第十五話㋜ アロガンシア王国の魔法陣(三日目)
朝起きると自分の体でほっとする。
夜遅くまでアリアと話をしていたから、ちょっと眠り足りない。
ベッドの上で腕を伸ばして、体をほぐしていると声がかかる。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、ナタリー」
いつも通りの朝だ。
だが部屋は違う。装飾がごてごてしている部屋の内装は少し落ち着かない。
ベッドから降りて、ナタリーが紅茶の準備をしているので、椅子に座る。
入れてくれた紅茶を飲む。いつもの家の紅茶だ。
「ナタリー、また入れ替わっちゃったけど何か変わった事はあった?」
「そうですね……模擬戦時にリオン様をお姫様抱っこして助けましたね」
「……どういう事なの?」
リオンをお姫様抱っこの意味が分からない、どうやればそんなミラクル起こせるのだろうか。
「リオン様とジェレミー様の模擬戦でリオン様が吹き飛ばされ、見学されていたご令嬢に当たりそうになり、エカルラトゥ様がリオン様を受け止めました」
「なるほど……」
「言いにくいのですが……助けられたご令嬢の幾人かが、お嬢様の事を気に入ったようでして……」
「ええ……」
「エカルラトゥ様が、少々ご令嬢たちに囲まれて鼻の下を伸ばしていまして……。それが原因なのか、舞踏会ではご令嬢達にダンスに誘われて踊ってしまいました」
「ハァ……こっちでも女難にあうとか、ありえないわ……」
「おとめした方が良かったでしょうか?」
「そこはいいわ、変な男と踊るよりは幾分かマシだわ」
クローディアで慣れてるし、嫌な慣れ方だけど。
「シリル様とは踊られましたよ、ただ、シリル様が緊張して転倒しそうになった所を、エカルラトゥ様が華麗にフォローされてました」
「それくらいなら良いわね、それに今日は魔法院の見学だしシリルには聞きたいこともあるし」
今日は待ちに待ったアロガンシア王国の魔法を調べる事が出来る日だ。
この為に親善交流などというめんどくさい行事に参加したのだ、存分に堪能しなくてはならない。
もし今日に精神の入れ替わりが起きていたら神を呪っていただろう。
「じゃあ準備しましょうか」
ナタリーと共に支度をして、リオン達が集まる部屋へと向かう。
聖女フレイヤもいるが、浮かない顔をしている。
リオンが気づいて声をかけているが、あまり芳しくはないようだ。
彼女に二人いる謎を聞いてみたいが、どうやって聞こうか考えるが、直球以外無理だ。
せめて二人いる事を知っている者がいれば……今回のまとめ役のリオンなら知っている可能性は高いが、逆に何故知っているかを絶対に聞かれる。
フレイヤの事を考えながら部屋の中で待っていると、魔法院に所属しているシリル・アルトワが入ってくる。
「モデスティア王国の方々、今日は私シリルが魔法院をご案内いたします」
軽く会釈して、魔法院へと案内してくれる。
王城の端の方まで歩かされる、どうやら魔法が好まれていないのは確かの様だ。
魔法の研究所が、宮廷の一番端とは邪険にしすぎじゃないかと思わなくも無いが、中心部だと爆発したら大事件になるし、これが普通なのかもしれない。
魔法院に着くと、教室のような部屋に案内される。
「では、これから部屋を周りますが、私達が何を一番研究しているかをご説明しますね」
前にある黒板に文字を書きだす。
やはり私の目に狂いはなかったようだ、シリルは研究大好きっこだ。
「私達の国は魔法陣での魔法に力を入れています、理由は簡単です、魔法を使うには才能がいりますし、相性も存在します。それを補うために魔法陣で色々な魔法を簡単に使おうというのが私達の根本なのです」
シリルは先生のように字を書きながらしゃべる。
「たしかに魔力効率は落ちるし、魔法の威力も落ちますが、魔力操作が多少出来る人であれば使えるようになる、というのはメリットの一つだと思っています。当然デメリットも存在しますが、それを補えるだけの成果をだせばいいだけです」
魔法陣は、流す魔力の量に関係なく一定量の魔力を消費して、組まれた魔法陣通りの威力の魔法が発動する。
簡単に言えば一度魔法陣を作り出せば、消費分の魔力があれば使えるって事だ。
「色々な人が魔法陣で魔法を使えれば、それだけで人々の生活環境が良くなると思っています。以上です。これから研究室を見学に回りますが、その前に何かご質問がございますか?」
