第十話㋜ この森林火事は私じゃない
「エカルラトゥ様! エカルラトゥ様」
誰かがむっつりスケベの名前を呼んでいる。
うるさくて眠れない、などと思いながらまどろんでいると、体を揺さぶられる。
もう仕方が無いなと、目を開けると眼前にアリアの顔のアップが目に映る。
「うわっ」
「きゃっ!」
あれ、もしかしてまたこっちか、と思いながらアリアを見ると、びっくりしたのか尻もちをついたアリアがいた。
ああ、めんどくさい子アリアか……。一瞬思考が止まるが、そのままにするわけにもいかない。
「どうかした?」
アリアは慌てて起き上がると、敬礼しながら現状を報告してくる。
「す、すみませんエカルラトゥ様、呼んで起きない事はいままで無かったので、もしかしてご病気かと……」
「いや、すまない、大丈夫」
「はっ! それでですが昨日の火事は消火し終わったと安心していたのですが、今朝早くにまた放火があり燃え広がっています、今回は規模がでかく複数犯ではないかと推測している者もいます!」
昨日の火事? と記憶を探ると頭に浮かぶ。
ああ、モデスティア王国側に逃げた放火犯か、なんとか夜半までに消し止めたはずなのにまた放火されたのか……。
む、結構エカルラトゥも水魔法が板についてきたのか、なかなか役に立っているようだ。
「そうか、なら出るよ」
「了解しました、私も魔法で消火しますので直ぐに向かいます」
そう言ってアリアは天幕から出ると馬に乗り駆けていく。
こちらも急いで支度をすると、馬に乗り現場に急ぐ。
今は日も昇っているので、煙がよく見える。
火がある場所に近づき、手加減した水魔法で消火していく。
しかし生きている木はそうそう燃えないはずだけど、なにか火が回りやすいようにやっているのか、凄い勢いで燃えている。
なんでだろうと思いながら消していると、なにやら近くで火の魔法を使う感覚を捕らえる。
さすがにこんな場所で火魔法使ってるのは、放火犯だけだろうと急ぎ馬を駆けて現場へと向かうと黒ずくめの人物が火魔法で周囲に火をつけている場面だった。
「おい、そこで何している!」
声をかけると当然逃げていく、仕方が無い魔法を使い動きを止めるかと思った時に、タイミングが悪いのかアリアが近づいてくる。
「エカルラトゥ様! くせものですか?」
「ああ、火の魔法で森を……燃やしていた」
燃やしていたという言葉に若干反応する自分が憎い。
「わかりました、私も追います!」
「あーうんわかった」
要注意人物のアリアの前で魔法を使うのは危険だ。
どう突っ込まれるか予想できない。まああいつ捕まえてもどうせ口割らないだろうし、自然に身を任せよう。
二人で追い込みながら追うのだが、以外に相手は早く木と木を器用にわたりながら逃げる。
どう考えてもこの国で言う瞬間ブーストの魔法を使っている。またアロガンシア王国かと考えていると、アリアが気づいたことを言う。
「またモデスティア王国側に逃げていますね、なにかあるのでしょうか」
確かに国境に向けて逃げている。
なにやらまたきな臭くなってきたと思いながら追っていると、急に目の前が光に包まれる。
私は魔法で防御できたが、馬やアリアは出来ずに転倒する。
別の人物が横から、閃光魔法を使ったらしい、怪しい人物が増えた。
追うのも良いが転倒したアリアが気になり追うのを止め、アリアの元に向かい抱き起す。
「大丈夫?」
「あ、はいなんとか打撲ぐらいですので、自分でどうにか出来ますが……私のせいで逃げられましたね、すみません……」
「いや良いんだ、不審人物よりは仲間だ」
「エカルラトゥ様……」
あ、なんかまずい空気が流れている気がする。
とりあえず今の奴らが放った場所へと向かい消火するのだが、複数犯か……これじゃ鼬ごっこだ。
ある程度不審者を排除しないと、いつまでたっても火の手がおさまらないだろう。
