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タイミング良く精神が入れ替わる私~公爵令嬢スカーレット編~  作者: 氷見
第三章 親善交流ですれ違いの入れ替わり
18/28

第十七話㋜ 燃える仮面舞踏会(五日目)

聖女の名前を変更しました。姉はフレイヤのまま、妹はフレイからフローラに変更しました。

名前が似ていると、今後分かりにくくなると判明したためです。

 今日はここ最近稀なほど、寝起きが爽快だ。

 久しぶりに母と妹と弟に会ったのが良かったのかもしれない。

 精神の入れ替わりが親にばれてしまったけど、そんな事など些細な事だ。

 

「おはようございます、お嬢様」


「おはようナタリー」


 ベッドから降りると、いつも通りナタリーの入れてくれた紅茶を飲みながら訊く。


「昨日は変わった事はあったの?」


「シリル様からのお勧めの本を買った事と、舞踏会で踊られたマリアンヌ様達とお茶会をしました。後は夜分にエカルラトゥ様の鏡台を直されましたよ」


「鏡台を直すのは、私が行って直したかったんだけど……」


「お嬢様がご自身で直されたい、と思っている事は重々承知していましたが、お嬢様が見張られている事を考慮しますと、エカルラトゥ様が行かれる方が賢明と判断しました」


 確かに内情を知っているエカルラトゥが行った方が楽だろうし、仕方が無かったか。

 まあ気分の問題か、私が壊したから、自ら直したいという気持ちがあっただけだし。


「そう言われると、何も言えないわね……まあ良いか、今日はギデオンが誘ってきた仮面舞踏会までは暇なのよね?」


「はい、リオン様達は何かあるみたいですが、お嬢様には何も話は来ていません」


「ふふふ……なら今日は本を読んで過ごしましょうか」


「わかりました」


 昨日はなんだかんだで忙しかったから、今日こそゆっくりと魔法陣の本を読もう。

 まずは昨日買った品を見ると、小さな箱がある。

 開けてみるとスタールビーだった。


「ナタリーこれは?」


「それは、モデスティア王国と比べるとかなり安かったので、リオン様がお金を出してくれまして……」


「そうなの……どれくらい安かった?」


「相場の三分の二でした」


「ええ!……いや……でも、私やカーマインが買いあさってるし、モデスティア王国じゃ価格が上昇するのも当然なのかもしれないわね……」


「特にルビーはお嬢様が買いあさってますからね」


 それは仕方が無い、私の魔力は火との親和性が高すぎるのだ、加工するなら火と親和性のある鉱石が一番やりやすい。


「少しリオンに借りができたわね」


 貰えるのなら貰っておこう、のちのち役に立つかもしれないし。

 もしもの事を考えてこの宝石にも手を加えて置こう、転ばぬ先の杖だ。

 

