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黒猫王子はメイドと踊る  作者: 河津田 眞紀
第6章 祭りのあと
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3.ようこそロガンス帝国へ I

 




 王さまが、あたしに、用がある。


 最初、「なんであたし?」と思ったけれど。

 よくよく考えたら、めちゃめちゃ心当たりがある。



 だって、あたし。



 王さまが禁じていた、ルイス隊長とルナさんの逢瀬を、思いっきり手引きしてしまったのだから。



「まったく…フツーさっき刺されたばっかの人間を呼びつける?用があるならそっちが来いっての。ほんとブラックだよあの王さま。ねぇ、レンちゃんもそう思うでしょ?」

「……………」



 なにやらクロさんがぶーたれているが、こっちはそれどころではない。

 単純な逢引き斡旋とはワケが違う。一歩間違えればルナさんの魔法が暴走を起こして、この国自体を危機に晒す可能性のあることを、あたしは企てたのだ。


 あああ……終わった。今度こそ本当に、強制送還だ。さよなら、クロさん。(三回目)



 ……でも。


 と、あたしは前を歩く隊長の背中を見る。



 ……二人が再会した時の、あの表情。

 「会いたかった」という、二人の言葉。


 それを見届けることができた。

 ルナさんの魔法も、暴走するどころか……あたしたち全員を、見事に助けてくれた。

 国王陛下に密会がバレてしまったけれど、同時にルナさんの成長も見てもらうことができたのだ。


 だからきっと、これでいい。

 例えあたしが、どんな罰を受けることになったとしても…



「ちょっと、聞いてるの?」


 返事をせずに思考を巡らせていたら、クロさんが正面から覗き込んできた。

 眉をひそめたその顔を、あたしはじっと見つめて、


「……クロさん。離れ離れになっても、あたしはクロさんのものですからね」

「…………何言ってんの、君」


 真剣な声音で伝えたはずのその言葉に、クロさんはますます顔をしかめた。


「ほら、ついたぞ」


 隊長の言葉に、顔を上げると。

 そこには、微細な彫刻が施された巨大な扉があった。

 初めて訪れるが……ここが。



「『謁見の間』だ」



 隊長の声が、高い天井に、長い廊下に響く。

 両脇に控えていた二人の兵士が、静かに一礼をすると。

 その巨大な扉を、ゆっくりと、重々しい音を立てて開け始めた。


 扉の向こうの視界がだんだんと開けてくるのに比例して、鼓動が加速してゆく。

 そして。



「──いらっしゃい。待っていたよ」



 鏡面のような大理石の床に敷かれた、赤い絨毯の先。

 背もたれの高い玉座に腰掛け、微笑を浮かべたのは……


 ソルジェーニ・ミカエル・ロガンス国王陛下。

 何度見ても、息を飲むような美しさだ。


 そして、その傍に立っていたのは……

 先ほどまでアリーシャさんの部屋にいた、ベアトリーチェさんだった。こちらの視線に気付き、にこりと笑う。



「すまないね。わざわざ来てもらって」

「本当だよ。こちとら怪我人だよ?それに、今何時だと思っているわけ?よい子は寝る時間なんだけど」


 陛下のお言葉に、クロさんは頭の後ろに手を回しながら不満そうに返すので、あたしは心臓が縮こまる。

 舞踏会の会場にいた時から思っていたけど……あなた王さまに対してもそんな態度なの?!こっちの気が持たないからやめて!!


 しかし陛下はまったく気にしていない様子で「あはは」と笑い、


「ごめんごめん。でも、君だって早いとこケリつけておきたいだろう?」


 そう返した。

 ……けり?


