人で落とせそうだ。

 腕の中のフレイヤは怖いのか目を瞑り、力強く抱きついている。


 シェリル先生の屋敷につくと、昔と同じように塀を勝手に越え、寝室の近くにあるバルコニーに飛び上がる。

 音を遮断する魔法も併用しているので、私達の動きは大胆な割に静かだ。


 バルコニーに着地すると、そこに黒い覆面の男がいた。


「なっ!」


 と、でかい声をだし驚いていたが、既に音を遮断する魔法圏内だ、何も問題は無い。

 流れるように黒い覆面を燃やす。


「ここまでタイミングが良いと面白くなるわ」


 いまだに目を瞑って私に抱き着いたままのフレイヤは、何事かと目を開けたのでバルコニーに降ろす。

 傍で黒焦げになっている人を見て、驚き、叫ぼうとするのを手で止める。

 大丈夫と分かってても叫び声は心臓に悪い。


「静かにしてね」


 私の言葉にコクコクと頭を動かす。フレイヤが理解してくれたので口から手を離す。

 ここを離れる前に黒こげの覆面野郎を片手で持ち上げ、地面へと放り投げる、このままバルコニーに置いとくのも嫌だからだ。


 私の行動にあっけにとられているフレイヤに言う。


「ここで待っててね、すでに何か居るみたいだし」

 

 再び私の言葉を聞きコクコクと頭を動かす。分かってくれてよかった。

 バルコニーから飛び降り屋敷周りを見て回る。


 裏庭に一人、テラスに一人いた。

 近づく前に反応されたので、こちらに気付いて動き出してから燃やした。

 やはり本職の人に気付かれずに近づくのは無理みたいだ。


 取りあえず三人を纏めて庭に土魔法で穴を開けると、頭だけ出るように埋める。

 気絶しているが、もし起きてもそうそう動けないだろうしこれでいいだろう。


 バルコニーに戻り、フレイヤと合流すると勝手知ったる他人の家だ。

 気にせず扉を開ける。フレイヤが何か言いたげだが気にしない。

 鍵がされているのも気にせず壊す、緊急の用事なのだから仕方が無い。

 シェリル先生の寝室に向かうと、扉を叩き声をかける。


「シェリル先生、起きてください」


 部屋の中から物音が聞こえ、やがてシェリル先生の声が聞こえる。

 

「もしかして……スカーレット? でも貴方は今はアロガンシア王国にいるんじゃなくて……」


 無防備に開け放たれた扉から、シェリル先生の顔が見え、目と目が合う。

 エカルラトゥの姿を見て気絶したのか、ピクリとも動かない。


「どうしようか?」


「……ベッドに寝かせてください」


 フレイヤに対応して貰えば良かった。というか半分はそのためだったけど、すでに刺客がいたから、気が焦っていたのかもしれない。

 そんな事を考えながらシェリル先生を抱きかかえ、ベッドへと寝かせる。

 

「いつもこのように侵入していたのですか?」


「いつもでは無いわよ、先生は魔法に使う鉱物に詳しいので、分からない事があった時に聞きに来てただけ」


「そうですか……色々とありがとうございます、もしスカーレット様が気づいてくれなければ母も失う所でした」


 フレイヤが深々と頭を下げてくる。

 

「私の恩師でもあるのだから当然よ」


 フレイヤは私の言葉を聞き少しだけ笑顔が戻ってくる。

 やはり子供が悲しい顔をしているのを見るのは辛い、笑顔が戻って良かったと思っているとフレイヤが言う。


「今更ですが、エカルラトゥ様の容姿で女言葉を使われると、少々その……」


「ああ、忘れてた、なんか最近エカルラトゥの声になれちゃってね」


 他人には気色悪くても、発している私は気にしなくなってしまった。なれって怖いね。

 フレイヤと話していると、私達がやって来た方向から声がかかる。


「困るな、こんな時間に城を抜け出されると……もう歳だから疲れるんだよ」


 振り向くとカーマインが立っていた。

 魔法士団の誰かが来るとは思っていたけど、手間が省けそうだ。


「しょうがないじゃない、色々と立て込んでるのよ」


「そうか……今はスカーレットなんだね、それで何に立て込んでいるんだい?」


「シェリル先生が狙われる可能性があったから、急いで来ただけ」

 

