パイにかけたら
「いいや、0だよ!!瀬戸!」
「違います!2です!!松代さん!」
ここは今泉ゲーム会社。
クリエイター共が、熱く己の意見をぶつける。
溜まった仕事に手も、頭も集中しながら、口だけで語り合う自論。
余裕と自信、それ故のトークがここにはある。
0か、2か。その議題は……
「πに0を×こそ、”おっぱい”と呼ぶだろうが!!”0π”=”おっぱい”、シンプルこそ究極!」
「πに2を×こそ、”おっぱい”と呼びます!おっぱいは2つしかない事実!その至高と噛み合った”2π”こそ、”おっぱい”と呼びます!!」
…………そんなトークに激怒する声があるのも当然だ。
「なんの話しをしてんだテメェ等!!くだらねぇ、小学生か!?」
「おう、三矢!お前はどっちだ!?」
「パイが2つあってこそ、おっぱいでしょ!!」
「馬鹿だろ!お前等、馬鹿だろ!!」
こー。……馬鹿と天才は紙一重と言いたい連中の集まりがここ。
松代宗司と瀬戸博は、いつもこんな感じの気分屋にして、変態で、馬鹿なデザイナーである。
管理職かつ常識人な三矢正明は、彼等に振り回されている日常。しかし、今日はグレードアップされることとなる。
「早くやれ」
「やってるだろ」
それに嘘をつけとは言えないのが、三矢の苦しいところ。
現に松代と瀬戸は超高速でペンタブやペイントソフトを操作し、次々に注文されているグラフィックを作り上げている。初めからやれよ。モチベーションに左右されすぎな2人だ。
そんな2人の助っ人にして、三矢にとってはこの場の馬鹿具合を更に荒らす存在がいることを、ある意味恐れていた。今のトークを聞いてないわけがない。
「ふっ、0πがおっぱいと呼ぶか。2πがおっぱいと呼ぶか。ふふふ、それだけかしら?」
「あんたは少しは女性らしい反応しろ。酉さん」
酉麗子。
このゲーム会社の実質のナンバー1であり、実権を握っている実力者かつお偉い人である。
「酉さんがデザインやってるの、久々に見ました。スピードもありますね」
「瀬戸、酉さんはすげーんだぜ。プログラムも営業も、企画も、なんでもこなすんだぜ」
「三矢くん。あなたには私達クリエイターの気持ちは分からないでしょうね。あなたは確かに仕事してるけど、隣で別の仕事をしてたら、空気が重くなるものよ」
「あんた達の馬鹿トークにツッコむ俺の苦労も知ってくれ。助っ人してぇのか、邪魔してぇのか?」
生真面目な返しの三矢に
「人に喜んでもらうのを提供するのなら、私達も楽しんで作るのが義務じゃなくて?」
「……あんたと口喧嘩じゃ勝ち目ねぇな。ただ、騒ぎすぎるなよ」
酉の当たり前の言葉に何もでない。
「話し戻すけど、”0π”か、”2π”か。どっちが”おっぱい”と呼ぶかなんて、愚問よ」
「どーいう話の戻し方してんだ!?」
「私はその疑問にこう、答えるわ」
ゴクリ……。
松代と瀬戸は息を呑む。
一体どんなものを×というのか。いや、ナニをかけられるというのか。
酉さんが言うんだから、すげー気になる。
「何を考えとるんだ、お前等!!」
「俺達の心を読むな、三矢」
「ムラムラしてるのバレるじゃん」
酉の答えは
「”π”……それこそが、”おっぱい”よ。”おっぱい”と呼ぶのよ」
「な、なにーー!?あえて何も×ない!?一体どうしてですか!?」
当然の疑問。……いや、その回答になんの意味があると、三矢は思うが、松代も瀬戸も真剣である。
「πは円周率の意味。数字で表せば、3.14が一般的ね」
「そうなのか?」
「πってそーいう意味だったの!?」
「お前等は小学生からやり直せ!!パイって記号だけしか覚えてねぇのか!?」
変態はパイしか覚えないものだ。
「そう。3って数字。この3を上から覗いてみると、”おっぱい”に見えるでしょ!ふくよかな曲線に点を付けたし、”おっぱい”ってやったでしょ!!子供の頃!みんなやったでしょ!?」
「確かに僕!それやってます!!3に点をつけて、”おっぱい”って!!πという記号だけで、”おっぱい”を表していたのか!!」
「しかも、ご丁寧に”3”、”.”って、並ぶんですから!!3に点を付けろって意味で、もうすでに”おっぱい”なのよ。この記号定数は!」
「酉さん、発言を撤回するなら今の内ですよ」
綺麗な人なんだが、こーいう馬鹿トークになると女らしさ0なのが残念に思う三矢である。
酉の意見に瀬戸は多いに共感するのであるが、松代は少し考えた顔をして、言葉を出した。
「いや、酉さん。確かに3がおっぱいに近いというのは分かるぜ」
「松代さん、その発言もおかしい。3がどーしてそう見える?」
「だけど、俺は3という数字がお尻とも思っている。それを基本として、3の中央の部位に毛を描き、少し削り、○○器って落書きしてた思い出の方が多い」
「僕もそれやったことあるよ、松代さん!3はお尻かもしれないね!」
「いや、酉さんに、……女に何言ってんだ、あんたー!?」
相手が酉じゃなかったら、間違いなく退かれる。
松代、強気のど変態な意見に
「私は3の中央の部位に玉を描いて、○○器ってやった事あるわ」
「あんたもなんつー返ししてんだ!?」
「確かにπは色んな可能性があるわね。今度、みんなの意見を聞いてみましょう」
ホントにこの人、女の自覚あんのか!?
◇ ◇
「あー……疲れた」
仕事は大半片付いたわけだが……。
「ねー、三矢くん」
「なんすか?」
「πって記号の形って、女性が股を拡げているように見えるのは気のせいかしら?」
「まだ続くんかい!?」
仕事じゃないからって、ここでさらにトークを深め始める。
松代もやってきて、
「いやいや、酉さん。俺はπって記号は、胸の谷間だと思うんだ。だからこそ、パイと呼ばれるんだ」
「あーそれもあるわね。ごめん、私、下半身の事ばかり思ってた。上と思わせて下だと思ってたけど、上と思わせて、上なのね」
「あんた等で解決すんのかよ!?俺に話した意味は!?」
まったく持ってその通り。
まぁ、ツッコミ役がいないとダメなわけだが、
「三矢ー。お前は何派なんだよ?」
「はい?」
「”0π”か”π”か”2π”か。一体どれなんだ?どれが”おっぱい”と読める?」
それを答える必要性はあるのだろうか?
しかし、子供の頃を振り返ったかのようなトークだった。三矢もこっそりとした感じで、答えを出す。
「π × π分の1 ×0.81……で」
「俺に算数を要求するな。その答えは一体なんなんだ?」
「けど、三矢くんも。必死に”おっぱい”になる計算を考えていたのね。なかなかならないから、そーなるのよねー」
「うるさいっすよ!」