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親愛なるホームズ君へ Ep.-1

 はじめまして、嵩夜ゆうと申します。

 角川、富士見文庫、電撃文庫、Dダッシュ、講談社などの新人賞に送り、毎回、三次審査までいくのですが、何か一歩踏み越えられないような自分自身の壁を感じまして、こちらの方に小説をアップすることにしました。

 私自身、ライトノベルで難読症をある程度克服した経験から、そんな奇跡が起こせたらいいなと願いつつ、書き続けています。

 書く速度はすごく遅いので、月一更新になってしまいますが、ストーリーのラストまで見守っていただければ、すごく嬉しく思います。



 人間にとって、真実とは本当に必要なものだろうか。

 量子物理学の世界においては、観測者視点という概念が存在する。観測者がいる時と、いない時では、量子の性質が変わるという非常に不気味な現象だ。あの現代物理学の生みの親の一人であるアルバート・アインシュタインは、『私が見なくても月は頭上に輝いている』という表現で、この現象を否定した。

 だが、俺は時々こう思うことがある。本当に月が輝いていることを客観的事実として突きつける必要があるのか、と。たとえ、それを望んでいない人にも、それを、その事実をわざわざ伝えてやる必要があるのか、と。

 どんなでっちあげの嘘でも、どれだけ強引な作り話であったとしても、その人間が真実だと思いたいのであれば、むしろ、それこそがその人間にとって真実である。絶望することなく、最期の時を迎えられる唯一の手段なのだとしたら――――――

 虚構と現実。嘘と真実。

 どれを信じるか、この際、問題にはならない――――と、俺は思う。




 ――日本 東北 某所

 俺を電話で呼び出したその男は、かつての面影はもう無く、巨体をベッドに横たえ、最新の医療機器に生かされている、という状態だ。


「スミルノフ……今もこの名前でかまわないのか?」

「名前などというものは、そのものを定義する略称にすぎない。ソビエトがロシアに名前を変えたように」

「早速だが、スミルノフ。依頼内容を聞こうか。この俺を、今では保険屋の調査員であるこのシャーロック・ホームズを呼び出した理由を」

「保険屋の調査員か……君が何故、その道を選んだのか。その優秀な頭脳を、絵画の盗難や盗難防止のセキュリティなどというものに浪費している理由はよく解るが、ここは一つ、昔のシャーロック・ホームズに戻って、話を聞いてもらえないだろうか?」

「依頼内容は?」

「我が祖国、ソビエトの無実の証明。そして、暗殺事件の真相だ」

「断らせてもらう。俺は、もう死体は飽きるほど見た」

「勘違いしないでくれ、ホームズ君。私が知りたいのは、ケネディは何故ダラスで死んだのか、ということだ」

「それなら簡単だ。リーハーヴェイ・オズワルドという、共産主義の狂信者の撃った弾が当たったせいだ」

「はっ……まさかとは思うが、あの名探偵シャーロック・ホームズがそんなことを、本当に心から真相だと思っているのか?」

「真相が知りたいのなら、ウォーレン報告書を買えばいいだろう。アンタぐらいの金持ちなら、2、30年前倒しして、全ての情報を米国政府が何千万ドルかで開示してくれるだろうが」

「そんなことは真っ先に考えたよ、ホームズ君。様々な人間にかけ合ったが、ウォーレン報告書全文は紛失して、もはやこの世のどこにも無いということだった」

「どういうことだ?」

「何人もの関係者に一生遊べるくらいの金を撒いて調べさせた結果、90年代に紙の資料やら、写真をデジタルデータに置き換える際、全てのオリジナルは紛失した。だから、売りたくてもウォーレン報告書の本物など、もう存在しないのだと言われた」

「大統領暗殺事件のウォーレン委員会で作られた報告書全文が紛失? この目で見ない限り、それこそ、アンタの虚言としか思えないな」

「なら、見せてあげるとしよう。親愛なるホームズ君」


 そう言って、スミルノフは力無く、点滴に繋がれた右手をゆっくり動かし、ベッドサイドのボタンを押した。ほどなく、何人もの男たちがジュラルミンケースを大量に運んできた。


「これが今残っている、ケネディ暗殺の全ての資料だ」


 俺はいくつかの資料に目を通し、そして、一つの結論を出した。


「スミルノフ。この依頼を受けよう」

「ありがとう。ホームズ君。では、私も君の本当の正体を墓場まで持っていくことにしよう」

「そうしてもらえると助かる」

「最後に、これだけは言っておく。神に誓って、我が祖国、ソビエト連邦は無実だ!」




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