「はあ……しょうがないかこのままじゃ、いつまで消火作業が続くかわかったものじゃない」
「なにかなさるんですか?」
アリアが気になったのか聞いてくる。
「不審者を排除しようかと思って、馬は任せた」
そう言うと闘気の炎をだし瞬間ブーストでアリアの元から逃げる。
アリアの叫び声が聞こえるがもうしらない、後はエカルラトゥにでも聞いて欲しい。
幾分かアリアから離れると、魔力のうねり、特に火の魔法を使っている場所を探る為に精神統一をする。
私は火の魔法だけは絶対に人に後れを取る事は無いという自信がある、火魔法であれば多少遠くても発動さえすればわかる。
場所を特定すると、超加速で向かい黒ずくめの人物を昏倒させて縄で縛って放置する。
それを延々と繰り返していく。
たぶん十何人かくらいいたと思う、かなりの人数だ、それも結構な技量の魔術師達がだ。
計画した人達はかなりの大物なのだろう、こんな事する為に結構な技量の魔術師を雇うのだ。
だが、エカルラトゥの体に私の魔法があれば、そりゃ王都落とせる自信があるんだ、これくらいはどうとでも出来る。
しかし何故森を放火したのだろうか、アロガンシア王国が首謀者だとして何の意味が……。
まあ考えるのは後にしよう、取りあえず消火が終わってからだなと、まだ火がくすぶっている場所を見つけては水魔法で消していく。
お昼くらいには消火作業は概ね終わる。
だが空には黒煙が漂ったままだ、今日は風があまりなかったのが幸いして燃え広がりも少なかった。
それでもかなりの範囲が焼け、特にひどい場所は木々が倒れ黒い世界が広がっていた。
ジェレミーと合流して報告する。
「黒ずくめの人物達が火を放っていたので、昏倒させて縄で縛って放置したままよ」
「え? ちょ、昨日逃げられたって黒ずくめのやつらだよね? もしかしてスカーレットなのか?」
「そう、いくら消火しても隠れて放火してるアホ共がいたから探しだした」
ジェレミーが唖然としている。
そらね、エカルラトゥが逃がしちゃった奴らを複数捕まえたーって言われればそりゃ怖いよね。
「今回は火魔法使ってるから場所が特定出来るんだよ、わたしの近くで火魔法なんて手を上げているようなものよ」
「あいかわらず規格外だな、エカルラトゥは規格外から脱落しちゃったのに……」
「倒す倒されるの世界だけで生きてたエカルラトゥじゃね、逃げる事に集中した魔術師を逃がさないようにする技術は無いでしょ」
「まあそうだな、そこら辺の技術はまだ気にもしてないだろうな、まあ今は魔法って感じだし今後に期待だな」
そう言いながら、部下に森に点在しているであろう縛られた黒ずくめの回収をするように指示する。
部下が黒ずくめを探すために焼けた森に入っていく。
それを眺めながら、周りに人が居ないのを確認してからジェレミーに聞く。
「ジェレミー、アロガンシア王国は自国の森を焼いて何か得があるの?」
「なぜこれがアロガンシア王国と決めつけるんだ? 実際逃げている方向はモデスティア王国だが」
「瞬間ブースト? を使っていたからよ、あれはモデスティア王国では使っていない」
「えーあんな良い魔法を自国に報告してないのか?」
「あれはエカルラトゥに合わせて作った魔法だから、本来ならブレーキの為の魔法部分がいらないのよ」
瞬間的に身体能力を上げる魔法はあるし、効率的に出来るように改造して軍に渡してあるが、瞬間ブーストとはちょっと違う。
あれは身体能力が高すぎる人が使う為の魔法だ。普通に使っても全然いいのだけど効率の問題を考えると無駄あると思う。
まあエカルラトゥ並の身体能力があるなら、瞬間ブーストが生きるけど……。
「そういう事か、ならこの件はアロガンシア王国のなにかしらの思惑があって行っている事なのか……」
「そうなっちゃうね、だけど意味が分からない」
ジェレミーが思案しているのか、しばらく黙り込む。