 机に本を並べてどれから読もうか思案しようとしていたら、魔法陣に関係が無い本が混じっているのを見るける。


「ナタリーこの本は何故買ったの?」


「それはエカルラトゥ様が読んでみたいと選んだのですが、その分お金が足りなくなり、その分をジェレミー様がお出しになりましたよ」


 そんな事があったんだ、しかし何故エカルラトゥの欲しがった本をジェレミーが買うのだろうか……。


「あの二人ちょっと怪しいわよね」


 そんな記憶は無いが、気持ちが通じてる感はあると思う。

 それともこれが男の友情みたいなものなのかな。


「ち、違いますよ、ジェレミー様はお嬢様に色々とお世話になったお礼にとお金を出してくれたのです」


「ふ~ん、私のために出してくれたのね」


 悪い気はしないけど、エカルラトゥが欲しがった本を買ったら、私の為になってなくないだろうか……。

 まじまじと本を見ながら、中身を読む。

 光源魔法か、私には必要無いとも言えるけど、空間に魔法を固定して維持するのは面白いと思う。

 そもそも、火を自在に操れるのだから、光源はいらないのだけどね。

 そう思いながらも、中身が気になり全部読んでしまった。


 残りの魔法陣関係の本を順番に読んでいく。

 ナタリーを説得して実践しながら読み込む。

 実際帰ってから時間は一杯あるが、目の前に餌をぶら下げられているのだから食いつくしかない。


 魔法陣は作るのが大変だが、作ってしまえば結構簡単に発動できるのがメリットといえる。

 戦闘に使うとすると、固定砲台に出来る、少ししか魔法が使えない兵でも、魔法陣で一定の威力の魔法を撃てるのだからかなり有用だ。

 その点を考慮するとアロガンシア王国はどちらかと言うと、攻めるより守る方が強いとも言える。

 だからこそ奇襲攻撃で、こちらのコリデ砦を占領してから開戦したかったのかもしれない。

 取り返そうと来たところを防ぐだけで、モデスティア王国は摩耗していくのだ。あの一件を防げたのは僥倖と言わざるを得ない。

 

 魔法陣の勉強から、魔法陣をどう使うかの考察に移行していると、ナタリーがウィッグを準備しているのが目に入る。


「ナタリー、それは何に使うの?」


「こちらは仮面舞踏会の時に、お嬢様と入れ代わるのに使おうかと」


「そこまでしなくてもいいんじゃないの?」


「いえ、こんな事もあろうかと持ってきたのですから、使わないという判断はありません」


「それじゃナタリーが嫌なおもいしちゃうじゃない」


「そうならないように動きますので」


 ナタリーが言うなら出来そうだけど、それでも不安要素はあるし……。

 きっと魔力吸収魔法陣を用意してあるのは確かだろうし、今の所対抗手段は強引に魔法を使う事だけ。

 どうしても多くの魔力を練らなければ、あの中では使えない。

 そうすると魔力を練りこんでいる瞬間に襲われたら、それでおしまいだ。

 その場合ナタリーが時間を稼いでくれるだろうが、狙われるのは私なのだ、庇いながらでは本領を発揮できないし、最悪もありえる。その場合私はこの国を許せなくなってしまう。

 ならばここはナタリーの提案を了承して、私がナタリーを守る方が良いのかもしれない。

 

「わかったわ、私が側でナタリーを守るわ」


「私はお嬢様の代わりになり、お嬢様をお守りします」


 うん、なんとなく絶対に大丈夫な気がしてきた。

 私の代わりにナタリーに何かあったらと考えると、代わりになるのを止めたくなるが、私以上にナタリーが同じ思いをしてしまう。

 ナタリーの気持ちを汲んだうえで守り切ればいいだけだ。

 ならば今のうちに、貰ったスタールビーも使えるように仕込んでおこう。



 夕方前にリオンとフローラが部屋に訪ねてくる。


「スカーレット、すまない……足元を見られてフレイヤも参加させろと言われてしまった、仮面舞踏会は親善交流とは違う趣旨だから諦めようと思う」


 フレイヤの妹フローラが悲痛な顔をして俯いている。

 悲観になる理由があるんだろうけど、教えてくれないよね。 


「なぜですか?」


「私がスカーレットの守りにつこうと考えていたのだけど、フレイヤを守らないといけないんだ、それに魔法が使えない可能性は高いと思う。そうなれば他のメンバーでは無手でアロガンシアの刺客を相手に守れると言い切れないんだ」


 やはり魔法無しでは、アロガンシアには少し劣る。

 リオンみたいに素手でも強い肉体派もいるが、やはり全体を見ると少ない。

 

「私の守りがいないのが理由なのね」


「ああ……」

 

