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霊感体質な僕と束縛気質な彼女  作者: 節トキ
【大学一年生 五月】
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誰が為に夜景は輝く(六)


「もーダメじゃない、ケータイ車に忘れるなんて。何度電話しても出ないから、リョウくんの可愛さにやられた人に誘拐されたんじゃないかとか、リョウくん争奪戦の殺し合いに巻き込まれてるんじゃないかとか、いろいろ考えて頭おかしくなりそうになってたんだからね!?」


「ご、ごめんなさい……気を付けます……」



 ええ……そのお電話でこれまでの全着信履歴がフル更新されてました。あとメッセージもたくさん来てました。どんどん狂気に侵食されていく文面は、そこらのホラー小説なんかより読み応えがありました。その妄想も、とても怖いです。


 ペン太と別れて合流した僕達は、そのまま車に戻り、帰路についた。早めに切り上げたのは、祭り帰りのラッシュに巻き込まれないようにするためだ。遅くなったら、ハルカのご両親に心配かけてしまうからね。


 ペン子グッズを販売しているショップが見つからなかったことをハルカは嘆いていたけれど、僕はそこですかさず『偶然出会った』という設定のペン太さんからもらったキーホルダーを渡した。

 彼女はとても喜んでくれて、早速お揃いで僕は家の鍵に、彼女は僕の家の合鍵にそれぞれ装着した。


 むふふ、これぞカップルって感じ! まあ、どっちも僕んちの鍵なんだけどさ……。



「今日は本当に楽しかったなぁ。憧れのペン子に会えたし、いろんなリョウくんが見られたし、最高だった! リョウくんは……ちょっと大変だったみたいけどね?」


 ハンドルを握りながら、ハルカがクスクス笑う。僕も空笑いで応じた。


 トイレに行くと言い残して長々と待たせ、そしてようやく晴れやかな表情で戻ってきた僕を見て、彼女はこう結論付けた。


 何とか間に合ったのだろう、と。

 今の今まで、個室で懸命に頑張っていたのだろう、と。

 あれほど焦り狂っていたのだから、よほど激しいビッグウェーブに腹を苛まれていたのだろう、と。


 つまり――『たっぷりウ○コしたての産地直送! 新鮮なウ○コ臭漂う、ゲリゲリウ○コマン』なのだと。


 はぁ……ルートをナビにセットするまではうまくいったけど、誤解とはいえゲリゲリウ○コマンなんかと夜景見て、感動してくれるだろうか?


 もう全く自信ないよ。台詞の練習も全然できなかったし。


 そうこうしている間にも、メルセデスは山道へと入っていく。


 ハルカは怪しむどころか、この急勾配の運転も楽しんでくれて『さすがリョウくん! こんな走り甲斐のある面白い道を教えてくれてありがとう!』と感謝していた。


 対して僕の方は、他に車が走っていないのをいいことに更に磨きのかかったスーパースリルドライブで、本当にウ○コ漏れそうになった。



 斯くして、ついについについに!

 このデート最大の山場となる、真の目的地に僕達は到着した。




「うわぁ、すごい……!」



 ハルカが感嘆の溜息を漏らす。


 僕もその隣で、眼前に広がる光景に圧倒されて言葉を失った。


 山の中腹ほどにある、やや開けた空間。一応は休憩所みたいな場所みたいけど、訪れる者は殆どいないようで設置されたベンチは苔生し、石造りの低い手摺は所々欠けている。


 そこから、遮るものなくパノラマで臨む景色は、美しいの一言に尽きた。


 といっても、夜景自体は都会ほど眩くはない。代わりに、夜空を彩る星が絢爛に煌めく。上下に散りばめられた光の粒が反射しながら輝き合っているみたいで、自分がどこに立っているのかも忘れてしまいそうだ。


 そっとハルカの横顔を伺うと、彼女もこの夜景を気に入ってくれたようで、声も出さずに陶然と見惚れていた。


 春特有の爽やかな夜風が、編み込みからほつれた髪を優しくさらう。あらわになった細い項が、白く映えて僕の目を射る。


 綺麗だ、と心から思った。


 バカ! 思うだけじゃダメだろ!


 時は来た。

 言え! 言うんだ、リョウ!

 懸命に練習した、あの台詞を!!



「ハ……ハルカ!」


 僕の声に応じて向けられた瞳は、感動のためか微かに潤んでいた。


 どの星よりもどの光よりも美しく、そして何よりも愛しい二つの輝きに、僕は思いの丈をぶつけるべく、再び口を開いた。




「この! やげんは!」




 …………やっちまったーーーー!!!!




 いきなり間違えた! 出だしで盛大に転んだ!

 出オチ、キタコレ……って一人コントにもならないよ!!



 世紀の大失態に頭が真っ白になった僕に、ハルカは優しく微笑んだ。


「なぁに? リョウくん、お腹空いたの? そうだよね、あんまり食べてなかったし……それにお腹壊して排出しちゃったんだもんね。調子戻ったなら、この後は焼き鳥屋さんに行こっか?」


 ああ、胸軟骨のやげんね! やげん、美味しいよね!


 って、ちっがぁぁぁう!! またウ○コの話に戻ってるし!!



「そ、そうじゃなくて、あの!」



 仕切り直そうとしたその時、ハルカが僕の背後を指差して華やいだ声を上げた。


「ねえ、リョウくん! あれ見て!」


 彼女に促されるがまま、僕も振り返った。少し山道を上った先に、大きな車輪みたいな独特の形状をした影が見える。


「観覧車……?」


 それは紛れもなく、観覧車だった。この時間でも営業しているようで、ゴンドラはゆっくりと、しかし確実に動いている。


 ここを調べた時はそんなもの全くヒットしなかったけど……山頂の方だから見落としたのかな? もしかしたら自治で運営してる地元住民専用のアトラクションで、ゴールデンウィーク中だけこっそり深夜開放してるのかも?


「行ってみようよ! あれに乗ったら、夜景がもっとよく見えそうだよ!」


 ゆっくり回転するゴンドラをぼんやりと眺めていたら、ハルカに手を引かれた。



 これは……ロマンチックキスに再チャレンジする絶好のチャンスなんじゃないか?



 観覧車に乗って夜景を見ながら、今度こそカッコ良く台詞を決める。そうすればハルカだって、相手がウ○コマンだってことを忘れて、ロマンチック気分になってくれるかもしれない!



 僕はハルカに全力同意し、急いで車に乗り込むと観覧車を目指した。心逸るあまり、猛り荒ぶったハルカ様による、本日最高に恐ろしい運転で。


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