私も考えては見るがいまいちよくわからない、国境近くを燃やす意味か……相手の国がやったと言いきって攻められたと言い張り戦争へと向かわせるためとかか、それって説得力あるのかな。
「スカーレットの本体の方は今どこにいるんだっけ?」
「キャンベル領よ、向こうの国境のすぐそこにあるメルクリオの街よ」
「……じゃあこれはスカーレットが燃やしたと言い出すかもしれないな」
ジェレミーが変な事を言う。
私がこの森を燃やす? 意味が分からない。
「スカーレットが森を燃やした噂はこちらでもしているし、何でも燃やすと噂されているからこそ紅蓮の魔女なんて二つ名で恐れられている」
まあ知っている、隣国にまで名が轟くのはちょっと嬉しいが、それが悪名なら勘弁して欲しいとも思っている。
「それで紅蓮の魔女が何かしら逆鱗に触れた結果、アロガンシア王国のナミュール領の森を焼いたと……お誂え向きにスカーレットは隣接している領にいる。噂が事実で無くても事実と判断するのだろう」
「マジか……この所業を私の悪名で事実にする計画なのか……」
「多分だが、わざわざ自国の森を焼くんだ、それなりの算段があるのだろうが……」
「でも、私がキャンベル領に来たのは偶然だけど」
「きっと当初はエカルラトゥを生贄にするつもりだったんじゃないかな、そもそもあいつ一人で行けって話だったし、もしかしたらモデスティア王国と繋がっているという話を王都で作っているのかもしれん」
そうだった、アホ第二王子のギデオンがそんな命令してたんだった。
そこに上手い事わたしが近くに来たから、喜び勇んで計画を実行したのだろう。
本当に碌な王族いないよねアロガンシア王国って……。
「はぁ……なんでこんな事に」
私は蹲り膝を抱えて人生について考えてしまう。
別に燃やしたくて燃やしてる……わけじゃないと思う。
あまりにも失礼な奴がいるのが悪いと思う、だってやられたからやり返してるだけだし……。
しかし下手をすればまた戦争の波が押し寄せてくるのだ、せっかくこの前回避できたと思っていたのにまたこれだ。
「すまない、まだ推測の域を出ないが、謝罪する」
「ジェレミーのせいじゃないわ」
ジェレミーが頭を下げてくるので止める。
謝られても困る。でもこのままじゃ私はどうなってしまうのだろう。
事実じゃなくても、騎士団が不審者が複数いるとか、捕まえた黒ずくめを差し出してもアロガンシア王国の上層部が握りつぶして終わりだ。
あとはこの件を盾にして宗教国家ザインを巻き込み、戦争か領土の割譲を主張する気なのだろう。
どこまでもモデスティア王国を切り崩したいのだろう。ここまでくれば狂気とも言える。
「スカーレット、木魔法は使えないのか? 多少は木を癒せると聞いたことがあるが」
たしかに木魔法を猛勉強した私は木魔法に必要な知識だけはある。
キャンベル家に伝わっている、木に使う回復魔法も知っている。
「使いたいのだけど、私は木魔法が使えないのよ」
ジェレミーが驚く、まあ魔女と言われているだけあって魔法に精通していると思っているのだろう。
「そうなのか? まあ適正とかあるのは知っているが、スカーレットが使えないとは思わなかった」
「なんか燃やしすぎたのか、木の精霊に嫌われちゃってね、なのにエカルラトゥには使えるってほんと堪えるわ」
ジェレミーがちょっと考えてから聞いてくる。
「エカルラトゥに木魔法を見せて貰った事が無いが、それってエカルラトゥがスカーレットの体で木魔法を使ったのか?」
「そうなのよ……ってあれ、あいつ良く私の体で木魔法使えたわね……」
技術関連は体と頭に依存しているから、使えるならするっと使えるだろうけど、ちょっとだけ使えたと言っていた。
もしかしたら、精神が入れ替わっているから木の精霊が混乱して、ちょっとだけ使えたのかもしれない。
ならばこの体で試してみればすぐに分かる事だ。
