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黒猫王子はメイドと踊る  作者: 河津田 眞紀
第6章 祭りのあと
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4.ようこそロガンス帝国へ II

この物語も、残すところあと数話で完結いたします。

今回のお話をお読みいただいた後、ぜひこれまでのクロの言動を振り返ってみてください。

彼、けっこう頑張っています。

 



 恥ずかしさのあまり、へなへなとへたり込む。


 だめだ、顔を上げることができない。

 なに…なんなの、コレ……こういうタイプの刑罰……?



 羞恥心に打ち震えていると、再び国王陛下が、


「クロ。話が違うじゃないか」


 そうクロさんに投げかける。すると彼も床に座り込んだまま、


「違くないよ。仕事に片がついたんだから、もうしたっていいじゃないか」


 ほっぺたを少しだけ赤らめながら、陛下を睨みつけた。

 ……ん?どういうこと?


「ふむ…確かに、今のフェレンティーナさんの話だと、今日に至るまではちゃんと我慢していたみたいだね」

「そうだよ。だからもう、いいでしょ?」

「んー……そうだね。あの件も解決したし、良しとするか」


 顎に指を添え、思案するように天井を仰いでから、頷く国王陛下。


「あの……これって、一体なんの話をしているのですか?」

「ああ、ごめんね。ええと、実はね」


 あたしの問いかけに、陛下はにこにこと笑いながら、



「二ヶ月前、クロが『他国から女の子を連れて来て、ここへ住まわせたい』って直接打診をしてきたんだ。そんなこと初めてだったから、今君にやったみたいに、本心を喋らせてみたんだよ。どうせ珍しい精霊の持ち主で、研究するために〜、とかって言うんだと思っていたら……こいつ、なんて言ったと思う?」



 そこまでで、クロさんが「ばか!言うな!」とジタバタ暴れ始めるが。

 国王陛下は……その美しいお顔を、それはそれは楽しそうに歪ませて、



「『レンちゃんをずっと側に置いて、いつでもちゅーできるようにするために決まってんじゃん』、って答えたんだよ。面白いでしょう?」



 ……へ………


 あたしは、自分の顔が火照るのを感じながら、口をぽかんと開ける。

 ルイス隊長とベアトリーチェさんが、笑いを堪えるように「んんっ」と咳払いをするのが聞こえた。



「あの、精霊研究以外に執着を見せないクロがそんなことを言うなんて、びっくりでさ。本当に好きな相手なら、連れて来ること自体は構わないのだけれど…でも、公私混同して仕事を疎かにされるのも困るだろう?戦争が終わったばかりで、まだまだバタついていたし、貴族たちに不穏な動きも見られた。そんな中で、四六時中ちゅっちゅされても……ねぇ。だから」


 すっ、と。

 今度は、クロさんに向けて指をさし。

 その身体に、魔法をかけながら。



「貴族たちの問題行動を解決するまで、フェレンティーナさんとの粘膜接触を禁じたんだ。破ったら、愛しの彼女をイストラーダへ強制送還。毎週会議の度に本心を語らせて、ちゃんと我慢できているかチェックしながらね」



