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玖 夏神楽

 日が傾き始める頃、美幸と日和が神社へやって来た。二人共浴衣姿で、ちょっぴり新鮮だ。いや、去年も見たっけ?


「ハルくーん、こーちゃーん、おーい!」

「二人共準備お疲れ様」


 日和がラムネの瓶を二本差し出す。


「二人に差し入れだよ」

「うおっ、マジで!? サンキュー」

「いいのか、日和」

「もちろん。さあさあ、飲んで。あたしの奢りだよ」

「ちゃんと後で返さないと日和ちゃんに酷い目に遭わせられるのよ」

「遭わせないから安心して飲んで」


 蓋を押し、ビー玉を瓶の中に落とす。夏祭りと言えばラムネだと俺は思う。口の中に広がるシュワシュワとしたこの感じは、普通の炭酸飲料のそれとは一味違う。前に栄斗に言ったことがあるが、「炭酸はみんな同じだろ」と言われてしまった。


 疲れた体に染み渡る清涼感はとても心地いい。普段ならば飲むのに時間がかかってしまう炭酸飲料を通常の三倍くらいの速さで飲み干す。飲み終えてみんなの方を向くと、栄斗は既に飲み終えていた。なんて速さだ。


「ようし、じゃあ出店見て回ろうぜ!」


 俺達は四人で連れ立って歩き出した。





 かき氷をつつきながら巫女神楽を見物していると、いつの間にか紫苑が横に立っていた。この神社に祀られている神様に挨拶をしに行くと言っていたが、どうやら終わったらしい。提灯の明かりを受けて、漆黒の瞳がきらきら光っていた。


「美しい舞ですね」


 巫女さん達に混ざって踊る神楽を見て、紫苑は呟く。


 周りに栄斗達がいるため、声を出して答えられないのは分かっているはずだ。返答はしなくていいだろう。


「晃一さん、お疲れ様でした。素晴らしい働きぶりです。ここの祭神も喜んでいらっしゃいましたよ、さすが翡翠の覡だと」


 どうしてここの祭神に褒められるのだろう。


「こちらの祭神はもちろん神楽さんの存在を知っていらっしゃったのですが、本体を置いてお出かけになったままお帰りにならないので心配していらっしゃったそうなのです。神だけでなく妖の頼みも聞くとは良い人の子だと絶賛していらっしゃいましたよ」


 そういうことか。


 空になった紙の器をスプーン付きストローでつつきながら、俺は巫女神楽に目を向ける。色とりどりの紐が付いた鈴を持って踊っている巫女さん達の中、体中の鈴を鳴らしながら神楽が飛んだり跳ねたりしている。その表情はとても晴れやかで、体全体で喜びを表現しているようにも見えた。





 栄斗の父親から許可をもらった俺は、神楽の本体である鈴を自宅へ持ち帰った。とりあえず部屋の押し入れに突っ込んでおいたが、特に問題はないと思われる。本体を俺の部屋に置いたからと言って、神楽を朝日家に縛り付けようなどとは思っていない。本体は俺が責任を持って管理するから、好きなところへ行くといい、と言うと、神楽は深々と礼をして去って行った。










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