焦げて倒れた木に近づき手を掲げて、キャンベル家に伝わる木への回復魔法を使ってみる。
魔力を練り木へと近づけると、なにやら木から反応がある。
その反応に答える様に魔力を操作すると、焦げて倒れた木が緑色の光に包まれ復元していく。
「お、おいマジか、木が直っていくぞ!」
ジェレミーが興奮冷めやらぬ感じで叫ぶ。
どうやらエカルラトゥの体なら木魔法が使える用だ。
「いけるわね」
思わず笑顔になる、これである程度は治せるはずだ。
私の悪名が三国に轟く前に森を直してしまおう。
ジェレミーも打開策が目の前に現れた事に気分が落ち着いたのか苦言を言ってくる。
「いまさらだが、喋り方を変えたほうが良いぞ」
「ほんといまさらだわ」
私も少し余裕が出てきたのか、悪態で返す。
だが癒す範囲が広すぎてエカルラトゥの魔力じゃ多分足りない。
なにか方法は無いかと考える。
「ただ魔力が足りないんだよね、数回に分けてやる事も考えてやるか……」
「可能なら一気にやってもらいたいがな、これは夢だったレベルの方が説得できるし、この企みを知らない権力者がこの状況を見てしまえば、いらない混乱を呼んでしまう」
企みを知らない権力者が見てしまうと、色々と動いてしまうだろう。
穏健派が戦争派に鞍替えなどやられては困るし、国民感情もある。
幸い村には被害は無いが、焼かれた森を見て、領主がこれはモデスティア王国の紅蓮の魔女がやったとお触れをだしたりすれば、それは事実となり村人達は紅蓮の魔女である私を憎むだろう。
「回復魔法を使える人が手伝ってくれれば、もう少し何とかいけるかもしれないんだけど」
回復魔法は相手に魔力を渡して、体を活性化させて回復させるのだ、わたしなら貰った魔力を木魔法に回せる。
そうなると今いる団員じゃアリアしかいない。
現状めんどくさい子になっているアリアだが、秘密は黙っていると言っているし、エカルラトゥに向ける好意もあるだろう。
なら教えて良いんじゃないだろうか、私が極悪人になるよりはエカルラトゥが変な目で見られる方がましだし。
「そうなるとアリアちゃんか……教えるのか?」
「秘密は守るって言ってたから、もういいんじゃない? なんかめんどくさくなってきたし」
「はは、スカーレットが言うなら良いんじゃないか? 俺もなんかめんどくさくなってきたしな」
二人で笑いながら肩をバシバシたたき合う。
やはりジェレミーは良い奴だ、気も合うし。
「じゃあアリア呼ぶか、今は寝てるはずだからキャンプ地にいるはずだ」
キャンプ地に戻ると、急いでアリアを起こし強引に引きずりながら、燃えた森へと向かう。
「エカルラトゥ様、いい加減私を引っ張る理由を教えてください」
私はアリアの手を引いて歩いている。
まあ少しでもエカルラトゥに対して好意が上昇しないかという思惑もある。
それにより秘密を守ってくれる可能性を上げる事が出来るだろう。
惚れられた場合どうするかは、エカルラトゥが頑張るだろうから知らない。
「魔力操作の件知りたかったんでしょう? それを教えるわ」
喋り方が変な事に気付いたのか、アリアが首を傾げながらついてくる。
ジェレミーも少し離れた場所にいる。近づくとアリアちゃんの眉間に皺がよるのでちょっと離れている。
かわいそうだが仕方が無い。
目的の場所につくと、アリアに向かい話しかける。
「じゃあ教える前に、二つほど守ってもらいます」
「はい……」
何があるのだろうかとちょっと身構えている。
よく考えると、男二人に人気のない場所へと連れてこられたのだ、普通の女性なら怖い。
「一つは今から私が魔法を使うので、私に回復魔法を使う事」
「わ、わたし?」
アリアが私の言葉使いに困惑するが気にせず続ける。
「あとは私の事は秘密でお願い、そうしてくれるなら後でちゃんと魔力操作を教える、時間があればだけど」
これが今生の別れもあり得るが、まあ次合うことがあればちゃんと教えてあげよう。