「ナタリーが、ウィッグを準備して持ってきているから、私と入れ代わって参加しようと思っていたのだけど……」


「……だめだよ、危険にさらせない、私が守るならその責に耐えられるけど、他人に責を押し付けるのは私が耐えられない」


 私とナタリーが飲み込んだ事を、リオンは飲み込めないみたいだ。

 それも仕方が無いかもしれない、私達は家族同然に育ってきたのだ、守り守られて生きてきたのだ。


「リオン様、あまり悲観的に考えすぎてませんか? 何かあれば私が全て吹き飛ばしますよ、これで」


 家から持ってきたスタールビーを見せる。

 それは綺麗にカットされ、各面には古代文字が刻まれている。


「……それは魔力吸引魔法陣の中でどれくらいの威力がでるんだい?」


「これだけなら部屋を焼き尽くせるくらいですね、会食の時の魔法陣の強さならですが」


 魔力をさらに込めれば爆発四散させられるけど、また怒られそうなので抑え気味に答える。


「爆発四散しないだけましなわけだね……それは私達も食らうと死んでしまう気がするんだけど……」


「そこはコントロールします、最近は良い炎が使えるようになりましたから」


 闘気が使えるようになった時に、闘気の炎も使えるようになった。

 エカルラトゥほど強くは無いが、そこから漏れ出ている炎を、私の火の魔法として使えたのだ。

 当然その炎は私を焦がさないし、私に悪意を持っていない者はほぼ燃やさない。

 ただ完全ではないのか、少し燃えるので温度を落として使っているが、多少燃えるくらいは享受して欲しい


 なぜ私も使えるようになったのかは、精神の入れ替わりが関係しているのだと思う。

 闘気の炎は入れ替わったから使えるのか、使えるから入れ替わったのか、それはわからないが後者のような気がしている。

 これは聖女達と同じで異能なんだと思う。


「そ、そうか、ならあまり気負いせずに参加しろって事なのかい?」


「そうです、ナタリーもいますから、ただもし何かあった場合は、約束は反故されると思いますけど、それはいいのですか?」


「はい、今はそこしか縋る所がありませんから……」


 リオンに変わってフローラが答えてくれる。

 正直あのギデオンが約束を守るとは思えないけど、それでも縋りたいのかもしれない。


「わかったよ……参加しようか、もし何かあったら直ぐに帰ること。最悪なのはあちらの思い通りになる事だからね、逃げるが勝ちさ」


「ええ、そこは同意だわ」


「殺される事は無いと思うけど、ただスカーレットは強引に……あるかもしれないから絶対に逃げるんだよ」


「その前に燃やすわよ」


 調子が戻って来たのか、リオンに笑みが戻ってくる、それに誘われてフローラも少しだけ口角が上がっていた。

 あとは緊急時の合図などを決めたり、もし攻撃された時の対処などを話し合い、仮面舞踏会の時間まで過ごした。



 仮面舞踏会の場所は王城ではなく貴族の屋敷だった。

 案内役の使者に、馬車まで案内された時はどうするか迷ったが、逆に屋敷を壊せるから良い事なのかもしれない。


 参加するのは私とナタリー、リオンとフレイヤとその従者二人だ。

 私達は馬車の中で素顔が分からない様にマスクを装着して屋敷に入る

 一体何をしてくるのか、少しだけ興味があるのか胸がたかなる。

 仮面をつけ、ウィッグをつけ、ナタリーに成り代わっている事に興奮しているのかもしれない。


 会場に通されると、中はかなり薄暗い、照明は最低限に留めてあるようだ。

 ステージ部分だけは明るく照らされている。

 人は意外に多く、もしかしたら第二王子派の貴族だらけなんじゃないだろうかと思ったが、周りの人物の所作を見る限りでは貴族でない者もいるようだ。


「どう?」


 私に扮しているナタリーに聞いてみる。


「警戒する方は今の所いないと思います」


 どうやらすべて武人で固めるなどの強硬策は無いようだ。

 そうなったら開始前に逃げるけどね。

 だが予想通り魔法が使えないようだ。

 しばらく待っていると、音楽が奏でられる。

 軽快な音楽が流れ、舞踏会とは雰囲気は全く違う。

 皆が軽く騒ぎだした頃に、照らされたステージに同じ格好をした十人が登場する。


 同じような背格好で、髪の毛すらも合わせてある。

 白い毛皮を全身に纏っているのか、白い獣のように見える。

 仮面も白く、薄暗いこの会場ならかなり目立つ格好だと思う。


 ステージにいる十人のうち一人が声を張り上げる。

 