これまでのアロガンシア王国の戦争したい、って政策からほど遠い思想だ。
その事実にびっくりするが、表向きの思想とも考えられるから何とも言えないな。
しかし一応聞いておきたい。学院時代を思い出しながら手を上げる。
「……どうぞ」
急に構えないでよ。私が質問するってわかってたでしょ……。
「魔法を無力化する魔法陣の事をお聞きしたいのだけど」
なぜそれをって顔で驚いているけど、まあエカルラトゥからの情報だからね。
でもきっとモデスティア王国の密偵が掴んでるでしょうし、聞いても良いんじゃないかな、なにより聞きたいし。
「……そうですね……なんと申したらいいのか……」
「やはり機密なんでしょうか?」
「はい……すみません」
ちっ、駄目か、聞きたかったが、まあ何処かに魔法陣張ってあるんだろうし、探して色々やってみよう。
「で、では見学にいきましょうか」
そそくさと教室を出ていく。
リオンが少しこちらを睨んでいる、きっと魔法無力化の魔法陣の事だろうが、そんな事はきにしない。
シリルに案内され、研究室を見て回る。やはり王族や官職に見せるためなのか、見学できるような構造になっていた。
魔法陣を作りこんで、発動するかを試しているのが見て取れる。
数部屋見て回った感想は、若い子が全然いない、が一番最初に出てきた感想だった。
魔法を重要視していないのは知ってたけど、興味ないとかお国柄だなと思う。
シリルは貴重な魔法院のホープなのだろう。
見学がの最後に、剣に魔法を組み込んでいる研究者を見つけ観察する。
「シリルさん、あれは普通の剣にエンチャントしているの?」
急に私に声をかけられて、びっくりしたのかちょっとだけ飛び跳ねる。
恐る恐る私に近づき、研究室の中を見ながら私に答える。
「ああ、やはり貴方ほどになる一目で分かりますか……あれが可能になれば普通の剣に魔法をエンチャント出来るのですが、私はあまり関わりたくない研究なんです」
シリルはやはり穏健派なのかもしれない。
魔法を付与できるのは貴重な鉱石や宝石だけだが、普通の剣に魔法がエンチャントされたら、魔法が使えない人でも剣を媒介にちょっとだけ魔法を使えるようになるし、基礎威力も上がり、戦争時にはかなりの戦力を増強できるだろう。
「でも可能になるのであれば、生活に必要な物を作れないかしら、例えば火のエンチャントした平たい石を作れば、その上で料理が作れますし」
「……なるほど、戦いに利用するのではなく平和利用に向ければいい訳ですね……たしかにありですね」
「あとはエンチャントの技術で魔力を貯められる安価な石などを見つければ、それを使い魔力がほぼ無い方でも使用可能になるかもしれませんし」
魔力を貯める宝石はあるがやはり高いのだ、安価なものが見つかれば一気に解決できそうではある。
「ああ、それは面白いですね、魔法が一切使えない方が魔法を使える世界ですか……ありがとうございます、何か見えた気がします」
シリルが私の両手を握ってぶんぶんと振る。
視点が変わり、嫌悪していた研究が一転して、自分の目指す方向に道が出来た感じで嬉しいのかもしれない。
「どういたしまして、私も少々魔法陣について研究してみようと思いますね」
「ああ、ではお礼として僕が子供の頃に読んだ魔法陣の本をお教えしましょうか? その本が売っている店も紹介しますし、後でタイトルを紙に書いてお持ちしますね」
「まあ、ありがとうございます」
シリルと笑顔で会話する。私と会話して青い顔をしていた頃が懐かしい。
二人で世界を作っていたのが原因なのか、リオンの顔色が悪い。
「どうされましたか、リオン様」
「……スカーレット、研究するのは良いけど、ほどほどにしてよ?」
「わかっております」
猜疑心のある目で見られる、解せない。
研究室の見学が終わると、広い部屋に通される。
「ここでは、魔法陣を実際に使ってもらいます」
部屋の中には、床に魔法陣が幾つか書かれてあり、傍にある机の上にある紙に効果が記載されている。
「わからない事があれば質問を受け付けますので、ご自由に魔法陣を使ってみてください」
リオンが魔法陣を観察したり、フレイヤが魔法陣を発動させている。
少しだけ元気が出てきたみたいだ、さすがリオン。
私も見てみようと設置されている魔法陣に近づこうとすると、シリルが小声で聞いてくる。
「魔法を無力化される魔法陣の事をお教えしましょうか?」
「是非」