 カーマインが考え込んでいる。きっとろくでも無い事考えているんだろうな。

 出来れば理由を話したくないし、シェリル先生を安心させるために連れてきたフレイヤが今となっては邪魔になる。


「理由は話せないんだよね? それで私にどうしてほしいのかな?」


 フレイヤを一瞥すると、こちらの状況を加味して聞いてくる。


「シェリル先生を私が帰ってくるまで護衛して欲しい、その後は何とかする」


「わかったよ、でも対価がほしいかな~」


 カーマインがにやにやしながら言う。相変わらずめんどくさい人だ。


「じゃあ、アロガンシア王国の魔法封印の魔法陣の情報でどう?」


「その情報はいいね」


 どうやら対価として認められたようだ。

 あの情報はシリルが教えてくれたものだし、私が少しだけ実験した結果だけだから、重要度は低い。

 苦心して得た情報ならもっといい形で売る。


「ちょっと待って、フレイヤと作戦タイム」


 フレイヤを引っ張って部屋の隅へと行く。


「このあとどうする? 先生が起きるの待つか、もう帰るか」


「……帰っておきます、迷惑をかける訳にも行きませんし……」


 いまだに気絶してベッドに寝かされているシェリルを見ながら言う。

 きっと会って話したいのだろうけど、カーマインがいるのだから話すわけにもいかないか。


「わかった、帰ろうか」


「はい」


 私達の相談が終わり、カーマインの元に戻る。


「相談事は終わりかい?」


「ええ、あと庭に三人埋めといたから」


「ああ、処理しておくよ」


「シェリル先生には……」


「適当な事でも言っておくよ、もしかしたら悪い夢と思うかもしれないけどね」


「……ありがとうございます」


 私に変わってフレイヤがお礼を言う。

 カーマインはそれ以上何も言わずに手をひらひらさせる。

 

 屋敷から出て街の中を歩く。

 もう夜中の二時を超えているから少し眠い。


「早く帰りたいから抱えて走らせて」


「……無理です」


 しかたなく歩いて帰る。

 門は閉まっていたが、すでにカーマインの指示がきているのか、何も言わずに入れてくれた。

 入れてくれなきゃ塀をよじ登る予定だったので助かった。


「取りあえず私は部屋に帰るけど、どうする?」


「部屋に戻り、エカルラトゥ様が帰ってくるのを待ちます」


 どうやらあっちはまだ終わっていないらしい。

 そもそも助けたとして、すんなりいくものなのだろうか。そこらへんは私が考えても仕方が無いか。


「私は寝るけど、フレイヤはあまり考えすぎないようにね」


 フレイヤは私に軽くお辞儀をすると自分の部屋へと戻っていった。

 肩の荷も下りたので部屋に向かう。さすがに疲れてない訳では無い。

 小柄な女性を抱えて走り回ったのだから、エカルラトゥの体とはいえ疲れて当たり前だ。

 だが、眠気の方が勝っているあたり、破格の肉体だなと思わずにはいられない。


 部屋に戻るとアリアが眠らずに待っていたので、宥めて寝かせた。

 もちろん今夜の事はアリアにも内緒だ、アリアも分かっているのか聞いてこなかった。




 朝起きると、いつも起きる時間から大分たっていた。

 少しだけ入れ替わりが発生するかと思っていたが、期待外れだったみたいでまだエカルラトゥの体だった。


「今日もこっちで過ごすのか……」


「私は嬉しいですけど」


「そりゃね……でも私はこっちの国にいてもあまり楽しくないんだよね」


 自分の国を改めて見て回る、字面は良いが、そんな事退屈この上ない。

 もっと知らない事を知りたい、せっかくアロガンシア王国に行ってるのに半分はこっちに戻ってるってどんな嫌がらせだ。

 しばらく入れ替わりの不満を考え、気持ちが落ちつた所で今日の予定を考える。  

 夕方からある立食パーティーのみか、しかもあの蒸留酒のお披露目会があるらしい。

 私は飲みたいとは思わないので、遠慮しておこう。


 アリアが机に向かって何かを書いているので横から覗く。

 どうやら魔法に関しての情報をまとめているようだ。

 しかも結構深い情報、古代文字に関してみたいだ。


「よくそんな情報手に入ったね」


「はい、カーマイン様に教えてもらいました」


「あいつかなりアリアの事を気に入ってるみたいね」


「たしかに弟子に誘われてますしね」


「女性が弟子に誘われたのは、今まで私しか居なかったから、もしかしたら……」


「もしかしたら?」


「いや、なんでもない」


 もしかしたらアリアのことを狙っているかもしれない。

 基本的に変人だから、いまだに所帯は持っていない。親が泣いているが、弟が家を継いでいるので問題ないといえば問題ない。

 