「仮面舞踏会にようこそ、紳士淑女諸君。私が誰か分かっているだろう。その私が会場を練り歩く、私を当てた者に一つだけ褒美をやろう。しかし私を捕まえてはいけない。この十人と親交を深めたまえ、そのうちの一人が私だ」

 

 ノリノリで喋っているのはギデオンなのだろう。

 だが見た目からでは、あの十人が混ざってしまえば、どれがギデオンかわからなくなりそうだ。


「今日用意したものは、ミラボー子爵が新しく作った蒸留酒だ。この独占販売権もやろうじゃないか!」


 テーブルには瓶が置いてある。どうやら新しい製法のお酒を造ったみたいでその販売権を餌に遊ぼうとしている。

 悪趣味にもほどがあるが、ギデオンらしいといえばらしいかもしれない。

 商人もいるのか、その褒美とやらに雄たけびを上げ喜んでいる。

 会場は少し貴族の催しとは、程遠い雰囲気に包まれている。


「では、私達のダンスを見たまえ!」


 そう言い放つと、ギデオンらしき白い獣達が踊り出す。

 あっけにとられている、私達を無視して始まるこの狂乱の宴。

 すでに帰ってもいいかな? と言いたくなるのをぐっと抑えながらリオンとフレイヤらしき人物に目を向ける。

 リオンは茫然として立ったまま微塵も動かない、フレイヤはしゃがみ込んで蹲っている。

 これはもう無理じゃないだろうか。


 リオン達に近寄ろうとすると、手で来なくてもいいと合図をされる。

 フレイヤを抱きかかえ端の方へと連れていく。

 

 ステージのギデオンダンスが終わると、白い獣の恰好をした十人が会場へと降り色々な人達と会話をしている。

 舞踏会のような静かな曲じゃなく、騒がしい曲に合わせて広場で男女が手を取り合って思い思いに踊っている。

 本当に異様としか表現できない。


 この会場の雰囲気に呑まれ、喉がからからになる。

 あまりここにある物を口に入れたくないが、その他大勢に用意されている物に毒は無いはずだ。


「お飲み物を取ってきますね」


「お願い」

 