 ベアトリーチェさんに「こちらへ」と促され、あたしたち三人は真っ赤な絨毯を踏みしめながら国王陛下へと近付く。

 横一列に並んだのを眺めると、陛下は。



「こんばんは。フェレンティーナさん」



 まず真っ先に、あたしに声をかけてきた。

 どきり、と心臓が跳ね上がる。


「こ、こんばんは。ご挨拶が遅れ申し訳ありません。イストラーダ王国から参りました、フェレンティーナ・キャラメラートと申します」

「うん。君のことはクロやビーチェから、よく聞いているよ。この国へようこそ。実は君に……聞かせて欲しいことがあってね」


 「いきなりごめんね」と言いながら。

 陛下は、ゆったりとした動きで、空中に。

 自らの御名を、『署名』し始めた。


 ……きた。やっぱり、尋問されるんだ。

 ルナさんと隊長の密会を企てたことを、問い質されるのだ。


 さっき見た限りだと……陛下の魔法は、かけた相手に本心や事実を語らせるというもの。

 でも、魔法をかけられるまでもない。

 あたしが話を持ちかけたのは、紛れもない事実なのだから。

 隠し立てするつもりは、毛頭ない。


 だから、あたしは。


「ちょっと、レンちゃんに何する気?」


 クロさんが語気を強めてそう言うが、あたしは動かない。

 そのまま、陛下がこちらへ指を向け、魔法をかけるのを。

 静かに、受け入れた。



「……さぁ、聞かせてもらおうかな」


 

 玉座に肘かけたその手に、顎を乗せ。

 陛下は、にっこりと笑ってから。


 悠然と、仰られた。





「君……この国に来てから、クロとちゅーした?」





 …………は???





 と、思わず口を開いた……つもりだった。

 が。




「全然。こちらに来てから一ヶ月半、まーったくしてくれなかったです」




 ……え?

 何これ。今の、あたしが喋ったの…?


 口が、舌が、喉が、勝手に。

 あたしの意思に反して、言葉を紡いでゆく。



「あたしの『心も身体も全部欲しい』、なんて言ってこの国に連れて来たクセに、仕事仕事仕事で全然構ってくれなくて。それなのに、今日になっていきなり……」



 だ…だめぇぇええっ!!

 お願い!誰かあたしの口を塞いで!!むしろ、舌を引っこ抜いて!!


 ていうか、何この質問!なんで王さまにこんなこと聞かれるの?!

 恐ろしい…実際に魔法をかけられた人々を見てはいたが、こんなにも無意識に口が動いてしまうものなのか。


 陛下の前で…いや、それ以上にあたしたちのことをよく知る隊長やベアトリーチェさんの前で……


 これ以上は、言えない!言えるわけない!!

 さっきまで、あんな……

 あんな、いやらしいことをしていただなんて……!!



 その思いが通じたのか。

 隣にいたクロさんが、咄嗟にあたしに近付き。

 その手で、あたしの口を塞ごうと駆け寄ってきて……



 彼の動きを、まるでスローモーションのように感じながら。

 あたしは、思った。


 嗚呼、あたしたち今、通じ合っている。

 まったく同じ気持ちなのですね。

 あなたがまるで、二人の身に降りかかるピンチを救いに来た、王子さまのように見える。

 と…




 ……しかし。



「ビーチェ」

「御意」


 国王陛下の一声で、ベアトリーチェさんが指を振るったかと思うと。

 クロさんの手があたしに届く直前、突如として彼の両腕に鉄製と見られる手枷が嵌められ…

 彼はその重みに腕を引かれるように、床に突っ伏した。

 王子、あっさり陥落。


「ちっ……"鋼鉄の女"め」


 恨めしそうにベアトリーチェさんを見上げる彼の呟きも虚しく。



 あたしのこの口は、まごう事なき真実を述べた。




「舞踏会の会場で刺された直後に一回。それから、先ほどまでいた医務室で、ベッドに引きずり込まれて、布団の中で何度も何度もキスされました。舌と舌とが絡み合う、それはもうえっちなキスを」




 両隣で、顔を真っ赤に染め上げるクロさんと隊長と。


 玉座の後ろで口を押さえ、ニヤッとするベアトリーチェさんと。


 正面で穏やかに微笑む、国王陛下。




 ………嗚呼、お願い。神さま。


 どうかあたしを…………この場から、消し去ってください。


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