若干返答が食い気味になったが、凄い興味あるので気にしない。
苦笑いしながらシリルが語ってくれる。
「無力化されると言っていますが少し違います、大気中に放出される魔力を吸う魔法陣なのです。スカーレットさんが作ったという魔法を封じる鉱石とは逆ですね」
あれは体内で練っている魔力を放出して、練らせない様にする鉱石だ。
それとは逆に練って放出して魔法が発動するのを、魔力を吸う事で発動させないのが、アロガンシア王国の魔法j封じの魔法陣なわけか。
「なるほど……」
「魔法陣の発動に当然魔力は消費しますが、最近では吸った魔力を転用できる様になったので、王城の一部であれば常に運用が可能になりました」
「面白いですね、魔力探知ができれば、ほぼ運転魔力がいらない魔法陣になりそうですね」
「言われるとそうですね……魔力を探知してから魔力を吸い、その魔力でさらに魔力を探知すると……消費魔力がぐんと減りますね」
小声でシリルと会話していると、良い時間が立ったのかリオン達が魔法陣に飽きてこちらを訝しむ目でみていた。
「ああ、すみません、これで魔法院の見学は終わりです、お部屋まで案内しますね」
シリルが慌てて案内をしていたことを思い出し、皆を引率しだす。
これでシリルとの対話が終わりなのかと、気落ちしているとリオンが近づき小声で言う。
「あまりアロガンシア王国に益になる事をぽろぽろ言うんじゃない」
「それ以上に私が良い物作りますから大丈夫ですよ」
満面の笑みで返す。リオンは溜息を吐きながらそれ以上は何も言わなかった。
知りたい情報も得たし、魔法陣の良い本も得る事ができそうだし、今日は良い日だ。
部屋に戻り、ナタリーとまったりしていると、扉をノックする音が部屋に響く。
ナタリーが対応に行くと、何か紙を貰い扉を閉める。
「お嬢様、シリル様から書籍を売っている店への招待状と、本のタイトルが書かれた紙をいただきました」
「シリルさんなら入ってもらっても良かったのに」
「あちらは使いの方でしたよ」
「そう、残念ね」
もう少し会話をしたかったが来なかったのなら仕方が無い。
まあ色々とあるのかもしれないし、本があれば問題ない。
時間があれば今からでも行きたいが、今日はアロガンシア王国の王族との会食だ。
遅れるわけにもいかないし、服装、化粧ともにきっちりしないといけない。
「でも、明日って私こっちにいるのかしら……」
「今までの事を考えると、あちらに移動してしまいそうですね」
「なら絶対に本を買っておいてね、絶対よ?」
「ご安心ください、必ず買いそろえておきます」
ナタリーがにっこり微笑む。
これで安心ってわけじゃない、精神の入れ替わりなんて無い方がこちらとしてはありがたい。
自国の内情なんて見学しなくても知ってるし、退屈なだけだ。
会食の為にドレスに着替え、化粧をする。
リオン達と合流して、会食の会場へと向かう。
王城の中央当たりに来ているな、と考えていると違和感を感じる。
もしかしたら、この違和感が魔力を吸う魔法陣の効果かもしれない。
色々と試してみたいが、皆の目がある今はまだ我慢しよう。
案内役に部屋に通されるが、あまりでかくないし、会食が出来る感じでもない。
「お時間になるまで少々かかりますので、こちらでおくつろぎください」
会釈をして部屋をでていく。
これはチャンスだ、部屋を観察して別室が無いか確認する。
お茶を出す簡易キッチンのような仕切りがあるので、そちらに向かおうとするとナタリーに止められる。
「どちらにいかれるのです?」
「え? ちょっと確認を……」
「何の確認でしょうか?」
「ほら違和感があったでしょう? と言う事は魔法を封じる魔法陣に入っているのよ、確認しないといけないわ」
こそこそとナタリーと会話しているのをリオンに咎められる。
「スカーレット、何かしようとしているのかい?」
リオンが近づいてくる。当然こちらに非があるような目線を向けて。
「もう! リオン様は違和感を感じなかったの?」
「……違和感?」
「多分今は魔法が使えないわよ」
ちょっとだけリオンと見つめあう。
「……本当だ」
リオンが私より先に魔法を使ってみたのか、魔法が使えない事を肯定してくる。
「なら私に試行錯誤させなさい、このままじゃ何もできずにやられる可能性もあるわよ」
ここは脅して押せば承諾してくれそうだ。
リオンが考え込んでいる、他の貴族達もあーだこーだと話し合う。
だが、不自然なほどにフレイヤの顔が青くなっていくのが気になる。