 ナタリーに声を掛けてから、離れた場所にあるテーブルに設置してある、蒸留酒というお酒をコップに注ぎナタリーへと持っていく。


「どうぞ」


「ありがとう」


 ナタリーにお礼を言われながら、コップを渡し自分の分を飲んでみる。


「うっ……」


 思わず声がでるほど強いお酒だ、蒸留酒とはこんなにも強いお酒なのかと驚愕する。

 こんな強いお酒、ナタリーは大丈夫なのかと急いで目を向けると、軽く体が揺れているのがわかる。

 これはまずいと近寄り、手から零れ落ちようとしているコップを受け止める。

 コップの中身を見ると結構減っていた。


「大丈夫なの?」


「す、すみません、ちょっと緊張してたのか一気に飲んでしまいました」


 肩を貸して一緒に歩こうとするが、ナタリーの足に力が入らないのか全然進めない。


「直ぐにお水を貰って来るから、誰にも近づかないようにね」


「はい……」


 ナタリーがこんなにお酒に弱いとは知らなかった。もしかしたらナタリー自身もしらなかったのかもしれない。

 しかも私がナタリーに渡したのだ、信用して一気に飲んでしまったんだろう。

 急いで水を飲ませて胃の中のお酒を薄めないと、もっと酔ってしまうかもしれない。


 近くのテーブルから水差しごと持って、ナタリーに目を向けると、白い獣がナタリーの肩を掴み、抱き寄せて何かを囁いているのが見える。

 早く戻らなければと思うが、参加者に阻まれ近づけない。

 体裁を繕うのを止めて参加者を押し退けながら戻ろうとしたら、持っていた水差しから水が掛かったのか、私の腕を掴む者がいる。


「おい、挨拶なしで逃げるのかい? 少しこちらに付き合ってもいいじゃないか」


 卑しく歪んだ口元が見える仮面をつけた、恰幅の良い中年男性が言う。

 しかも片手には蒸留酒を瓶ごと持っている。貴族じゃ考えられない。

 さすがに構ってられないと闘気を使って逃げようとするが、掴まれた腕を跳ね除けられない。

 見た目じゃ分からないがこいつは強い。


「じゃじゃ馬な嬢ちゃんだな、そこまでされると簡単に放したく無くなるな」


 口元をにやにやさせながら言う。

 こんなのに構ってられない、ナタリーを助けなければと目を向けると、白い獣がナタリーの〇っぱいを揉みしだいているのを見て頭に血が上る。


「あちっ! なんだ?」


 闘気の炎をだすと、私の腕を掴んでいた手を焼かれ放してくれる。どうやら魔法は使えなくても闘気の炎は使えるようだ。

 そのまま中年男性から瓶を奪い取り、邪魔する者を跳ね除け、そのまま手に持った瓶を白い獣の脳天に向けて振り下ろす。


 瓶が砕け散る音が響き、白い獣の仮面が割れギデオンの顔が現れる、その額からは血が流れ落ちていた。

 瓶の中に入っていた蒸留酒がギデオンにそのままかかり、酒の強い匂いがそこらに充満する。


「くぅっ! 何をする侍女無勢が!」


 まだ私をナタリーと勘違いをしているギデオンは、そう言いながら私の腕を掴む。

 じゃあそのまま燃えてしまえ、と炎をだそうとした瞬間にバカでかい声が会場に響く。


「やめろ!」


 でかい声にびっくりして、動きが止まり、声がした方へと顔を向けると、薄暗いからかランプを持った第一王子のフェリクスがいた。

 こちらに近づき、ランプをギデオンへと向けて、二人が誰なのかを確認しあう。

 その間にナタリーを離れた場所に連れていき、水を飲ませる。

 目は開いているが、心ここにあらずという感じで、ぼーっとしている


「兄上! 何ぜここにいるのですか!」


「このバカ騒ぎはもう終わりだ、皆も帰りたまえ!」


 フェリクスが参加者に言い放ち、周りにわかるように両手を振る。


「兄上にそんな権限は無い!」


「父からこの仮面舞踏会を今すぐ中止しろとの命令が出ている、これがその書状だ」


 ギデオンがフェリクスの出した紙を奪い取ると、わなわなと震え出した。


「父上の筆跡だが……しかしあと少しで魔女を落とせたんだぞ!」


 ギデオンがスカーレットに扮しているナタリーを指差しながら言う。

 もしかして酒以外にも何かナタリーにしたのだろうか……。

 しかし何かしらやっているのならば許せない、絶対に。


「それは少し前までの方針だ、今からは手だしする事はまかりならん」


「そんな事を兄上に言われる筋合いはない! おい!」


 合図とともに白い獣が集まってくる。どうやら手練れのようでスムーズに人を掻き分けギデオンの後ろに集まる。

 このままだと兄弟対決になり、私達も巻き込まれそうだ。


 ならもう燃やしても良いんじゃないだろうか、どうせ揉めるなら私の気分が良くなる形にしたい。

 精神を集中させて、フェリクスの持っているランプの火から火花が出るように調整して火の魔法を使う……。

 が、ランプの上部から一瞬小さな火柱が出る。……調整できなかったようだ。

 そりゃね、一発勝負で吸収される魔力を加味して魔法なんて使えない。でも概ね成功したので結果オーライだ。


 その火柱がギデオンに燃え移り、一瞬で火だるまになる。

 アルコール度の高い蒸留酒がギデオンにはかかっていたから、燃えて当然だ。


「わっ! あああああ! だ、だれか助けろ!」


 ギデオンも周りも慌てだすが、魔法が使えないから消火が出来ない。

 幾人かがテーブルにある水差しの水をかけるが火の勢いは止まらない。

 フェリクスはギデオンから離れ、もがいているギデオンをただ眺めている。

 