 しかしそれが事実だとすると何故かカーマインに取られたくないという気持ちがわきあがってくる。

 人は不思議な生き物だな、と物思いにふけっていると、部屋にノックの音が響く。


 アリアが忙しそうなので私が扉を開ける。すると王城の侍女がいた。


「エカルラトゥ様、アンジェリカ様よりお茶会の招待状です。昨日伺ったのですが不在でしたので遅れて申し訳ありません」


 侍女から招待状を受け取り、読んでみると今日の午後の予定になっていた。


「わかりました」


 返事をすると、一礼して帰っていく。

 確かに急だが、昨日は夕方近くまでクローディアと一緒にいたのが原因なのだと思う。

 招待状を吟味していると、アリアが声を掛けてくる。

 

「どなただったのですか?」


「お茶会のお誘い、今日の午後みたい」


「そうですか、ではそれまでに準備しないといけませんね」


「私はちょっとフレイヤの所に行くね、ごめんね」


「仕方が無いです、色々とあるのですよね」


 アリアが困った子供でも見るような目でこちらを見てくる。

 別に遊びまわってるわけじゃないからね。


 一人で出歩く了承も得たので、フレイヤの部屋へと向かう。

 扉をノックしてしばらく待つと、従者が出てくる。


「すまないがフレイヤはいるだろうか」


「はい、居りますがしばしお待ちください」


 無情にも扉が閉められる、そういえば今エカルラトゥだから警戒するよね。

 あまり入れ替わりが起こっているわけではないが、どうも体がしっくりくるせいで時々忘れてしまう。

 しばらく扉の前で待った後に、ようやく扉が開きフレイヤが出てくる。


「エカルラトゥ様、昨晩はありがとうございました」


「いや、たいしたことしてないから」


 むしろ久しぶりにシェリル先生の屋敷に行けて、なんとなく満足すらしている。


「では、あちらの話もありますので、どこか開けた場所でお話ししましょうか」


「わかった、あちらに庭園があるのでそこへ行きましょうか」


 さすがに一目がありすぎて、フレイヤの部屋に入るわけにもいかないか。

 庭園へ着くと、フレイヤの従者が紅茶を用意してくれる。どうやら家の高級紅茶のようだ。

 軽いお茶会の形になると、フレイヤが従者に聞こえない程度に離れてもらう。


「結果から言うと、やはりリウトガルド様は幽閉されていました」


「見つけられたんだ、でもアロガンシアに捕まっているのが事実なら、もう身の置き場がないね」


「……それも問題なのですが、それよりもリウトガルド様が知っていた計画の方が大問題です」


「教えてくれたんだ……」


 ある意味祖国を裏切ったと言ってもいいかもしれない。

 でもあんな王家に使えるのは私ならごめんだ。

 

「それでその計画はどんなものなの?」


「あちらも今日の夕方から立食パーティーがあるのですが、そこに竜種の劇毒を盛る計画です」


「……それは意味あるの?」


「どうやら解毒薬を盾にスカーレット様を脅して国に留まると言わせる計画みたいです。しかも自国の穏健派の貴族を丸ごと世代交代させる計画も込みで、もちろん跡継ぎ達は丸め込んでいると思います」


「……もうあの国無くなっても誰も困らないんじゃないの?」


「諦めないでください!」


「自分自身の拉致計画を聞かされた私は、一体どう反応すればいいわけ? 計画の元を絶ちたくならない?」


「そうですが……でも……」


 フレイヤが私の問いに答えられずにどもってしまう。

 