 ね…粘膜接触……

 あたしは更に身体を熱くしながらも、クロさんを見つめる。

 そうか。それで、あたしとなるべく接触しないようにと、わざと突き離していたのか…

 まさか、あたしの強制送還の危機と戦っていたのは彼の方だったなんて。


 鉄の重みに動けないまま、クロさんは諦めたように胡座をかいて魔法を受ける。


「で?これ以上僕から何を聞き出そうっていうの?」

「いや、これでもう最後だよ。聞きたいことはただ一つ。その前に……」


 国王陛下は。

 その、青く澄んだ瞳をこちらに真っ直ぐに向けて、



「フェレンティーナさん。君は、ちゃんと自分の意志で、ここにいるんだよね?クロのことが好きで、側にいるんだよね?」



 尋ねる。

 考えるより早く、あたしの口が、


「はい。クロさんのことが、大好きです。これからもずっと、ずっとずっと側にいたいと、そう思っています」


 そう、答えていた。

 なんて恥ずかしい。恥ずかしいけど。

 この気持ちは、恥じる必要がないくらいに、あたしの本心だ。


 国王陛下はあたしの返答に、にっこり微笑むと、


「よかった。クロに弱味を握られたり、脅されたりして無理矢理連れて来られたわけじゃなかったんだね」

「おい。僕をなんだと思ってんだこの腹黒国王」

「だって君、今まで散々女性を泣かせてきたらしいじゃないか。そっち方面の信用はゼロだよ。ねぇ?ビーチェ」

「はい。わたくしの友人だった侍女やメイドたちが、指揮官のせいで何人も辞めていきました」

「ほらぁ〜前科持ち〜」


 ニヤニヤと見下ろす陛下とベアトリーチェさんのタッグ攻撃に、「ドSコンビが…」と歯ぎしりするクロさん。

 ていうか、国王陛下……喋れば喋るほど何というか、見た目とのギャップが……

 こんなフランクな、いたずらっぽい方だったのね……

 そんな王さまに、いつも飄々としているクロさんが翻弄されているのを見るのは…なんだか新鮮で面白い。面白がっている場合ではないが。


 それから陛下はクロさんの方を向き、少しだけ姿勢を正すと、



「じゃあクロも、今回は本当の本当に本気だっていうことだよね?一ヶ月半も触れるのを我慢できるくらいには……フェレンティーナさんのことが、好きなんだね?」



 そんな質問を、投げかけた。


 なんて恐ろしいことを聞くのだろうと、陛下を少し恨めしく思う。

 クロさんの、あたしに対する、本当の気持ち。

 怖くて、思わず耳を塞ぎそうになるが……

 聞いてみたい気持ちの方が、ほんの少しだけ勝り。



 広い広い謁見の間に。

 クロさんの、凛とした声が響き渡った。




「好きなわけないじゃん」




 …………え。


 呼吸が。

 思考が、止まる。


 しかし、すぐに続けて、




「『好き』だなんて、そんな甘っちょろい言葉で片付けないでほしいね。

 そんな生やさしいモンじゃないんだよ。僕の気持ちは。

 この()さえいれば、他に何もいらない。

 この娘を奪うような奴が現れたら、誰であろうと殺す。

 本当はこうして、他の男の目に晒すことすら嫌なんだからね。

 僕だけのものにして、一生閉じ込めておきたいくらい。

 この娘の笑顔も、泣き顔も、怒った顔も、全部全部、僕のものだ。

 僕だけのものだ。

 それくらい、僕はこの娘のことを…

 初めて、心の底から、あいし……」




「だめっ!」



 そこまでで。


 彼の口を塞ぎ、続く言葉を止めたのは。


 他ならぬ、あたしの手だった。



「そこからは……そこから先は……」



 彼の口を押さえる手が、がくがくと震えている。

 ああ、だめだ。あたし。




「ちゃんと、()()()()()()()()……聞かせて……?」




 怖いくらいに嬉しくて、震えてしまう。


 こんな風に想われていたなんて。

 あたしが思っていたよりも、ずっとずっと。


 彼の中に、あたしがいた。



 だけど、その先は。

 こんな形ではなく、ちゃんと。

 彼の意志で、彼自身の言葉で……聞きたい。

 いつか。いつの日か。



 あたしに口を押さえられ、クロさんは目を見開く。

 その顔は、さっきからずうっと真っ赤だ。

 きっと彼の目には、似たような顔したあたしが映っているのだろう。


 そんなあたしたちの横で、国王陛下は「ふふ」と笑い、


「ごめんね、無粋なことを聞いてしまったようだ。でも、よぉくわかったよ。もう君たちの交際には口を挟まない。これからも、仲良くね。ていうか、もういっそ結婚しちゃえば?婚姻可能年齢、十六歳に引き下げようか?」

「いやっ、さすがにそれはまだ……」

「お願いします」

「クロさん?!」


 面白がる陛下の言葉に、クロさんがあたしの手を押しのけてキリリと言う。


 だから……そういう大事なことは今じゃなくて!!


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