 これはチャンスだ、どうせ後で回復魔法で直すだろうし、直ぐに着ている服などを使って消火する事を思いつくだろう。

 ならばこれまでの恨みを晴らすいい機会だ。

 どうにかギデオンを包んでいる炎を操り、頭部の毛根を燃やしてしまおう。


 制限された中で繊細な魔力操作をするのは骨が折れるのか、ギデオンを睨みながら炎を操作していると、誰かに肩を掴まれる。


「スカーレット、殺気がだだ洩れだから、抑えてほしい」


 リオンと、その後ろから抱きついているフレイヤだった。

 そんなに殺気がこもっていたのか、と反省し止める、全部とは行かなかったけど多少はいけたと思う。

 殺気を感じたからなのか、最初からその予定だったのか、フェリクスがこちらに声を掛けてくる。


「すまないがもうお開きだ、帰ってもらって結構、残念ながらギデオンの約束は守られそうにはないがな」


 そう言いながら、やっと火が消えて外に運ばれるギデオンに目を向ける。

 たしかに喋るのは無理そうだし、仮面舞踏会は散々だ、絶対こちらに情報なんて渡そうって気はないと思う。


「フレイヤ……残念だけど」


「……はい、仕方が無いです」


「帰りましょう、早くナタリーの事を調べないと」


 いまだに放心しているナタリーが心配だ。

 リオンがナタリーを抱きかかえる。

 こんな時は男は役に立つな~と思っていると、フレイヤがフェリクスの前に出る。


「以前助けてもらいありがとうございました、あの時お礼を言えなくてごめんなさい、怖くてお礼を言えませんでした……」


 フェリクスが一旦考え込み、首を傾げる。

 思い出せないフェリクスを見て、フレイヤが何かに気づき、小声で「あの時はフローラと名乗っていました」と言うのがかすかに聞こえた。


「ああ、野盗に襲われていたのを助けた件か、なるほど……そういう事か……いやこちらの話だ」


 なにがそういう事なのかよくわからないが、思い出したようだ。

 以外にお人よしなのかもしれない、そうだったらいいなと思う。


「あの時のお礼を言うタイミングが無いかと、伺っていたのですが……」


 フレイヤがもじもじしながらフェリクスに言う。

 盗賊狩り王子なんて二つ名を侮蔑として使われていたのだ、人前では難しかったのかもしれない。


「それより早く出たほうが良いぞ、そろそろ愚弟が戻ってきかねない」


「はい、ありがとうございました」


 フレイヤはフェリクスに頭を下げて、私達の所へと来る。

 この騒ぎから逃げる参加者に紛れて、急いで馬車に乗り込み屋敷をでる。

 馬車は何事もなく王城へとついた。何かあるのかもしれないと窓から見ていたが何も無かった。

 リオンにナタリーを部屋に運んで貰い、ナタリーを介抱する。

 

 リオンとフレイヤは部屋に戻って貰い、ナタリーに何かされていないかを確認する。

 体を調べても何も痕跡は残っていない、魔法は使えなかっただろし……後は薬品しかない。

 