「わかった、でもあまりやりすぎてはだめだよ、そこだけは絶対に守って貰うからね」
「ふふ、そうこなくちゃ」
少しだけ仕切りで区切られたキッチンへと向かうと魔力を練って発動したり、魔力を練って放出したりと試行錯誤するが、反応は無い。
ではちょっとだけ魔力の出力を上げて、十八番の爆発魔法を部屋の中心に発動してみる。
魔法の中心に一瞬だけ魔法の火が出る。
「なるほど……」
「なにかわかったのかい?」
監視されていたのか、リオンが私の呟きに声をかけてくる。
「ちょっとこの部屋が爆発するくらいの魔法を使ってみたのだけど、中心に少しだけ火が出たわ。と言う事は魔力を吸う力を超えれば魔法が使えるわね、ただ普通の魔法使い程度の威力じゃ届かないわ」
私の言葉を聞いている他の貴族たちの顔面が蒼白になっていく。
フレイヤは少しだけ震えている気がする。
「スカーレット……やりすぎは駄目ってさっき言ったばかりじゃないか」
鬼の形相でリオンが詰め寄ってくる。
「ちゃんと同じくらいの魔力で障壁も作ってたから、発動しても音だけしかしなかったわよ……って近い近い」
リオンの顔が近づきすぎて怖い、離れてほしい。
ナタリーを見ると明後日の方向を見つめている、助けてくれないみたいだ。
鬼の形相をやめたリオンが呆れた顔で言う。
「もういいだろう、大人しくしていて欲しい……もうすぐ王族達との会食なんだ、魔法を使うのは禁止だよ、ナタリーも止めてくれると助かるよ」
「わかりましたリオン様」
くっ、ナタリーが敵に回っては隙を見て試行錯誤するのは難しい。
諦めるしかないのかと項垂れる。
ナタリーの了承する言葉を聞いたリオンは、頷きながら席へと戻っていく。
あとは時間が来るまでぼーっとするしかないが、でもどうしても気になる。
もしかしたら行けるかと、ナタリーを横目で伺うが、隙が無い。
魔力を練ろうとすると、殺気が飛んでくる、これだから武術の達人は優しくない。
大人しく待っていると、扉が開かれて会場へと案内される。
どうやら従者を連れて行っても大丈夫のようだ。
長机が部屋の真ん中に設置してある。
席は手前の両側に五席ずつ設置されている。
上座に一席あり、両隣に二席と二席に分かれている。
上座側と下座側には少しだけ開いている。
私達は下座の十席に座らされ、各従者は主人の席の後ろにひかえる形になる。
聖女フレイヤは上座の方に案内され、そちらに座らされている。
会食を取り仕切る貴族が声を上げる。
「ブリジット様ご入場です」
全員が席から立ち、王族が入場するのを待つ。
はっきり言ってめんどくさいなこの入場にこだわる感じ、ちゃちゃっと出てきて欲しい。
ブリジットがフレイヤの席に来るがまだ座らない。
「フェリクス様ご入場です」
第一王子が第二王子より前に来ちゃった。
権威の順番で入ってくるのかもしれない。
やはりあまり覇気がない、そら弟の下って周りに見せつけられたらちょっとへこむかもしれない。
「ギデオン様ご入場です」
元気いっぱいに満面の笑みで出てきた。
正直その長髪ばさっとするのやめて欲しい。鬱陶しいなら切ればいいのに。
ギデオンが入場して席へと着くと、全員が座りだすので、横に習って座る。
「申し訳ございません、父上はお時間を取ることができませんでした」
なぜかブリジットが私達に謝罪の言葉を述べる。
リオンが軽く会釈をして答えるとギデオンが喋る。
「では、アロガンシア王国の宮廷料理をご堪能あれ」
ギデオンの合図と共に扉が開かれ、食前酒が配られる。
薄味の白ワインのようで喉を潤す。さすがに毒はないだろうボトルも同じものを使っているようだし。
そのあとすぐにアミューズが配られる。一口で食べられる工夫のされた一皿だ。
一口サイズのタルトが、小さなコップに斜めに乗せられて配られる。
見た目も綺麗に彩られてこれからの食事を期待させてくれる、味も美味しかった。
オードブル、スープ、ポワソン、ソルベ、アントレと次々と進み後はデザートのみになる。
正直お腹が辛い、もう食べられないがデザートはなんとかなると自分に言い聞かせる。
やっと会食が終わるのかと思いながら、デザートを食べ、食後のコーヒーを飲んでいると、ギデオンが私達に話しかける。
「今日の魔法院の見学会はどうだったかな? あまり魔法に力をいれてはいないと言われているが、なかなかだっただろう?」