「はぁ……それに毒を盛られてたとして、どうやって解毒魔法を使うか考えてるの?」


「一人ずつ使っていけばいいのではないでしょうか?」


「絶対横やりはいるわよ? それに効果が出た時に体の周囲が光るから、ギデオンに見られたら止められかねないけど……どうするの?」


「……どうしましょう」


 フレイヤの顔がみるみる青くなっていく、無駄に希望を持たせたせいで、落ち込み度合いが高いのかもしれない。


「まあいいわ、別の手段を考えておくから帰るわね、時間もおしいし」


「はい……全てをスカーレット様に押し付けて申し訳ございません」


 フレイヤが深々と頭を下げてくる。


「飛んで来る火の粉を払っているだけだから」


「それでも感謝せずにはいられません」


「そこは魚心あれば水心だからね、約束は守ってね」


「はい、必ず」 


 普通の顔に戻ったフレイヤに、別れを告げて部屋に帰る。

 夕方までにやる事が出来た。アリアもいるのだから多分出来ると思う、保険であいつも呼べれば御の字だ。




「なぜ私がここにいるのだろうか、スカーレット……昨晩の件で色々と大変なんだけど」


「いいじゃない、それに竜種の劇毒の事知ってるんでしょ? けちけちしない」


「……すまないがあまりエカルラトゥ君の体で、スカーレットみたいな事言わないでくれないか? すこし気持ちが悪……って燃やすのはやめてね」


「ちっ!」


 あまりにも文句を言うので、軽く燃やそうとしたが防がれた。

 そんな私達の攻防を見ながらのんきな事を言う人が居る。

 

「私は楽しいです!」


「そりゃアリアはね……」


 今はカーマインに手伝ってもらい、竜種の劇毒の解毒魔法を魔法陣化している。

 古代文字に精通しているカーマインなら、私とアリアの知識を合わせれば何となく魔法陣の仕組みもわかるだろうし、そもそも技術的なものは同じ系統だ。

 しかも聞けば竜種の劇毒を持っているらしい。

 これはもう引き込むしかないと思っても仕方が無い。


「それにしても何故こんな魔法陣を作る必要があるんだい?」


「あっちの国でちょっとね。これがあれば概ね解決するし、アリアと私に恩も売れるからいいでしょ」


「そうかい……少し不穏な事が起きてそうだけど、聞かない事にするよ」


 聞かされると困るけど……という小さな呟きが聞えてきたが聞えてないふりをする。

 

「じゃあ頑張って今日の夕方までに作るわよ」


「はい!」


 元気なのはアリアだけで、カーマインは溜息を吐いていた。

 竜種の劇毒の現物を使い効果があるかないかを見極めながら魔法陣を組み上げていく。


 どれくらい経ったか分からないが、知らないうちに部屋の扉が開かれ城にいる侍女と騎士が覗き込んでいた。


「すみません、いくら待ってもお返事がありませんでしたので、勝手に開かせてもらいました」


「ああ、すまない皆集中していたのでね」


 部屋の中にいるカーマインが、アリアと一緒に机に向かって何かをしている姿を見て騎士が困惑している。

 当然の事だろうが、そこは気にして貰っちゃ困る。


「それで何かあったかな?」


 取りあえず笑顔で乗り切ろうと、何故部屋に入って来たのか確認する。


「お茶会の案内の為に来たのですが……」


「あっ、直ぐ支度をします」


 完全に忘れていた。アンジェリカ姫からのお茶会があったんだった。

 直ぐに着替え、カーマインとアリアに声をかける。


「私はちょっと出るから、二人はそのまま作りこんでて」


「わかりました」


「ふぅ……仕方が無い」


 カーマインは不承不承という感じだが、私は知っている。

 意外にアリアと一緒に魔法陣を作りこむ事が楽しくなっている事を……。


「じゃあ頼んだね」


 後を二人に託し、案内役についていく。

 どうやら今日は天気が良いから、外でお茶会を開くようだ。


 案内されたのは庭園に設置されている展望小屋だ。

 雰囲気も良く、二人で座るならさぞ絵になるだろう。


「エカルラトゥ様、こちらにどうぞ」


 アンジェリカ姫が手で座る場所を進めてくる。

 流されるままにアンジェリカの対面に座る。

 従者が紅茶を入れてくれる。当然うちの高級紅茶だ。

 好みはあるだろうけど今の所これ以上の紅茶はないのだから仕方が無い。

 