「んっ……ああ、お嬢様……」


「良かった、大丈夫のようね」


「はい……意識は微かにあったのですが、頭がぼーっとして体が思うように動かなくなってしまいまして……」


「何をされたか覚えているの?」


「液体のしみ込んだ布を口と鼻を塞がれました。不意を突かれ、いいようにされてしまいました」


「ごめんなさいね、私があんな強いお酒を飲ませたのが原因ね……」


「いえ、私もお酒にここまで弱いとはおもっていませんでしたから、いい機会だったかもしれません」


「お互い気をつけないとね」


「はい」


「じゃあ、薬が抜けるまで横になってなさい」


「……ありがとうございます、お嬢様」


 ナタリーは私にお礼を言うと、目を瞑り、直ぐに眠りに落ちた。

 今回は無理をさせてしまった。ナタリーの寝顔を見ながら反省する。

 しばらく寝顔を見ていると小さなノックの音が部屋に響く。


 扉を開けるとそこにはフレイヤ、いやフローラがいた。


「夜分に来てすみません、でも、どうしてもご相談したいことがあるのです」


「……まあいいわ、中に入りなさいな」


 フローラがおどおどしながら入ってくる。最初はもっと元気だったのに今じゃ不安な顔を見ている方が長い気がする。

 椅子に座り、紅茶を飲みたかったので自分で準備をしてフローラにも出す。

 そういえば侍女のかっこのままだった。


「ありがとうございます」

 

「それで、何が問題なの?」


「先ほど第二王子の使いからこれを貰いました」

 

 震えながら出してくる紙を受け取り読んでみる。


【父親の命が欲しければ六日目の事を静観しろ】


 これが事実なら、またギデオンの奴はくだらない事を考えている。

 わざわざ聖女の父親をさらってきたのか、ザインにいるだろうし各方面に喧嘩売りすぎじゃないだろうか。

 

「この父親とはは誰なの?」


「リウトガルド・フランドル団長は私達の父なのです」


「なるほど……って、え? 団長が父親なのねって、あれ……で母親はシェリル先生か、って凄い事になってるわね」


 これが事実なら両親が国をまたいでて、子供がザインの聖女って、ある意味平和を体現した親子だ。


「二人ともニクス教信者で、成人の時にザインで出会ったみたいです。父は私達が生まれる事を知らずに帰り、母はザインに残り私達を産みました」


「そこら辺はまあいいわ、それでこの紙だけど、ほとんど腹いせに近いかもね」


 気にはなるけど、あまり他人の親子関係に口を挟みたくない。だから聞くのは止めて置こう。

 先ほどの件はフェリクスのお陰で収拾がついたが、私が瓶で殴った理由は消えない。

 まあ突っ込まれたら私が殴ったって言うけどね、侍女が殴った事を事実にされると絶対碌なことにならない。


「はい……リウトガルド様、父が行方不明なので心配していたのですが、まさかこんなことに……」


「そりゃ自国の団長を盾にしてくるとか誰も思わないわよ」


「はい……」


「リオンにはこの事を言わなかったのよね?」


「はい、そもそも相談できる事を超えています。リオン様に縋ったとしてもリオン様が困るだけです……」


「私も困っているのだけど……」


「アロガンシア王国の内情を知っているエカルラトゥ様を頼りたいのです。もし本当に私達の為に動いてくれるのならですけど……」


 それでまずは私に話しに来たわけか、まあ納得できる……かな。


「やっぱりアロガンシア王国の人だと不安?」


「正直に言うと不安です。リオン様に護衛を頼むぐらいにはザインでは、アロガンシア王国に不信感を持っている人は多いです」


「それで結果的に脅されてちゃせわないわね」


「……はい、父の話は極秘だったはずなのですが、どうやら両国が手を取り合う事を良しとしない者もニクス教徒にいるようです……」 


「ならエカルラトゥは信用できるわよ、私の目から見ても、記憶を見ても両国の関係を良くする方向へいくなら手伝ってくれるわ」


「そうですか……ではエカルラトゥ様の所へ、フレイヤ姉さまが相談に行きますので、少し待っていてください」


 しばらく紅茶を飲みながらフローラを眺めていると、落ち着かないのか立ち上がったり、部屋を歩き回ったりしている。

 見ていられないので、落ち着かせるために先ほど棚上げした件でも聞こうとフローラに声を掛ける。


「暇だから、両親の話でも聞こうかしら」


「わ、わかりました、まずは初めからですね、ニクス教徒は成人になると、ザインへ巡礼に来るのです。滞在期間はそれぞれの家の事情になるのですが、そこに両親が出会い、私達を身ごもりました」