「あ、はい、魔法を隠している事とかですよね?」
「まあそれも纏めてね、じゃあ言うけど私は貴方の国で言う紅蓮の魔女です」
わかりやすいようにと紅蓮の魔女と名乗ったが、すっごい恥ずかしい、顔が熱くなるのがわかる。
普通にスカーレットと言えばよかったと、今更ながら後悔する。
アリアちゃんは予想通りに、口を開けて何言ってんのこいつって目でこちらを見てくる。
軽く今の状況を説明しおわるが、アリアは再起動しない。
「まあ信じる信じないはどうでもいいよ、今から魔法使うから回復魔法をお願いね」
そう言いながら放心しているアリアを横目に木魔法を行使する。
今回は範囲が広い、エカルラトゥの魔力が空になるほど使ってしまうだろう。
ゆっくりと魔力を練り出来る限り広がるように念じながら魔力を解放する。
目の前全てが緑色の光に包まれていく。
アリアとジェレミーがその光景に驚き周囲を見回す。
すると燃えてしまった木々がどんどんと、元へと戻り森が蘇っていく。
「なんて精密な魔力操作……これが紅蓮の魔女の力」
いつの間にか正気に戻ったアリアがそんな事を呟く、紅蓮の魔女と言われると背筋がこそばゆくなるが今は集中する時だ。
目の前にひろがる光景を見たお陰なのか、アリアは精神の入れ替わりを信じたようだ。良いか悪いかは判断できない。
「アリアちゃん、驚いてないでエカルラトゥに回復魔法を」
「あ、忘れてました」
幻想的な光景の中にいたためか、先ほどお願いしたことを忘れていたらしい。
まあしょうがない、いきなり始めたし。
そう考えていると、アリアから魔力が供給される。
さらに広げていくが、どうもそれでも足りない様だ。
これで六割くらいは覆っているとは思うが、予想以上に足りない。
どうにか捻りだせないかと考えていると、自分自身の体の事が頭に浮かぶ。
もしかしたら、精神が入れ替わっているが繋がりは残っているんじゃないかと考えていると、何か糸のような繋がりを感じる。
やはりあったかと、そこから引っ張るイメージを頭に浮かべると、体の周りが金色の光の筒で覆われ、空へと延びていく。
「なんだ、これは……」
ジェレミーが予想出来ない事態に面食らっている。
「魔力を他から貰う」
それだけ言うと集中する。喋るだけで練っている魔力が弾けて終わりそうだからだ。
そのまま金色の柱が空に到達し、しばらくすると魔力が供給され始める。
ふふ、やっぱり自分自身の魔力は良い、と思いながら更に範囲を広げる。
これで完全に焼けた部分全てを覆えたはずだ。
多少外れていても、この感じなら勝手に木の精霊が活性化して元に戻るだろう。
そうこうしている間にアリアも限界がきたのか回復魔法を止める。
私も限界がきそうだが、終わった手ごたえもあるので魔法を止める。
すると緑色の光が段々と消えていき、金色の光も消えていく。
大きく深呼吸をすると全身から力が抜け地面へと倒れる。
「大丈夫か! スカーレット!」
ジェレミーが近づき抱き起す。
「魔力の……使い過ぎで……力がはいらない……みたい」
「そうか大丈夫ならそれで良いんだ」
そう言いながら体格のでかいエカルラトゥをジェレミーがお姫様抱っこをする。
ジェレミーもエカルラトゥ並に体格が良いから普通に持てたみたいだ。
アリアがこちらを心配そうに見てくる。
この感じなら私に対して何か悪意があるとかは無いだろうと安心する。
しかし初めてのお姫様抱っこが、エカルラトゥの体で体験するなんて最悪もいいとこだ。
だが、なんとなく心地よく、悪くは無いと目を瞑る。そもそもまったく力がはいらないのだ抵抗のしようがない。
「もどるか」
そうジェレミーが言うと、キャンプ地へと私を抱えたまま歩き出す……覚えているのはそこまでだった。
タイミング良く精神が入れ替わる私~公爵令嬢スカーレット編~
第十話㋜ この森林火事は私じゃない 終了です