 二人で紅茶を堪能したところでアンジェリカがきりだす。


「モデスティア王国に来てみてどうでしょうか?」


 のっけから答えにくい質問が来てしまった。

 どう答えよう、アロガンシア王国の事を考えたあとモデスティア王国の事を考える。


「良い国だと思います」


「エカルラトゥ様にそう言われると嬉しいですわ」


 アンジェリカがふんわりとした笑顔になる。

 女性らしいその笑顔は、女の私ですら少し見惚れるくらいに綺麗だった。

 

「魔法に関して調べられているとお聞きしましたが、やはり魔法にご関心があるのでしょうか?」


 私自身は並々ならぬ関心がある、エカルラトゥもあるにはあるのだろうが、高度な魔法を見すぎて少し混乱しているのが伺えた。

 ならばそれを正直に言おう。


「そう思ってこちらに来たのですが、魔法が高度すぎて……」


「カーマイン様の魔法などは、この国の魔法士でも理解できません。あまりお気にしなくてもよろしいかと」


 あれはちょっと異端すぎるから、魔法を習い始めた人が理解できたら逆に怖い。

 それにしてもこのお茶会はなんなのだろうか、第三者からみるとお見合いのようにも見えるし……。


「今日のお茶会はどういったものなのでしょうか?」


「……そうですね、エカルラトゥ様、もしよろしければこの国にいらっしゃいませんか?」


「……え?」


 こちらの素っ頓狂な返事を聞き、一度考える素振りをした後に言い直す。


「わたくしと一緒になりませんか?」


 それは結婚してくださいって事だよね。

 マジか……アンジェリカ姫はタイミングが悪すぎる。

 なんで私と入れ代わっている時にこんな話を振るかな。

 ここは一度戻り、エカルラトゥに答えさせるしかないけど、取りあえず色々と突っついてみよう。


「私は一介の騎士です。許されないのではないのですか?」


「アロガンシア王家の血は引いているのですから、家格としては申し分ありませんわ」


 普通に答えらえた。でもさこう色々あると思うんだよね。

 降嫁とか陰口叩かれるだろうし、大変だろうし……。


「しかし、私がモデスティア王家に入るとなれば、やはり反対されるのでは?」


「王領を少し割譲し公爵領を作ると、既に父上と話しがついています。当主はわたくしになってしまいますが、いかがでしょうか?」


 ぐぅ……既に根回しまでされている。もしかしたらアロガンシア王家の血筋を取り込む考えでいるのかもしれない。

 もし戦争になり、アロガンシア王国を手に入れた後に、アンジェリカとエカルラトゥを送り込み統治する、まで見えた気がする。

 

「直ぐに答えて欲しいとは言いません、これからも外交はあると思いますので、またその時に答えをお聞かせください」


「……わかりました」


 取りあえず答えは保留に出来るのなら何の問題も無い。

 エカルラトゥが答えを決めればいいのだから、私が考える事では無い。

 だが、私にもかかわる問題がある、それはこの入れ替わりだ。

 さすがに、夫婦生活している時に入れ替わるなんて絶対に嫌だ。


 その後しめやかにお茶会は終わった。

 そりゃね、お茶会じゃなくお見合いだったからね。

 びっくりするから勘弁して欲しい。



 部屋に戻ると、カーマインとアリアは仲良さそうに話し合っていた。

 近づいてもこちらの事を気にせず話し合いながら、机の上にある紙に図形や文字を書いている。


「どこまでできたの?」


 声を掛けるとアリアが体をびくっっとさせる。


「スカーレット様戻っていたのですね。びっくりしてしまいました」


「お茶会は終わったのかい?」


「少し疲れたけどね、それは後で話すけど、魔法陣の方はどうなの?」


「あと少しって感じです」


「ありがとう、もう時間も無いし三人でやってしまいましょう」


「は~い」


 私も再び加わり、三人の時間は刻々と過ぎていく。

 なんとか形になったのは立食パーティー直前だった。   

タイミング良く精神が入れ替わる私~公爵令嬢スカーレット編~


第十八話㋜ 三人寄れば文殊の知恵(六日目前編)終了です

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