「ありがちといえばありがちね」


「……そうですね、父は母が身ごもった事を知らずにアロガンシア王国に帰り騎士になりました。母は父に身ごもった事を伝えず、一人で育てる事を決意したそうです。その頃も両国の関係はあまり良くありませんでしたから、家を捨ててまで一緒になる事に抵抗があったのかもしれませんし、いっとき寄り添うだけで満足だったのかもしれません。しかしそんな生活は数年で終わったそうです。母の実家で不幸があり、母が戻らざるを得ない事態になり実家に帰ろうとしましたが、まだ幼い二人の子供を抱えての旅は難しいとしか言えず、途方に暮れていたところに、ニクス教が聖女候補として引き取るとの申し出があり、それを受けたそうです」


 話に集中しているからか、今は穏やかな顔で語っている。

 どうやら落ち着ていくれた様だ。


「それでシェリル先生は実家に帰り、魔法学院に勤めだしたわけか……考えなしに子供を作るなとしか言えないわね」


「ごもっともですが、それで私達が産まれたのですから、否定できません」


「まあそうだけどね、私じゃ理解出来ない世界なのかもねぇ」


「スカーレット様はお好きな方はいらっしゃらないのですか?」


 気分が落ち着いたらすぐさま恋バナか、まあフローラが落ち着くなら付き合ってあげよう。


「ん~、最近はわからないのよね、その好きという気持ちが……」


「なぜわからないのですか?」


「あまりにも人に避けられていたからね。子供の頃に出会った男の子なんて泣き叫びながら逃げられたことあるわよ」


「それはなんと申したらいいか……」


「だからさ、男の子に淡い気持ちが湧いても、すっと消えるから、良くわからなくなってきてね、あれが恋だったのだろうか、ただ人恋しいだけじゃないのかってね」


「そうですか、エカルラトゥ様とはどうなのですか? 精神が入れ替わり、お互いの心が惹かれ合うのではないのですか?」


「それこそ一番わからない奴筆頭だわ、そもそも喋った事もないからね。でもあいつの記憶は多少みてるから理解している事もあるのよね」


 実際どうなんだろう、性格も見た目も悪くは無いし嫌いでもない、でも大手を振って好きかと言われたら、好きじゃないと答えそう。

 そもそも記憶を見たせいで近づき過ぎたのかもしれない、恋なんて言葉を超えているんじゃないだろうか。

 なんとなく思考が読めるし、何をしたいかもわかる。

 やはり人の記憶を見る事が出来るなんて毒にしかならない。


「いま、フレイヤ姉さまがエカルラトゥ様に話しをしたのですが、混乱して固まっているようです、しばらくかかりそうなので、休憩していてください」


「そう……いきなり全部話されたらそりゃ思考停止したくなるかもね……じゃあ、ちょっとソファーで横になっているから、もし寝てたら起こしてね」


「わかりました、私も少し疲れましたので、横になります」


 もう深夜と言える時間帯だ。しかも今日は色々とあったので少々疲れた。

 フローラを見ても不安はあるだろうが、かなり落ち着いている、きっと大丈夫だろう。

 ベッドはナタリーが寝ているので、代わりにソファーで毛布を掛けて横になる。


 横になるだけのつもりだったが、いつの間にか深い眠りへと落ちていく。

タイミング良く精神が入れ替わる私~公爵令嬢スカーレット編~


十七話㋜ 燃える仮面舞踏会(五日目) 終了です


ちなみに、燃える仮面舞踏会の元ネタは史実です。

ギデオンみたいな人が、現実に居た事実が怖いです。

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