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霊感体質な僕と束縛気質な彼女  作者: 節トキ
【大学一年生 五月】
14/87

誰が為に夜景は輝く(結)


「ホンット、モンペってやだね。甘やかすばっかりで、躾ってものを知らないんだから!」


「うん、そうだね……」



 ハルカはきっと良いママになるだろうな、と思ったけれど、口には出せなかった。


 プロポーズみたいで恥ずかしいっていうのもある。


 でも、それ以上に――この空間で言うのは、ちょっと……。



「あ、リョウくん! 夜景が見えてきたよ!」


「うん、そうだね……」


「うわぁ〜、綺麗! 上から見ると、下に星空が広がってるみたい!!」


「うん、そうだね……」



 そんなに綺麗なんだ。僕も見たかったなあ。




 僕達は、念願だった観覧車に乗ることができた。独り占めしていた家族が消えたため、客は『僕達』だけ。


 というと、僕が夢にまで描いていていたロマンチックムードの完成じゃないか、と思うだろう。




 しかし、考えてみてほしい。

 この観覧車が何故動いていたのか。どうやって動いていたのか、ということを。



 そう、あの親子達だ。


 両親の少年を喜ばせたいという思い、少年は大好きな観覧車にいつまでも乗り続けていたいという思い、そんな彼らの思いが『動力を失った巨大アトラクションを稼働させる』という荒業を成し遂げていたのだ。




 それを失ってしまったら、当然観覧車は動かなくなるわけで――。




「ウホッホホホ」

「オフッ? ウホホィ……」



 僕の隣に座っていたゴリラが、しょんぼりしながら窓をすり抜けて入ってきたゴリラと交代する。出ていった彼はこれから、観覧車を回転させるという重労働に勤しむことになるのだ。



 現在、この観覧車は人力ならぬ、ゴリ力で動いている。



 モーターに霊力を送りつつ、それでも足りない動力は全ゴンドラにぶら下がったり乗っかったりして補い――はっきり言って、ほぼ力技で無理矢理動かしている。



 そして頑張ったご褒美に、僕の隣に座って自分達も観覧車を楽しむ…………ということをひっきりなしに繰り返している。



 どうやら、ハルカのお隣は畏れ多くて座れないらしい。




 そう、『僕達』というのは二人きりという意味ではない。このゴリラ達を含めて、なのである。




 ロマンチックなムード?


 そんなもんないよ! ゼロぶち抜いてマイナスだよ!



 ムキムキゴリラが隣にいるおかげで僕側の座席はみっちみちの状態だし、窓からはゴリラがびっしりと顔をくっつけて中を覗き込んでるんだから!!


 ハルカには美しい夜景が見えてるみたいけど、僕には鼻息荒くしてるゴリラ面しか見えないんだよ!!


 どこ向いてもゴリラゴリラゴリラで、ゴリラ酔いしそうだよ!!




 多分、キスするところを間近で見たいんだろうけどさ…………こんな衆人環視、いや衆ゴリ環視の中でラブラブチュッチュできるわけないじゃないか!!




「わぁ……リョウくん、ついに天辺だよ……てっ、ぺん……うぇ……高……っ……」


「ハルカ? どうしたの?」



 ハルカの声が急に覇気を失う。心配して身を乗り出そうとした僕に、彼女は叫んだ。



「リョウくん、そこから動いたら殺すよ!? 少しでもゴンドラ揺らしたら、殺して殺してまた殺すからね!? 我慢してたけど、やっぱり無理! あたし、高いところダメなの! やだもう本当無理待って無理無理気持ち悪い吐きそう!! 降りる降りたい降ろしてぇぇぇ!!」



 えええええ!?


 観覧車見付けた時は、あんなにノリノリだったのに!?


 ハルカが高い所苦手なんて、初耳なんですけれど!!



「ハルカ……何でそんな、無茶を」



 目を閉じて視界を遮断し震えるハルカに、僕は恐る恐る尋ねた。するとハルカは泣きそうな声で、小さく零した。




「…………だって、リョウくんと、ロマンチックな雰囲気になりかったんだもん……」




 ああ……そうか。


 ハルカも僕と同じ気持ちだったんだ。ロマンチックムードを味わいたくて、恋人らしい雰囲気を楽しみたくて……背伸びして頑張ろうとしてたんだ。


 溜息と一緒に、笑みが溢れた。


 自分だけじゃなかったんだという安堵と――愛する人が、自分と同じくらいこの恋を大切にしてくれているんだという喜びで。



「…………ありがとう、ハルカ。僕も……ハルカの新たな一面が見られて、嬉しいよ」



 だからこれからはお互い苦手なことを無理するのはやめよう、ありのままのハルカが好きだよ――と、自分なりのロマンチックな言葉を伝えようとしたのだが。




「リョウくぅぅぅん……笑ってるのかなぁぁぁ……? 呆れてるのかなぁぁぁ……? 人の不幸を何だと思ってやがるんだぁぁぁ……? シバき回すぞ、ワレェェェ……」




 ひょお! いつのまにか闇ハルカになってるじゃないか!!


 今のハルカにはロマンチックな台詞も舞台も通用しない!


 お願いゴリラさん、何とかしてぇぇぇ!!



 僕は隣のゴリラに縋り付き、声にならない声で訴えた。



 涙目の僕のために……ではなく、怖がるハルカのためにゴリラ達が精一杯奮闘してくれたため、予定より早く地上に到達することはできたけれど――――ハルカは立つこともままならなくなっていて、帰りは僕が運転する羽目になった。



 ペーパードライバーによる高級車の長距離ドライブは、別の意味でハルカのスリルドライブよりも怖かった。



 けれど――ハルカを家まで送り、僕が運転をしたことを聞いた剛真さんが『ハンドルも座席も尊すぎて触れられないぃぃぃ〜! 家宝にしますぅぅぅ〜! ありがたや〜ぁぁぁ、ありがたや〜ぁぁぁ!!』と裏返った声で吠え、再び僕の目の前で失神したことの方が怖かった……。




 というわけで――――僕のロマンチックキス計画は、大失敗に終わった。


 でもいつか必ず、リベンジしてみせる!

 一度の失敗くらいで、諦めたりするもんか!

 次こそはハルカを苦手な高所でゲロ酔いさせるのではなく、素敵なロマンチックムードに酔わせて、ファーストキスを塗り替えるくらい、もんのすんごいハッピーワンダフルなキスをするのだ!!



 でも――その際にはゴリラ達に、少しは空気読んでくれとお願いしとかなきゃな……。


 百歩譲って見るのは許すとしても、せめて姿くらいは隠しておいていただきたい。






 後日、ハルカと共に例のカフェに行ってみると、早くも潰れていた。


 というより、建物自体がなくなっていたのだ。


 聞けば、原因不明の出火で全焼したとのこと。

 不幸中の幸いというやつで、深夜の出来事だったため、怪我人はいなかったそうだ。


 跡地には、コインランドリーが建つという。


 皆様も、コインランドリーを利用することがあるなら気を付けて。




 ふと天井を見上げたら、無数の目がこちらを見つめていた――なんて怖い目に遭うかもしれないから。目だけに……なんちゃって。




 また――あの観覧車は、今もまだ取り壊されずに残っているらしい。


 もし、動いているところに遭遇しても、怖がらずに『乗りたい』と言えば、あの少年は快く譲ってくれるはずだ。




 でも――――動力は自前になる。


 なので、手伝ってくれそうなゴリラが見当たらない場合は、素直に諦めよう。






【誰が為に夜景は輝く】了




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