ここはまとめ役のリオンが答えるだろうと、リオンに目線が集まる。
「はい、魔法陣はあまり私達の国では使われていないので新鮮でした。実体験もさせてもらいありがとうございます」
「そうだろうそうだろう、我が国もモデスティア王国に負けてないと思っているんだよ」
リオンが笑顔を向けながら答えている。
あの立場じゃなくて心底良かったと思いながら、会話が流れるのを待つ」
「明後日に仮面舞踏会を予定しているのだが、親善大使諸君参加をしないかい?」
えー、あれって顔をかくして、身分を忘れて騒ごうってやつじゃなかったかな。
あまり行きたいとは思わないな……。
どうやら他の人達も乗り気じゃない様で、誰も何も答えないし、リオンも固まっている。
「特にスカーレットさん、あなたをお誘いしたいのだが……もし参加してくれるのであれば……そうだね一つだけどんな質問でも答えてあげようじゃないか」
リオンがぴくんと反応するが、奥にいるフレイヤも何故か反応する。
なぜ私を名指して誘うかな、きっとろくでも無い事を考えているに違いない。
しかし、聞いてみたいことはあるが……何をされるか分からないし行くのは無しだな。
「わかりました、全員ではありませんが、仮面舞踏会に参加します」
むむ、何故かリオンが参加を了承した。
何か理由があるのかもしれないが、巻き込むのは止めてほしい。
「……本当に参加するつもりなのか」
「兄上!」
第一王子のフェリクスが喋った。初めて聞いた声は少しエカルラトゥの声に似ている。
なにやら兄弟の確執があるのか、見た感じ通り仲が良くなさそうだ。
「兄上は黙っていてください!」
「ふぅ……わかった」
そう答えると席を立ち退室していく。
フェリクスがいなくなったのを皮きりに、小声で悪態をつく。
「くっそ! そんなだから盗賊狩り王子なんて二つ名がつくんだ!」
あっは、変な二つ名仲間が増えた。そうかフェリクスは盗賊狩りの王子なんて二つ名もってるのか。
体を鍛えている感じだったから、武者修行とかで盗賊狩りでもしてたのかもしれない。
民衆には受けがよさそうだが、貴族からすると汚名に近いかもしれない。
「おほん、明後日の朝にでも予定を知らせるから、その時に返事をくれればいい」
今更体裁を繕っても遅いが、まあギデオンだしどうでもいいか。
その後あまり会話も無く会食が終わり部屋に戻る。
部屋に戻りお腹を擦ってどうにか処理できないかと悩んでいると、扉がノックされる。
ナタリーが対応して、誰かを部屋に引き入れる。
目線を向けるとリオンが申し訳なさそうに近づいてくる。
「すまない、何も聞かずに仮面舞踏会に参加してくれないか、私も参加してスカーレットを守ると誓う」
「さすがに、はいそうですかとは言えませんよ」
「だよね……でもこちらも話せない事情があるんだよ……」
「ん~わりました、きっと魔法を無効化する魔法陣を張っているでしょうから、今度こそ試行錯誤させてください」
「うっ……絶対大事にしないよね? いやこれじゃ意味ないか、絶対に大事にならない様に対処してくれるよね?」
「わかりましたわ」
「ありがとう、ナタリーも参加してスカーレットを警護しながら見張っててくれないか」
「わかりましたリオン様」
警護はわかるけど見張るって部分はいらないでしょ……。
さすがにナタリーを連れて行かないという選択肢は無いし、ちゃんと考えて実験すれば良いだけだ。
リオンが出ていき、またお腹をどうするか悩んでいるとナタリーが聞いてくる。
「大丈夫なのですか? 仮面舞踏会は色々とその……あれな行為などが横行する場ですが……」
「ん~実験したら早めに帰る事にしましょ、それに最悪は全部吹き飛ばすから大丈夫よ」
「たしかにエルドレッド様は、何かあれば死なない程度にやってもいいと仰っていましたが、危険な場所に行くのは如何なものかと」
「きっとフレイヤと関係しているっぽいし、その件が大事になるならここで対処しないと、もっと酷くなる可能性もあるわよ」
「……そうですね、出すぎた真似をいたしました」
「良いのよ、ナタリーとの会話で頭に浮かんだだけだから」
「お嬢様らしいですね」
ナタリーが微笑みながらそんな事を口走る。
それよりこのお腹をどうするかが問題だ。
ナタリーと部屋の中で軽く運動したりしながら夜は更けっていく。
タイミング良く精神が入れ替わる私~公爵令嬢スカーレット編~
第十五話㋜ アロガンシア王国の魔法陣(三日目) 終了です