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沼地に流れる生命

作者: 不知火Mrk-2

 辺りは暗く、光もない。水が流れる音、俺の足音、さらには汚れた下水の悪臭だけが漂っていた。

「それにしても下水道は汚いな、俺達がこんなにも水を汚してんのかよ……」

現在、地上では自発テロが起こり、他国によって制圧されている状態。テロリスト集団から逃げるようにマンホールの中に入り込み、家族を失った俺は一人で下水道を歩いていた。 

先ほど間近で人が殺される瞬間を目撃してしまった事もあり、下水の腐敗臭が俺の気分を狂わせる。

「この道を真っ直ぐ行けば、居住区があるはず……そこまで辿り着ければ何とかなるかもしれないな……」

 戦争などが起こった場合に人々が非難するための居住区があると、以前父親から聞いた事があった。もしかすると、俺と同じように逃げ込んでいる人が居るかもしれない。僅かな希望を持ち、不快な臭いを我慢しながら、ひたすら歩き続けた。

ふと、面妖な色を見せている下水の水面に視線を移すと、大きな塊が浮んでおり、少しずつ水の流れによって動きを見せていたのだ。

「なっ……人間か? って、しかも女?」

よくよく見ると、水面に浮んでいるのは女の子だった。俺は迷うことなく下水に飛び込み、彼女を抱き抱え、再び下水道の通路に戻った。

「おい、大丈夫かよ! おいっ、しっかりしろよ!」

「うっ……ん」

下水の通路に上向きの状態で寝かせた俺は彼女の身体を揺らす。はっきりとした反応をしてくれないものの、身体を少しだけ揺すった事で、意識があるという確認は取れた。何時間も、彼女は下水に浸っていたようで、身体全体から生臭さが漂っていたのだ。彼女の様子を見る限り、物凄い量の水を飲み込んでいるみたい。家族を失い、これ以上人が死ぬところを見たくない俺はある決意をした。

「この子を助ける為には人工呼吸しかない……これはキ、キスじゃない。ただの人工呼吸なんだ」

 何回も自身に言い聞かせた後、俺は汚れた彼女の唇と重ね合わせる。更に膨らんだ胸の谷間を両手で押した。年相応に育っていた胸の感触が両手の手の平に伝わり、嫌らしい気分になってしまう。

「……」

この場には二人しか居ないが、背徳な行為をしているようで、恥ずかしい感情が押し寄せてきた。

「ごほっ、げほっ、げほっ……んっ、げほげほっ」

見事に人工呼吸が成功し、彼女の意識が回復した模様。

「んっ……君は、誰?」

 上半身だけ起き上がらせた彼女は俺にそう問いかけてきた。金色の髪がドロ塗れになっており、柔らかく綺麗な頬や肌が黒く染まっている。背中までの長さがある髪からは汚れた水がポタポタと垂れていた。彼女が少しでも動くたびに悪臭が振りまかれ、少々気分が悪くなる。身体が汚れていなければ、香水のいい匂いが似合う素敵な女の子だと思う。

「俺は……俺の名は……な、何だっけ?」

両親が死んだショックで自身の名前を忘れてしまったみたいだ。呼び名が無いと不便なので、俺は咄嗟に思いついた名前を彼女に告げる。

「お、俺は……セブンだ」

 街がテロリスト集団に占領される前。日頃から俺が利用していたコンビニの名前だった。

「セブン、随分と変わった名前ね。まあいいわ、うっ……」

 その場に立ち上がろうとした刹那、彼女は足を挫いているようで膝から倒れこんでしまった。

「おい、大丈夫かよ! あんま無理すんなよ。上手く歩けないんだったら俺の肩に捕まってもいいからさ。あ、そうだ、お前もこの先にある居住区に行かないか? もしかしたら治療してくれる人がいるかもしれないし」

「お前って呼び方嫌なんだけど」

「ごめん、気に障らなければ、名前教えてくれないか?」

 俺は優しく呼びかけるように言った。彼女は表情を変える事もせずに自身の名前を告げる。

「私はアヤカ」

可愛らしい見た目によらず、男性のようにあっさりとした自己紹介。アーヤは余り人と関わるのが好きではないのだろうか? 俺はそんな印象を受けてしまった。

「じゃあ、アーヤって呼ばせてもらうよ。 アーヤ、一緒に居住区に行こう」

「うん……それと、さっきから気にはなっていたんだけど、私の胸を誰かに触られたような感触があるんだけど、もしかして私が気を失っているときに触った?」

アーヤは全てを見通すような瞳で俺の方を見ていた。余計な事を喋ってギクシャクした関係になりたくなかった故、俺は咄嗟に嘘をついたのだ。嘘も方便と言うし、何の問題もないだろう。彼女は俺の肩に捕まり、少しずつ道なりに沿って進んでいく。

「何でセブンは初対面の私に優しくするの?」

「俺は人を失いたくないんだ……」

「そう、セブンも色々あったのね。私はこれ以上、深くは聞かないでおくわ……」

彼女は俺の心を察してくれたようだ。彼女と会話をしている内に俺とアーヤが目的としている居住区に辿り着いていた。居住区は下水道を隣接している為、かびくさい臭いや、なまぐさい臭いが漂っている。

「やっぱり、父さんが言っていた通り、居住区があったんだ。本当によかったよ」

心を落ち着かせられる空間が見つかって内心、ホッとした。周囲にはテントのようなものが張っており、逃げ込んだ人々が協力し合いながら生活をしていたのだ。

心に安寧を与えられた俺はアーヤと共に彼らの場所へと歩み寄っていたのだった。

自分は小説家を目指しております。現在はショート作品を書いて練習している最中です。出来たら、評価を貰いたいですっ!


あと……ショート作品と並列して長編小説(原稿用紙・360㌻くらいの)も書いています。できあがり次第投稿したいと考えています!

多分、9月くらいになると思います。

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